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[インタビュー]「手作りのゲームは,未来の"ジブリ"になるかもしれない」――20周年のthatgamecompanyを率いるJenova Chenが語る,Skyと,ゴッホと,AIと,次なる新作
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印刷2026/07/24 09:30

インタビュー

[インタビュー]「手作りのゲームは,未来の"ジブリ"になるかもしれない」――20周年のthatgamecompanyを率いるJenova Chenが語る,Skyと,ゴッホと,AIと,次なる新作

 2026年5月15日,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」iOS / Android / Nintendo Switch / PS5 / PS4 / PC,以下,Sky)のthatgamecompanyは,設立20周年を迎えた。処女作「flOw」から数えて20年,「Journey」(邦題:風ノ旅ビト)が,その年のゲームの賞という賞を総なめにしてから14年,そして「Sky」は運営8年目に入り,世界累計3億ダウンロードを突破している。

 2026年7月17日には,その「Sky」のゲーム内で,画家フィンセント・ファン・ゴッホの生涯を体験できる新コンテンツ「Dear Van Gogh(親愛なるファン・ゴッホへ)」の配信が始まった。
 ゴッホと弟テオの間で交わされた1000通あまりの実在の書簡をもとに,プレイヤーが二人の間で"手紙を届ける"役を担う,およそ90分の物語だ。セリフのないゲームを20年間作り続けてきたスタジオが,初めて「言葉」を真正面から扱う作品でもある。

※実際にやり取りされた書簡の数は不明なので1000通あまりと濁しているが,実際には700通程度だったのではないかと言われている。なおゴッホが実際に書いた手紙は全体で2000通あまりあると言われているが,ゴッホ美術館の公式サイトで,現在も902通の書簡が見られるようになっている。興味のある人はぜひ。

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 thatgamecompanyは本日(2026年7月14日),「Sky 星を紡ぐ子どもたち」で7月17日から配信予定の企画「Dear Van Gogh 親愛なるファン・ゴッホへ」のゲームプレイトレイラーを公開した。動画では,ゲームプレイ映像とともに,美しい名画の世界の一部を確認できる。

[2026/07/14 19:13]

 節目と新しい挑戦がきれいに重なったこのタイミングで,同社の創業者にしてCEOであるJenova Chen(ジェノヴァ・チェン)氏に,2年ぶりに話を聞く時間をもらえた。

 氏と最初に会ったのは,2019年の東京ゲームショウだ。日本のメディアが単独で話を聞くのはそれが初めてだったという彼がそのとき残した「いつか『ゲーマー』という言葉がなくなってほしい」という言葉は,とても印象的だ。
 その年の冬には「僕のヒーローに会える」と言って上田文人氏との対談のために来日し,2022年にはコミュニティ運営の哲学を,そして2024年には新宿で行われた「Sky」5周年イベントの喧噪の中で,3億人の世界を預かる者としての心境の変化を語ってくれた。そして振り返ってみると,どのインタビューも終わってみれば予定時間を大幅に超えている。

 今回は,初めてのオンライン取材である。
 いつも質問案をあまり準備せずにアドリブでインタビューするので,空気が変わる瞬間とかが掴みづらいオンライン取材は,ちょっと苦手だ。しかし「お久しぶり〜」から始まったインタビューは,気付けば3時間近くが経っていた。

 20年経った今も達成されないまま掲げられ続けている,創業時の目標のこと。「Journey」が知らない誰かを救っていたこと。文字を排したはずの「Sky」に,言葉の波が押し寄せてきた経緯。Chen氏の義母がゲームの中で出会った友人たちとともに,北アイルランドに住む17歳の少女の命を救った映画のような本当の話……。
 美しい理想主義者である氏が,運営の中で直視することになった人間の闇,新しい大型イベントである“ゴッホ”,そしてAIがもたらし始めた「本当の脅威」など。
 いつもどおり,話はあっちこっちに飛んで,いろんなことを語ってくれた。

 勘のいい読者であればお気づきだと思うが,これは建て付けとしては「新コンテンツのプロモーションと20周年記念を兼ねたインタビュー」である。
 ただ読んでもらえば分かるとおり,氏は宣伝用のきれいな言葉をほとんど話していない。手作りのゲームは未来の"ジブリ"になってしまうかもしれないという不安も,「AI製だと分かったら,お金を払いたくない」という感情も,すべてそのまま,彼がしゃべったままだ。3億人が暮らす世界を預かるクリエイターの2026年時点の正直な感想が,ここに記録されている。

 いつもの,ちょっとダラりとした長いインタビューだが,ぜひ最後までお読みいただきたい。Jenova Chenというぶれないゲームデザイナーと,それを支えるthatgamecompanyという会社の,いろんなことが分かるかもしれないから。
 なお「Dear Van Gogh」は大型アップデートではあるが,「Sky」を新規にダウンロードすれば,アカウントの育成も面倒な手続きも不要で,起動した時点からそのまま体験できる(記事掲載前に新規アカウントで触ってみたが,ちゃんと体験できた)。「育ったアカウントがないしな……」と躊躇している人も,ぜひ触れてみてほしい。


Jenova,アルルに行く。南フランスのアルルにある「黄色い家」の跡地も訪れたとのこと
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4Gamer:
 Long time no seeing, Jenova!

Jenova:
 お久しぶりです! 僕は今回日本に行けてないんですが,ぜひどこかでまた直接お会いしたいですね。もしかしたら来年は日本にいくチャンスがあるかなと思ってるので,そのときにぜひ。

4Gamer:
 了解,楽しみにしています。
 今日は初めてのオンラインインタビューですが,始めましょう。

Jenova:
 お願いします。

4Gamer:
 それにしても本当にお久しぶりです。ちょうど2年ぶりですね,前回は新宿のイベントでした。

Jenova:
 もう2年ですか。
 最近は,人がなかなか若いままではいられないと思うんですが,あなたも私も,本当に自分のやっていることを楽しんでいるのか,お互いにそんなに年を取っていない感じがありますね。きっと心が若いからだと思います。好きな仕事をしていると,若くいられるのかな。

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[インタビュー]プレイヤーに何か悪いことを言われても,もう大丈夫。「大きな家族の中での出来事」として受け止められるようになりました―――5周年を迎えた「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は,まだまだ進化していく

 先日,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の5周年記念イベントが新宿で行われた。2日間しかないリアルイベントで,Skyの熱心なプレイヤー達が集う忘れられない日となったが,その合間を縫って,クリエイティブ・ディレクターのJenova Chen(ジェノバ・チェン)氏にほんの少し時間をもらうことができた。その模様をお伝えしよう。

[2024/10/01 12:00]

4Gamer:
 え,今まさにその話をしようとしてたんですけど,Jenovaちょっと疲れてません? カメラ越しのせいかな?

Jenova:
 元気ですよ(笑)。
 まぁでも一つのゲームを作るにはすごく忙しくなりますし,特にローンチが近づくと大変です。最近はいくつも違うプロジェクトを同時に動かしていて,それはそれで別種の忙しさがあります。

4Gamer:
 そんなにプロジェクトがあるのか……。

Jenova:
 しかも,それぞれにビジネスの性質が違うんです。
 まさか自分が20年も働くとは思っていませんでしたが,今はもう慣れました。好きなことをやっているので,まったく問題はありません!

4Gamer:
 いくら好きなこととはいえ,会社を20年続けるのは大変ですよね。そこだけは僕も分かります。
 20周年と累計3億ダウンロード,おめでとうございます。遅くなりましたけど。

Jenova:
 ありがとう。
 でもふとした時に,今一緒に働いている人たちが,自分が最初のゲームを作った頃にはまだ生まれてもいなかった,という事実に気づいて,ちょっと怖くなることがあります。自分はもう“オールドスクール”なんだな,と。
 「この映画観たことある?」「このゲームプレイしたことある?」と聞くとみんなキョトンと困惑した顔をするんです。まだ生まれてもいなかったから。

4Gamer:
 すごく分かります(笑)。
 4Gamerも26年もやってるから,スタッフもそうだけど,最近話す若い子達は,4Gamerができた頃にはまだ生まれていない人が結構いて,自分が長くここにいることを実感しますね,同じように。

Jenova:
 ホントにそうですね。時代のトレンドの流れに乗り続けるのはすごく難しくて,自分たちも常に学習して,周りに何が起こっているかよく注意して,波に乗り遅れないようにしています。

4Gamer:
 そんな中,最初の作品「flow」からの20年を振り返って,一番最初に思うことは何ですか。

Jenova:
 ……美しく古き良き時代だったな,と(笑)。

4Gamer:
 「ふふふ」となってしまう自分がいます。

Jenova:
 当時,ごく限られたハードウェアで作品を出せるインディー開発者は,両手で数えられるくらいしかいませんでした。コンソールでダウンロード販売のゲームを作れる開発者は,それくらいしかいなかったんです。
 thatgamecompanyがその一つであることがどれほどの特権だったか,当時はちゃんと分かっていませんでした。ソニーや任天堂,マイクロソフトに選ばれて,自分でゲームを出すことできたのは,本当に恵まれていたのです。

4Gamer:
 言われてみれば確かにそうだったかもしれません。あの当時は「若い会社が頑張ってるぞ!」みたいな感じでしたけど。

Jenova:
 今は,学生でもSteamやiOSでゲームプログラミングができる時代です。実際,入社面接やインターンで来る若い子たちに会うと,たいてい何かしらSteamやiOSでゲームを出した経験を持っています,まだ卒業していないにも関わらず。

4Gamer:
 いつの間にかそんな時代ですよね。1年間でSteamに2万本もゲームがアップロードされる時代になるとは思いませんでした。
 しかしあなたもそうだし,僕もそうだと思うんですけど,20年経つといろいろなものが変わって,考え方も変わっていくと思うんです。「flOw」から「Sky」までの20年を考えてみて,あなたが20年前に作りたかったものと,今作れるようになったものは,一致してますか?

