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「学マス」Pの人生を1本のゲームが変えた。「学園アイドルマスター」小美野日出文氏×「マブラヴ」吉宗鋼紀氏の特別対談
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印刷2024/12/16 08:00

インタビュー

「学マス」Pの人生を1本のゲームが変えた。「学園アイドルマスター」小美野日出文氏×「マブラヴ」吉宗鋼紀氏の特別対談

 「マブラヴで人生が変わったっていう人と会ってみたい」

 今回の企画は,美少女ゲームブランドのアージュから2003年に発売された「マブラヴ」の原作者である,吉宗鋼紀(よしむねこうき)氏の一声で実現した対談である。お相手は,2024年5月のリリース以降人気を博している,バンダイナムコエンターテインメントの「アイドルマスター」シリーズ最新作「学園アイドルマスター」iOS/Android)のプロデューサー,小美野日出文(こみのひでふみ)氏だ。

マブラヴ
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学園アイドルマスター
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 小美野氏の人生を「マブラヴ オルタネイティヴ」が変えたという噂を聞きつけた吉宗氏が,4Gamerに対談の相談を持ちかけたことから,今回の企画は始まっている。いったいマブラヴからどんな影響を受けて,どう人生が変わったのか。そして,今はどんな考えでゲームを作っているのか。
 世代は違えど,どちらも美少女キャラクターをゲームという媒体で描いているお二人に,たっぷり3時間,語り合っていただいた。

 なお,話の都合上,マブラヴのネタバレが多分に含まれるので,その点はご了承いただきたい。
 また,4Gamerでは吉宗氏に大ボリュームのインタビューを行ったことがある。氏がどういった人物なのか,マブラヴはどんな考えで作られたのかは,そちらも目を通していただけると幸いだ。

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 「マブラヴ オルタネイティヴ」の発売から10年。ブラウザゲーム「ストライクフロンティア」がサービスインするなど,今も広がる「マブラヴ」ワールドだが,その仕掛け人がアージュ代表の吉宗鋼紀氏だ。今回,吉宗氏とマブラヴファンのライター,マフィア梶田氏BRZRK氏の3人が対談することになった。マブラヴ関連の最新情報も飛びしたこの対談を,前後編に分けてお届けしよう。

[2016/12/28 12:00]

4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。今回は,吉宗さんからの希望で対談が実現したわけですが,お二人がお会いするのは今回が初めてなんですか?

吉宗鋼紀氏
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吉宗鋼紀氏(以下,吉宗氏):
 いえ,実は初めてではないです。この対談をしたいという話を4Gamerさんにさせていただいた直後,共通の知り合いがいることが発覚して,一緒に食事をしたんですよ。

小美野日出文氏(以下,小美野氏):
 そうなんです。そのとき,僕のところにはまだ対談の話が来ていなかったんですが,同級生から5年ぶりぐらいに連絡が来て「マブラヴ好きなら,(吉宗さんと)ご飯行く?」って言われて。

4Gamer:
 すごい偶然ですね。

小美野氏:
 でも,最初にお会いしたときはめちゃくちゃ怖かったです。「勝手にマブラヴのことを話していたから,怒られるんじゃないか」みたいな(笑)。

吉宗氏:
 むしろありがたいことですから(笑)。諫山先生(諫山 創氏。著書の「進撃の巨人」は,マブラヴに大きな影響を受けたと公言している)も似たような経緯が切っ掛けでご縁ができたので(笑)。

小美野氏:
 よかった。ともかく,お会いしてからの対談でよかったです。初めてこの場でお会いしていたらと思うと……。

吉宗氏:
 対談自体,受けていただけなかったかもしれないですね(笑)。

小美野氏:
 そんなことないですから!

4Gamer:
 オタク心としては,会わないわけにはいかないですよね。好きな作品の生みの親なわけですし。

小美野日出文氏
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小美野氏:
 本当に光栄なことで,ありがたいです。今日はよろしくお願いします。

吉宗氏:
 よろしくお願いします。

4Gamer:
 そもそも,吉宗さんはなぜ小美野さんにお会いしてみたかったのでしょう?

