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[GDC 2021]今年もFailure Workshopがやってきた。作者自ら「最低のゲームと最高のサントラ」と評するリズムゲームに,何が起こったのか
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印刷2021/07/22 12:51

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[GDC 2021]今年もFailure Workshopがやってきた。作者自ら「最低のゲームと最高のサントラ」と評するリズムゲームに,何が起こったのか

画像集#001のサムネイル/[GDC 2021]今年もFailure Workshopがやってきた。作者自ら「最低のゲームと最高のサントラ」と評するリズムゲームに,何が起こったのか
 いまやGDC恒例となったIndependent Games Summitだが,このサミットでも定番となっている講演がある。Failure Workshopと題された講演がそれでGDC 2018で行われたものをレポートしている。
 この講演は,GDCではありがちな「このような困難がありましたが,このようにして困難を乗り越えて大成功しました」という構図ではなく,「絶対にうまくいくと確信していましたが,失敗しました」という事例を,実際に失敗した当人が報告するという趣旨で行われている。同じ成功をくり返すことは難しいが,同じ失敗をくり返すのは容易であることを踏まえ,インディーズゲームコミュニティ全体として失敗事例を共有していこうというわけだ。

 GDC 2021のFailure WorkshopにはThe Quantum Astrophysicists GuildのTy Taylor氏が登壇し,彼がディレクターを務めたゲームが失敗した経緯とその原因を解説した。題して「How I Accidentally Spent $30,000 on Music For a Game Before I Knew What the Design Was」だ。ざっくり訳せば「ゲームデザインのなんたるかを知る前に,うっかり音楽予算として3万ドルを溶かしたのだが」とでもなるだろうか。講演のタイトルを読んだだけで胃が痛むが,何がどんな経緯で,なぜ起こったのかを見ていこう。

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 これまで何本かのゲームを手掛けてきたTaylor氏が挑んだのは,「Dual Joy」というタイトルだった(なおこのゲームは完成していない)。
 このゲームは「弾幕リズムゲーム」というコンセプトを有していた。BGMにあわせて生成される弾幕を回避し続けるゲームである。だがこれだけではちょっと平凡だと感じたのか,ちょっとしたひねりが加えられていた――プレイヤーは2機の機体を,左右2本のアナログスティックで同時に操作するのだ。

ゲームショウで試遊されているところ。いろいろポジティブな言い方もできる写真だが,一般的に言えば,どうにも不吉な空気が流れている。そう,このゲームはあくまで一人用なのだ
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 この「2機の機体を1人が同時に操作する」(通称Double Play,DP)という構図そのものは,実のところまったく新しいというわけではない。KONAMIのBeatmaniaやDDRといったリズムゲームには正式なゲームモードとして実装されているし,シューティングゲームの世界でも一人で2機を操作するエクストリームな遊び方は比較的有名だ。そう,「Dual Joy」の「弾幕リズムゲーム」というコンセプトの先に,DPが出てくるのはそこまで不自然なことではない。

 そしてまた,「Dual Joy」はシューティングゲームが好きで,DPに興味がある人なら見た瞬間にそれと分かるギミックを有していた。同時に操作する2機の機体(実装としては抽象的な図形だが)にはそれぞれ異なる色が与えられており,弾幕もこれに対応して色が2色に分かれている。このシステムは「斑鳩」を容易に連想させるものだ――そして「斑鳩」は非常に美しいDPの動画が見られることでも,その筋では有名な作品である。

画面はとても美しい。好きな人が見れば「斑鳩DPをやらせてくれるゲームだな」と直感的に理解できる
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 だが本作はすでにこの段階で躓いていたとTaylor氏は指摘する。「2機を2本の親指で同時に操作するというコンセプト自体がダメすぎた」そうだ。シューティングゲームのDPは,悲しいかな,一般的な(ある程度誰にでも楽しめる)遊び方ではないのである。
 しかしこれはあくまで「片足がつまずいた」だけだった。「Dual Joy」にはさらなる躓きがあった……音楽のリズムと,「弾幕を避ける」というアクションの間に,つながりがなかったのだ。本作はあくまで「リズムにあわせて弾幕が生成される」のであって,「リズムにあわせて弾幕を避ける」ようには作られていなかった。

