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実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた

 2019年2月1日にリリースされた声と鼓動のインタラクティブノベル「シンゾウアプリ」iOS / Android)。木村良平さんが演じる6人の彼と,“心臓”を介した不思議なコミュニケーションを図れるのが大きな特徴だ。
 こちらの記事でもお伝えしたように,本作は罪人の心臓を切り抜き晒す「心ノ臓ノ晒シ刑」という呪いを再現したアプリだ。プレイヤーのためにケンコウナレッジを読みあげてくれるなど,一見するとライフケアサポートアプリのようなデザインだが,アプリを起動するとスマートフォンの画面に文字通りの“心臓”が出現する。そして心臓を奪われ,焦燥に駆られた男性の声が聞こえてくるのだ。伝達手段が限られた中で6人の彼とどのような物語を紡いでいくのか,すべてはプレイヤーの選択次第となる。

画像(001)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた

 この謎多きアプリを手がけたのは「1に楽しい2に楽しい,34がなくて5に楽しい」を社名の由来とし,“楽しいでミライを拓く”を掲げる125だ。ソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下,SIE。旧:ソニー・コンピュータエンタテインメント)に長らく在籍していた鈴木達也氏が代表を務め,武田修一氏と共に「シンゾウアプリ」を世に送り出したという。
 今回は,この「シンゾウアプリ」がどのようにして生まれたのかという経緯と共に,本作に隠された魅力についてもたっぷりと語っていただいた。なお一部アプリのネタバレを含むので,未プレイの人はアプリを楽しんだあとに読むことをオススメする。

「125」公式サイト

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 125が2019年2月1日にリリースした声と鼓動のインタラクティブノベル「シンゾウアプリ」。木村良平さんが演じる,さまざまな“彼”をとことん耳で楽しめるのが本作の特徴だ。本稿では,アプリにどんな“彼”が登場するのかを含め,本作の概要と見どころを紹介しよう。

[2019/02/23 12:00]


新たな分野とビジネスモデルへの挑戦
ヒントは「リアルサウンド 〜風のリグレット〜」


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。鈴木さんといえば,アクションパズルゲーム「無限回廊」のプロデューサーを務めるなど,SIEのさまざまなタイトルに関わっていらっしゃいますが,今回は女性をターゲットにしたタイトルを手がけられたということで非常に驚きました。

125「シンゾウアプリ」ディレクター
鈴木達也氏
画像(004)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた
鈴木達也氏(以下,鈴木氏):
 もともとプレイステーション・ポータブル(以下,PSP)の立ち上げからなので……14年ほどSIEに在籍してプロデュース職に就いていました。今年46歳になるので,制作の幅を広げるために独立して125という会社を設立しました。やるからにはこれまでのキャリアの中で作ったことがない分野に挑戦したいと,「シンゾウアプリ」を制作したんです。
 ちなみに乙女ゲームではありませんが,以前「やるドラ」シリーズのPSPへの移植も担当していますし,プレイヤーが交渉人となる「銃声とダイヤモンド」も手がけていますから,アドベンチャーゲーム自体の経験はあるんですよ。

4Gamer:
 武田さんもSIEに在籍されていたとお聞きしていますが,どの分野で活躍されていたのでしょうか。

武田修一氏(以下,武田氏):
 私は数年前までごく普通にSIEの社員として働いていました。エンジニアに囲まれてハードウェアを軸に経営戦略を考えるポジションだったので,タイトル制作と直接関わりのない経歴の人間がゲームメディアに出ること自体珍しいかもしれません。今回もクリエイティブそのものに関わっているわけではありませんが,ともあれ鈴木とは仲が良い飲み仲間です。

鈴木氏:
 仲は良くないよ。だってまず君,アルコール飲めないじゃないか(笑)。

125「シンゾウアプリ」コンセプター
武田修一氏
画像(005)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた
武田氏:
 確かにまったく飲めませんけど……(笑)。

4Gamer:
 仲がいいですね。

武田氏:
 普段はフィンテックベンチャーに所属していて,そこの事業戦略担当役員をしながら,125ではマネタイズ設計やそもそものビジネスモデルの検討に関して,鈴木の手伝いをしています。
 今回なぜこの場にいるのかというと,はじめに私が「音だけで表現できるゲームアプリがあったらビジネス的に面白いんじゃないか?」と提案したからなんです。聞けば聞くほど,どんな関係性なのか分からないと思いますが……(笑)。

