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スマホマーケットに背を向け,自分達が本当に作りたいものをPS4で作るということ――「Project Boundary」で,中国から世界を狙う
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印刷2018/10/30 16:45

インタビュー

スマホマーケットに背を向け,自分達が本当に作りたいものをPS4で作るということ――「Project Boundary」で,中国から世界を狙う

画像集 No.001のサムネイル画像 / スマホマーケットに背を向け,自分達が本当に作りたいものをPS4で作るということ――「Project Boundary」で,中国から世界を狙う

 中国という国はとにかく人口が多く,いろいろな規制こそあるもののゲーム業界が盛んで,開発者も星の数ほどいる。「失われた15年」を経たコンソール機も無事に解禁され,開発者も増え始め,PC,コンソール,スマホという各プラットフォームで,さまざまな経歴の開発者たちが,それぞれの目指すものを作り上げんと日々努力している。
 母数としてのプレイヤー数が1国だけで圧倒的なこともあって,ゲーム業界は「儲かる」というイメージが強く,他業種からゲーム業界に参入する人,一発逆転を狙って新作を作る人など,さまざまな人達がしのぎを削っている。もちろんその中には,ピュアにゲームが好きで,自らが面白いと思うゲームを開発し,自らの痕跡をゲーム業界に残さんと努力している人達だって数多くいる。

 今回のSurgical Scalpelsという会社も,そういう人達だ。全員が相当な場数を踏んだスタッフたちが立ち上げた会社で,設立は2015年。現在作っている作品は,SF FPSとなる「Project Boundary」で,中国SIEがゲーム開発支援の目的で立ち上げたプロジェクト「China Hero Project」に採用されたタイトルだ(関連記事)。
 設立されたばかり……といっても差し支えないであろうこのタイミングで,このレベルの作品を作ってくるこの会社は,何者なのだろうか。キーパーソン2人の時間をもらうことが出来たので,いろいろ聞いてみよう。


「Project Boundary」公式サイト


左が,Founder/CEO/Technical DirectorのFrank M Li氏。右はFounder/Creative DirectorのCT CUI氏。「二人で写るなら何かポーズをとってください」と言ったらこれである
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4Gamer:
 本日はお時間を取っていただきありがとうございます。
 Surgical Scalpels(外科用のメス)という変わった名前の会社は,なにが始まりだったんですか?

Surgical Scalpels Founder/Creative Director CT CUI氏(以下,CUI氏):
 私たちは,会社を興す前は共通の趣味を持つ人が集まった,ただの個人サークルだったんです。FPSをプレイしたり,好きな漫画やアニメの絵を描いたり,そういった感じの。

4Gamer:
 個人サークル由来の会社が最近ホント多いですよね,中国。

CUI氏:
 確かにそうかもしれませんね。私たちもそうですが,そういう会社はプライベートでも仲が良くて,家族ぐるみの付き合いをしていて,週末も一緒に何かしたりすることが多いのが特徴かもしれません。

4Gamer:
 Surgical Scalpels……というからには,皆さんはゲーム業界の何かを治してくれたりするんでしょうか(笑)。

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CUI氏:
 鋭い質問です!(笑)
 確かにこの名前には,そういう意味も込められています。会社を興した当時は,中国のゲーム業界で作られた作品について,私たちは正直あまり良く思っていませんでした。そしてその認識は,サークルの仲間全員が感じていたことで,「自分たちが中国のゲーム業界を切ったり治したりしよう」という思いで,“最も鋭利な刃物”である手術用のメスから名前を取ったんです。

4Gamer:
 やはりそうでしたか。
 もともとサークルとして始まったということですが,最初は何人くらいだったんでしょう。

CUI氏:
 最初は3人で,実はみんな同じ会社のデザイナー出身です。彼(社長のLi氏)は,実は立ち上げ時にはいなかったんですけど。

4Gamer:
 あれ,そうだったんですか?