吉宗氏:
 小美野さんがマブラヴ切っ掛けでゲーム業界に来たとうかがったので。
 マブラヴはかれこれ20年ぐらい前のゲームです。それが小美野さんのような若い世代の創り手にどのような影響を与えているのか,非常に気になりました。

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吉宗氏:
 ちょっと話は長くなるんですが,マブラヴのメッセージの1つに「絆と恩」があります。僕は,“恩”は基本的に返せなくて,送るしかないものだと思っているんです。それは親子でも,僕ら作り手でも。
 恩と言っても,いい人からばかりではない。バブルの頃,今では考えられないような理不尽なことを言われたりもしましたが,「この世で生きるためのノウハウ」はそこでしか教えてもらえなかったと思っています。誰も優しくなんてしてくれませんでしたが,そういう人たちからしか学べないことも,確かにあった。

小美野氏:
 実際,嫌いでもう会いたくないけど,今となっては感謝している恩師はいます。

吉宗氏:
 最近の若い世代について,少し気の毒に思うことがあります。たとえば,○○ハラスメントといった概念が強調されることで,上の世代との関係が希薄になり,その結果,成長の機会が失われがちなのではないかと思ったりします。一方で,実社会では依然として上の世代の価値観が強く影響しているように感じられます。

小美野氏:
 最近は,怒るのもなかなか難しいですからね。

吉宗氏:
 マブラヴ発売当時はまだゆるい時代でしたけど,説教って認識されると嫌われるのは同じですね。例えば当時の弊社では,香月夕呼(マブラヴ主人公・武のメンターである超重要人物)は一部の創業メンバーにはすごく嫌われてました(笑)。

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小美野氏:
 ええ! 夕呼先生,大好きなんですけど。

吉宗氏:
 夕呼の説教内容って,僕がアージュの社内で言ってた内容まんまだったんで(笑)。

4Gamer:
 アージュ怖っ!

小美野氏:
 たしかに,あれは物語として見るからいい話ですけど,自分に言われたら結構キツいかもしれない……。

吉宗氏:
 人は人格を持つ他者に説教されると「お前に言われたくない」とか「騙そうとしてる」っていう無意識の反発が湧くものです。でもなぜか同じことをキャラが言うと,染みたり感動したりする(笑)。
 僕はこの現象を「キャラクターセラピー効果」と呼んでますが,「君が望む永遠」やマブラヴを作って「大事な話はキャラで伝えればいいんだ」ってことを実感しました。現実に夕呼がいたら絶対憎まれますけど,その効果のおかげで多くの方々から「マブラヴがあったから自分はやれている」なんてありがたい言葉をいただけているんだと思いますね。

小美野氏:
 恩が返ってきているじゃないですか。

4Gamer:
 返ってきたなかで,印象深いエピソードはありますか?

吉宗氏:
 特に印象深いのが,会食している時にファンがくれたメッセージです。食事も終わりかけた頃、オーナーシェフが「先ほどまでいらしたご夫婦からお預かりしました」といって,メッセージが書かれたナプキンを持ってきたんです。
 そこには「僕は,学生時代にマブラヴをプレイしたことで心機一転、医者を目指し,今では多くの生命を救う道を歩んでます。あなたは絶対否定するけど,誰が何と言おうとマブラヴのおかげなんです!」と。メッセージにも感動しましたが、一番嬉しかったのは僕が常々訴えている「二律背反を成立させる第三の解」を実践してくれたことでした。「いくらファンでもプライベートな時間を邪魔するのは無粋」って話をよくしていますので,メッセージをナプキンに書き,自分が店を出てから渡すよう頼んでくれたのでしょう。

小美野氏:
 それはかっこいい……。

吉宗氏:
 自分が店にいる状況でメッセージを渡したら,吉宗鋼紀は挨拶にくる性格だって分かって気遣ってくれたんでしょうね。「こんなことってあるんですね……」って,その場にいた人たちがなぜか号泣してしまい(笑)。

