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[GDC 2023]ポーランドの著名アーティストが手がける「Unholy」は,マニアックなほどのこだわりを感じるサイコロジカルホラー
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インタフェースとテキストが日本語に対応し,2023年内のリリースが発表されている「Unholy」は,ソビエト連邦が崩壊した直後の東欧某所を舞台に,急速な変化の中で,町全体がカルト教によって支配されてしまったという「現代世界」が舞台になる。プレイヤーは,幼い息子ガブリエルが姿を消してしまった女性となり,息子の行方を探すうち,奇怪な現象に遭遇していくことになる。モンスターなどが登場するわけではなく,じわじわと心理的恐怖が増していくといった趣向のアドベンチャーゲームだという。
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デモで紹介されたのは,ゲーム開始後,15分ほど経過したという序盤部分で,息子の失踪事件について誰も助けてくれない中,手がかりをつかむために自分の父親に会いに行くという流れになっている。ゲーム画面では,1970年代に東欧で量産されたという無味乾燥なアパートが建ち並んでいるが,アパートの奥には司祭が暮らすという,「Half-Life 2」のシタデルを思わせる高い塔が立つ異様な雰囲気の世界だ。樹木やアパートの外壁,少し傷んだ歩道など,時が止まったような光景が非常にリアルに描き出されている。
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ゲーム世界のアートワークはすさまじく,50年ほど前に使われていたであろうカーテンの刺繍から本棚に並ぶ本の1作1作,さらに家具や小物の質感まで,どれだけ時間をかけて描いたのかと思ってしまうほど緻密だ。フォトグラメトリー技術を使っている部分もあるにはあるが,多くはアーティストたちの手作業で描かれ,画家だという父親のテーブルの上に並ぶ使い古された筆からテーブルやパレットに飛び散る絵の具に至るまで,驚くほどの仕上がりになっていた。
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それもそのはずで,Duality Gamesを起業したトーマシュ・ストラウコフスキー(Tomasz Strzałkowski)氏は,ディテールの表現能力が高いツールとして知られる「ZBrush」の達人にして,H.R.ギーガー風のデジタルアートで著名なアーティストだ。開発メンバーが音を上げてしまうほど妥協知らずだとシェヴェルニアク氏は笑っていたが,ある意味,ストラウコフスキー氏の生み出すデジタルアートのショーケースとして,この「Unholy」を堪能できそうだ。普通は通り過ぎてしまうような場所でも,驚くほど質感に富んだオブジェクトで溢れていたりして,ゲーム世界に実在感を生み出している。
ゲームシステム面でもさまざまな特徴があり,プレイヤーはゲーム内で入手できる金属製の「マスク」を被って眠りにつくことで,不浄界へ旅するようだ。「シスターマスク」や「サーバントマスク」などと呼ばれる4種類のマスクが存在し,シスターマスクなら,相手の感情を読み取ったりすることができるとのこと。カルト教団内部の職業のような名前であることからも,敵に怪しまれないよう行動できるアイテムだろう。
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プレイヤーは,このマスクを被って不浄界に行き,「エモーショナルクリスタル」という物質を集めることによって,魔力のようなものを扱うことができる。「怒り」「怖れ」「悲しみ」「欲望」という4タイプのクリスタルが存在しているが,今回のデモでは,「怒り」のショックを使って電子機器を無力化したり,弾丸のように敵に放つことができた。
不浄界では感情がむき出しになるため,ここに来る人々は全員がマスクをして,感情を溢れ出させないようにしているのだとシェヴェルニアク氏は解説してくれた。命が失われたキャラクターからは,そうした感情のエネルギーが放出され,プレイヤーがそれを収集することもできるようだ。
この不浄界が実際にどのようなものなのか,詳しく説明してもらえなかったが,「エイリアン」で描かれたゼノモーフの巣のように,有機的な触手のようなものが壁や床を覆う異様な雰囲気で,銃器を手にして見回る大柄の兵士や,奇怪な生物たちが存在している。
ステルスで移動しつつ,パズルを解いたり戦ったりしていくというアクション性の高い世界でもあり,探索や会話を中心とする現実世界および中間界とゲーム性が異なっているのが面白いところだ。
アーティストとしての経歴も長いストラウコフスキー氏が主導するだけに,「Unholy」の3つの世界には,それぞれが違っていながらも統一感がある。プレイヤーは,現実と非現実の狭間で心理的な恐怖を感じながら,息子を探す旅とカルト教団の闇を暴いていくことになりそうだ。
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