Surgical Scalpels Founder/CEO/Technical Director Frank M Li氏(以下,Li氏):
 ええ。私はイギリスでエンジニアとして十数年働いていて,ハイエンドでハイクオリティなゲームを作ってきました。私自身もそういったゲームが好きですし,中国に帰ったあとも,このスキルを生かしたいと考えていたんです。でもいざ中国に帰国してみたら,そういう方向性のゲームがまったくなくて,自分の経験を生かす場所がなかったんです。

4Gamer:
 居場所がないと思った時期はいつごろですか。

Li氏:
 2013年末ですね。

4Gamer:
 あー……Liさんの経験を生かすゲームは,確かにその当時はまだなかったかもしれません。

Li氏:
 そうなんです。そんなこんなでどうしようかと迷っていたとき,ちょうどSurgical Scalpelsを見つけたんですが,彼らが作っている作品をすごく気に入ってしまって,そのままサークルに参加したという形です。

4Gamer:
 イギリスでエンジニアを……とのことですが,どんな経歴を積んでいたんですか。

Li氏:
 イギリスではゲームの物理エンジンを作っていました。

4Gamer:
 おお,ホントに「エンジニア」系ですね。

Li氏:
 学生だった2002年ごろからゲームをたくさんプレイしていて,ゲーム業界にも興味を持っていました。しかし,当時の中国にはゲーム関係の技術を学べる専門の大学がなかったので,イギリスに行くことにしました。その後そのままイギリスで就職したという形です。

4Gamer:
 差し支えなければ,どんなタイトルに関わってきたのか教えてください。

Li氏:
 えーと,待ってくださいね思い出します……昔の話なので(笑)。
 例えばアジアでは発売されていませんが,「Fast & Furious」や,「Bodycount」というタイトルに携わっています。あと「スーパードンキーコング」シリーズなどで知られるRare社に所属していたときは,会社全体のゲームすべての開発をサポートする「問題解決係」のようなグループに所属していました。Epic Games所属のスタジオで,Unreal Engineを生かして物理エンジンを開発していたこともあります。

4Gamer:
 んん……結構な経歴だと思うんですが,それだけの場数を踏んできてなぜ中国に戻ってきたんですか?

Li氏:
 簡単です。中国に家族を残しているからです。

4Gamer:
 シンプルかつ重要な返答でした。

Li氏:
 はい。両親が年を取って体調を崩したら,子供は近くにいてあげるという伝統的な理念が,中国にはありますので。

4Gamer:
 まぁでも,Liさんのような優秀な方が戻ってきたのは,中国のゲーム業界としては,喜ばしいことですね(笑)。

Li氏:
 いえいえ,そんな大層な人ではありません……。
 先ほどもお話しましたが,なにしろ中国に帰ってきたときに自分の居場所がなかったくらいですから(笑)。なので,彼(CUI氏)と出会って「中国にもハイエンド/ハイクオリティなゲームを追求している人がいる!」と分かったときは本当に嬉しかったんです。特に彼は,手がけるビジュアルアートもクオリティの高いものを目指していたので,出会ったときから意気投合してすごく話が合ったんですよ。

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4Gamer:
 なるほど。
 では,イギリスで相当な場数を踏んできたLiさんが「これだ!」と思うアートを作ったあなたの経歴をぜひ教えてください。

CUI氏:
 ええと。まず始めにお断りしておきたいのは,自分が作ったアートは,まだ目標としているクオリティの水準にたどり着いているわけではない……と自分で思っているということです。これからこのあと,まだまだ頑張らなければいけないと考えています。
 そして私の経歴ですが,大学3年生のときTencent(テンセント)のインターンテストを受けてそのまま入社し,2010年から2015年までにT0からT3-3()になりました。その後はSurgical Scalpelsに入って現在に至ります。以上,あんまり重要じゃないのでシンプルにしてみました(笑)。

※:T0とT3-3というのは,Tencentにおけるインターンのレベルで,これによって給料が決定する,いわゆる等級制度。T0-1がスタートで,それぞれのTierごとに3段階ある。T3-3というのは通常の社員としては最高のレベルで,T4になるとプロジェクトリーダークラス。だいたい8年ぐらい勤めないとT3-3にはなれないとのこと。

4Gamer:
 え。T3-3を5年で達成……ですか。でもそこまで達したにもかかわらず,なぜ退職を? 巨大企業のTencentでそこまでいければ,金銭的なもの含め,将来的なものは結構安泰なのでは。

CUI氏:
 うん,そうですね。でもそこでの仕事は私が本当にやりたいことではなかったし,ベストなタイミングで良いパートナー(Li氏のこと)に出会えたのが,独立のきっかけです。