小美野氏:
 僕は泣く気持ち,分かります(笑)。

吉宗氏:
 今まで生きて来て,二律背反状況で二者択一ができるようになってやっと半人前,両方を叶える第三の回答を提示できるようになってようやく一人前なんだと実感します。マブラヴでは,主人公の成長がそういう段階を踏んでいくわけですが,メッセージをくれた彼がそれを実践してくれたことは,創り手冥利に尽きますね。
 「想いは絶対に伝えたい」「でも無粋はしたくない」という二律背反を叶える,これ以上ないスマートな解を示してくれたわけですから。

4Gamer:
 いい話ですね。

吉宗氏:
 同じように,小美野さんも「マブラヴで人生が変わった」と言ってくれたじゃないですか。そういう人が,自身の作品を作るときにどんな想いを込めているのかは,創り手として純粋に興味がありますね。
 世界的超大手メーカーのプロデューサー様が,どこの馬の骨とも知れない人物と会ってくれるわけないだろうなって,ダメ元だったんですけどね(笑)。

小美野氏:
 いやいや(笑)。

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人生のどん底でマブラヴ オルタネイティヴを遊んだ


小美野氏:
 自分の人生に,マブラヴが影響を与えているのは本当です。もちろん,好きな作品はたくさんあるんですが,人生に影響を与えた作品となると,僕にとってはマブラヴだけだと思っていますし,マブラヴがなければ今の仕事に就くこともありませんでした。

吉宗氏:
 それは嬉しいですね。

4Gamer:
 どういう影響を受けたんですか?

小美野氏:
 マブラヴは人生のどん底のときにプレイしたんです。
 僕は当時ロボットゲームがすごい好きだったんですけど,マブラヴは美少女ゲーム雑誌に載っていたのを拝見して知っていました。それで,店舗に置いてあるのを見つけて,ロボットも出ていたなと買ってみたんですよ。そしたら,しばらくロボットが出てこないじゃないですか。

4Gamer:
 最初はロボット要素,一切ないですからね。

小美野氏:
 それでも,なんか思っていたのと違うなと思いながら進めて,アンリミ(初代マブラヴは「EXTRA編」と「UNLIMITED編」に分割されている)に入ったら,「なんじゃこりゃ!」と。ただ,この時点ではまだロボットものとして「好きな作品」の1つでした。
 でも,そこから数年経って,僕が人生のどん底を迎えているときに,オルタ(マブラヴ オルタネイティヴ。マブラヴから3年後に発売された続編)をやったんです。

画像集 No.005のサムネイル画像 / 「学マス」Pの人生を1本のゲームが変えた。「学園アイドルマスター」小美野日出文氏×「マブラヴ」吉宗鋼紀氏の特別対談

小美野氏:
 僕と同じどん底から這い上がっていく武を見て,すごい共感というか,「ここからでもがんばれるんだ!」というのを目の当たりにしました。
 あのゲーム,エクストラ,アンリミ,オルタってやっていくと,60時間とかゆうにかかるじゃないですか。

吉宗氏:
 まともに読んだらかかりますね。

小美野氏:
 それだけ長時間アドベンチャーゲームをやっていると,もう完全に感情移入しきっちゃうんですよね。武に対して,僕=武くらいに距離が縮まっている中で,彼がとんでもないどん底に落ちていき,そこから這い上がっていく姿には,すごく勇気をもらいました。それが僕の人生の中で一番のターニングポイントだったというか,「やってみるか! 人生!」という気持ちにさせてもらえたんです。
 まあ,「どこまで崖の底に落とすねん!」ってプレイ中は思ってましたけどね。どれだけ,この主人公に苦痛を与えれば気が済むんだろうと。

4Gamer:
 ホントに,酷いことしかないですからね。

吉宗氏:
 待ってください,めちゃくちゃ人聞き悪いな!(笑)

小美野氏:
 純夏の日記を読んだとき,号泣しましたもん。

4Gamer:
 あそこは絶対泣きますよね。

小美野氏:
 あんなの無理ですよ!

