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| 「BitSummit PUNCH」のPYGMY STUDIOブース |
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| 左から,ラショウ氏の作品「落ち本拾い」「インタラクティブ デスティニー」「ロゼッタ洗顔ストーン」 |
このブースを手がけたのは,いうまでもなくPYGMY STUDIOのラショウ氏だ。1人で軍勢を率いて敵陣へ攻め込む「ボコスカウォーズ」,弁当屋として新メニューを考えたり,ライバル店を妨害したりする「弁当の素晴らしさをあの2度3度」,厳しい自然をすぐ死ぬ捨て犬となって生き抜く「野犬のロデム」といった個性的なゲームを制作し続ける,ゲームクリエイターにして現代美術家,浄瑠璃まで手がけるマルチな人物である。
これまでにもBitSummitにはユニークな作品を出展し,「ボコスカチェス」(関連記事)ではアナログとデジタルの境を曖昧なものとし,「ボコスカード」(関連記事)においては意図的に運の要素を取り入れ,対戦者が互いにゲームを面白くするエンターテイナー性を引き出すといった取り組みを進めている。
今回の出展も,アート作品や,ルールがない「図書館チェス(LIBRARIAN CHESS) 司書補リンリとリョクコ」の参考展示(つまり,プレイアブルでもなく,販売もされていない)と実に型破りだ。
今回は「図書館チェス」や最新作「ボコスカ グラヴィティ(BOKOSUKA GRAVITY)」の構想,現代アートならぬ「現代ゲーム」という新たな思想などのお話を聞いた。
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4Gamer:
よろしくお願いします。美術館のような空間で驚きました。なぜこういった出展をされたのでしょうか。
ラショウ氏:
近年はインディーゲームも多様化しており,ユーザーさんがゲームを見る目も育ってきていると感じられます。そうした状況なので,こうした展示もいいのではないかと思いました。
4Gamer:
「図書館チェス」について教えてください。盤面に本棚や本,カウンターなどが並んでいて,一見しただけではルールが想像できない感じです。
ラショウ氏:
ルールは2人が話し合って決めます。言い換えれば「美が勝利条件のチェス」です。
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4Gamer:
確かに,ボードゲームにはプレイヤーのコミュニケーションという側面もあり,話し合いでその場限りの裁定がされることも多いです。それにしても,ルールがないというのはかなり思い切った試みですね。
ラショウ氏:
前作の「ボコスカチェス」では“旅先の特急列車に乗って,向かい合わせの席でトランプをやるような感じで楽しめる”というゲームを目指しました。制作を通じて「どちらかが勝利することが目的ではなく,ある程度楽しく過ごすことが目的だった」ということに気付いたんです。それならルールなしでいいのではということで「図書館チェス」を作りました。
きれいな絵になるよう2人が話し合いながら一手ずつ指していったのなら,そこではもう“美が勝利条件のチェス”が行われたといえるのではないか。まあ,これはかなりとんがり過ぎた気はしますが。
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4Gamer:
そう聞くと,運の要素を強くしたことで勝敗にこだわらず遊べる「ボコスカチェス」,対戦者が協力して場を楽しくする「ボコスカード」,ルールなしに2人が楽しめる場を提供する「図書館チェス」と,コンセプトは一貫していて,より洗練されてきている感はあります。
ラショウ氏:
ゲームをしなくても置いておくだけでインテリアというか“変化するきれいな絵”になるようにしています。置いておけば,ゲームでなくてアートになる。ゲームとアート,2つの特性をもった見栄えの美しいものを出すなら,それはもうアートでもゲームでもあるし,どちらと言い切る必要もない。こうしたものの旗振り役をしたいな,という意気込みも込められています。
4Gamer:
ゲームにおいて競技性を追求するムーブメントもある中で,楽しい時間を過ごすための品を作る。楽しさは話し合うことでも,眺めるための風景を協力して作ることでもよい。ルールがないといっても,プレイヤーを引き込むには力のある世界設定やビジュアルが必要なわけで,「図書館チェス」のようなゲームを作るのはなかなかに難しいことだと思います。
ラショウ氏:
自由に風景を作るだけだと,プレイヤーさんのモチベーションが足りない。だから,見た目が美しく,美しい行為をしていることもモチベーションとする。ワイングラスを揺らしながら,自分を含めて「いい絵になってるな」っていう満足感を味わえるわけです。
4Gamer:
確かに,カッコいい感じのボードゲームや,数字や専門用語がずらっと並ぶビデオゲームをプレイしていると自分に酔えますよね。今はゲームをプレイする層も広がり,インディーゲームの内容も多様化していますから,「図書館チェス」のコンセプトも理解される気がします。
ラショウ氏:
BitSummitでインディーゲームを育てていただいたおかげで,商売として何本売らなければならないというものではないゲームが市民権を獲得し,自分たちが好きなことをやった,伸び伸びとしたゲームが出てきています。色々なものを出しやすい状況にはなってきましたね。
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4Gamer:
ルールがない「図書館チェス」がインディーゲームイベントに出展されているのを見ると,近年のインディーゲームは多様化しているな,と改めて実感しますね。ここしばらくは生きづらさや断絶をテーマとしたものも増えていますし。
ラショウ氏:
今の世代の子たちっていうのは「無理ゲーをやらされてる」という気持ちが強いと思います。だから,子供の頃に幸いにもゲームをしなくて済んだ世代,さまざまなものを実体験として経験した私としては,もう少し責任を持って何らかの手がかりや足がかりを示せないかなと思います。
4Gamer:
確かに,自分の不遇を「無理ゲー」や「〇〇ガチャ」と嘆く例は多いですね。
ラショウ氏:
例えば,今回出展した「インタラクティブ デスティニー」は,左右に「ボコスカウォーズ」の兵士たちを配し,下部の円盤を回せるようにすることで,変転する運命を自分でつかみ取る様を表現しています。苦難には何らかの意味があり,たとえ乗り越えられないにしても,挑戦しない人とは違う。円盤を回すことと,回さないことには大きな違いがあるんです。
公案(禅の修行僧が取り組む難解な課題)でも,見込みのない人には苦難を与えませんから,神も無責任にガチャをしているわけではないと思います。解決できなかった場合,また同じ生を受けて同じガチャを引かされる可能性も高いけれど,トライする姿勢は間違いではない。こうしてポジティブに解釈すれば,より利他的な立場として,苦難を乗り越える方法を発信できるんじゃないかと思います。
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4Gamer:
トライすることとしないことには大きな差があるわけですね。
ラショウ氏:
「インタラクティブ デスティニー」のような展示をするにしても,インタラクティブ性があると直感的に分かってもらえるようにするのが,私のクリエイターとしての仕事じゃないかと思いました。絵画作品としての良さを保ちつつ,野暮な矢印なんかを入れることなく,触っていいものだと分かる,というものを作らなければいけないのかもしれません。
4Gamer:
なるほど。美術館っぽい見た目のブースだったので,作品に触れてはいけないという先入観がありました。こちらの展示はビデオゲームっぽいですが,どういったものなのでしょう?
ラショウ氏:
「ボコスカ グラヴィティ(BOKOSUKA GRAVITY)」です。これまでは横スクロールでしたが,今回は重力のあるフィールドで“城落とし”をやろうと考えています。
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4Gamer:
ポスターではなく,ゲーム画面なわけですね。
ラショウ氏:
青い軍勢が城を攻め,赤い軍勢が自分の城を守ります。攻め側は正面から挑むことも,地面の下から攻め込むことも可能です。
4Gamer:
城についている顔はどんな働きをするのでしょう?
ラショウ氏:
城は地球であり,顔は「シムアース」のガイア的存在として,兵士たちに攻撃や修理などの命令を出します。それぞれのパーツが赤いラインでつながれていて,攻め側が切断すると,顔が崩れて思考力が落ち,命令を出しにくくなるんです。
そして顔は,城がどれくらい壊れているかを視覚化するものでもあります。。多少壊されても再生するけれど,再生力はだんだん落ちていくわけです。一つの考えを持つ巨大なものと戦うというのは,ある意味「モンスターハンター」的でもあります。
あのゲームではハンター1人を1人のプレイヤーが動かしますが,「ボコスカ グラヴィティ」では全員を動かすんです。
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4Gamer:
顔は巨大な集合をつかさどる大いなる知性,ラインは操り人形やからくり仕掛けの糸という感じでしょうか。普通のゲームなら耐久力ゲージを出しそうなものですが,「ボコスカ グラヴィティ」では顔であると。顔が壊れていけば,どれくらい攻撃が効いているかも直感的に分かりますね。
ラショウ氏:
「なるべく数字を省きたい」というのがゲームを作る上でのポリシーですから,「ボコスカ グラヴィティ」でも貫きたいと思っています。
4Gamer:
「ボコスカ グラヴィティ」は縦画面ゲームになるのでしょうか?