4Gamer:
 Liさん責任重大ですよ(笑)。

Li氏:
 こういうプレッシャーをかけてくるんです(笑)。

CUI氏:
 真面目に話しますと,実は「Project Boundary」は,Tencent時代から自分なりに構想していたものなんです。宇宙が舞台のFPSというアイデアは結構イケるんじゃないかという自信がありましたし,追求して作り込む価値があるものだと思っていましたが,実現のためには色々と準備が必要でした。
 その後,着々と準備を進めて行った最後の段階で,力強く頼もしいパートナーである彼に出会いました。そのときに「これはいいタイミングだな」と思って独立し,自分の思い描いていたアイデアの実現に向けて走り出したというわけです。

4Gamer:
 ずっと準備はしていたんですね。

CUI氏:
 ええ。Tencentの同僚には「あいつはいつか独立するだろう」とずいぶん前から思われていたらしく,「やっと独立したね! おめでとう!」とみんなに言われました(笑)。

4Gamer:
 世の中で重要なものの一つはタイミングですからねえ。

CUI氏:
 はい。これも1つの「ご縁」です。


「お金を稼ごう」という目標で始めてしまうと,やはりゲームは面白くなくなってしまうと思います


4Gamer:
 そんな風にして作られた会社は,今何人ぐらいなんですか?

CUI氏:
 14人くらいです。

4Gamer:
 ほかのメンバーもすごい人たちが集まっているんですか。

Li氏:
 そりゃもうすごい人たちですよ。私たちみんなが,1本1本の鋭いScalpel(メス)であると言えます。

4Gamer:
 ではそんな切れ味鋭いメンバーの会社Surgical Scalpelsが,競争の激しい中国のゲーム業界で「これだけは負けないぞ」とアピールできる強みはどこでしょうか。

Li氏:
 うーん……確かに中国のゲーム業界は競争が激しいですが,それは結局のところ,同じようなアイデアを元に似たような製品を大量に生産していて,みんながみんなわざわざそこで争っているからなんだと思います。Surgical Scalpelsは,独自のアイデアでハイエンド/ハイクオリティなものを目指して作っていますし,自分たちで言うだけではなくて,ゲーマーたちからも受け入れられていると思います。

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CUI氏:
 確かに今の中国のゲーム業界は,まだオリジナルのアイデアで勝負しているというレベルではなくて,似たようなゲームがたくさんあります。そして中国では,コンシューマゲームを作っている会社はまだそんなに多くないんです。技術も一定のレベルがないと作れませんし,コストパフォーマンスから考えても,正直に述べてそこまで良いわけではないですから。
 4年前に国がコンシューマゲームを解禁してからずっと注力している私たちは,そこが強みといえるかもしれません。

4Gamer:
 似たようなゲームがたくさんあって過当競争になっている……というのは,日本のマーケットにも似た面があると思います。

CUI氏:
 むしろ日本のマーケットの競争状況は,欧米とすごく似ていると個人的には思っています。中国は,人気のゲームジャンルに似たようなアイデアのゲームが集中しすぎているんです。日本と欧米はそれに比べれば,リリースされているジャンルも豊富ですし,アイデアもさまざまだと感じます。

4Gamer:
 なるほど。

CUI氏:
 なにしろスマホのゲームは,アイデアがあればコストを低く抑えて開発できます。なので,スマホゲームのプラットフォームは盛んですが,ほかのプラットフォームはそこまで盛んではないんですよね。

4Gamer:
 日本においても同じような状況が見えていまして,ヒットさせるのは相当に難しいとはいえ,お金を稼ごうと思ったら,イチかバチかスマホのゲームを作って出すというのが手っ取り早いと思うんです。そしてたぶんそれは,コンソールゲーム機を取り巻く環境が大きく違うとはいえ,可能性としてみたら日本も中国もあまり変わらないですよねきっと。
 日本でも,コンソールゲームを作ってきたような人も割と多くがスマホゲームへとシフトしたんですが,Surgical Scalpelsはその「逆」ですよね。いま中国で,わざわざPS4で勝負する理由は何なのでしょう。

CUI氏:
 そこはとてもシンプルな考えで,「Project Boundary」を自分たちで納得できる面白いゲームにするために,最も適しているのがPS4だと思ったからです。

