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戦国【完全日本語版】公式サイトへ
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Paradox Interactive「戦国」のレビューを掲載。海外デベロッパが制作した日本の戦国モノに,「戦国のにおい」は感じられるか
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印刷2012/03/24 00:00

レビュー

Paradox Interactiveの戦国ゲームは,果たして「戦国のにおい」を醸し出しているか

戦国【完全日本語版】

Text by 山室 良


 硬派なストラテジーを作り続けるParadox Interacitveの「戦国」は,同社がついに日本史をテーマにしたことで注目を集めた作品だ。それだけに,サイバーフロントから2012年1月27日に発売された完全日本語版を待ちわびていたプレイヤーも多いはず。以前から興味があったが,英語ということで抵抗があった人も,これでプレイしやすくなるはずだ。

画像集#001のサムネイル/Paradox Interactive「戦国」のレビューを掲載。海外デベロッパが制作した日本の戦国モノに,「戦国のにおい」は感じられるか

 その一方,日本史を扱ったゲームを海外デベロッパが制作したこと,しかも,メインテーマが日本で一大ゲームジャンルを確立している「戦国モノ」であることで,その出来を不安に思っている人もいるだろう。

 先に結論めいたことを言ってしまえば,本作を,日本でなじみ深い戦国ストラテジーの一つだと思ってプレイすると,その特殊性に困惑するだろう。従来の国産戦国ゲームを遊んだ経験は,本作では役に立たないのだ。

 このレビューでは既存の戦国ストラテジーと比較しつつ,本作がどのようなゲームであるのかについて説明し,さらに戦国ゲームに求められるものについてもちょっと考えてみたいと思っている。では,さっそく始めてみよう。

「戦国【完全日本語版】」公式サイト

「Sengoku」英語公式サイト



「応仁の乱」がスタート地点


 従来の戦国ゲームと本作の明らかな相違点,それは,我々のよく知る16世紀後半ではなく,その約100年前にあたる1467年5月26日,応仁の乱の抗争が激化した時点からゲームが始まることだ。
 ゲーム発売後,16世紀後半の勢力を使って遊びたいというユーザーの要望を受ける形で,織田信長が家督を継承した直後の1551年4月9日開始のシナリオが追加されているが,開発者が本来想定したゲームバランスは応仁の乱をスタート地点にしたものであることは,理解しておく必要がある。

画像集#002のサムネイル/Paradox Interactive「戦国」のレビューを掲載。海外デベロッパが制作した日本の戦国モノに,「戦国のにおい」は感じられるか
室町幕府8代将軍 足利義政のキャラクターウィンドウ。ローマ字のYoshimasa of Ashikagaではなく漢字を使って名前が表示されているのはやはり嬉しい
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領主間の書簡では,このように候文が使われている。このようなちょっとしたこだわりも,日本語版のいいところだ

 知名度の高い武将がひしめく戦国後期ではなく,日本でもマイナーな応仁の乱にスタート地点に置くことは,(とくに日本でのセールスを考えた場合)思い切った冒険にも思えるが,本作がテーマとしているのは「クルセイダー キングス」シリーズと同じく,世代交代を繰り返していくさまざまな登場人物が織り成す一族の興亡劇だ。そのため,後の時代の端緒ともいうべき応仁の乱が基点になっているわけだ。

画像集#004のサムネイル/Paradox Interactive「戦国」のレビューを掲載。海外デベロッパが制作した日本の戦国モノに,「戦国のにおい」は感じられるか
応仁の乱シナリオ(1467)では,細川氏と山名氏の対立が楽しめる。どちらが勝ってもおかしくないバランスに設定されているので,プレイするごとに違った展開になるだろう
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一方の信長の台頭シナリオ(1551)では,我々がよく知る勢力が多数登場する。1467年シナリオと見比べれば,応仁の乱以後100年で勢力分布がいかに大きく変化したかが理解できる