Jenova:
 そうですね……自分のキャリアを振り返ると,すごくラッキーだったと思っています。ビデオゲームをキャリアにするのは面白く,チャレンジでもある。そのチャレンジに挑み続けるには,競争相手や目標もちゃんと選ばないといけない。
 それが高すぎると会社が空中分解してしまうわけですが,今はちょうど良いところにあります。そして目標を低くしすぎると,今どきはAIですぐ達成できて面白くなくなります。僕にとっては,20年前に掲げた目標はまだ達成されずにそこにあります。
 それは「社会にビデオゲームを,ひとつの芸術形式として尊重させる」ことです。

4Gamer:
 7年前から変わりませんね。

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 「風ノ旅ビト」「Flowery」「flOw」……そして「Sky 星を紡ぐ子どもたち」。いつも優しい雰囲気で,素晴らしいBGMを備える,アーティスティックな作品を作るのがthatgamecompanyのJenova Chen氏だ。彼のゲーム観を,いろんな方向から聞いてみよう。

[2019/10/16 12:00]

Jenova:
 “会社を運営するゲーム”の面白いところは,挑戦のハードルを自分で選べることです。
 「グランド・セフト・オート」のようなサンドボックスでも,いきなり銀行強盗はしないですよね。少しずつ能力を上げて,一つ成功したら次はもう少し難しい挑戦を選ぶ。TGCのこの20年は,こうやって歩いてきました。

4Gamer:
 “会社ゲーム”にはすっかり慣れたんですね(笑)。

Jenova:
 それだけには限らないんですけどね(笑)。
 最初の6年くらいはCEOではなく,チーフ・クリエイティブ・オフィサーのような立場で,人の心を動かすゲーム,博物館・美術館に収蔵されるゲームを作ってました。CEOというのはあくまで付け足しで,会社を潰さないようにする役回りでした。

4Gamer:
 確かに最初にお会いしたときも,「クリエイティブ・ディレクター」でした。
 ところでいま話題に出た,スミソニアン博物館やMoMAに収蔵された件ですが,それらを実際に経てみて「ゲームは芸術か」という問いに対する答えは,もう出たんですか?

「Flower」は,物語ではなく感情の起伏を描く“インタラクティブな詩”として構想され,2013年にスミソニアン博物館の永久収蔵品となった
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MoMA(ニューヨーク近代美術館)にも,thatgamecompanyの「flOw」「Flower」「Journey」3作品が収蔵されている。
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Jenova:
 (しばし考えてから)ワシントンDC出身の人を採用したとき,彼が一枚の写真を見せてくれました。彼のガールフレンドが地元の高校で撮ったもので,ホワイトボードに「ビデオゲームは芸術だと思うか?」と書かれ,線が引いてあります。左に行くと「Yes」で,右に行くと「No」です。生徒が思うところに印を書き込める仕組みなんですが,90%の人が思い切り左のほうに寄せてあって「芸術だ」と答えてました。
 もちろんアート系の学校ではあるんですが,彼がこの写真を見せてくれたのは,彼自身が僕らの「flOw」をプレイしてすごく良い体験をしたから。それが彼がTGCに入る情熱の理由の一つになったそうです。

4Gamer:
 なるほど。

Jenova:
 少なくともアメリカの若い人の多くは「芸術になり得る」と信じています。ただ世界全体の大きな層では,まだゲームを芸術と思っていない人も多い。それは,どんなゲームに触れてきたかに関係すると思います。コンソール中心の人は芸術的表現を見出しやすいが,ほとんどモバイルゲームにしか触れていない人は,ビデオゲームやアートというよりカジノのように思っているかもしれない。
 本当に“接触ジャンルと所在の領域”次第です。ざっくり当てるなら,今は半々くらいが「ゲームは芸術になり得る」と信じている,と思います。

4Gamer:
 あなた自身の考えは変わっていないわけですね。

Jenova:
 もし上田さんのゲームをプレイしていなかったら,答えは違ったかもしれません。でも上田さんの作品をプレイして,ゲームがこれほど強い感情とポテンシャルを持つものだと気づけました。
 最近,彼の新作のトレーラーを見ましたが,今でも同じ気持ちを,新鮮な形で与えてくれます。


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 「ICO」「ワンダと巨像」「Flowery」「風ノ旅ビト」……どれもアーティスティックな作品であり,美しく儚い世界観があり,そのどれもが,コンピュータゲームというエンタメの中ではやや特殊な立ち位置にある。それらを作った,2人の偉大なゲームデザイナーは,いつもどんなことを考えながら創作活動をしているのだろうか。

[2019/12/28 00:00]

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[2026/06/06 06:23]

4Gamer:
 そう,次にティザーを出すのはあなたの番ですよ!

Jenova:
 その話は出ると思っていました(笑)。
 今お伝えできるのは,「2027年の,TGCからの新しい発表を楽しみにしていてください」くらいです。プレッシャーが大きいですね。

4Gamer:
 じゃあ新作前に,あなたのメンタルの変遷についてちょっと聞いてもいいですか? あなたがよく触れる“手紙”――「Journey」のときに受け取った手紙についてなんですが。

Jenova:
 ガンで亡くなったお父さんのお話ですね。

Journeyにまつわる“手紙”

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※thatgamecompanyの希望により,匿名にしてあります。

I wanted to tell you guys of how your game practically changed my life.

In late 2011, my father of age 40 was diagnosed with stage 4 colon cancer. This was a shock to my whole family, as we had never suspected anything to be wrong before that time in the year.

As he had to go into immediate treatment, he felt hopeless, trapped in the hospital with only visits from his family.After months of his treatment, he decided he would no longer want to stay in the hospital. If he didn’t have long to live, he wanted to spend his last days at home with the people he loved.

My dad had been a lifelong gamer, and he is the reason why I even started video gaming.

In his first few days at home, confined to bed, he would always occupy his boredom with the popular games at the time. He would play Mass Effect, Skyrim and the like, perfect high paced games for him. My dad and I had plenty of fun with these, as he would pass me the controller when there was ever a difficult level.

This went on for weeks, but with every day my dad’s ability to play his favorite video games was slowly deteriorating, as he was unable to play high energy games without fear of getting motion sickness.
We had few options left, and we were always looking for new games.

One day while looking for new titles, we found it, Journey, and it seemed like a gift from beyond ourselves.
We pulled up your website, and a beautiful, promising game was the only thing we saw. We purchased it within the hour, and it may have just been the best purchase in my life.

We started up the game, and my dad and I looked at each other in awe. The game was gorgeous, and it was the perfect pace for my dad to play. We had such fun, taking turns with the levels, admiring such breathtaking scenery. We played through the whole game, my dad nearly exhausted at the end of it all.

I couldn’t help but shed a few tears, knowing that this was most likely going to be the last game he played with me. And what a perfect game for that, a game centered around enlightenment, a game of ascension.

We played this game over again for weeks after, each time getting closer to achieving the white robes. It was the most fun I had with him since he had been diagnosed.

My father passed away in the spring of 2012, only a few months after his diagnosis.

It was sorrowful, and detrimental to our family, but we luckily managed to say all we needed to each other before his passing. Weeks after his death, I could finally return myself to playing video games. A lot of them had been packed away, so I turned on my ps3 to see if any games were in it.

That was when I found it once again, Journey. I tried to play it, and I could barely get past the title screen without breaking down into tears. When my family asked why I was so sad, I explained to them what I got as the story of Journey. It was a story of enlightenment, a story of a pilgrimage to the ultimate end, and then the beautiful heavens afterward.

My family had never noticed this in such a way that I had, and after I told them, they thanked me for it. In my dad’s and in my own experience with Journey, it was about him, and his journey to the ultimate end, and I believe we encountered your game at the most perfect time.

Journey is a beautiful reminder of times with him, and since his passing I have purchased the soundtrack, made countless fanarts, and I even have a cosplay in mind for the future. I want to thank you for the game that changed my life, the game whose beauty brings tears to my eyes. Journey is quite possibly the best game I have ever played.

I continue to play it, always remembering what joy it brought, and the joy it continues to bring.

Thank you.
I am XXXXX, I am 15, and your game changed my life for the better.

