インディーズゲームの小部屋：Room＃522「Mulaka」

　夜中にお気に入りの古い洋楽を聴きあさっていると，いつの間にか明け方になっている筆者がお届けする「インディーズゲームの小部屋」の第522回は，Lienzoの「Mulaka」を紹介する。本作はメキシコ北西部の先住民族，タラフマラ族の文化をモチーフにしたアクションアドベンチャーだ。ジョン・ウェットンの歌声はいつ聴いても最高です。


　タラフマラ族の伝承によると，彼らは太陽を母に，月を父に持つ，星々の子供であるという。彼らの踊りと共に大地は目覚め，広がっていった。しかし，しばらくすると争いと憎しみがあふれ，世界に危機が訪れた。この危機を救えるのは，特別な力を持ったシャーマン戦士・スクルアミ（Sukurúame）のみ。立て，ムラカ（Mulaka）よ。世界はお前の助けを求めている！

　というわけで，プレイヤーはスクルアミのムラカを操作して，乾いたメキシコの大地を冒険することに。ゲームの目的は，4体のデミゴッドの加護を得て，邪悪の王，テレゴリ（Terégori）を討ち滅ぼすことだ。砂漠にはサソリやカエル，カマキリ人間などのモンスターが徘徊しており，ムラカは得意の槍を使った攻撃で彼らに立ち向かっていく。


　シャーマン戦士であるムラカは「スクルアミ・ビジョン」という特別な感覚を備えており，これを発動すると周囲にある目的地の方角や距離を感知できる。さらに，スクルアミ・ビジョンの使用中は，普段は見えない死者の姿が見えるようになり，隠された足場を発見することも可能になる。ここでいう死者は敵ではなく，謎解きのヒントなどをくれる存在なので，見つけたら怖がらずに話しかけてみよう。


　また，スクルアミ・ビジョンを使用すると敵の体力が可視化され，姿を隠して攻撃してくる悪霊を見破れるようになるなど，戦闘においても役に立つ。スクルアミ・ビジョンは魔力ゲージが無くなると使えなくなるが，ゲージはすぐに回復するので，積極的に活用していくといいだろう。


　マップはいくつかのエリアに分かれており，それを順番に攻略していく。各エリアにいるボスを倒すことで，そのエリアのデミゴッドの加護を得られるという仕組みだ。デミゴッドの加護を得ると，鳥になって空を飛んだり，大熊に変身して岩を破壊したりといった，シャーマン戦士ならではのパワーを行使できるようになる。
　またムラカ自身，敵を倒すなどして得たコリマ（Kórima）を消費して，自分の能力を強化できる。コリマが何かはよく分からないが，字面から察するに，カルマ的なものではないだろうか。自信はないけど。


　ローポリゴンで描かれた，明るい色彩のグラフィックスと，今なお独自の文化や伝統を保ち続ける，タラフマラ族の言い伝えを忠実に再現した世界観が本作の大きな魅力。現地語によるナレーションや，現地の伝統的な楽器を用いた音楽にもこだわりが感じられる。もちろん，ゲームとしての出来栄えも十分で，ほどよい緊張感があるボス戦と，適度な難度の謎解きが楽しめる，戦闘と探索のバランスがとれた作品に仕上がっている。


　かつては北メキシコのほぼ全域を支配し，アパッチ族を始めとするほかの部族と戦い，イエズス会による100年にもおよぶ植民地支配をも生き抜いたタラフマラ族だが，近年は大規模な森林伐採によって住む土地を奪われるなど，また別の危機に見舞われているという。本作のPC版はSteamにて2050円で発売中で，売り上げの一部はタラフマラ族の文化保護のために寄付されるとのことなので，興味を持った人はぜひ遊んでみてほしい。

■「Mulaka」公式サイト

https://www.lienzo.mx/mulaka/