 安土桃山時代に比べると,戦国時代の初期を伝える資料は多くないが,登場人物や勢力に関するリサーチはさすがにParadoxのゲームらしく(筆者が調べた範囲で)非常に正確であり,将軍や守護大名などの幕府中枢を占める家門だけでなく,彼らに仕える国人勢力や小大名達も忠実に再現されている。
 これら,ゲームに登場する勢力は(一向一揆などの反乱勢力を除いて),すべてプレイヤー勢力として選択可能であり,守護大名に従属する国人勢力,例えば織田家や三好家を選んで史実どおりに下克上を目指すもよし,反対に守護大名として自家の衰退を防ぐもよしと,幅広いプレイスタイルが楽しめる。

画像集#006のサムネイル/Paradox Interactive「戦国」のレビューを掲載。海外デベロッパが制作した日本の戦国モノに,「戦国のにおい」は感じられるか
毛利氏,浅井氏,長曾我部氏,竜造寺氏など,一介の国人から戦国大名にまでのしあがった氏族は,ほぼ全て1467年シナリオにも登場している
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もっとも,松平氏や写真の朝倉氏のように,スタート時に敵との最前線に位置しているため,あっという間に歴史から消え去ってしまう勢力も存在する。こうした氏族を繁栄させていくには,かなりの運が必要だろう

 これらの勢力がしのぎを削ることになるマップには,史実に基づいて郡が配置されており,京を中心にした近畿地方の区割りがほかに比べて密になっているなど,当時の人口密度や経済上の重要性を踏まえて作られている。
 
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関東や北九州など,地方にもいくつか豊かなところはあるものの,近畿圏にはやはり勝てない。このため,ゲームクリアの条件である「日本全土の50%以上のプロヴィンスを支配する」ためには,どうしても京周辺に進出せざるを得なくなる。このあたりも,史実を反映したデザインといえるだろう
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シビアなゲームバランスはParadoxならでは
お家騒動,内乱,陰謀劇満載の戦国時代へようこそ!


 詳しいリサーチに加えて,戦国における歴史再現性の核となっているのが,封建社会の重層的な主従関係を体現する三種類の領主,すなわり「氏族長」「大名」,そして「国人」の存在だ。

 この「大名家」という組織を多層的に表現する試みは,「クルセイダー キングス」シリーズでも同じ構造になっており,同作に触れたことのある人にとっては新しいものではないはずだ。
 本作ならではの部分として筆者がとくに面白いと感じたのは,氏族内部の対立に焦点を当てたアプローチだ。本作では「クルセイダー キングス」シリーズに比べて後継者争いや有力な家臣の反乱が頻繁に発生し,戦国時代初期によく見られた名門守護大名家の没落をうまく再現できる。

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応仁の乱シナリオでは,畠山氏や斯波氏の内部対立が再現されている
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ゲームが進むにつれて,ほかの大名家でもお家騒動が頻発する。中国地方の雄である大内氏も,陶氏や分家勢力との抗争に悩まされるのだ

 一例として,応仁の乱シナリオの関東管領上杉氏を挙げよう。
 ゲームにおける上杉氏は東日本最大規模の勢力であり,小大名が多い関東近辺には対抗勢力と呼べるものが存在しない。だが,そんな反則的な強さを誇る上杉氏の内部はといえば,いくつかの分家や堀越公方足利氏,さらには,のちに上杉謙信を生み出すことになる長尾氏などの有力大名家の割拠状態で,ひとたび上杉宗家と家臣との軍事的なバランスが崩れると,彼らは史実の如く主君に戦いを挑んでくるはずだ。

 また,氏族長の座をめぐるお家騒動(日本語版では「内乱」)の表現方法も興味深い。本作のお家騒動は,Aという勢力が単純にB,C,Dという小勢力に分裂するのではなく,「勢力Aの内部でリーダーシップをかけて戦う争い」となっている。このため,現当主と対立候補,どちらが勝ったとしても,本来の家門は存続していくのだ。このシステムも本作ならではであり,「クルセイダー キングス」シリーズにおける「称号争い」のルールを戦国向けにうまくアレンジしていると感じられる。