4Gamer:
 お2人がざっくばらんにお話しできる関係性だということが,やりとりから十分に感じられました。“音だけで表現できるゲームアプリ”という提案から「シンゾウアプリ」が生まれるまでの経緯について,もう少し具体的にお話しいただけますか。

武田氏:
 去年の3月頃に,今までにない何かが作れたら面白いですよねと,鈴木と話をしたのが始まりですね。2D/3Dを問わず,一般的にゲーム開発では,グラフィックスにかかるコストが制作費の多くを占めるといわれています。乙女ゲームに関しても,プログラムは共通化されていることが多いでしょうから,結果として声優さんとグラフィックスにかけられるコストの比重が大きくなるわけです。
 そこでイラストがまったくないゲームに仕立てれば,声優さんにコストを全振りして,小規模な会社でも第一線で活躍されている声優さんにオファーができるのではないか,というアイデアに至ったわけです。

4Gamer:
 小規模チームとしてどこを突き詰めていくかと考えた結果,今回はキャラクタービジュアルが一切出ないタイトルになったと。

鈴木氏:
 とはいえ,仮に「絵のない乙女ゲームってどうなんだ?」と頭の中に思い描いても「それって何が面白いの?」となりますよね。ここで頭をよぎったのが1997年にセガサターンで発売された,ワープの「リアルサウンド 〜風のリグレット〜」でした。

4Gamer:
 「風のリグレット」は,音だけで世界を描く挑戦的なタイトルでした。

鈴木氏:
 個人的には「ラジオドラマをゲーム機で再現した」印象があって,もう少し作り方を変えれば,枠に収まらないもっと想像が膨らむようなものになるのではないかと感じたんです。「風のリグレット」は,複数の役者さんや効果音によって制作者の意図通りの舞台をプレイヤーに思い描いてもらうスタイルだったと思います。我々はプレイヤーが思うままに像を描ける,より想像の余地がある設定を目指しました。
 そこで鍵となったのが「絶世の美女を表現できるメディアは何か?」という問いなんです。なんだと思います?

4Gamer:
 えっと……難しいですね(笑)。

鈴木氏:
 それは「文字」なんです。世界三大美女といえば楊貴妃,クレオパトラ,小野小町が挙げられますが,文字ベースの情報から想像する容姿は人それぞれ違うものなので,肖像画や銅像で見たときに「こんな感じなの?」となってしまいます。
 つまり,声だけ,文字だけの限られた情報にすれば,それぞれが思い描く“理想の彼”と進行するゲームが作れるんじゃないかと思ったんです。ステレオタイプかもしれませんが,とくに女性は想像力が豊かだと言われていますし。

4Gamer:
 たしかに,具体的なビジュアルを知らない状態で限られた情報だけを与えられると,頭の中で「こうかもしれない」と,つい補完してイメージを膨らませてしまいます。

鈴木氏:
 そこから,もし声優さんお1人が複数の“彼”を演じ分けたら,プレイヤーの中で人物像が揺れ動いて面白いんじゃないかと,アプリの基礎が出来上がったというわけです。


初期案はテキスト表示もなし
設定を受け入れやすくするための“心臓”


4Gamer:
 本作のゲーム画面は,ノイズと脈動する“心臓”が表示される,かなりインパクトのあるデザインになっています。そもそもこの心臓のアイデアはどこから生まれたのでしょうか。

武田氏:
 これ,いつ決まったんですか?

鈴木氏:
 そういえば武田にも話してなかったね(笑)。最初に「音声で成り立たせるものを作りたい」となったときには,すでに僕の中で“心臓”“呪い”の要素を入れることは決まっていたんですよ。過度にゲーム中で舞台設定を説明してしまうと,作品世界の選択肢が狭まってしまいます。なので,あえて特定させない設定がいいと思い立ち,舞台を特定せずに呪いなりで限定された状況を作ろうと。
 心臓の採択にはサイズも関係していて……あ,心臓ってどれぐらいのサイズかご存じですか?

