企画記事
NHK「ゲームゲノム」第4回「DARK SOULS」視聴レポート。死にまくる高難度アクションRPGは,なぜ世界中のゲーマーを夢中にさせるのか
実は第1回の時点でこのラインナップは公開されているのだが,フロム・ソフトウェア,そして「DARK SOULS」といえば,出演を期待するのはやはり同社の現代表取締役社長であり,ディレクターでもある宮崎英高氏だろう。4Gamerでも何度かインタビューさせていただいているが,あまり表に出てこないクリエイターだけに,個人的には「テレビに出るの!?」と驚きを隠せないでいた。
しかし,残念ながら今回の放送では,宮崎氏は質問に答える形でのコメント(テキストのみ)で登場。元ラグビー日本代表の福岡堅樹さんとお笑いタレントの野田クリスタルさんが,作品ファンとして出演し,MCの本田 翼さんと本作の魅力を掘り下げる内容になっていた。
「DARK SOULS」(2011年9月22日)
非常に高難度のアクションRPGであり,何度も死にながら強大なボスに挑み続けて撃破したときの達成感と,その難度を支える,計算された敵の配置やシビアなバランスなどが,コアゲーマーを中心に世界中で高い評価を受けた。その影響は,本作のフォロワーとなる「ソウルライク」と呼ばれるサブジャンルを生み出すに至ったほどで,フロム・ソフトウェアを一躍世界的なデベロッパに押し上げたタイトルと言っても,過言ではないだろう。
2021年には,イギリスで1983年から続くゲームアワード「The Golden Joystick Awards」で,一般投票により「Ultimate Game of All Time(史上最高のゲーム)」に選ばれた。
シリーズも「DARK SOULS II」(PC/PS3/Xbox 360),「DARK SOULS III」(PC/PS4/Xbox One)と続いている。2018年には「DARK SOULS REMASTERED」(PC/PS4/Xbox One/Swith)として1作目がリマスターされているので,シリーズに触れてみたいならこちらがオススメだ。
また,シリーズのシステムをベースにさまざまな面で大幅にボリュームアップした「ELDEN RING」(PC/PS5/Xbox Series X/PS4/Xbox One)が2022年2月に発売され,世界的な大成功を収めたことは記憶に新しい。
熱心なファン(筆者含む)だと,「宮崎さんが作った死にゲーといったらまずは『Demon's Souls』だろ!?」と厄介なことを言いたくなったりもするのだが,タイトルの知名度やシリーズ化されたことなどを考慮に入れれば,代表作はやはり「DARK SOULS」になると思う。
いや,「Demon's Souls」は思い入れが深すぎて,ここで語り出すと盛大に脱線するので。
「DARK SOULS」における死は「当然あるサイクルの一環」
さて,そんな高難度のゲームでありながら,“史上最高”とまで支持を得ている本作は,何がそんなに魅力なのだろうか。福岡さんは「間違いなくあの達成感。何度も何度もやられて,そこから学んでようやく勝てた時の達成感は,スポーツにも通ずるところがある」とコメントする。番組では,そんな本作の達成感を,3つのキーワードで紐解いていった。
最初のキーワードは「繰り返される死の試練」だ。本作では,プレイヤーにさまざまな死の試練が襲い掛かり,数えきれないほどの「YOU DIED」というゲームオーバーの文字を見ることになる。
死のパターンはさまざまだ。複数の敵に四方八方を囲まれてボッコボコにされる「囲まれて死」,ワンパンで殺されてしまうような「強すぎる雑魚敵」,罠などによる容赦のない初見殺し「突如襲い掛かる死」など,あの手この手でプレイヤーを殺しにかかってくる。
プレイヤーはこうした経験から,囲まれるのなら1体ずつおびき出して各個撃破,強すぎる敵は動きを覚えて学習,初見殺しには同じ死を繰り返さないよう周囲を観察といった具合に,さまざまなシチュエーションに対応していく。そして,死にながらステージを乗り越えた先には,尋常ではない強さのボスが待ち受けているわけだ。
では,なぜ本作はこのように何回も死んでしまう難度の高いゲームになったのか。これに対して,番組に寄せたコメントで宮崎氏は,
「DARK SOULS」では「困難に挑み,それを克服する達成感」をテーマにしています。
例えば強大なボスを手に汗握りギリギリで倒した時,思わず叫んでしまうような達成感です。