<日本語訳>
皆さんに、あなたたちのゲームが私の人生をどれほど変えてくれたかを伝えたくて、この手紙を書いています。

2011年の終わり頃、当時、40歳だった父がステージ4の大腸がんと診断されました。家族全員にとって、あまりにも突然の出来事でした。それまで父は特に体調を崩している様子もなく、誰ひとり、こんな診断を受けるなんて想像もしていなかったのです。

診断後すぐに治療が始まり、父は入院生活を送ることになりました。家族がお見舞いに来る時間以外は、病室で過ごすしかない毎日。そんな生活の中で、父は次第に希望を失い、自分が病院に閉じ込められてしまったように感じていたのだと思います。数か月にわたる治療の末、父はもう病院にはいたくないと言いました。残された時間が長くないのなら、最後の日々は愛する家族と家で過ごしたいと彼は願いました。

父は生涯を通してゲームが大好きな人でした。そして、私がゲームを始めたきっかけも父でした。

自宅に戻って最初の数日間、父はベッドで過ごしながら、当時人気だったゲームで気を紛らわせていました。『Mass Effect』や『Skyrim』のようなテンポの速いゲームが大好きで、難しい場面になると「頼む」とコントローラーを私に渡してくることもありました。二人で交代しながら進める時間は、本当に楽しくて、大切な思い出です。

そんな日々が数週間続きました。けれど、日に日に父は思うようにゲームを遊べなくなっていきました。激しい動きのあるゲームではすぐに酔ってしまい、体力も追いつかなくなっていったのです。私たちは新しく遊べるゲームを探し続けていました。

そんなある日、私たちは『Journey』(邦題:風ノ旅ビト)に出会いました。まるで天から私たちに届けられた、一つの贈り物のように感じられました。公式サイトを開くと、そこには美しく、希望に満ちたゲームがありました。私たちは、それをその日のうちに購入しましたが、今思えば、人生で一番価値のある買い物だったのかもしれません。

ゲームを始めた瞬間、父と私は顔を見合わせました。その美しさに、ただただ圧倒されたのです。父にとってもちょうどいいテンポのゲームで、私たちは交代しながら進め、美しい景色に何度も見とれました。ゲームを最後まで遊び終えた頃には、父はすっかり力を使い果たしていました。その姿を見ながら、私は涙をこらえることができませんでした。きっとこれが、父と一緒に遊ぶ最後のゲームになるのだと分かっていたからです。

でも、その最後の一本が『Journey』だったことには、大きな意味があったように思います。『Journey』は、悟りと旅立ち、そして魂が天へと昇っていく姿を描いた作品だったからです。

その後も私たちは、何週間にもわたって『Journey』を繰り返し遊びました。白いローブを手に入れることを目指して、父と二人で少しずつ旅を重ねていったのです。父が病気になって以来、あれほど一緒に笑い合えた時間はありませんでした。

2012年の春、父は亡くなりました。診断から、ほんの数か月後のことでした。

家族にとっては悲しく、とてもつらい出来事でした。でも、幸いにも父が旅立つ前に、お互いに伝えたかったことはすべて伝えることができました。
父が亡くなって数週間後、私はようやくまたゲームを遊べるようになりました。多くのゲームは片付けられていましたが、PS3の中に何か残っていないかと思い電源を入れました。

そこで、私は再び『Journey』を見つけたのです。プレイしようとしましたが、タイトル画面を越えることすらできませんでした。涙があふれて止まらなかったのです。家族に「どうしてそんなに悲しいの?」と聞かれたとき、私は『Journey』というゲームが私にはどんな物語だったのかを話しました。それは悟りの物語であり、人生という巡礼の旅であり、最後に待つ美しい天国へ向かう物語なのだと。

でも私の話を聞いて、家族は「教えてくれてありがとう」と言ってくれました。父にとっても、私にとっても、『Journey』は父自身の物語でした。人生の終わりへ向かう旅、その旅路そのものだったのです。そして私たちは、このゲームに人生で最もふさわしいタイミングで出会えたのだと信じています。

『Journey』は、父と過ごした時間を思い出させてくれる大切な存在です。父が亡くなってから、私はサウンドトラックを購入し、数え切れないほどのファンアートを描き、いつかコスプレもしたいと思っています。私の人生を変えてくれたゲームに、心から感謝しています。その美しさに触れるたび、今でも涙があふれます。『Journey』は、私がこれまで遊んできた中で、間違いなく最高のゲームの一つです。

私は今でもこのゲームを遊び続けています。父と過ごしたあの幸せな時間を思い出しながら。そして、あのとき私たちに与えてくれた喜びを『Journey』は今も変わらず私に届け続けてくれています。

本当にありがとうございました。
私は15歳のXXXXXです。あなたたちが作ったこのゲームは、私の人生をより良いものへと変えてくれました。


4Gamer:
 あの手紙が持つ意味は,あの当時の,まだ若さに満ちたあなたが読んだ時と,作品が累計3億人ほどに届いた今のあなたが読む時とで,それが持つ意味は変わっていますか?
 あなたの数少ない作品達を考えるに,「Journey」までと「Sky」ではまったく違うものになっていると思っているので,そこがちょっと気になっています。

Jenova:
 「Journey」をリリースしたときの話で,これは最初にお会いしたときにも話したと思いますが,ビデオゲームにセラピー的な効果があり,人が悲しみから立ち直る手助けができることに,本当に驚きました。
 大切な人を失って鬱状態にあった人が,その悲しみを乗り越えたという話を,何十件も聞いたんです。名も知らないオンラインのプレイヤーと旅をして,その相手に亡くなった大切な人を投影し,感情のジェットコースターを経て,最後に別れを告げる。
 作っているときは,ゲームがこんな形で人を助けられるとはまったく思っていませんでした。

4Gamer:
 はい。

Jenova:
 そして「Sky」を作るときは,そのセラピー的効果を,クロスプラットフォーム……主にモバイルを通じて,より多くの人に届けようと考えました。
 ただモバイルにはテキスト入力がついてくるので,人は自然と文字で会話したくなります。だから,もともと「Journey」の姉妹作にするつもりだった「Sky」では,テキストをサポートしたんです。

4Gamer:
 そう,ノンバーバルが特徴だったあなたの作品に「文字」が出てきたので,すごく意外でした。

Jenova:
 ところが,そのテキスト機能があったおかげで,「このゲームと,ゲーム内の文字コミュニケーションで支えて話を聞いてくれた他のプレイヤーがいなければ,自分は今ここにいなかった」と直接語ってくれる人達に,各地で出会うようになりました。
 国も年齢もバラバラです。中国でも,日本でも,アメリカでも。運営が救ったのではなく,プレイヤーがプレイヤーを救っているんです。

4Gamer:
 日本でも直で聞いたんですか?

そのときもらったメモを,撮影して送ってもらった
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Jenova:
 ええ。日本で5周年イベントを締めくくった日……いやそうだ,あなたのインタビューがあった日ですよ。匿名のプレイヤーが,小さな紙のメモをくれました。そこにはとても綺麗な英語で「このゲームがなければ,自分は今ここに生きてませんでした」と書かれたいたんです。
 きっとシャイな人で面と向かって話すのではなく,メッセージとして残してくれたんだと思います。……今メッセージで送りましたが,本当にそのインタビューをした日の,別れ際に受け取ったものです。

4Gamer:
 あの日僕が帰ったあとに,そんなことがあったんですね。
 プレイヤーがプレイヤーを救うというのは,基本にあるのはプレイヤー同士の思いやりだと思うんですが,そういう「思いやり」はもちろん運営が教えているものではなく,ゲームの中で自然発生的に出ているものですよね。

Jenova:
 もちろん僕らがプレイヤーに「互いを敬い救いなさい」と導いているのではなく,この特定のコミュニティで,優しく,思いやりのある人間の側面が表に出るようになっている,ということだと思います。
 人が“弱さ”をさらけ出しても安全で,深い傷を抱えていても大丈夫だと思える,オープンになれる,慈悲的な環境を用意している。だからプレイヤーたちが,自分の弱さや悲しみを見せやすいんだと思います。

4Gamer:
 そんな感じで,運営も会社もまったく予想しなかった,予想外に生まれた“大きな思いやりの動き”のようなものは,言えるものでどんなものがありますか?

