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[GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線
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印刷2017/03/03 20:30

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[GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線

Adelle Bueno氏(Chief Environment Artist,スクウェア・エニックス)
画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線
 北米時間2017年3月2日,GDC 2017のビジュアルアートセッションで,スクウェア・エニックスによる「Achieving High-Quality,Low-Cost Skin:An Environment Approach」(高品質で低負荷なスキンの実現:環境系からのアプローチ)と題した講演が行われた。
 これは,肌の表現を高品質かつ低負荷で行う技術を解説する講演で,キャラクター表現に定評のあるスクウェア・エニックスらしいテーマといえよう。壇上に上がったのは,東京にある同社のテクノロジー推進部でChief Environment Artistを務めるAdelle Bueno氏だ。

 ことの始まりは,スクウェア・エニックスがゲームエンジン「Luminous Studio」(ルミナススタジオ)の技術デモとして作成した,「Agni's Philosophy」のAgniちゃんだったという。

今や懐かしささえ感じるAgni's PhilosophyのキャラクターAgni
画像集 No.003のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線

 Agni's Philosophyは,プリレンダリングによるCGムービークオリティの映像を,リアルタイムCGで再現する実験的なプロジェクトである。普通のゲームでは考えられないようなことをいろいろやっていたので,4Gamer.netでは2012〜2013年にかけてたびたび取り上げており,そのことを覚えている人もいるだろう。

2012年11月の開発者向けイベントで公開されたときのサンプル画像
画像集 No.004のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線
 Agni's Philosophyでは,使用する顔のテクスチャに2K×2Kや4K×4K,場合によってはそれ以上という大きなサイズのものを使い,さらに128×128ピクセルの小さなしみ,そばかすレベルのものを,タイルテクスチャで重ねてディテールを上げるというこだわりようだった(関連記事)。とはいえ,近づいたら毛穴まで見えるというわけではない。
 あれから数年経った現在では,もはやそれほど高品質という印象を受けない人もいそうだ。

 最近では,ゲームのレンダリング解像度でも4Kの声が聞こえており,人物表現には,さらなるディテールが求められている。Agni's Philosophyの手法を使うなら,1人1人,顔が異なるキャラクターの数だけ,さらに大きなテクスチャを用意していく必要がある。
 実際問題,今後は毛穴レベルまでのディテールが求められていくだろう。だが,「それ本当にテクスチャを用意してやるの?」とか「毛穴までやると,最低で2Kや4Kのテクスチャが必要だけど,それでもクオリティはイマイチだよ?」とか「毛穴といっても,顔の部位とか毛穴の種類で違ってくるから,タイルで並べるだけじゃ解決にならないよ?」といった問題も出てきており,Agni's Philosophyの手法で次世代のキャラクターゲームを作る見通しは,立っていなかったようだ。

Agni's Philosophyの手法で,さらに写実的なキャラクターを作ろうとすると,さまざまな問題が生じてくる
画像集 No.005のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線 画像集 No.006のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線

 とはいえ,毛穴レベルのディテールを無視するなら,顔面を構成する情報のほとんどは,もっと低解像度のテクスチャであっても正しく表現できるはず。
 「大きな面積に,いろいろと細かいテクスチャを使う必要がある」となったときに,「これ,どこかで聞いたことがあるぞ」とBueno氏が閃いたのが,今回のテーマである「環境系」のテクスチャだという。

画像集 No.007のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線

 たとえば大きな岩を作る場合,環境系のテクスチャでは,岩1つ1つに個別のテクスチャを用意したりはしない。タイルテクスチャを基本として,そこにディテール用のテクスチャをブレンドすることで,さまざまな岩の表現を行う。このような環境系の手法を,キャラクターの顔にも使えないかというのが,基本的な発想だ。
 顔というものを,環境アーティストの視点で見ると,ベースのテクスチャをタイルで使い,皮膚の毛穴にも繰り返し要素がある。つまり,形状や配置から見て一般的な毛穴パターンを探せば,いろいろと作業が捗るわけだ。

 そこで,さまざまな顔のディテールを調べたところ,千差万別の微小な形状があることが分かったという。それらをなんとか一般的な形状に落とし込めばいいと,Bueno氏は考えた。
 そこで毛穴や小皺を調べてみると,これらのディテールは,「点」と「線」のパターンに一般化できそうなことが分かったという。さらに複雑な形状も,それらの組み合わせで作れそうだ。

上のスライドにある毛穴や小皺は,点や線のパターンに一般化できる
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 次に,それらの配置も調べてみると,部位によって特徴があることも分かってきた。

毛穴や皺の配置は,顔の部位によって異なる
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 さらに,皺の方向についても調べてみると,部位に応じて規則性があることも見えてきたという。

毛穴(上)や小皺(下)の方向にも,規則性があることが分かってきた
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 こうしたリサーチを積み重ねたことで,環境系の手法が人の顔を作るのにも使えそうだということになり,新たな目標が設定された。それは,キャラクター1人1人に対して,巨大な顔のテクスチャを用意するのではなく,汎用のディテールテクスチャを調整することで対応するというものだ。
 この手法を使えば,巨大なテクスチャを使うのに比べて,メモリ使用量は大幅に削減でき,表現力の向上も期待できる。

設定した新しい目標。メモリ使用量を削減しつつ,品質は向上できるはず
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 この手法では,最初に用意する顔のパターンは,512×512ピクセルや1024×1024ピクセル程度の解像度でも十分で,さらに中くらいから大きめの傷跡や,脂肪の袋などを作り込んでおくことになる。この時点で用意するデータには,毛穴などは含まない。細かい作り込みが不要なため,スカルプティングの制作時間は40%短縮できるという。

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 このデータに,追加のレイヤーとして微細な表現を重ねていくわけだが,デザイナーは,毛穴のタイプや強さ,大きさを頂点カラーによって制御しながら配置していくのだそうだ。

ディテールは小さなテクスチャとして作成
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毛穴や皺の種類によって,4種類の色が割り当てられている(左)。右のスライドは,それを頭部のモデルに重ねてみたサンプルだ
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ディテールの方向は別のテクスチャに保存しておく
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 なお,毛穴や小皺の方向は,256×256ピクセルのテクスチャで制御するとのこと。

 こうして実現した頭部の表現を従来の手法と比較したのが,下に掲載した4枚の画像となる。比較対象の「Old Workflow」はAgni's Philosophy世代の技術なのだろうが,新しい手法「New Workflow」のほうが,肌のディテールが圧倒的に細かくなっていることが分かる。汎用性も高く,実用化が期待される技術といえるだろう。

上が既存の手法,下が新手法で作った頭部モデル
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画像集 No.020のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線

顔の表面を拡大したところ。上が既存の手法,下が新手法という点は同じ
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画像集 No.022のサムネイル画像 / [GDC 2017]処理負荷を減らしながら,毛穴や小皺まで精密に描写するスクウェア・エニックスの肌表現最前線

 今後の予定としては,ビットマップを用意するのではなく,Allegorithmicのミドルウェア「Substance」でプロシージャルに生成できるようにするとか,フェイシャルアニメーションに応じて毛穴が歪むようにすることが予定されているという。さらに高画質なった次世代のゲームキャラクター表現に期待したいところだ。

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