4Gamer:
 大きそうなイメージはありますけど……。

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鈴木氏:
 これが,心臓ってその人の拳と同じくらいのサイズなんだそうです。スマートフォンであればちょうど手に収まるサイズ感だし,震えるし,しゃべらせることもできる。この拳サイズの心臓と,スマホというデバイス,呪いという符号,このすべてのピースがつながった瞬間に,コンセプトが完成したんです。

4Gamer:
 そうだったんですね。リアルな心臓と聞くと少しグロテスクなイメージも抱いてしまいますが,本作で常に表示されている心臓には,そうした印象はまったくありませんよね。物語中のテキストも,タップしなければ表示されない仕様で斬新だと思いました。

武田氏:
 心臓の要素を入れるのは決まってたけど,実装されたのはかなり後半ですよね。

鈴木氏:
 昨年の11月頃だったかな。
 実を言うと,当初は画面に文字すら出ていませんでした。しかしテストプレイのフィードバックを見ると,テキストによる補助がないためストーリーについていくのに苦慮された方も見受けられ,文字表示なしでは厳しいことを理解しました。

 できれば飯野さん(※)が目指していたように,画面に何も表示しないゲームを,と考えていました。しかし文字を出すと決めたら,今度は一緒に開発を進めていたトイロジックさんのプログラマーさんが「設定を分かりやすくするために心臓を出したいです」と提案してきてくれました(笑)。美学を求めすぎてユーザーさんを置いてきぼりにしてしまうのは本末転倒ですから,皆さんの声を聞いて「理解いただくための文字」「設定を受け入れやすくするための心臓」を表示する形にまとめていきました。

(※)「風のリグレット」を手がけたゲームクリエイター・飯野賢治氏

シンゾウモデル
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武田氏:
 みなさんにはあまり伝わっていないかもしれないんですが,このアプリは「プレイヤー(女性)がライフケアサポートアプリをダウンロードしたら,そこに何故か心臓がダウンロードされて呪いが……」という設定なんですよ。

4Gamer:
 それでゲームを起動したときに,健康や美容にまつわるアドバイス「ケンコウナレッジ」が流れるんですね。

鈴木氏:
 なぜライフケアサポートアプリなのかというと,どうしても画面上のナビゲーションボタンを外せなかったからなんです。「これは呪いだ!」と言われているのに,どこかで見たことあるようなアプリの体裁をしているのはちょっと変ですよね。だから「シンゾウアプリ」はライフケアサポートアプリを呪いの力で乗っ取っているんです。その設定を強めるために,木村さんに「ケンコウナレッジ」をアナウンスしてもらっています。

4Gamer:
 納得しました(笑)。
 現在のアプリ起動画面は真っ赤ですが,これがピンクだった時期もあったそうですね。

鈴木氏:
 我々くらいの年代が女性向けと考えると,「ダサピンク」を選ぶ現象に陥ってしまうからですね(笑)。制作後半にいよいよ心臓も入り,ちゃんとしたルックスを考える段階で,心臓=血=赤という思考でカラーを変更しました。




4Gamer:
 そういえば,本作にはチュートリアルらしいものがありませんよね。ヘルプ内の説明も直接的なシステムの解説ではなく,世界観に沿ったものになっていて,プレイ当初は少し戸惑いました。

鈴木氏:
 さきほどの話と同じで,チュートリアルも限りなくそぎ落としたかったんです。「これは呪いだ!」と言っているのに「今光った場所をタップしてなんて,アプリが説明するか?」と。

4Gamer:
 「シンゾウアプリ」らしさを追求したわけですね。

鈴木氏:
 それと同時にあるテーマがありまして,ゲームリテラシーのそれほど高くない方にも分かりやすい設計にしています。僕の妻がミステリー小説好きだったので,「かまいたちの夜」を遊んでもらったことがあるんです。最初は「面白いね」とプレイしてくれていたんですが,ある程度進めたところで分岐があると説明したんですが,普段まったくゲームを遊ばずゲームのお約束にまったく無知であることから,お手上げ状態になっていました。
 女性だからゲームが不得手ということではなく,幼い頃からゲームに触れてきた人とそうでない人では,ゲームリテラシーに歴然とした差があります。そうした人に配慮させていただき,選択肢の深さも一段階に留めています。