Jenova:
 そういうことでしたら,義母の話をさせてください。嘘みたいだけど本当のことで,意図的には作れないような話です。あまりにドラマチックで小説みたいですが,本当の話です。

4Gamer:
 そんな前振りが必要な話なんですね……。

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Jenova:
 あんまりアニメは観ないと以前聞いたことがありますが,「ベル」(BELLE/竜とそばかすの姫)という日本のアニメ映画をご存じですか? 日本版の「美女と野獣」みたいな感じです。確か「サマーウォーズ」を作った監督さんの作品だと思います。

4Gamer:
 名前は知ってますけど,観たことはありません。

Jenova:
 (メッセージ欄に映画の情報を送ってきてくれた)
 これです。この映画を観たことあるならそのプロットを知ってると思うんですが,純粋にその映画のプロットが,義母の身に起きたエピソードと似すぎていたので,話題に出しました。

4Gamer:
 映画のストーリー並だとは思いませんでした。

Jenova:
 確かあれは2022年だったと思うんですが,COVIDのピークで皆が家に閉じこもっていた頃,義母は70代で,一人で家にいたのでよく「Sky」をプレイしていました。社交的でいたかったこともあるでしょうし,娘の旦那である僕がどんなゲームを作っているのか気になって,それを確かめるためにプレイし始めたんです(笑)。
 そして40代の,眼科医であるスイスの人と友達になりました。20歳以上の年の差がありますが,毎日メッセージを送り合う友達です。

4Gamer:
 冒頭からすでに情報が多い……。

Jenova:
 そしてあるとき,その眼科医が義母に言ったんです。「この17歳の女の子に気を配っておきましょう」と。それはアイルランド出身の子で,なぜ注意しておくかというと,その眼科医の母親は精神科医で,母からうつ病患者の見分け方を教わっていたんです。
 「この子はステージ3の重度のうつだから,話し続けないと,自ら命を絶ってしまうかもしれない」と。

4Gamer:
 オンライン越しでも,そういう症状はそんなに完璧に分かるんですね。

Jenova:
 なので70代の義母,40代の眼科医,17歳の女の子は,3人でよく一緒に美しい場所を巡り,語り合って互いを知っていきました。
 そのうち彼女が,バーチャルなゲームの中で“母親のような存在”を本当に必要としているのが分かってきました。会話の中で,実は両親から肉体的虐待を受けていたことも分かりましたし,彼女自身は二人姉弟の姉で,両親は弟のほうを可愛がっていたようです。
 継子だったかもしれませんが,確証はありません。慢性的に虐待を受けていたので,実際に一度,自殺を図ったこともあったようです。

 そんなある日,仕事中に義母から突然電話がかかってきました。「黙って助けてちょうだい。これは生死の問題なの。この子がどこに住んでいるのか,住所と電話番号を教えて」と。でもご存じのように,僕らはそういう情報は持っていません。
 「お母さん,プレイヤーの個人情報を集めることはしない。どこの誰かも分からないし,メールアドレスも持っていない」と。手助けしたいとは思ったんですが,どうにもできなかったです。すると彼女は「分かった」とだけ言って電話を切って,自分で動き始めました。

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4Gamer:
 動き始めた?

Jenova:
 親は,娘のあざを誰にも見られたくないから部屋に閉じ込めてました。ゲームで遊ぶことすら,禁じようとしてたくらいです。すでに一度自殺未遂をしているので,対処しなければ本当に二度目をやって,今度は成功してしまうかもしれない。
 でも結局,居場所を示す情報は何も見つかりませんでした。行き詰まったかなと思ったとき眼科医が,「そういえば以前,この子が美しい夕焼けの写真を送ってきてくれた」と思い出しました。その写真には交差点が写っていて,左右の道路標識で通りの名前も読めました。それを手がかりに,北アイルランドの海岸近くの,とても小さな村だというところまで突き止めました。

4Gamer:
 2022年にそれはなかなかすごいのでは。

Jenova:
 ええ。AIが普及する前の話なので,本当に大変な作業だったろうと思います。
 しかしそこまで分かっても,その子の本名は分からないし,GoogleマップやGoogleストリートビューで交差点までは特定できても,どの家かは分かりません。そこで二人は,地元の警察に電話をかけ始めました。家庭内暴力の通報です。

4Gamer:
 電話するのカッコいいです。

Jenova:
 でも,たいていの男性警察官は「頭がおかしい」と無視しました。「なんでアメリカにいる人が,北アイルランドの小さな村の家庭内暴力を通報してくるんだ?」と。まぁ確かにそう思うかもしれません。
 最終的に,義母が一人の女性警官にたどり着きました。「私はカリフォルニアで定年生活をしています。こんないたずらをする理由はどこにもありませんし,こちらには医師もいる。信じてほしい,これは本当に起きていることだ」と。そしたら女性警察官が協力してくれて,ついに少女の居場所を特定できました。
 警察が現地に向かうと,本当に肉体的虐待があり,父親は即時拘束されました。「今後その子に手を上げたら親権を失う」という形での決着です。

4Gamer:
 そんな映画みたいなことが本当にあったんですね。しかもあなたの身内で。

Jenova:
 もし義母たちが介入しなければ,あの子は虐待され続けて,コロナもすぐには終わらなかったから,命を落としていたかもしれません。

4Gamer:
 むしろこれを映画化すべきでは。冗談などではなく。

Jenova:
 うん,そうですね。こうした話が,この温かく優しいコミュニティからいくつも生まれています。
 「Sky」のコア層は約7割が女性で,互いにとても支え合っています。匿名で安全に,自分の人生の苦しみを分かち合える場所だと感じているから,そして互いに苦しみを打ち明けるから。
 今どき苦しんでいる人の多くは,仮想的に孤独を感じている。自殺してしまう人ほど,「この世界の誰も自分を気にかけていない」「自分の仕事なんてすぐ置き換えられる,大きな機械の部品にすぎない」と感じてしまいます。強い親子関係や家族とのつながりがなければ,社会的なつながりをすべて手放して,重いうつに落ちやすいんです。

4Gamer:
 僕は……基本的になんでも楽観的なので,そう考えてしまう人達の気持ちがうまく分かり切れないというのが正直なところなんですが,でも「Sky」がそういう人達の支えになっているのが,本当に素晴らしいことだということは分かります。

Jenova:
 あるイベントで,20代くらいの女性に会いました。彼女は「Skyで出会った3人の女子中学生がいなければ,あの苦しい時期に,きっと生きることを諦めていたと思います」と話してくれました。
 その3人は,彼女を“お姉ちゃん”のように慕って,毎日一緒に遊び,悩みを打ち明けられ,「諦めないで」と言い続けてくれました。一年ほどかけて,彼女のうつは良くなっていったんです。

4Gamer:
 それも直接聞いた話ですか?

Jenova:
 ええ。イベントで講演をしていたとき,彼女が会いに来てくれたんですが,直接会えるプレイヤーの数はどうしても限られているから,最初は会えなかったんです。でも彼女が泣き出してしまったので,中に入ってもらったらその話をしてくれました。「ただ開発者の皆さんにありがとうと伝えたかっただけなんです」と。
 この話が1つ興味深いのは,“おばあちゃんが若い子を救った”のではなく,“より若い子どもたちが年上の人を救った”という点です。温かくて優しいコミュニティからは,こういうことも生まれるんです。

4Gamer:
 たぶん2年前にも似た話をした記憶があるんですが,昨今のように紛争や分断が目立つ世界情勢の中では,このゲームが持つ“思いやり”という意味の重要性は,今までよりもずっと増しているのかもしれませんね。

Jenova:
 ありがとうございます。日に日に重要になっていると思います,特にAIの台頭で。
 すでに,若い子たちが対面で十分に話さなくなっていることを僕は懸念しています。何もかもオンラインで済みますし,今ではリアルな人間よりAIとチャットする方を好む人さえいます。

4Gamer:
 ちょっと考えづらいことですが,うん,結構いますね。

Jenova:
 人と人の距離が,さらに遠くなっているんです。
 前回話したときのことを思い出しましたが,少なくとも当時,戦争をしている国同士のプレイヤーは同じサーバーにいました。ロシアとウクライナのプレイヤーがいて,イランのプレイヤーも,アメリカのプレイヤーもいます。同じサーバーにいられるのは良いことだと思います。
 「Sky」はいわばディズニーランドのような小さなテーマパークですが,プレイヤーは現実を生きる人たちなので,現実の対立をコミュニティに持ち込むこともあります。だから僕らは,その“庭の手入れ”をして境界を守ることに,かなりの労力をかけています。

4Gamer:
 そうやって「手入れ」をし続けて,それがうまくいって,「Sky」は7年間続いています。「Sky」は終わらないし,なんなら運営の手を離れて自律で動く世界だと思うんです。
 「Journey」までは作品の完成という目標があって,それが明確だったわけで,だからこそゲームデザイナーとして100%を目指して動きやすいわけです。でも「Sky」はそうではありません。この7年を運営してみて,「ゲームデザイナー」としてのあなたが得たものと失ったものはなんですか?