4Gamer:
 なるほど。マーケットトレンドとか規模感とか,そういうビジネス的な理由じゃないんですね。

CUI氏:
 ええ。私たちの技術が最も生かせるプラットフォームがPS4でしたし,「Project Boundary」のような体験性が高いゲームは,やはりコンソール機のほうが向いていると思います。

Li氏:
 私たちは自分の興味があるゲームを作りたいだけで,マーケットのトレンドに従って何かを作ろうとは思いません。
 かといって特にプラットフォームにこだわってるわけでもなく,今回は自分たちの作りたいゲームに適していたのがコンソール機だったので,そうしただけです。今後もし,自分たちの作りたいゲームがスマホに適していれば,スマホゲームを作ると思います。

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4Gamer:
 いいですね。
 作りたいものを作る,というのは建前論や綺麗ごととしてはよく聞くセリフですが,有言実行している人を見ることはあまりないので(笑)。

CUI氏:
 マーケットで一番売れている刃物が包丁だとしても,私たちはメスを作りたいということです(笑)。

4Gamer:
 でも将来包丁に興味が出たら,包丁も作るよ,と。

CUI氏:
 そうです。
 プラットフォームのことに限らず,何かを選択するときは,物事の趣旨を見据えてから手段を探っていくと悩まずに進めると思いますよ。

Li氏:
 人数が少ないチームのメリットですね。大人数のチームだと,販売目標との兼ね合いもあってこうはいきませんから。

4Gamer:
 今回のインタビューで僕がこっそり予定していた質問に「PS4は中国で売れると思いますか」というのがあったんですが,今の話を聞く限り,これは聞く必要がないですね。

CUI氏:
 まぁカッコいいこと言ってはいますが,開発を進めている現在も「中国国内で売れるのかなぁ……」という不安はずっとありますけどね。

4Gamer:
 それはそうでしょう。でもこれ,グローバルな展開を狙っているタイトルですよねきっと。

Li氏:
 最初にゲームを作るときは,先ほど話したとおり完全に「自分が好きなゲームを作りたい」という考えです。ただ,どこの市場に向けて出すかは必要なので,そこはおっしゃるとおり,当初,欧米マーケットを想定していました。
 流行のものを作れば儲かるという考えはもちろん否定しませんが,「まずお金を稼ごう」という目標から始めてしまうと,やはりゲームは面白くなくなってしまうと私たちは思います。そういう信念がなければ,給料をいっぱいもらえるTencentを辞めようなんて思いませんよ(笑)。

4Gamer:
 先ほど「売れなかったらどうしよう」と心配しているとおっしゃっていましたが,流行のものや売れるものを作っていたらそういう心配ってあんまりないんじゃないですかねえ。好きなものを作っているからこその心配なんだろうな,と思います。

CUI氏:
 一般的に見れば,会社なのでリスクマネジメントはきっちりとやっていくでしょうし,開発者もそういう考え方に従うことになるのだろうと思います。どちらが間違いで,どちらが正しいということでもないでしょう。
 ただ私の個人的な意見として,開発者自身の興味がなかったら,ここまで時間をかけて深く作り込んでから,ゲーマーの皆さんに提供することなんてできないのではないのかと思っています。

4Gamer:
 まぁそうですよね。僕たちゲームメディアも,「仕事」でゲームをたくさんしますが,情報の深さや速さなど,そのゲームが好きで好きでたまらないプレイヤーの情熱には絶対に勝てないんですよね……ってこういうこと言っていいのか分かりませんが。

CUI氏:
 やはりそうですよね。ChinaJoyでの「Project Boundary」の試遊コーナーで,一般のプレイヤーと開発者で対戦イベントをやったんですが,1人のプレイヤーに開発者全員が負けてしまいました(笑)。


自分が満足できない部分は見せたくない。「これが一番いいものなんだ」と自分が納得したものを出したい


4Gamer:
 実はまだYouTubeのPVを観ただけなんですが,あのグラフィックスで5 vs.5の対戦ができるんですか。

Li氏:
 はい。

4Gamer:
 単なる好奇心なんですが,これから対戦人数が増える可能性ってありますか?