 ちなみに,このお家騒動や家臣による反乱のゲームバランスは実にシビアで,戦国時代にありがちな「一族内部でお家騒動が起こり,それによって弱体化した大名家から有力家臣が独立する」という負のスパイラルが,大勢力であっても,いや,人間関係の管理が困難な大勢力だからこそ,十分に起こりうる。
 多くの戦国ゲームが,大名勢力を当主独裁型の組織として表現する傾向にある中,当時の大名家の不安定さを,忠誠度という安易なパラメーターを使わずに再現しようとする試みは,特筆すべきだろう。

(左)関東の西側半分を支配する関東管領上杉氏。従来の戦国ゲームであれば,このまま上杉氏が周囲の小大名を併合していくだけになるところだ。(右)だが,そのような大勢力には敵もつきもの。プレイヤーの「企み」に乗ってくる周辺勢力や上杉氏家臣も多い。
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 氏族内部の人間関係だけでなく,勢力間の外交にも本作はこだわっている。代表的なのは,一般的なストラテジーにある「同盟」が存在しない点だ。
 ただし,同盟に相当するアクション自体は存在しており,例えば相互に戦いを避けたいときには5年間の期限付きで人質を交換して不戦を誓うことができる。また,ある特定の大名家を攻撃したいときには,史実で織田信長に対して足利義昭が企んだように,周辺勢力と共同でライバルを同時攻撃することが可能だ(ゲーム内の用語では「企み」と呼ばれる)。
 このシステムは,同盟に比べて面倒に思えるが,ストラテジーゲームにありがちな「守るも攻めるも一蓮托生」の半永久的な攻守同盟より,本作の日和見主義的な連合のほうが戦国時代の実情を反映しているように思えるし,長年の調略の結果完成させた包囲網によって自分より強大な敵を滅ぼしたときの達成感は,本作でしか味わえないといっていい。ちなみに,Paradoxの開発副社長Johan Andersson氏が以前のインタビューで言及していた「天下分け目の戦い」とは,この「企み」システムのことを指しているのだろう。

画像集#016のサムネイル/Paradox Interactive「戦国」のレビューを掲載。海外デベロッパが制作した日本の戦国モノに,「戦国のにおい」は感じられるか
一度企みが発動すれば,このように勢力図が大きく変わってしまう。このダイナミズムは本作の大きな特徴で,マルチプレイで遊んでも楽しいだろう
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上杉氏戦役後の東日本。上杉氏は越後に細々と所領を保つのみだが,関東の覇者となった佐竹氏も油断は禁物だ。今度は彼らが,包囲網の対象となるのだから

 付け加えれば,頻繁に発生する下克上やお家騒動,そして独特の同盟システムによって,本作では戦国ゲームにありがちな「一度巨大化した勢力がそのまま雪だるま式に全国を併呑する」という現象は起こりづらくなっている。
 本作では日本全国の1割強を支配する大大名は各地に出現するが,そのような勢力に対してはAIも積極的に「企み」を仕掛けてくるため,各地で足の引っ張り合いが勃発することになる。ゲームの勝利条件が日本の完全制覇ではなく,「5割以上の支配」であることも手伝って,本作では中盤から終盤にかけての中だるみをうまく回避できている。


海外のデベロッパだからこそ演出できた
「戦国時代のにおい」


 ここまで述べてきたように,本作は海外で制作されたとは思えないくらい“真面目に作られた日本史モノのゲーム”であり,その出来は同じParadoxの人気作である「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」などと比べても遜色ない。
 また,日本を舞台にした海外産の作品にありがちのステレオタイプな日本の姿は,本作からはそれほど見えてこない。ゲイシャ,ハラキリ,ニンジャなど,外国人から見た日本的なタームは,本作でも漏れなく登場するものの,それらは開発者側が明らかに意識して盛り込んだもので,ゲームシステムとして無理がないよう,そして歴史的に見ても納得のいく形で存在しているのだ。そのため,プレイするうえでこうしたステレオタイプの日本が必要以上に目立つことはない。