吉宗氏:
 マブラヴの企画立ち上げ当時,僕は「オタク業界が隠蔽している女の子や社会の真実を,正直に伝える創り手が一人くらいいてもいいんじゃないか?」と思ってました。現実の辛い一面をご都合主義でごまかし,女の子や恋愛に幻想を持たせて買わせるのって「オタクを食い物にしてる,ヒドイ!」って(笑)。

4Gamer:
 美少女ゲームへの反発みたいなところから作られているんですね。

吉宗氏:
 反発というか,今考えるとある意味現実とゲームの区別が付いてないアタオカなヤツですね(笑)。
 例えば,3年間アプローチし続けて手もつながず,卒業の日に丘の上で告白して結ばれる,って「その高校生奥手すぎじゃね?!」とか。

小美野氏:
 言ってることは分からないでもないですが,その発言は危ないです(笑)。

吉宗氏:
 でもそういう「業界の闇を暴く」的姿勢で遊んでいるうちに,気がつくと「俺はこの片目隠れてる子がいいな……」とか思い始めてる自分に気付くわけです。そういう二律背反に身もだえした経験が,後に「厳しいメッセージはキャラクターに言わせればいい」って発見につながるんだから人生って面白いですね(笑)。

4Gamer:
 そしてメッセージは小美野さんにも伝わったと。

小美野氏:
 伝わりすぎて辛くなりましたけどね。さっきも言いましたが,完全に自己投影しちゃっていたので,ゲーム中は何回も泣いて,何度ももうやめようって思いました。これ以上読み進められないって。

吉宗氏:
 どこが一番「やめよう」って思ったんですか?

小美野氏:
 もう一度転移したあたりですね。その前もだいぶ辛かったですが,何度も言いますが日記はホントに涙が止まらなくなって……。

吉宗氏:
 だからこそ,エクストラのオープニングは純夏の日記なんです。初見では主人公たちの思い出共有とか思わせておいて,視野が広がった2周目でその本当の意味がわかる。「ごくありふれた平和な日常」が,どれだけの他者の犠牲の上に成り立っているものなのかっていう現実が。

小美野氏:
 本当にひどいと思いましたよ当時!
 なので武に対して,よく立ち上がったなコイツと思ってプレイしていたのを覚えています。丁寧に丁寧に追い詰められて,それでもそこから立ち上がるじゃないですか。

吉宗氏:
 武が何度も立ち上がれた理由は,夕呼がずっと寄り添い続けたことですね。現実には,ああいうコミットをできる大人は少ないですよね。清濁併せ呑んで,すごく厳しいけど絶対に見捨てない。

小美野氏:
 いやほんと,元の世界の夕呼先生は,武を送り返した後どうなっちゃうんだろう……。

吉宗氏:
 当然,捕まって下手すりゃ刑務所ですよ。それが法治国家というものです(笑)。

小美野氏:
 それはそうでしょうけど! 言葉にするのはやめてください!

吉宗氏:
 ところで,日記ということは,やっぱり純夏推しですか?

小美野氏:
 僕は正直,あの作品に登場する人物がみんな好きなので,誰が好きとかはないですね。

吉宗氏:
 ヒロイン全員好きなんですね。重大なネタバレになりますが……マブラヴ登場するヒロイン,全員僕の分身ですよ?(笑)

小美野氏:
 それはよかった。改めて告白させてください。大好きです。

4Gamer:
 いったい何を見せられているんですか(笑)。

小美野氏:
 マブラヴで特定の推しはいないんですけど,そういう風に作られているゲームだと思うんですよ。全ルートをやらせたうえで,それがオルタにつながる。それがあの作品の良さであって,みんなのことを大事に思うからこそ,最後の作戦がああいったものになるわけじゃないですか。

吉宗氏:
 ラストは誰一人として口裏を合わせないのに,それぞれが好意と恩を抱く「大好きな武」と,その想い人の純夏を無事に生還させたいっていう自身の想いでつながり,自然に連携するっていう,成長の極みですね。
 対比として,自己を持たなかった霞が,皆の本音が見えるにも関わらず,その想いを酌んで黙って作戦を遂行する姿も,人として飛躍的に成長した証となっています。

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特撮,ロボ,漫画……

さまざまなジャンルを経験してからの学マス開発


4Gamer:
 マブラヴをやった当時は,ゲーム業界を目指す気持ちはあったんですか?