ここで重要なのは,最終的にプレイヤーさんに感じてほしいのはあくまでも達成感であるということです。
そのために「DARK SOULS」が目指しているのは,高い難易度を,けれども理不尽でなく,経験と学習が有効になるようデザインすることです。
と語っている。これについて,ゲーム制作経験もある野田さんは,「DARK SOULS」ぐらい難しいゲームを作ってやろうと思ったことがあると話すが,「僕が作る難しいゲームは理不尽で不愉快」になってしまい,うまくはいかなかった。このときに「DARK SOULS」が極めて絶妙なバランスの上に成り立っていることを実感したという。
そんな絶妙なバランスを取るために盛り込まれているのが,「何度も挑戦したくなる仕掛け」だ。例えば,本作では敵を倒すと経験値とお金を兼用する「ソウル」が手に入るが,死ぬとその場に持っているソウルをすべて落としてしまう。失ったソウルを回収するには,もう一度その場所までたどり着かなければならない。
このシステムについて宮崎氏はこう語る。
「DARK SOULS」における死は,ゲーム進行において「あるべきではない失敗」ではなく,「当然あるサイクルの一環」としてデザインされています。
死んだときにソウルをその場に落とす仕様も,そうした発想から生まれたもので,死んだとしても継続してプレイしようというモチベーションを喚起するものです。
裸プレイは想定外
2つ目のキーワードとして挙げられたのが「リスクを恐れない」こと。本作で強力な敵に打ち勝つためには,あえてリスクを取ることも必要だ。
本作におけるリスキーな行動と言えば,やはり「致命の一撃」だろう。これは,敵の攻撃を盾でガードするのではなく,タイミングよくはじき返すことで,体勢を崩させ大ダメージを与えられるというもの。タイミングがズレるとそのまま攻撃を受けてしまうハイリスク・ハイリターンなアクションだ。
また,本作では装備している防具の重量によって,回避アクションであるローリングの性能が変わるようになっている。そのため,あえて防具を付けず裸になり,機動力を最大化して敵に挑むという,極端な戦い方も可能だ。
「プレイヤーが裸になることを想定していたか?」という質問に宮崎氏は,
想定していませんでしたね。
裸プレイ以外にも我々が全く想定しなかった遊び方がたくさん生まれており,そうしたことはユーザーさんとのゲームを通じたコミュニケーションにも感じられ,とてもうれしいことだと感じています。
と回答。数々の強敵たちは,開発側の想定を超えるプレイで攻略されているのだ。
ともあれ,こうしたリスクを乗り越えて得られるリターンの気持ち良さが,プレイヤーを魅了するのである。
リスクを取ることについて,福岡さんはラグビー日本代表時代を振り返り,大事なシーンでは自分の身体がぶつかってどうなろうと構わない,という覚悟でボールを取りに行っていたという。「試合に行くときは,これから殺し合いに行くんだという気持ちでないと,プレイが安定しない」という,相手と激しく接触するラグビー選手ならではの心構えを話していた。
キャラクター達の思いを継いで攻略する
3つ目のキーワードは「敗れし者の思いを継ぐ」だ。本作の世界で死しても蘇る存在である不死人は,死を繰り返すことでいずれ理性を失い,亡者と化してしまう。本作で襲ってくる敵の多くは亡者であり,中にはプレイヤー同様に呪いを解くための旅に出たが,道半ばで亡者になってしまった者もいる。
一方,ゲーム中で,まだ理性を失っていない不死人と出会うこともある。中でもおそらく,プレイヤーの印象に強く残っているのが,「心折れた戦士」だろう。彼はこれまでの経験から挫折してしまったのか,安全地帯の篝火からまったく動かない。呪いを解くことも諦めてしまっている。
しかし,話しかけるとプレイヤーにヒントは与えてくれる。それを元にプレイヤーが攻略を進めていくと,自分もまたがんばろうと立ち上がり,篝火から姿を消すのだ。
いずれ彼とは再会することになるが,残念ながら彼は亡者となっていて,会話もできずに襲い掛かってくる。プレイヤーにできるのは,彼を倒すことだけだ。
野田さんは彼のことが好きだそうで,「攻略情報を与えてくれるということは,自分も攻略したんだな」「もともと,めっちゃがんばってたんじゃないかな」「たまたま最後まで攻略できたのがプレイヤーだっただけ」と話していた。
ほかにも,かつて交流した不死人が亡者となって襲い掛かってくるシーンがあり,やはりトドメを刺さなければならない。こうしたキャラクター達について宮崎氏は,