Jenova:
 うーん……一番大きく感じるのは,“完結する”ゲームを作っていたときは,僕らが「作者」だったということです。表現したいものを箱に詰め,箱を世に出し,箱のコピーで芸術的表現を観客に伝えます

4Gamer:
 そうですね。「完成された作品」で,表現したいものを表現します。

Jenova:
 でもライブなゲーム―――観客が来ては去り,また戻ってくるようなゲームでは,彼らはそこを“公共の場”のように扱います。自分たちも共同所有していると感じるから意見も持ちますし,もはやそれは僕だけの創作物ではなく,プレイヤーが暮らす場所なのです。
 だからあらゆるニーズや要求が出てくるし,違法だったり悪質だったりする行為には対処しなければなりません。「この空間は運営が統治すべきだ」とみんなが信じているので,悪人を長く放置すると人々は怒ります。その空間の経済がインフレを起こしても,不満が出ます。
 「Sky」を運営していると,もはや作者と観客の関係ではなく,これは以前も言った気がしますが―――市長と住民の関係に近いと感じます(笑)。

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4Gamer:
 うんそうですね。4年前にはすでにその境地に達していました(笑)。

Jenova:
 僕はどちらかというと理想主義で,本来は人間の輝く美しい部分を見ていたい人間です。そして,闇や悪いことをする人に対処しなければならないとき,「これもまた彼らなのだ」と直視することになります。プレイヤーの中にも闇はあります。
 「Sky」を運営することで,僕は人間の闇にもずいぶん多くさらされました。そしてそれは,僕が望んでいたものではありません。

4Gamer:
 それは……次の作品に活かされるんでしょうか。

Jenova:
 ハハハ。でも……うん,そうですね。そう思います。
 知ってのとおり僕の一番好きな本は「星の王子さま」で,作者が描く大人たち,強欲な商人,虚栄心の強い人,権力に酔う王様は,それぞれ人間の“暗い”ふるまいを象徴しているわけです。作者が現実で経験したものを結晶化させて,記号にしたわけです。
 僕も間違いなく,そうした闇をかなり経験しました。それが次のゲームのキャラクターやアーキタイプに,インスピレーションとして反映されるのではないかと思っています。

2021年に実現した「Sky × 星の王子さま」コラボ
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 ソーシャルアドベンチャーゲームとして人気を集めるthatgamecompanyの「Sky 星を紡ぐ子どもたち」では,どのような思いを大事にして「星の王子さま」とのコラボが行われたのか。渋谷PARCOで開催中のポップアップストアに来店した両作品のキーマンに話を聞いた。

[2023/07/07 08:00]

4Gamer:
 昔あなたに言った気がしますが,「Sky」はゲームもですがプレイヤーがみんな本当に良い人で,僕個人はちょっと居心地が悪かったんです(笑)。なんかムズムズするというか。
 でも次の作品なら,もしかしたら僕でも大丈夫かも?

Jenova:
 人間が“どれだけ悪いことをできるか”は見せたいけれど,多くの人が背を向けて去ってしまうほど暗くはしたくないですよ(笑)。
 受け入れられることが真実であり,その中間点を見つけるのが,今回のチャレンジです。

4Gamer:
 ……なんか思ったより,中身について出てきました!

Jenova:
 ふふふ。現在,さまざまなテーマを取り入れた新作ゲームを開発しています。そこでは,プレイヤー同士が関わる争いと死も描かれます。よりシリアスでドラマチックな題材を扱いながらも,小さな子どもたちが楽しめるゲームにするにはどうすればいいのか。それが,一番の挑戦です。
 特に妻は暴力的な表現が苦手なので,家族みんなで安心して遊べる作品にしたいと考えています。今日話せることはこのくらいになりますね。

4Gamer:
 結構話してくれてありがとうございます。思わぬプレゼントです。
 数年前に最初に新作の話を聞いたとき,「次はダークだよ」としか言われなかったので,一体,Jenovaからどうやってダークなゲームができるんだろうとずっと思っていましたが,なるほど,単にダークなだけじゃないんですね。

Jenova:
 “死”は可能であってほしい。でも,“無意味な殺人”を推奨するようなものにはしたくない。それが表現したいところです。
 アメリカのゲーム業界では,人を殺したり人に嫌がらせしたりすること自体を喜ぶプレイヤーの総称として“グリーファー”(griefer)という言葉があります。そういう人たちがゲームに入ってきて,自分の家族を殺し,それを楽しむことはやめてほしいところです。

4Gamer:
 実は僕はFPSがあんまり好きじゃなくて,バタバタと人を殺すだけのゲームはもういいんじゃない? と思ってます。なので,いつもながらあなたの感覚には共感できます。
 しかも最近は描画テクノロジーがかなりすごいので,人が死ぬ様もなんか妙にリアルで,あれがちょっと苦手です……。

Jenova:
 ただボタンを押せば誰かがいとも簡単に死ぬような状況で,ボタンを押さずにいられるかどうかというのは,なかなかの実験だと思いますね。
 いま多くのゲームの中で一番大きな問題だと思いますし,次のタイトルで最初に解決しなければならない問題の一つだとも思っています。人を,少し殺しにくくさせないといけない。

4Gamer:
 「Sky」は優しい世界なので,たぶん「Sky」が触れたい感情は“優しさ”だったと思うんです。次の作品で触れたい感情は,一言で言うと何ですか。

Jenova:
 最近,開発陣に冗談で言ってるのは「これは温度(temperature)のあるゲームだ」ということです。
 日本語にうまく訳せるか分かりませんが,“温度”を出せるゲームなんです。

4Gamer:
 温度……。
 いま「temperature」って言ってましたけど,そのまんまですね。分かるような,分からないような,難しい表現です。

Jenova:
 中国語で表現すると「体温」とか「ぬくもり」とかに近いんですが,たぶん「ぬくもり」のほうの意味だと日本語ではポジティブすぎます。
 そうではなくて,中立でフラットな意味での“温度”です。

そういう意味では「風ノ旅ビト」も,共に夕陽を見ながら進み,嵐をやり過ごし,画面越しではあるが“温度”を感じられた作品かもしれない。美しい場所も,過酷な状況も,まったく知らないプレイヤーと一緒に過ごしていると,繋がりが強く感られたものだ
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4Gamer:
 ますます難しくなってきました! なんとなくの雰囲気は分かりましたが,暴力描写もあって,「死」も可能で,でも子供と一緒に家族で遊べて……?

Jenova:
 次の新作は,自分が本心から作りたいゲームですが,やはり家族を連れて一緒に遊べるものにしたいです。
 「Sky」は誰もが友好的に接する優しい世界でした。その一方で,もう少し挑戦や達成感を求める人たちもたくさんいることも学びました。あまりにも穏やかな世界で乗り越えるべき壁がないと,そうした人たちは次第に別のゲームへ移ってしまうこともあります。

4Gamer:
 僕も自分の意思とは関係なく,そういうのを求めていたのかもしれません。

Jenova:
 さあ,どうでしょう(笑)。
 だから今回はバランスを取って,達成感や挑戦を用意し,コンソールゲームを遊ぶ男性プレイヤーにも同じように面白いと感じてもらえるものにしたい。この新作にはとてもわくわくしていますが,今話せるのはここまでです!

4Gamer:
 もう一つだけ教えてください。新しいゲームに“言葉”はありますか?

Jenova:
 チームは推していますが,それを入れるべきかどうかをいま僕が評価しているところです。
 中間の落とし所にするかもしれませんね。喋りはあるけれど,きちんとは喋らせない,という感じの。

4Gamer:
 ありがとうございます。首を長くして期待しておきます。

Jenova:
 話をしながらちょっと思ったんですが,一つ自分から質問してもいいですか。
 いまグローバルでゲーム業界には大きな変化が起きつつありますが,日本でも例外ではないのではと思っています。そこについての意見を聞きたいです。

4Gamer:
 ずっと業界を見てきて思うんですが,昨今は今まで以上にほかのエンタメの影響をもろに受けていると思います。ショート動画なんかが代表例ですが,とても短くて刺激的で完結したものが好まれているように感じます。あと,そういう動画に適した作品が好まれてますよね。いまでは当たり前ですが「配信を観るだけ」の人がいるというのは,業界にとってのかなりの変化点だったと思います。
 例えば……あなたが昔泣きながらやった「FF7」もそうですが,クリアまで40時間とか60時間とか,そういうのがある種ゲームの「売り」になってたわけですが,今は全然そんなことがなく,とても短いスパンでサクサクと進められるものが好まれている気はします。全体としても,コンソールもPCも,そしてインディーもですが,ボリュームはとても小さくなっていますね。
 遊びやすくなっているのでいいことでもありますが,一方でゲームのライバルが「ゲーム以外」になってしまった以上は,ツラい茨の道へと突き進んだだけのような気もします。

Jenova:
 その「70時間のゲームから5分,15分のゲームへ」というシフトは,日本の伝統的な開発者から起きるものでしょうか?