小美野氏:
 まったくなかったです。ゲーム業界を目指すきっかけは,就職活動をしていたときですね。もともと飲食を目指していたんですけど,10何社と落ちて。

吉宗氏:
 それはそれで武勇伝ですね。

小美野氏:
 いやいや(笑)。

4Gamer:
 私は小美野さんと同世代なんですけど,当時って就職率,高くなかったですよね。

小美野氏:
 ええ,大変でした。それで就職相談センターに行ったら,「業種が合ってないから,自分の好きなことをやってみたら?」と言われたんです。それで好きなことってなんだろうなと考えたら,ゲームぐらいしかなくて。

4Gamer:
 そこで今の会社との運命が交差したわけですね。

小美野氏:
 受けたゲーム会社はいくつかあったんですけど,全部受かりましたね!

吉宗氏:
 今,さらっと自慢しました?(笑)

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小美野氏:
 いやいや,「就職相談センターってすごいな!」って。今の会社が最初に最終面接まで行ったので,ほかは全部断ったんですが,「業界が変わるだけでこんなに変わるんだ!」と,びっくりしました。だから,自信を持ってこの会社に行こうと思いましたね。

吉宗氏:
 得意なことと,できることは違いますからね。結局,個人視野の拡大って他人の影響が大きいんですけど,就職相談所の人に言われたから,素直に受け入れられるとかってないですか。例えば,友達とか親に言われるのとは飲み込みやすさが違うというか。

小美野氏:
 たしかに,そういう人に「合ってないんじゃない?」とか言われたら,頑なに受け続けていたと思います。

吉宗氏:
 「おまえに何が分かるんだ!」とかね(笑)。

小美野氏:
 だから,それが「キャラクターに投影するといい」っていう理由になるんでしょうね。

4Gamer:
 小美野さんは,入社当初は何を担当されていたんですか?

小美野氏:
 最初は自社IPのプロモーションを担当していて,そこからロボット関連タイトルの宣伝チームに入りました。

4Gamer:
 あ,プロモーションから入った方だったんですね。

小美野氏:
 そうなんです。ロボット関連タイトルの宣伝をしていたときに,ゲーム開発チームから「めちゃくちゃ詳しいし,こっちに来ないか」と言われて,開発に携わるようになりました。
 それで,3年目からプロダクションでゲーム開発を始めて,そのあとは他社IPを取り扱うチームに移動して,少年誌系のゲームを作ったり……。そのあとは特撮系のゲーム開発などをやって,最終的にアイドルマスターに辿り着くっていう。

4Gamer:
 振れ幅すごいですね。

小美野氏:
 特撮とか,ロボとか,漫画系とか,一通りやらせてもらいました。

吉宗氏:
 バンダイナムコさんは,いろいろなジャンルをやれるのが強いですね。

小美野氏:
 それは本当にそうです。宣伝から開発,コンシューマもやったし,モバイルもやったし……この会社でできる経験値をある程度積ませてもらったんですよ。ただ,これは弊社でも稀有な例だと思います。

4Gamer:
 あっ,さすがに稀有なんですか。

小美野氏:
 良くも悪くも,こんなあちこちいろんな部署を渡り歩いてるやつは,そういませんよ。

一同:
 (笑)

小美野氏:
 僕は相当,環境に恵まれたタイプだと思っています。入社した当初からいろいろな仕事をやらせてもらいましたから,会社には本当に感謝が尽きません。

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主人公には「見下せる」ポイントがいる


4Gamer:
 小美野さんがマブラヴで前向きになれたというのは,私もいちファンとして気持ちが分かるんですけど,マブラヴって感情移入のさせ方がうまいと思うんですよね。
 吉宗さんがキャラクターを描くにあたって,感情移入させるコツみたいなものってあるんですか?