忍者コマンドでは,さまざまなミッションを選んで謀略をしかけることができる。一般のストラテジーゲームではスパイに相当するアクションだ
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 グラフィックスやインタフェースについては,肖像画が日本人というより無国籍な「東アジア人顔」とでもいうべき顔立ちだったり,一部のインターフェースのグラフィックスが中国,あるいは江戸時代中後期と混同していたりするなど,惜しい部分が各所に見られる。
 しかし,それらはプレイの本質に直接関わってくる部分ではなく「ここが変だよ戦国時代」的な要素は,全体として「ご愛嬌」で済むレベルに抑えられている。

遊郭(ゲイシャ)が最高レベルの建築物なのは,おそらく開発者のジョークなのだろう
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 これらの表層的な部分を除いて,筆者が興味深いと感じたのは,史実武将に対する扱いが,国産の戦国ゲームとは大きく異なるということだ。戦国時代をテーマにした国産ゲームの大部分は,史実の武将達をいかに魅力的に表現するかという点を念頭に置いて作られた「まず武将ありき」の作品といっていい。
 「信長の野望」シリーズのように,それぞれの武将が立ち絵と詳細なデータを持っているタイプの作品はいうまでもなく,「天下統一」シリーズのように過度のキャラクター描写を廃したストイックな作品に見えるものであっても,ゲーム展開が歴史上実在した武将の質と量に大きく左右される点で,史実武将のキャラクター性に基づいたゲームシステムとなっている。

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従来の戦国ゲーム以上に宗教政策にもこだわって作られている。このあたりもヨーロッパならではの視点ではないだろうか
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もちろん,一向一揆も登場する。彼らに対抗するには,こちらも大大名になっていないと厳しい
 このような作品をプレイする際の醍醐味は,史実で活躍した,あるいは活躍できなかった武将を自らの手元に集め,内政や戦闘といったギミックを通じてゲーム世界の中で動かすことなのだと筆者は考える。
 話を広げれば,このような傾向は何もゲームだけに限った話ではない。
 「信長公記」のような伝記から「織田信長に学ぶ経営戦略」のようなハウツー本まで,江戸時代以降,今日に至るまで戦国時代の人気は「武将そのもの」に支えられてきたといっていいだろう。キャラクターゲーム化が著しく進む昨今の戦国ゲームも,そうした伝統の延長線上に位置づけられる。

 だが,そうした史実武将ありきの歴史観,あるいはゲームに対するスタンスは,スウェーデンのゲーム会社が開発した本作にはほとんど影響を与えていない。

 そもそも応仁の乱という,有名戦国武将がほとんど登場しない時代をゲームの開始時点に選んでいる段階で,ゲームを作るにあたっての開発者側の意図が,史実武将をいかに活躍させるかよりも,戦国時代における既存秩序の崩壊と再編をゲームとしていかに表現するかという点に置かれているのは明らかだ。

1467年シナリオにおいて,かろうじて戦国武将といえるのは,北条早雲(ゲーム中では伊勢新九郎)くらい
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 システム的にみても,150年にわたってキャラクターが代替わりしていく本作では,ゲーム開始時点に存在している史実武将の役割は限定的なものにならざるをえない。ゲーム開始以降に生まれるキャラクターは全てランダム生成されるため,1467年からゲームを始めた場合,16世紀になったからといって織田信長や武田信玄らが必ず登場するわけではないのだ。

史実武将の影が薄いとはいえ,武将が個性化されていないというわけではない。例えば,苛烈な政治を布いたことで知られる6代将軍足利義教は「稀代の軍略家」「気まぐれ」「短気」「無慈悲」の特性を持つ
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 また,ゲームに登場するキャラクター達の没年も史実に従っていないので,例えば1551年シナリオで,織田信長が家督継承直後に病没したり,逆に上杉謙信が1600年代まで生き延びたりすることも起き得る。
 キャラクターは史実どおりに生まれ死んでいくことがこれまでの戦国ゲームの大前提であったことを考えれば,このゲームデザインがいかに特殊か分かってもらえるのではないだろうか。
 逆に言えば,「ゲーム展開が史実とまったく違うのに,武将のみが史実どおりの人生(生没年や能力値を含めて)を送るのはおかしいのではないか?」という問いに正面から向き合ったのが本作であり,この姿勢の中に,他のParadoxタイトルとも共通する「残酷なリアリズム」を見ることも可能だ。