4Gamer:
 いやあ……そう簡単には変われないと思います。僕自身もそうだと自戒の念を込めて言うんですが,いままでやってきたことや,いままでの常識をバッサリ捨てて違うエリアに進める人は,そうそうたくさんはいないと思うんですよね。
 その代わりとはいってはなんですが,インディーを代表とする新しい開発者が次々と出てきて,今はたぶん二極化……いわゆる日本のお家芸である「超大作」系タイトルと,インディーの二つにスッパリ分かれてしまっているように感じます。真ん中がすっぽり抜けてる状態なんですよね今。

Jenova:
 なるほど,すごく分かります。
 僕らは実は,サードパーティ向けのパブリッシングも始めていて,世界中の革新的な新しいタイプのゲームを探しているところなんです。

4Gamer:
 ええ,BitSummitでその責任者と会いましたよ(笑)。

Jenova:
 あ,そうでしたか(笑)。
 もちろん日本も気になっている場所です。しかしその担当者から聞いた話では,アメリカでも中国でもヨーロッパでも,ゲームの学校がたくさんあり,学生は卒業時にはすでにゲームの“卒業制作”を持っていることが多いです。学校のプロジェクトを,商業プロジェクトに発展させようとするわけです。
 ヨーロッパの優れたインディーの多くは,ゲームの学校から出てきています。それで日本のゲーム教育も気になったんですが,聞いた話では,日本のゲーム学校の卒業生は,インディーとして独立するより「モンスターハンター」とか「ファイナルファンタジー」を作っている会社で働きたがる,と。これは本当なんですか? それとも例外的なケースを聞いただけなんでしょうか。

4Gamer:
 いや,私が知る限りでもその情報は正しいと思います。日本ではゲーム関係の学校を出ると,基本的にはメーカーに就職します。というか,したがりますし,させたがります。むしろ,ゲーム会社に就職するためにゲーム学校へ行く人も,結構いるんじゃないでしょうか。

Jenova:
 では,「天才」や「パンクロックな才能の子」はどこへ行くんでしょう?

4Gamer:
 ふふふ,なるほど。

Jenova:
 アメリカだと,僕が通ったハリウッドの映画学校は結構商業的で,卒業後は大手映画会社で働くのが前提でした。
 でもニューヨークの映画学校は「自分のインディー映画を作れ」「次のデヴィッド・リンチになれ」という気風でした。日本にはそういうゲーム学校はありますか? あるとして,それはどこにあるんでしょう?

「イレイザーヘッド」(1977)でデビューし,「ブルーベルベット」「ツイン・ピークス」「マルホランド・ドライブ」などで独自の映像表現を確立したデヴィッド・リンチ。ハリウッドの商業主義とは一線を画す映画家の象徴として知られている。画像は「デイヴィッド・リンチ・ワールド」より
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4Gamer:
 僕は……個人的には聞いたことないですね。あるのかもしれませんが。
 TGCが求めるようなイカした人達は,おそらく各種のインディーイベントにいるんじゃないでしょうか。またはネットの海のどこか。日本も昔からフリーウェアの文化が結構盛んなので,パソコンで小さなゲームを作っては世に出すカルチャーが,比較的根強く残ってる気がします。

※筆者が本当に不勉強で知らないだけかもしれないので,もしそういう学校があるならぜひご教示いただきたいです。取材させてください!

Jenova:
 なるほど。

4Gamer:
 「作りたい人は教えられなくても勝手に作る」という感じではないかと。いやむしろそれくらいの心意気とモチベーションがないと完成しないというか。彼らは作ることを教わるために学校に行くわけではないでしょうし,だからこそ,ゲームのイベントで見つけて支援するというのは結構有効じゃないかなぁ,と思います。
 しかしそのパブリッシングの話もそうだし,thatgamejamもそうですが,最近のTGCは開発者を育てる方向にも少し軸足を置きつつある気がするんです。それらが目指すもの,あるいはJenovaというクリエイターが新しい世代に受け継ぎたい価値観は,どんなものなんでしょうか。

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Jenova:
 Steamに出た,特にインディーの革新的なアイデアの多くは,ゲームの“メカニクス”を革新的なものにすることに情熱を注ぐ人たちから生まれています。「Balatro」のようなポーカーの再発明や,最近だと「めっちゃカメレオン」は,日本でも多くの人が遊んでいると思います。
 これらはゲームのインタラクティブなメカニクスの革新であり,新しい遊び方,新しい感覚をもたらすものだと思います。

4Gamer:
 はい,分かります。でもそれはTGCの目指すものとはちょっと違いますよねきっと。

Jenova:
 ええ。僕は,映画学校出身という背景もあって,インタラクティブメディアにおける“感情”と“物語(ストーリーテリング)”のイノベーションに,より関心があります。あらゆる人に語りかけ,インタラクティブ性を通じて人を動かす物語を語りたい。
 これは多数派ではなく,ゲームで自己表現をしたいという,ごく小さなニッチな開発者の集団です。インタラクティブ性で人の感情を動かすのは,とても稀なスキルです。だからこそ,そういう人たちを支え,互いを近づけてあげたい。将来,ゲーム業界はいま以上に大きく,ジャンルもフォーマットも多様になっていくので……。
 プレイヤーの心に触れること,表現に情熱を持つこと。それがより強力な芸術的表現だと感じます。新しいゲームプレイやアートスタイルの発明に反対しているわけではないけれど,僕は個人的に“感情”を描くゲームが好きなので,同じ関心を持つ人を支援したいんです。

一回目のthatgamejamでは,“thatgamecompany気質”のようなものを感じる「SOLACE」と,「Rusty Lake」にインスパイアされたという「GOD MODE」が同着1位を獲った
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4Gamer:
 すごくすっきり理解できますし,Jenovaらしくあり,TGCらしいと思います。
 僕もここ数年はインディーゲームをずっと注目して見ているんですが,あくまで個人的な意見として,ナラティブとかストーリーテリングの話になると,アジア圏全般……とくに日本の開発者はすごく優れていると思います。ぜひよく見てほしいです。

Jenova:
 もちろんです。
 でも……そうですね,まさに直近で手掛けたゴッホ(フィンセント・ファン・ゴッホ)のコラボがそうなんですが,感情的な物語を語ることは,必ずしもビデオゲームのビジネスにマッチするとは限りません。

4Gamer:
 まぁそうですね。

Jenova:
 テキストや映像,音楽だけで感情を語る“インタラクティブ・ノベル”のようなゲームもありますが,それはインタラクションが乏しく,物語を進める選択をするだけになりがちです。

4Gamer:
 なんならその「選択」さえ事実上なかったりしますしね。

Jenova:
 僕にとって最高のストーリーテリングは,ゲームプレイそのものが感情を動かすものです。もしそれに合致するゲームを作っている人を知っているなら,ぜひ話してみたい。
 ちょっとゴッホの話に戻しますが,今回のこの物語をもし単独のゲームとして作っていたら,たぶん大きいものにはならなかったと思います。でも幸い,僕らには「Sky」というコミュニティがあり,感情的な物語に関心を持つプレイヤーが高い密度で集まってくれています。だから,史上最も偉大な芸術家の一人を題材にしても,プレイヤーはちゃんと価値を感じ取ってくれる,という確信が持てました。
 アート的なゲームは,正しいビジネスモデルを見つけるのが本当に難しいんです。

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4Gamer:
 確かに「Sky」に内包したのはすごいです。最初に聞いたとき,「この手があったか!」と。

Jenova:
 「Sky」のオーディエンスがいて,彼らが特定のタイプのコンテンツを好むと分かっているから,スタジオとして大好きな芸術家をテーマにしたゲームに,かなりのリソースを投じることも正当化できます。
 もし僕がインディー開発者で,これを単独プロジェクトとして売り込んでいたら,誰も資金を出さなかったでしょう。保証されたオーディエンスがなく,制作コストも相対的に高いから。だから,このタイプのコンテンツを実際に作れて,商業的にも成り立つ,非常にユニークな環境に自分たちがいると気づきました。

4Gamer:
 ますます「Sky」のメタバース化が進んでいきますね。

Jenova:
 まだこれといった結論はありませんが,ただ,なぜ同じことを単独プロジェクトとしてできないのかが不思議でもあります。
 「Sky」の中では,AURORAのようなインディーアーティストの大規模コンサートを開けますが,彼女のために単独のゲームを作っても成功しないでしょう。「フォートナイト」のトラヴィス・スコットやアリアナ・グランデのコンサートでさえも,すでにある“プラットフォームの上”に築かれたからこそ成立しました。

2023年のAURORAのバーチャルコンサートでは,1万人以上のプレイヤーが同時に1つのスクリーン/共有スペースに参加し,「最も多くのユーザーが参加したコンサートがテーマの仮想空間」のギネス記録を達成した
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[2023/10/06 12:00]

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。ゴッホと似た話で言うなら,「星の王子さま」もそうですよね。

Jenova:
 ええ。「Sky」のコミュニティは,感情豊かなものを本当に好みます。だからパブリッシングを模索し,BitSummitにいる開発者と話したいのも,単独では作るのがリスキーすぎるプロジェクトでも,「Sky」のようなプラットフォーム,あるいは「Roblox」のような他のプラットフォームの上でなら,より低リスクでコンテンツとして出せるかもしれないからです。

4Gamer:
 あぁやはりそっちですよね。
 まさに「Roblox」じゃないけれど,以前ちょっとだけあなたに言ったように,「Sky」がメタバース化して,その結果としてそういうコンテンツの出し先のようになったらすごくいいな,とずっと思っていたんです。ただ世界観を大事にしているタイトルなので,実際には難しいだろうなぁ,とも思ってましたが。