吉宗氏:
 主人公やヒロインを,ある程度「おバカ」に描くことですね。誤解を怖れず端的に言うと「見下せる」要素や弱点が共感の鍵なんです。それは同時に「バカ正直さ」の証でもあり,利害を無視できる一生懸命さでもある。そういうキャラが一生懸命さゆえに「仕方なく」大変な状況に追い込まれることが大事だと思っています。

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4Gamer:
 それはなぜでしょう?

吉宗氏:
 人は往々にして,自分より優れた者に対しては,嫉妬や警戒感を無意識に抱く傾向があります。例えば,人気があるズバリ言う系タレントは「見下せる過去」を持ってますが,それがない方は賛否両論です。すべてに於いて自分より勝っている「正しい」キャラは,共感を得にくいんです。
 例えば作品だけに止まらず,ありがたいことに僕のようなろくでもない半端者を多くのファンが応援してくださってますが,もしかしたら同じなのかもしれません。美少女ゲームのクオリティにこだわって,四代続いた家土地を手放すとか,6億8000万円の個人借金を負うとか。一般的感覚ではまともじゃないゲームバカ。十分見下せる要素ですよね,自分で言ってて悲しいですが(笑)。

小美野氏:
 面白い考え方ですね。でも少し分かります。
 見下せる,見下せないというお話は,距離感に言い換えられるのかなと。共感できるとか,距離感を近くする要素が何かないと,本当の意味での人気者って難しいと思うんですよ。

吉宗氏:
 ですよね(笑)。人気者にするにしても,誰かの犠牲や搾取対象になっている等のフックが欲しいところです。基本的に人は,無意識に主観が世界のすべてと疑わない傾向があるので,視野狭窄ゆえの被害者意識を自己犠牲に転換する構図は人気があります。
 その意味の逆アプローチで,マブラヴでは,主人公とメインヒロインの親を描写しないことを徹底しました。

4Gamer:
 そういえば,2人の両親はまったく出てこないですね。

吉宗氏:
 親子問題は結構人格形成に影響あるので,心理深掘り系の作品だとそれが主人公とメインヒロインの主軸になってしまいます。親子問題に無頓着な層にとってそれはノイズです。
 なので,マブラヴでは,サブヒロインたちの家庭問題に分散して,特に父親との関係にいろいろある感じにしました。

小美野氏:
 そういえば,何かしら問題を抱えていますね。

吉宗氏:
 僕もそうですが,人は自分の問題点の指摘は直視しにくいんですが,他人の問題解決にはあまり抵抗がない。なので,親子問題はプレイヤーの分身である主人公よりも,サブヒロインの他人事にしたほうが客観視できるし受け容れやすいわけです。
 かつての親子関係や家族は「何でもさらけ出せるベースグラウンド」でしたが,人権教育が進んだ世代を重ねた現代では,親子が互いに気を遣い,むしろ「曝け出せない」距離感があることで平穏に機能している印象があります。
 ハラスメント意識の普及により,社会で大人から教えてもらえるノウハウも激減している。友達も互いを尊重し踏み込まないことで平和な関係の維持が最も優先される。だとすれば,僕らがキャラを使ってその手助けをできればいいなと思いながら作品を作っています。なのでマブラヴ対比並行譚でもある「トータル・イクリプス」では,逆に主人公とメインヒロインの親子問題をバッチリ組み込んだわけです。

4Gamer:
 親子関係を描こうとしているのは,吉宗さんの実体験として描きたくなる何かがあった?