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 この2つの課題をさらに掘り下げてみよう。

 まずはリズムゲームとしての問題。
 優れたリズムゲームは,リズムにあわせてアクションを行う。そして実際に楽器を演奏しているような気持ちになり,自分が何かすごいことをしているような気持ちになれる。
 だが「Dual Joy」は,そうではなかった。むしろリズムにあわせて弾幕が生成されるため,プレイヤーがリズムにのってゲームをする(自然なことだ)と,死ぬのだ。

 しかるに,難易度(遊びやすさ)の問題。
 「Dual Joy」はとにかく難しいゲームだったという。どれくらい難しいかと言えば,ほとんどの人がチュートリアルをクリアできないくらいに難しい。
 しかもプレイヤーはリズムにあわせずゲームをプレイする必要があり(多くのプレイヤーはこの対策として「音楽を聞かない」ことした),かつ,左右どちらが利き手であろうが,両手利きであることを要求される。
 つまり,本作は徹底してプレイヤーに「不自然であること」を要求してしまったというわけだ。

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 ゲームそのものがかなりマズいことになっている一方,Tyler氏はリズムゲームのもうひとつの重要なポイントとなる楽曲を意気揚々と発注し続けた。発注先は錚々たるアーティストたちであり,3万ドルという音楽予算はまったく不自然なものではない。
 かくして「最低のゲームと最高のサントラ」(Tyler氏)がこの世に生まれてしまったわけだが,こんな悲劇が発生した経緯もまた,そこまで不自然なものではなかった。

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 まずそもそも,人生で一番好きなゲームとして「Rock Band」をあげるTyler氏は,「いつかリズムゲームを作りたい」という野心を抱いていた。そしてそのチャンスが訪れたとき,自分が大好きな作曲家たちと一緒に仕事ができることにも大いに興奮した。
 そしてまた,「弾幕リズムゲーム」というコンセプトはTyler氏にとってとても素晴らしいものだと思えたし,その感触は発注した音楽が仕上がってくるなかで「こんなスッゲエ音楽を作ってもらえたんだから,この音楽を活かしたゲームとして仕上げられるに違いないさ!」という確信へと発展した。
 だが結局,ゲームと楽曲がひととおり揃ってゲームショウでの試遊も可能となった段階で,「このゲームを救うには,ゲームシステムを全部放棄して,既存のリズムゲームをパクるしかない」という結論を,Tyler氏は下すほかなかった――そしてそれは,氏にとって選べない道だった。

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 かくしてリリースされることなく終わった「Dual Joy」だが,このような事態を避ける方法として講演でTyler氏が示したのは,それほど独創的なノウハウではない。「大予算をかけてゲームを作り始めるまえに,プロトタイプを作り,早め早めに試行錯誤とプレイテストを繰り返し,ダメなアイデアに執着しすぎず,ダメなものはダメだと見切りをつける」「テストプレイは制作チーム内部ではなく,チームメンバーの友人や家族に頼む。制作者が自分のゲームに対して客観的であることは困難」という言葉に,新鮮さを感じる人はいないだろう。むしろ「そんなの当然だろう!」と言いたくなる人が多いのではないだろうか。

 だがこの「当然」が,できなくなるときがある。そして軌道修正するチャンスもあったはずなのに,修正できないことがある。「Dual Joy」が陥った陥穽はシンプルなものであるだけに,かえって恐ろしさを感じさせるものだ。
 ……ちなみにTyler氏は講演の冒頭で「まだ完成していないゲームは,たとえ完成寸前だったとしても,リリース時期を他人に告げるべきではない」とも語っている(このあたり,「当然」ができなかった理由の一端が垣間見える)。

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 今年のFailure Workshopもそうだったが,この講演では必ずしも超ユニークな失敗が語られるわけではない(過去には「オンラインゲームのプレイヤーデータが全部消えました」といった失敗談が語られたこともあったが,それはそれ)。むしろ「自分ならやれると思ってやったらダメでした」というのが黄金パターンとすら言える。

 つまり逆に言えば,本講演があってもなお,毎年のように同じような失敗があちこちで起きている。そして同時にそれは「重要な情報は何度伝えても『知らなかった』という人が出てくる」ということでもある。「大事なことは何度繰り返し伝えても良い」の精神で,今後もFailure Workshopが続いていくことを期待したい――そこに人間がある限り,失敗が消え失せることだけは,絶対にないのだから。

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