Jenova:
 インディー開発者の皆さんはたぶん,自分の作品を多くのプラットフォームに載せたいと思うだろうし,それは僕らが支援すべきことだとも思います。でも「Sky」のコミュニティで本当に映えて,追加の収益をもたらすゲームがあれば,それは検討したい。
 最近“流通”についてよく考えます。若い頃,キャリアの前半は世界を単純に捉えていました。「本当に良いゲームを作れば成功する」と。でも今,年を重ねて振り返ると,“どのプラットフォーム/ネットワークに載せるか”が,方程式の半分だったのだと分かるようになりました。
 もし当時PlayStationというプラットフォームに拾われていなければ,僕らのゲームは今のようにはなっていなかった。開発者にとって「自分のゲームの流通は何か」「その流通は自分のゲームと噛み合っているか」が重要で,これは最近すごく考えていることです。

4Gamer:
 実質Steamしかない今では余計にそれは思いますね。
 なので「Sky」にはナラティブゲームのプラットフォームとして君臨してほしいです。コンサートもやったし,アニメも出したし。

Jenova:
 そうだといいんですが,僕らが“プラットフォーム”になれるとはまだ思いません。世界的に普及しているわけではないので。でも将来,あなたの言うような「Roblox的な何でもありの場所」であり,アート的なゲームのための流通ネットワークが,ゲーム業界における“ギャラリー”のような立ち位置で存在してほしい。
 「Roblox」は,僕からすると若い層向けの“フリーマーケット”に近いです。流通ネットワークは大きくシフトしていて,かつてはテレビや雑誌,PlayStationやXBOXのような各社のプラットフォームがメインストリームでしたけど,今はもっと分散化して,個人のゲーム会社やインフルエンサーの側にも降りてきています。

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4Gamer:
 じゃあ,今回のゴッホのような試みは「Sky」だからこそできることで,ほかの作品では見られないと思うので,まずはこういうものをこれからも続けてほしいです。ゴッホだけでなく,ほかのクラシックな題材のシリーズもほしいなぁ。

Jenova:
 あなたがゴッホを好きなら,次のものもきっと好きだと思いますよ。12月をお待ちください(笑)。

4Gamer:
 え,ヒントください! 絵? 音楽? それとも小説?

Jenova:
 食い下がりますね(笑)。
 はっきりとは言えませんが,今年の「Sky」は,皆さんに楽しんでいただける新しい体験をたくさん用意しています,とだけ言わせてください。

4Gamer:
 さすがに言えませんか……。今度は何をどのように表現するのか,とても気になります。

Jenova:
 ゴッホが終わったばかりで,今はもうチーム全体でそのプロジェクトに取り組んでいます。きっと驚いてもらえるコンテンツになると思います。

4Gamer:
 あなたが「驚くよ」と言うコンテンツは,本当にだいたい驚くので,12月をすごく期待しています。

Jenova:
 時間があれば,ぜひ今回のゴッホも試してみてください。一つの物語で90〜100分ほどで,本当に簡単に体験できるようにしました。なにしろアカウントを持っていなくても大丈夫です。

※というわけで記事掲載前に新規アカウントで試してみたが,本当にゲームスタート直後から体験できた
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4Gamer:
 あ,今回のはそんなにeasyなんですか。「育ったアカウントないしな……」って思ってました。

Jenova:
 「Sky」を新しくダウンロードして始めると,ゲームが始まった時点でそこはもう“ゴッホ”で,「Sky」ではありません。その体験をそのまま遊べます。

4Gamer:
 そこまでとは思いませんでした。

ゴッホの世界へより深く入り込めるポップアップイベントも,この夏に渋谷で開催される予定なのでぜひ
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Jenova:
 もし可能なら,今年だけでもアプリ名を「Van Gogh」に変えたかった。「いっそゲーム名も変えよう」とチームで話したほどです。この媒体を通じてゴッホの物語を体験してほしくて,物語ごと別のゲームにしてしまってもいい,と。ただAppleやGoogleはアプリ名の変更を許してくれないので,できなかったですけど……。
 それでもSkyが“ゴッホに乗っ取られた”ような形にしたのは,彼への一種のオマージュです。世界に多くのファンがいますが,彼を体験したい人の邪魔はしたくない。だから自信を持って言えます。7月17日以降,7月か8月のどこかで,90分ほどの時間があれば,ぜひ「Sky」を開いてゴッホ体験を試してみてほしいです。

4Gamer:
 そんなに好きだったんですねえ。

Jenova:
 ええ,プレイするたびに泣いてしまいます。

4Gamer:
 ゴッホにおいて,ヨハンナ(テオの妻)は20年ほどかけてゴッホを美術館に広げていったわけじゃないですか。ゲームがアートであることを世間に広めるために20年戦っているあなたが,20周年の年にゴッホをやるというのは,偶然ですか,それとも意図的ですか。

Jenova:
 相変わらず……面白い視点ですね(笑)。違うインタビューのときに,ぜひ使わせてもらいます。
 ゴッホの物語をずいぶん研究しました。ヨハンナは15年かけて480点超の絵画を,最初のアムステルダムの展覧会にこぎつけ,さらに10年かけて手紙をすべて翻訳し,本にまとめた。なので正確には,合わせて25年かけて“ゴッホ”という名前を世に出しました。だから「20年」というのは,だいたいの数字ですね。

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記事冒頭で登場した「黄色い家」がSkyの中に
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4Gamer:
 あ,適当ですみません(笑)。でもゴッホの中身について一個だけ気になっているのが,“手紙”が重要なファクターになっているということです。他メディアの記事で読みました。
 それを読んで,2年前にあなたと話した「Skyのユーザー1人あたりのメッセージは1日45通」という話を思い出したんです。文字コミュニケーションを排除したはずのゲームに,確実に文字の波が押し寄せてきているのは,複雑な気分というか……嫌というわけではないけれど,変わってきているのかな,という気持ちです。

Jenova:
 僕らは過去の作品でも,強力なボイスのパイプラインを築いてきませんでした。アニメーションでもボイスは最小限でした。
 そしてゴッホの物語を説明するには,二つの選択肢がありました。ボイスアクターに状況を語らせるか,プレイヤーにテキストを読ませるか。インディー開発者としては,コストの低い方を選ぶというわけです(笑)。

4Gamer:
 なるほど。そんな理由だったとは(笑)。

Jenova:
 まぁあと,その手紙は1890年に書かれたので,文法も話し方も,今のメッセージのやりとりとはまるで違います。最初にオリジナルの引用をそのまま使ったら,社内の人間も読むのが難しかったので,より多くの人が読みやすいように“再翻訳”しました。
 100年余りで,人の話し方がこれほど変わるのか,と面白く感じました。僕自身,ゴッホの手紙を原文のまま読み通す忍耐はないと思います(笑)。

4Gamer:
 大体1890年とかですよね。うーん,日本は明治時代か。確かに明治時代の書簡とか書物は,ホイホイとは読めない気がします。
 でもあなたは常々,「ゲームには,大人が楽しめる知的な刺激が必要だ」と言ってますよね。これはその一つの回答になり得るんじゃないですか?

Jenova:
 ええ,そう願っています。今回はゲームの難度を本当に下げて,フィンセント・ファン・ゴッホという題材に興味を持った大人が,自分の体験を通じて味わえるようにしたし,ゲームの操作で行き詰まらないよう,多くのアシストも入れました。
 あくまでも期待ですが,子どもたちにも遊んでほしいし,子どもがプレイして親に教える,ということも起きるかもしれない。

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4Gamer:
 あなた自身がどこかで「言葉解禁」みたいな言葉で表現していましたが,「Sky」にとって一つの大きな節目になるアップデートな気がしますね。
 しかし今までの“無言語主義”のようなものは,いつ頃から,どんな理由で少しずつ揺らぎ始めたんですか。アニメもナレーションが入ったりして,ちょっと意外でしたし。

Jenova:
 あのアニメーション映画は,非常に大きなチャレンジでしたね。
 40分の短編を,最初は言葉もボイスもなしで,ただ読んで観る,完全にミュートのアニメーションとして試したんです。すると子どもたちがみんな眠ってしまった(笑)。


4Gamer:
 むしろ可愛い(笑)。

Jenova:
 人は皆それぞれで,僕のように視覚刺激で楽しめてサイレント映画も観ていられる人もいれば,感覚の焦点が聴覚にある人もいます。映像に声が組み合わさると,確実に観客の注意を引きつけられるので,90分を超える映画を完成させようとしたとき,映像と音楽だけで全年齢の観客を90分惹きつけるのは非常に難しいと,はっきり分かったんです。
 だからダイアログに選択的にボイスを入れました。“これが良い”というよりは,“みんなに寝ないで起きていてほしい”という勢いで入れたといってもいいでしょう(笑)。

4Gamer:
 そんな理由だったんですね。
 ……というか実は予定時間を30分過ぎているんですが,まだ大丈夫ですか? あといくつか聞きたくて。

Jenova:
 もう少しなら大丈夫ですよ。僕らが話す機会はとても珍しいので,お時間をいただけて本当に感謝しています。

4Gamer:
 こちらこそいつも感謝です。
 最後に会ってから2年経ちますが,この2年で一番変わったのはやはりAIだと思うんです。AIについてのあなたの姿勢を,ぜひ聞いておきたい。

Jenova:
 なるほどAIの話題でしたか。
 そうですね……1年半……16か月ほど前までは,AIは僕らのビジネスに大きな脅威にはならないと思っていました。僕らはイノベーターであろうとしているわけで,今までの何かを模倣しようとはしていません。だからAIが既存のものを素早く焼き直したとしても,あまり役に立たないんです。
 でも最近Fable 5を見てから,正直に言って本当の脅威を感じ始めました。


4Gamer:
 「どういう脅威」を一番感じます?