4Gamer:
 乙女ゲームやサウンドノベルは複雑な操作を要求されるわけではありませんから,ゲームの構造的に分かりやすいものだと思い込んでいました。

武田氏:
 みなさんの反応をみると,“ゲーム”というより“木村さんのボイスアプリ”として楽しんでいただいている印象もありますよね。

4Gamer:
 たしかに,プレイしてみた感覚はゲームというよりもボイスアプリやドラマCDに近かったです。

鈴木氏:
 僕ら自身がドラマCDやシチュエーションCDを意識して作っているからかもしれません。“インタラクティブノベル”と題しているんですけど,ドラマCDのように受け身の媒体に“触れ合いの要素”が加われば,より一層感情移入できるだろうと考えたんです。
 成熟したサウンドノベルとドラマCDの間って何だろう,ゲームリテラシーのない方でも偶発的な動きで新たな発見が生まれるのはどんな形だろうと考えた結果が,この設計なんですよ。

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武田氏:
 普段ゲームをする我々であれば,楕円の縦横の表示だけで何を求められているかだいたい分かりますもんね。

4Gamer:
 色々と気づかされる視点ですね。具体的な選択肢ではなく円でタップを誘導したり,太陽と月のマークが表示されたりしますよね。これもその一環ですか?

鈴木氏:
 文字の強さと記号の強さを考えたとき,ぼんやりとした記号なら想像の阻害にはならないだろうと,あえてマークを採用しています。「これを選べばこのルートへいきます」なんて書いてしまうと,遊んでいる人の想像の邪魔をしてしまいますからね。
 マークに関しては,狼男の逸話のように普段と違う側面が開くイメージで月を,その反対側に太陽がある関係性は,初見の方にも違和感なく受け取ってもらえるだろうと,太陽と月を採用しています。「明るい太陽がいい」「裏側を見てみたいから月がいい」と選んでもらえれば,世界観から離れないだろうと考えました。それに,どちらを選んでも間違いではないことも伝えたかったんです。アルファベットや数字,YES or NOではどうしても意味が出てしまいますから。

4Gamer:
 イメージとして分かりやすいですね。乙女ゲームだと,はっきりとキャラクターごとにルートが分かれていて,自分で相手を選んでいくケースも多いものですが,本作はたまたま辿り着く形でした。

鈴木氏:
 ガイドを徹底的にそぎ落として,偶然から生まれる可能性を感じてもらえるラインを目指しました。もし分からないことがあれば,公式Twitterがすぐ駆けつけますので,疑問があればぜひつぶやいてみてください(笑)。

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木村良平さん起用の理由とは?


4Gamer:
 ビジュアルがなく音声だけということで,本作ではボイスが非常に重要なファクターになるかと思います。木村良平さんの起用はどのように決められたのでしょうか?

武田氏:
 お恥ずかしながら,女性に人気の男性声優さんが誰なのか,ほとんど知らない状態からスタートしていまして(笑)。

鈴木氏:
 そうですね。僕も乙女ゲームどころかアニメや漫画も知識がまったくなくて。順序としては逆ですが,木村さんの起用が決まったあとに,息子から「『銀の匙 Silver Spoon』の主人公だ! すごい!」と言われて,そうなのだと思ったくらいの無知ぶりでした。

武田氏:
 企画段階で誰に演じてほしいという前提がなく,シナリオが先行して動いていたという背景もあるんですよ。

4Gamer:
 なるほど,最初から決め打ちではなかったんですね。

鈴木氏:
 文字のない状態で,音声を聞きながら想像できる長さはどれくらいだろうと試したら,15分〜20分くらいが最長ではないだろうか。分岐は6つくらいと目星をつけていて,じゃあ“6つの分岐を演じ分けられる人”は誰だろうとなりまして,声優事務所さんとのやりとりをしてくださる会社さんに相談したんです。
 もちろん木村さん以外の方のお名前も出たんですか,候補に挙がった方々を調べていく中で,声を聞いて「この方だ!!」となったのが木村さんなんですよ。

武田氏:
 面白い話があって,もう完全に木村さんのファンになってしまった鈴木は,男性声優さんをフィーチャーした雑誌を買ってきたんですよ。もう衝撃でしたね(笑)。

鈴木氏:
 息子にもすごい目で見られました(笑)。
 木村さんへオファーした頃,声優さんはWebだけでなく雑誌にも取り上げられているからと買ったんです。雑誌で木村さんのインタビューを読んだら,さきほどの「絶世の美女」に近いことをお話しされていて,もう運命だと思いましたね!