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吉宗氏:
 僕の実家はいろいろな意味でヤバイですよ(笑)。三代続く邦楽(長唄と三味線)の家元,つまり伝統芸能の家系だったんですが,もう時代小説の世界観です。
 僕の母の前に,内縁の妻が4人いたとか,内弟子(住み込みで働きながら稽古する制度)のお姉様方はすべてお手つきだったとか。
 当時は当たり前のお家主義なんで,世継ぎの男児が生まれるまで内縁の妻で籍を入れないんですよ。相手の戸籍を汚さない気遣いの風習でもあるらしいんですが,一定期間子供ができないと実家に戻される。
 父は僕が16の時に他界しましたが,成人した後で母から教えられました。

4Gamer:
 すごい世界ですね……お父さんとの仲は良かったんですか?

吉宗氏:
 物心ついた時には「お父さん」じゃなく「お師匠さん」でしたね。父は流派のトップで本家の長男って立場なんでそりゃ厳しいです。稽古中は泣いても絶対許してくれないし。家に怖い生活指導の体育教師がいるみたいで,基本ビクビクしながら付き合っていました(笑)。
 そういう昔の家風だから,母に対しての一族の当たりもすごく強い。叔母や祖母にはナチュラルにいじめられていましたが黙って耐えている。僕にはそれがマジでキツくて,一族が嫌いでした。
 父が亡くなった後もそれが続くんですが,籍も抜かず耐え続ける母に対しても苛立ってきて「あんたが何も言い返さないからそうなるんだ」って責めてしまったり。でも,それはホント浅はかで間違った思い込みでしたね。

4Gamer:
 というと?

吉宗氏:
 母が亡くなる数年前いろいろ聞いたんですが,「あのとき籍を抜いてたら,あの一族の中でアンタの立場が不利になる」って。壮絶な女の覚悟の戦いだったわけですよ。
 僕は「やせ我慢」キャラをメインヒロインにしがちなんですけど,これ間違いなく母親の影響ですよね(笑)。

小美野氏:
 はあー,なるほど。

吉宗氏:
 1990年以降,男より女の強さを描いた作品が増えましたが,僕もそっちにリアリティを感じてしまうのも,母の影響かも知れません(笑)。

小美野氏:
 たしかに,そういう意味では,マブラヴは女性のほうが圧倒的に強いですもんね。


ロボット好きになった理由はロボットで反抗期を迎えたから


小美野氏:
 うちの親父は,ロボットものとか特撮とか,大好きでしたね。家中におもちゃを置いていて。

吉宗氏:
 めちゃくちゃいい家じゃないですか。

小美野氏:
 なので今の僕の趣味嗜好の大半は,親父から引き継いだものだったりします。
 でも,最初からそうだったわけではなくて。例えば夜に親父が帰ってきたら,普通の家だと野球のナイターを見たりするじゃないですか。僕は野球部だったので,野球中継が見たかったんですよ。家だとそれが逆で,親父がアニメとかを見始めるから,僕は「巨人戦見たいねん!」っていう(笑)。

4Gamer:
 それでも,小美野さんはアニメ嫌いとかにならずにいられたんですか?

小美野氏:
 いえ,やっぱり,ちょっと敬遠した時期はありましたね。

吉宗氏:
 なんでそこからロボット好きとかアニメ好きになったんでしょう。

小美野氏:
 ロボットは,教育として見せられ続けていたんです。それこそ宇宙の世紀のやつは全作品を何回見たか分からないぐらい。

4Gamer:
 英才教育だ。

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小美野氏:
 それで「もうイヤ!」ってなったんですが,小学生ごろに始まった過去の流れを組まない時代設定のタイミングで,初めて自発的に見たんです。今まで親父が理想としてきた路線と異なる作品だったので,親父はめちゃくちゃ嫌がっていたんですよ。それがたまらなくて(笑)。今では全作品好きですよもちろん。

吉宗氏:
 反抗期がロボットで発動ってどんだけ(笑)。

小美野氏:
 そうですね,「ロボット反抗期」だったかも。これがロボット好きになった一番の理由です。

4Gamer:
 そんなお父さんなら,小美野さんが今の会社に入ったことを喜んでくれたんじゃないですか?

小美野氏:
 それはもう,めちゃくちゃ喜ばれました。「ホントようやったわ!」って。

吉宗氏:
 めっちゃ親孝行したじゃないですか!

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