Jenova:
 AIが映画制作者の仕事を奪うとは思いませんし,実際まだできません。
 しかしAIが実際にやったことは,“低予算・短尺の動画”という新しいカテゴリーを生み,観客の時間を奪い去ったことです。映画館と直接競合したわけではないけれど,本来なら映画を観に行っていた人の時間を確実に奪っています。

4Gamer:
 あぁその表現はすごく適切な気がします。ゲームも似たような感じになりそうですし。

Jenova:
 今や人は,ショート動画で満足してしまいます。「Fable 5」で見たのは,子どもがAIに「レッド・デッド・リデンプション2のようなゲームを作り直して」と頼んだり,「Temple Run」を作らせてキャラクターをクラスメートに差し替えてからかったりできることです。そしてクラスの仲間が,そのコードを引き継いで改造を重ねます。
 これが新しいエンタメの形になり,将来的なプレイヤーが「丁寧に手作りされたプレミアムなゲーム」に費やす時間を確実に奪っていきます。だから僕は,会社とか自分とか作品とかではなく,むしろ未来の世界を心配しています。

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[2026/07/07 16:52]

4Gamer:
 いまあるゲーム業界に,さらに大きな変動が生じることは間違いないですね。

Jenova:
 ええ。TikTokは,ハリウッドの監督を直接倒してはいないけれど,ハリウッドの市場シェアは大幅に下がっていますし,その衰退は肌で感じられます。
 プレイヤーによるMOD,AIベースのプレイヤーMODが市場にあふれれば,僕らが知っているコンソールゲームやAAAゲーム産業も,将来同じように衰退するのではないかと心配しています。

4Gamer:
 生成AIは現時点でさえ相当使えるレベルになってますし,Steamに上がるゲームの本数は爆発的に増えましたし,さらに加速度的に増えています。あなたの懸念は,近い将来そのまま現実になる気がしますね……。

Jenova:
 もちろん品質の面では,AI量産ゲームはまだ僕らと競争できないと確信しています。ただ,将来自分が“恐竜”のような存在になるのではないか,とは思っています。
 手描きのシェーディングでいえば,スタジオジブリは今も人気だけれど,最近そういうアニメを作る人はもうあまりいません。ジブリが続けられるのは,ストーリーテリングとアートディレクションがワールドクラスだからです。でもそのワールドクラスのセンスを持たないところは,みんな3Dアニメへ,そして最近はAI生成アニメへとシフトしています。
 手作りのゲームは,未来の“ジブリ”のようになるのではないか,過去の遺物として,作り手が年老いて亡くなるまでかろうじて残るだけなのではないかと心配しています。

モノクロで登場する名画を,自分達で「塗る」ことになる。ちょっと斬新
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4Gamer:
 正直なところ,いまの段階では強く否定しづらいですね。

Jenova:
 この話になると,少し感情的に,悲観的になってしまうんですが,このプロセスは,もう少しゆっくり進んでほしいと思っています。

4Gamer:
 まったくです。僕は比較的テクノロジージャンキーだしポジティブで,AIそのものは大好きですが,もしかして近い将来にストーリーテリングの部分まで全部生成AIで作れるようになると,それはそれであんまり楽しくない未来だな,とも思います。
 ジブリも,そしてあなたも,レベルは全然違いますが僕らのような物を書く仕事も,この生成AIの時代に,“ハンドクラフト組”としてユーザーに何を証明すればいいのかは,すごく悩みますね。

Jenova:
 AI生成の動画を例にとると,2年前はすべて“不気味の谷”でした。1年ほど前も,見栄えの良いAI動画は少なかった。
 それが今年になって急に,非常によく“演出された”AI動画が見られるようになりました。「これはAIだ」と気づかせる要素がとても少なく,AIかどうかさえ気にならないほど楽しめてしまうのが正直なところで,それが怖い部分です。

4Gamer:
 ユーザーにとっては,生成AIで作ろうがハンドクラフトで作ろうが,そこはどうでもよくなると思うんですよね。悲しいことですが。数年前の時点ですでに絵画で賞をもらってるわけで,近い将来は間違いなくそうなると思います。
 そうなると,我々は作るものに対して何か強い証明をしなければならないわけですが,それはどうすればいいのか,答えはまったく分かりません。でもこの先,すごく悩まなければいけない問題だとは思います。

AIで制作した「Theatre D’opera Spatial」/Courtesy Jason M. Allen(CNN
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Jenova:
 AI動画の背後の監督が,AIを演出するのに同等の労力を注げば,その作品は僕の心に響きます。
 でもそれがAI製だと分かったら,僕はお金を払いたくないですね。そこが一番の違いです。芸術としては評価しますが,お金は払いたくない。

4Gamer:
 うん,分かります。分かりますが……時代は,そして世間は,思ったより速く動いてしまうのでは,という危惧はあります。
 いや湿っぽいので,ちょっとだけポジティブにいきましょう。AI技術の進歩は,thatgamecompanyの“遊びの形”に,この後何か影響しますか。

Jenova:
 じゃあ社内のポリシーの話をしましょう。これは,固まるまで時間がかかりました。
 多くのアーティストは,仕事を奪われることを恐れてAIに強く反対していました。でも議論を重ねて,こう合意しました。“人間のオーセンティシティ(authenticity)”が必要な領域……たとえばプレイヤーの動き方の設計などは,科学というより“クラフト”です。俊敏に動くのか,ゆっくり動くのか,そこには人間の正しさが必要なので,AIのコードには頼らず,手作業でやります。
 一方で,QAテストやデバッグのようなツール系,キャラクターをあらゆる隅に走らせて床をすり抜けないか確かめる,みたいな作業は,大規模言語モデルを使って強力に効率的にします。ツールがAI製かどうかはクリエイターは気にしませんが,“真正な判断”がAIによって下されたかどうかは気にします。それが僕らのアプローチです。

4Gamer:
 まぁデバッグこそAIの得意分野ですよね。

Jenova:
 たとえばゴッホでは,兄弟(ゴッホとテオ)の間に1000通あまりの手紙があります。これを全部読む時間はないので,AIに「こういう要素を含む手紙を見つけて」と頼めば,ハイライトしたい手紙をすぐ探し出せます。これが昔なら,インターンを雇って全部読ませて選ばせましたが,今はAIがはるかに速く安くやってくれます。

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4Gamer:
 でもそういう作業だと,まだハルシネーション起こしませんか。

Jenova:
 もちろん起こします。例えば手紙の引用をAIに出させたら,60%は原文にはない“でっち上げ”でした(笑)。
 だからAIを使うときは,本当に慎重に見極めなければならないです。現時点のAIを全面的に信頼するのは難しいかもしれません。

4Gamer:
 いろいろありがとうございます。ゲーム関係の人がAIについて話すのは,少なくとも日本では「大変なタブー」みたいに扱われているので,そういう話題にもキチンと答えてもらえて,本当に嬉しいです。
 さて……今日はただでさえ無理いって時間をもらっているのに,もう3時間近くです。なのでこれを最後の質問にします。「Sky」に“最後のシーズン”が来るとしたら,どんな風に終わらせようと思っていますか?

Jenova:
 あぁ……きれいな幕引きと,新しい何かの始まり,ですかね。
 「FFXIV」も最初のリリースがうまくいかず,一度“世界を破壊して”終わらせて,それが大きな祝祭になりましたよね。僕も,もし何らかの理由で世界に終わりが来るなら,それは“パーティーの時間”だと思っています。みんなで一緒にいるから,その感情を讃えるような何かをやると思いますね。
 現実でも同じでしょう? 明日,太陽が超新星爆発を起こして地球が終わると分かったら,僕らはどうするか。きっと,みんな結束して,共に過ごす機会を作ると思います。現実世界とそう変わらないと思います。

旧FFXIVの最後の日,街中にあふれ出したモンスター達。襲撃イベントがリアルタイムで進行していき,世界の終わりが描かれた
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古くは「ウルティマ オンライン」のβテストが終わるときも,デーモンとヘルハウンドが大量に攻めてきて世界が終わったものだ
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4Gamer:
 あなたが「Sky」をどう捉えているかが,すごくよく分かる,うれしい回答でした。
 長い時間本当にありがとうございます。

Jenova:
 お話できて本当に良かったです。
 でもまだあなたにディナーを奢る約束を果たせていないので,次はどこで会うにせよ,ぜひ(笑)。

4Gamer:
 いつでも呼んでください!

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―――2026年7月7日収録
  • 関連タイトル:

    Sky 星を紡ぐ子どもたち

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