苦悩や悲壮や決意や絶望,あるいは狂気といった側面も感じられるようなデザインにしています。
主人公と同じように,その世界で懸命に生きていた存在であるというイメージがあるのです。
と語る。野田さんが話していたように,心折れた戦士も,主人公と同じように生きていた存在なのだ。そうした道半ばで倒れていった者たちの思いを継ぐことで,ボスを倒したときの達成感がさらに増すから,本作はより心に残るのかもしれない。
……個人的には,今や「どうせみんな酷い最期を迎えるんでしょ」と思っている節もあるが,これはこれでフロムの死にゲーに毒されていると思う。皆さんは誰の最期が印象に残っているだろうか。筆者は「ELDEN RING」のセレン先生かな……。
美しいものを描きたい
続いて出演者の3人が,「DARK SOULS」から学んだことを語った。野田さんは,失敗を失敗と思わなくなったという。本作を初見ノーミスでクリアできる人などはおらず,一回一回のミスはプレイヤーにとって経験値でしかない。失敗したことが大事なのであり,それは人生においてもそうだと話す。
福岡さんは,困難にぶつかったときの正解は1つではなく,自分らしさを出しながら打ち勝っていくことを学んだそうだ。
本田さんは,本作は鈍く,図太く,泥臭くやっていくゲームであり,それによって得る達成感は新しく,心から喜べるものだと,その面白さをまとめていた。
今回は3つのキーワードで紹介されたが,どれも確かに「DARK SOULS」の面白さを支える重要な部分だったと思う。ただ,個人的にはもう1つ,プレイの自由度も挙げておきたい。単純に高難度で,何回も死にながら挑むアクションゲームというだけなら,昔からいくらでも存在はしたのだ。
そのうえで本作の魅力となるのが,RPGであるからこその,プレイヤーのこだわりを反映してくれる懐の深さだと思う。ステージを進むのは大変だし,ボスは確かに強いが,戦士だろうと魔法使いだろうと,どんなビルドをしていてもなんとかなる。その絶妙なバランスはフロム・ソフトウェアならではのもので,ソウルライクな死にゲーを遊んだとしても「やっぱりフロムのと違うんだよな」と感じられるほどだ。
また,これまで4Gamerで掲載してきた宮崎氏へのインタビューを読んでいる人はなんとなく分かるかもしれないが,氏のゲーム制作の話は非常に理路整然としている。宮崎氏だからこそ,フロム・ソフトウェアだからこそ,「DARK SOULS」を始め世界中のゲーマーを熱中させる死にゲーが生まれているのだと思える説得力があるのだ。
フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制
「DARK SOULS」シリーズをはじめ,高難度のアクションRPGで世界的にも評価の高いフロム・ソフトウェア。2022年2月には「ELDEN RING」をリリースし,大ヒットを収めた。そんな本作は,何を目指して作られたのか。フロム・ソフトウェア 代表取締役社長である宮崎英高氏に振り返ってもらい,現在の開発体制や,自身の独特な手法についても語ってもらった。
番組の最後に,宮崎氏がゲーム開発でこだわっていることについてのコメントが紹介された。
これはなかなか信じてもらえませんが,「美しいものを描きたい」という意識は常にあります。
もちろんそれは,あくまで我々らしい「美しさ」ではあるのですが。
なるほど,美しさ。宮崎氏のタイトルでそれを強く感じられたのは,個人的には「Déraciné」で,語りたいところではあるのだが,これまた盛大に脱線するので控えておこう。
今回の番組は,「DARK SOULS」が支持される要素を1つずつ分解していったのが興味深かったが,同時に,「DARK SOULS」以前はコアゲーマー向けのきわめてニッチなジャンルだった高難度アクションが,こうしてテレビで紹介されるようになった事実そのものが面白かった。まあ,せっかくなら宮崎氏が出演してしゃべってくれたら嬉しかったな,というのはいちファンとしての素直な感想なのだが,それはまたいつかの機会に託したい。
2022年10月5日 放送開始(全10回)
毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で同時配信・1週間見逃し配信あり
※ NHK オンデマンド配信あり
「ゲームゲノム」番組公式サイト
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