武田氏:
 鈴木は,勝手に木村さんのことをどんどん好きになっていたんですよ。当時はまだお会いしたこともないですし,正式なお返事もいただけていなかった段階なのに(笑)。

4Gamer:
 サウンド面といえば,エンディングでかかる曲はノイジークロークの坂本英城さんがご担当されていますよね。それぞれのエンディングで読後感がまったく違うのに,どんなシチュエーションで聴いても包み込んでくれるような美しい音色で惚れ惚れしてしまいました。

坂本英城氏(写真左)
画像(008)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた
武田氏:
 鈴木と坂本さんはまさに盟友ですから。ノイジークローク社が立ち上がったときからの付き合いで。

鈴木氏:
 「やるドラ」シリーズの移植のときに,ノイジークロークさんにポーティングに関連したサウンド業務をご担当いただいたんですよ。もう14〜5年のお付き合いになりますね。

武田氏:
 あとは,「無限回郎」シリーズにもご参加いただいてますよね。

鈴木氏:
 そうそう。僕の心の中では,毎回坂本さんを“いじめる”と決めていて,よく無茶なお願いをしています。「無限回郎」1作目のときは,「好きに書いていいけど,曲はランダムで流すよ」とだけ伝えたり,2作目では「頑張って予算を用意するから,1曲でギネスになるくらい長い曲を作って!」とオーダーしたり。それで完成したのが,実際にギネスにも掲載されている「世界で一番長いゲーム用書き下ろし楽曲」なんです。
 今回も依頼書はペラいちだけで,「全然性格の違う6人がエンディングにたどり着いたときに,どのルートでかかっても大丈夫なやつをよろしく!」って(笑)。

4Gamer:
 その一言だけなんですか!?

武田氏:
 それであのクオリティですから,すごいですよね。

4Gamer:
 そうしたフランクなやりとりができるのも,これまでの関係性あってこそですね(笑)。エンディングにはさまざまな名言も登場しますが,あれはどういった意図が込められているのでしょうか。

鈴木氏:
 何か締めがほしいなと思ったときに,毎回必ず名言を出すテレビ番組を思い出して「これだ!」となりました。心に響く,エンディングでの読後感を拡張させるような一言を入れたら面白いだろうと。
 名言についてはライターさんではなく,さんざんプレイしながら僕が選びました。何を据えるか,すごく悩みましたね。

※以下の内容は,ネタバレを含む部分があります。ネタバレを気にする方はクリア後のチェックをオススメします。

ネタバレありの開発エピソード,仮音声の存在とは?


4Gamer:
 開発初期段階では,合成音声ソフトのボイスを使って制作を進めていたそうですが,これとはほかに“仮音声”も存在するそうですね。

武田氏:
 セリフには“間”もありますから,トータルで何分になるかは実際に発話してみないと分からなくて。なので,まずは合成音声ソフトのボイスでテストしたんです。

「開発初期の"彼"はこんな声でした」
(公式Twitterのツイート)


鈴木氏:
 尺長にあたりをつけるにはこれでよかったんですけど……収録後に初めてゲームの手触りが分かるというのは開発者目線ではとても恐ろしくて,まずは全編を仮音声で録ろうと考えました。そこで,クラウドソーシングサービスを利用しました。

武田氏:
 肉声が吹き込まれると完成イメージがはっきり見えてきますからね。

鈴木氏:
 実は木村さんの収録が行われるまでの開発のほとんどの時間は,仮音声用でご依頼させていただいた“しるびなさん”の音声を聞いて過ごしていました。だから,“6人の彼”と銘打ってはいますが,僕の中には12人いるような感覚です。とくにルートCの詐欺師の彼は,木村さんとしるびなさんでは終わったときの印象が全然違います。木村さんはソフトな感じで,狡猾そうな印象で終わるじゃないですか。でも仮音声では,もっとストレートに嫌味なキャラクターになっていました。

4Gamer:
 仮音声の彼がどんなものなのか気になりますね。6人の彼ですが,乙女ゲームに出てきそうなタイプからすごく嫌な性格のキャラクターまでバリエーション豊かですよね。正直「ここまでやるの!?」みたいなタイプもいましたが,それぞれの性質はどのように決めたのでしょうか。