ラショウ氏:
それはまだ分からないです。フィールドには重力が働いていますから,城が崩れていくことでもダメージが分かります。「テトリス」みたいに,プレイヤーの技で「よりたくさん崩してやろう」となるのも面白いと思うので,うまく作っていきたいです。
4Gamer:
攻め側の青と守り側の赤では,軍勢のメンバーが違うんですね。
ラショウ氏:
「ボコスカウォーズ2」でやった,非対称プレイをさらに追求した形です。守り側のお姫様はバフをかけたり,兵士たちに役職を与えたりします。彼女を素早く攻略した方がいいんですが,守りも硬いですからなかなか落ちない。
4Gamer:
攻め側としては,お姫様を倒せれば,敵兵が昇進(レベルアップ,クラスチェンジ)してパワーアップすることも防げるわけですね。お姫様が兵士を鼓舞したり昇進させたりするのは自然ですし,これを妨害できるのは,シミュレーションゲームとしての新しい戦略性になっている。地下から攻めるメンバーはどんなことができるのでしょう?
ラショウ氏:
地上にたどり着ければ,火計で火をつけられます。柱などの構造物を燃やせれば,上部に乗っているものも焼け落ちる。つまり,「ボコスカ グラヴィティ」は,いろいろなやりかたを提供し,考える力を刺激する内容でもあるんです。この辺りのリアルタイムなパズル要素はこれまでのシリーズと同様で,一瞬の思い付きで展開が好転する,頭が良くなるゲーム的な要素を取り入れていきたいですね。
4Gamer:
物理演算的なテイストが入っているわけですね。先の「図書館チェス」や「インタラクティブ デスティニー」など,自分で考えるというところは一貫していると感じられます。
ラショウ氏:
物理演算を私が使ったらどうなるかという無茶ぶりとして,“グラヴィティ”という単語を入れました。守り側でのプレイや,対戦できるようにもしたいです。やっぱり,何かが攻めてきたところに城を守るというのはやりたいじゃないですか。そうしたゲームもすでに存在はしてますが,色々と細かいものが多い。だから「ボコスカ グラヴィティ」ではもっと単純にする。物事を単純にするというのは,私の務めだと思ってます。
シンプルな「ボコスカウォーズ」から始まり,シンプルに分かりやすく説明することで,戦いのむなしさも分かっていただける。シンプルなメッセージだから伝わったのかもしれませんし,そうした役割を担っているのだと思います。
4Gamer:
そうした意味で,ルールがない「図書館チェス」はシンプルの極北とも感じられます。
ラショウ氏:
そうですね。ゲームの世界,特にインディーゲームでは,新しいものが理解されるまでの時間,「キョトン」と困惑している時間がだいぶ短くなった気がします。アートの世界でも同様の現象が起こり,現代アートというものが確立しました。ですから,これからのゲームも“現代ゲーム”に向かって,よりとんがった,変なゲームが出てくるんじゃないかと思います。
4Gamer:
アートから現代アートへ。ゲームから現代ゲームへ。テーマの多様化や,受け取る側のリテラシーが高まったことで,より表現としての色合いが濃くなった作品が誕生し,評価されていく。このBitSummit自体,ボードゲームを除いて新作販売の場所ではないのに幅広い層の来場者がやってきて,毎年記録を更新し続けているわけですから,プレイヤー側のリテラシーが高まっていることが感じられますね。
「図書館チェス」や「ボコスカ グラヴィティ」をはじめとした,個性的な作品を期待しています。ありがとうございました。
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