戦国では,イベントによって武将の能力値は頻繁に上下し,上杉謙信に強欲の特性がついたりすることもある。これらのイベントの「行間」を想像することも,本作を楽しむうえで重要だ
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 こうした史実武将の扱いをどう捉えるかで,戦国ゲームとしての本作の評価は大きく変わってくるだろう。というのも,従来の国産戦国ゲームにおいては,(ときに極端なほど)個性化された史実武将たちこそが,先にも述べたようにゲームの面白さの核となっていたからだ。ゲーム中における戦国という時代のリアリティ,言い換えれば“戦国のにおい”を体現していたのが彼ら史実武将のキャラクター性であった。


まず史実武将ありき,とは一線を画するゲーム性


 この戦国時代のにおいを感じ取れるかどうかは,ある作品が戦国のゲームかどうかを判断する基準であると筆者は考えている。史実武将の存在感に頼らず,さらには「トータルウォー:ショーグン2」のように精緻なグラフィックスに基づいたリアルな合戦シーン(これも戦国時代の雰囲気を演出するうえで重要だ)を追求しているわけでもない本作は,果たして戦国時代のにおいを醸し出しているのだろうか?

歴史上のキャラクターデータは,基本的に領主とその後継者のみに留まっている。それぞれの家の個性を出すためにも,室町幕府初期くらいまでの先祖データは欲しかったところだ
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 結論から言えば,そのにおいは十分に感じとることができると思う。当時の諸勢力の興亡を独自のゲームシステムで再現していること,また,戦国モノのストラテジーを語るうえではなくてはならない「領土を拡大していくシンプルな面白さ」(最近は,グラフィックスの進化によってあまり注目されなくなりつつある要素だ)に対してもしっかりと目を向けていることがその理由だ。有名武将に過度に頼ることなく,大名家や戦国時代の内包する不安定さ,気の抜けなさ,ダイナミズムを表現し,ゲームとして成立させているのは,まさに海外メーカー,というかParadoxならではの視点といえるのではないだろうか。

 もっとも本作は,「ヴィクトリア2」「Crusader Kings II」という大作の谷間の時期に制作されているだけに,いささか詰めが甘い部分があるのも確かだ。とくに,家系図を用いた一族の表現や,イベントについては不満が残る。
 数世紀にわたる先祖のデータを盛り込んだCrusader Kings IIとは違い,戦国ではそれぞれの家系の先祖がほとんど入力されていないし,ゲーム中に発生するイベントにしても,日本史の文献を読み込んだであろう開発者の努力はうかがえるものの,戦国時代を彩るさまざまなエピソードを知る日本人の目からすれば,プレイヤーの想像力をフルに喚起するには質量ともに十分とはいえない。

「漆にかぶれた!」などというイベントは日本人では到底思いつかないだろう。また,鍋島藩の騒動に基づいていると思われる化け猫イベントなどもあり,開発者がいったいどこでこんなエピソードを知ったのか,とても気になる
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 とはいえ,これはあくまでParadoxのほかの人気作に比べての話であり,作品それ自体が興味深いものに仕上がっているのは間違いない。余談だが,この興味深さは,PCのスペック向上と並行してゲームシステム上のさまざまな試行錯誤が行われていた1990年代の,いい意味で風変わりな戦国ゲーム(例えばアートディンクの「関ヶ原」)に相通じるものがあるように思う。
 国産の戦国ゲームファンにとっては,本作の持つ視点の微妙な違いが面白いものに映るだろうし,戦国にあまり詳しくないストラテジーファンでも,武将達の興亡を純粋に楽しめるはずだ。Pradoxが挑んだ日本の戦国ゲーム,興味のある人はぜひ試してほしい。

「戦国【完全日本語版】」公式サイト

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