鈴木氏:
 シナリオを依頼しているエルスウェアさんに大プロットをご提示して,揉んでいただくという手順を踏みました。当初のルートEは,父親という設定だったところに「お兄ちゃんにしましょう」とご提案いただいて,ルートFも最終的にはヤンデレというかストーカーに変化していったんですが,最初はプレイヤーがいじめられっこという設定でした。“彼がどういった人物であるのか?”も変化していきますが,それに合わせてプレイヤーがどんな役を演じるかという視点も大事な要素と考えていまして,例えばルートBの彼氏にふられ恨む役,ルートCの詐欺師に騙される役といった役割があるなか,兄を亡くした妹,ストーカーに付け狙われる女性という役割をプレイヤーに演じてもらうことを魅力的に感じました。
 ルートAも最初は彼が死なずに甘いエンディングとしていましたが,心が繋がってただ幸せになってもらうのではなく,“呪い”のアプリなんだって認識を持っていただきたくて今の形に変更しました。ライターさんからは「死なせてしまっていいんですか!?」と言われましたが,木村さんのボイス収録の際には「このエンディングにして良かったです!」と言っていただけました(笑)。

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4Gamer:
 重厚な世界を舞台とした乙女ゲームでも,結果的に攻略対象キャラクターや主人公が死を迎えてしまう悲恋ルートが人気な場合もありますから,この展開も需要があるかもしれませんね。あとは,ルートCの「Yes/はい」の選択肢も印象的でした。

鈴木氏:
 これは僕の先輩から聞いた話で,とある開発会社さんで「新人は『Yes』か『はい』しか選択肢がない」という時期があったと。このエピソードはどこかで使えないかと,もう十数年くらいずっとネタ帳であたためていたんですよ。

4Gamer:
 そうなんですね! 最初はバグかと思いました(笑)。
 Twitter上でテストプレイでのアンケート結果についても触れられていますが,こちらも可能な範囲でお聞かせいただけますか。

鈴木氏:
 開発会社者の方や,専門学校の学生さん40名ほどの方にテストプレイに参加してもらいました。どのルートのエンディングにたどり着いたかのアンケートをとったら,思いのほか散り散りになっていたのが興味深かったですね。最初にどのエンディングにたどりつくかでアプリの印象が変わるでしょうし,最初にルートCに辿り着いてしまった人はもしかしたら怒ってしまうかもしれません。
 僕らは男性だから女性の気持ちが分からないと言い切るつもりはありませんが,どこまでいってもユーザーさんがどう遊ぶかは分からない部分があります。小さなタイトルではありますが,実際に遊んでいただきたい人にテストプレイをしてもらうのは大事だなとあらためて感じました。


Twitterの運用は“ゲームの原体験”
プレイヤー同士のコミュニケーションを促進


4Gamer:
 「シンゾウアプリ」の公式Twitterでは,告知だけでなくプレイヤーとのコミュニケーションが活発ですよね。どのような狙いで運営されているのでしょうか?

鈴木氏:
 ゲーム自体が1人で遊ぶものであっても,そこで得た知識や疑問を周囲の人と話すと,より面白くなる体験ってないですか。例えば「スーパーマリオブラザーズ」を遊んでどの面まで行ったとか,「ドラゴンクエスト」で“ひのきのぼう”って裏技的な使い方があるのかとか。

4Gamer:
 たしかに,話すことで新たな発見が生まれてゲームがより楽しくなっていた記憶があります。

鈴木氏:
 これが僕にとってのゲームの原体験になっているんです。子供の頃はインターネットもなかったのでリアルに話すしかなかったんですけど,今のゲームにもこうした体験がほしいと思っているんです。今はTwitterもあるし,実況もある。しかし,僕らの時代よりも個として遊ぶ側面が強くなってしまって,ゲームと自分だけの関係に陥りやすいん。だからこそゲーム側が「皆で同じ話題で話そう」と背中を押さないと,なかなか一歩が踏み出せないんじゃないかと。

 例えば「推しボイスを教えてください」とこちらがお願いして,Twitter上で「私もこのボイスが好き!」というやり取りを見ると嬉しくなるんです。そういうきっかけをもとに,ゲームを語り合ってほしいとお伝えしたくて,親しみやすい“ゆるい”運営を行っています。

武田氏:
 作品だけに閉じない,メタな楽しみ方を提供したいということですね。

鈴木氏:
 何だか頭の良さそうなことを言われてしまいましたが,そういうことにしておきます(笑)。

4Gamer:
 公式Twitterで率先して発信されているとあまり気負わずにコメントしにいけますよね。

鈴木氏:
 そうなってほしいですね。ゲーム自体をリフレインしてもらいたいのもそうですし,プレイヤーの皆さんが「ほかの人もこう思ったのかな」と横に広がっていってほしいです。新規で入ってくださる方もいらっしゃるので,今後も目を向けてもらえるようなことは細々とでも続けていきたいです。

4Gamer:
 本作は複数の言語でリリースされていますが,海外からの反応はいかがですか?