CUI氏:
 それは……それを聞きますか! でもいい質問ですね!(笑) 実は当初は,8 vs.8のゲームとして開発を始めて,最終的に5 vs.5にしたという経緯があるんです。

4Gamer:
 あれ,そうだったんですね。

CUI氏:
 大きいマップを作ったのですが,思ったよりキャラクターの移動スピードが速くて,あまりマップの大きさが感じられなかったこと。そしてなにより,「8人もメンバーを集めるのが大変だ」というプレイヤーからのフィードバックがあったこと。これらを考慮し,かつ開発の技術を考えた結果,5人のチームが適切だということになりました。

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4Gamer:
 なるほど。素人目線の話で申し訳ないんですが,宇宙空間って,戦場とか市街地みたいに背景オブジェクトがやたらにいっぱいあって細かく描写されてて……ということがないので,描画が少しは楽なのかな? と思ってました。なので対戦人数も増やせるんじゃないかなぁ,って。

CUI氏:
 またもや非常にいい質問です!
 ズバリ開発チームも,最初は同じ発想で「対戦の場を宇宙空間にしよう」と決めたんです(笑)。

4Gamer:
 同じことを考えていたとは,僕もなかなかですね(笑)。

CUI氏:
 そうですよ(笑)。
 でもそこには大いなる誤算があって,宇宙空間が舞台だと,プレイヤーが360度あらゆる方向に視野を移動できるので,省略できる描画なんてほとんどなかったんです。そしてさらに,普通のFPSで使っているような既存の開発手段もほとんど利用できませんでした……。

4Gamer:
 あれ,360度のFPSって今までなかったでしたっけ?

CUI氏:
 2009年に「Shattered Horizon」という作品がありました。「Project Boundary」が初の360度FPSだと言いたかったんですが,大先輩がいて残念です。近年のゲームでも,宇宙空間のような要素を加えたものは出ていますが,視覚からの表現にこだわっているものばかりで,基本的なところができていないと思っています。

4Gamer:
 視覚表現といえば,これはPS VRに対応したらなかなか面白そうだなと思って,さっきちょっと調べたら,当初はPS VR対応だったんですね。

CUI氏:
 ええ,確かにこのゲームは最初PS VR対応の5 vs 5のFPSというコンセプトで開発を進めていました。
 しかし,半年経ったあたりで,今の技術とボリュームでは当初のコンセプトを実現するのは難しいのではないかという結論に至りました。そこで,PS VRの対応を保留という形で停止させて,ゲームの完成度を高めることに注力した次第です。

4Gamer:
 宇宙空間のVR体験って,ちょっと酔いそうですよね。

Li氏:
 確かにテストプレイでは,一部のシーンで酔ってしまう人が多かったです。
 ここまで自分たちの思いを形にした今,私たちが一番重視しているのは,ゲーマーからのフィードバックです。私たち自身も,自分たちで納得できない要素は入れないようにしているので,PS VR対応を保留しました。

右端にPlayStation VRの文字が
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4Gamer:
 表現したいものへのこだわりを持った開発なんですね。

Li氏:
 聞こえはいいですが,度が過ぎると会社の存続にも影響しかねないデメリットがあるのは承知しています。しかし,一人の開発者として,自分が満足できない部分はゲーマーに見せたくありません。自分で「これが一番いいものなんだ!」と納得したものを出したいのです。
 ユーザーに買ってもらうゲームなわけですから,クオリティは絶対に高いものにすべきだと思います。いくら開発で難題や困難が立ちはだかろうが,その理由は自分たち自身が生み出したものですし,それはゲームを買ってくれるユーザーとっては関係のないことですから。

4Gamer:
 ワンダ(ワンダと巨像)とかトリコ(人喰いの大鷲トリコ)の上田さんってご存じですか?

CUI氏:
 もちろんです! 私がとてもとても尊敬しているクリエイターですし,あの人の作品はもはや「ゲーム」ではなくて「アート」ですよね。

4Gamer:
 その上田さんも,「自分が買いたくならないものは作らない」「なんであんなもの買ったんだろうとユーザーに思わせてはいけない」とインタビューでおっしゃってました。似てますね(関連記事)。

CUI氏:
 そうなんですね……。あこがれである上田さんのような方が,同じ考えを持ってゲームを作っていることをお聞きして,とても自信がつきました。これからも自分たちのやり方を信じてやっていきたいと思います!

4Gamer:
 それだけの高い理想があれば大丈夫だと思います。ぜひそのまま頑張ってください。
 本日はありがとうございました。

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―――2018年8月3日収録
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