鈴木氏:
 中国のSNSであるWeibo(微博/ウェイボー)上で盛り上がったらしく,ダウンロード数が伸びています。中国のほうでも「木村良平さんが好きならマストバイ!」みたいな口コミで広まっていて,嬉しいです。
 僕らのような規模の会社ではほとんどプロモーション活動ができないので,ほかの国や地域はまだこれからといったところですね。

4Gamer:
 ローカライズは地域性によって表現が難しくなるケースもありますが,こちらはどのように乗り越えられたのでしょう。

鈴木氏:
 そこはあらかじめ予見できたので,ローカライズの際に問題となりそうな表現は最初から削除しました。繁体字・簡体字はまだ漢字が使える分,難度はそこまで高くないと感じているんですが,英語で原文のニュアンスを伝えるのは大変だろうなと。

4Gamer:
 英語への翻訳は専門の業者に委託されたんですか。

鈴木氏:
 いえ,たまたま妻の友人が海外で生活していて,英語の本を日本語に翻訳する仕事をされていたので,その方に依頼しました。快く引き受けてくださったばかりか,アニメの「TIGER & BUNNY」をはじめとする日本のコンテンツに精通していて,こうしたカルチャーに詳しい海外のコミュニティにもサポートをいただいたんです。
 ちなみに,あるルートに出てくる「Yes/はい」は「Yes/OK」の表記になっています。

画像(011)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた 画像(009)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた 画像(010)実は12人“彼”がいた!? 木村良平さんが6人の彼を演じる「シンゾウアプリ」インタビュー。鈴木達也氏&武田修一氏に開発秘話を聞いた

4Gamer:
 ぜひ今後の展望についてもお聞きしたいのですが,プレイヤーの方から「ぜひ,ほかの声優さんでもやってほしい!!」といった声はあがっていますか?

鈴木氏:
 そうした要望はたくさん届いていますね。最初から数作分の構想はあって,実はもう2作目のライティングには入っています。このほかにも,想像の斜めを狙ったものも進めています。こちらのほうが先に出るかもしれませんので,楽しみに待っていただければと。おそらく誰も予想できないと思います(笑)。

4Gamer:
 それは非常に気になりますね! とくに予想できないと言われると,ますます何が起きるんだろうと色々想像してしまいます。

鈴木氏:
 良い意味で皆さんの期待を裏切っていきたいと思います(笑)。

4Gamer:
 それでは最後に,読者へメッセージをお願いします。

武田氏:
 本作では,絵のない乙女ゲームという面白いチャレンジができたのではないかと思っていますので,そんな視点でも楽しんでいただければ幸いです。そして,まだどのような形かは分かりませんが,今後も鈴木と一緒に新しいビジネスモデルやコンセプトのゲームにチャレンジしていきたいですね。

鈴木氏:
 今回はアドベンチャーなのか乙女ゲームなのか,いまひとつよく分からない謎の呪いのアプリをリリースさせていただき,皆様には大変ご迷惑を……。

武田氏:
 お詫びからなんですか(笑)。

鈴木氏:
 突然のリリースも「こういうものだよね」と予定調和で受け取められたくなく,説明が不十分なのもある程度意図的なものでした。そんな中でも皆さんに驚いていただけたり,面白いと感じていただけていたりしたら幸いです。それをハードルとして,2作目,3作目にチャレンジしていきたいと思います。引き続き応援していただけたら嬉しいです。

4Gamer:
 ありがとうございました。

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シンゾウアプリ 6人の彼 -R-
  • 125
  • 発売日:2019/02/01
  • 価格:ダウンロード無料(Story - Full Unlock 1800円 / Bookmark - Full Unlock 600円)
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