「ハースストーン」開発陣インタビュー。新シーズンでは1年を通して“World of Warcraft”世界での成長物語が描かれる
シーズン最初の拡張セット「荒ぶる大地の強者たち」や,新たなゲームモード「ハースストーン マーセナリーズ」に関する情報が明らかにされている。
「荒ぶる大地の強者たち」アナウンストレーラー(英語)
以前から発表されていた,基本とクラシックセットに取って代わる「コアセット」や,リリース当時の環境が再現される「クラッシクフォーマット」の導入なども含め,グリフォン年では初っ端からハースストーンの環境が激変することが予想される。
4GamerではBlizzConlineでの新情報の発表直後に,新拡張セットのリードデザイナーを務めるJason Chayes氏と,イニシャルデザインチームのリーダーであるLiv Breeden氏への合同インタビューに参加する機会を得た。本稿でその模様をお届けしよう。
Jason Chayes氏 |
Liv Breeden氏 |
「ハースストーン」新拡張「荒ぶる大地の強者たち」が発表。RPG風新モード「Merceneries」も2021年後半にリリース予定
Blizzard Entertainmentは,オンラインイベント「BlizzConline」にて,デジタルカードゲーム「ハースストーン」の新拡張「荒ぶる大地の強者たち」を発表した。RPG風の新モード「Hearthstone Merceneries」が2021年後半にリリースされることもアナウンスされている。
「ハースストーン」公式サイト
「ハースストーン」公式サイト
「荒ぶる大地の強者たち」紹介ページ
1年を通して初心者から英雄に至る道筋を描く
コアセットでは五大竜全員のリメイクが明らかに
――まず,発表された新拡張セット「荒ぶる大地の強者たち」のコンセプトや,その舞台を“Barrens”に設定した理由を教えてください。
Chayes氏:
我々は開発当初から「ドラゴン年のような1年をまるごと使ったお話を作りたい」と考えていました。そこで,今回は原点に立ち返って“何も知らない新人としてWorld of Warcraft(以下,WoW)の世界に降り立ち,成長を重ねてスゴい英雄に成り上がっていく”という流れを再現することにしたんです。
であれば,WoWのプレイヤーにとっては懐かしみを感じさせるような場所こそ,最初の拡張セットに相応しい。ということで,Horde陣営が初期に訪れるBarrensの大荒野を,今年のスタート地点に据えることになりました。
Breeden氏:
ゲームの序盤は経験値を積んでレベルを上げ,どんどん自分が強くなっていく達成感が得られますよね。今回の拡張セットでは,ゲームの進行に応じて成長する“ランク付き呪文”をはじめとして,達成感を楽しめる要素が盛りだくさんになっています。
Breeden氏:
グリフォンはWoWどころかファンタジー世界の象徴とも言える存在です。ドワーフがグリフォンに乗ってポーズを取る姿は,誰もが想像できるファンタジーの在り方でしょう。今年の“WoWの基本に立ち返る”というコンセプトを実現するため,誰もが理解できるようなアイコンとしてのグリフォンを今年の象徴に据えました。以降の拡張セットについては,今後の発表を期待してください。
――今回の拡張セットに合わせて,過去に収録されたカードも含めて“呪文系統”が設定されます。かなり大掛かりな仕掛けですが,このメカニズムの発想はどこから来たのでしょうか。
メタを新鮮にして,新たなシナジーを作るにはどうすればいいか,という議論の末に出たのが「呪文を細分化する」というアイデアでした。これによって,新しいアーキタイプを生み出すことができます。例えば,先程公開した「ブルカン」は自然呪文にだけ呪文ダメージを追加するため,自然呪文を多く持つシャーマンにとっては強力なシナジーを生むカードとなるでしょう。同時に,WoWにも存在する呪文系統の区分けを導入することで,その点でも懐かしさや親しみを感じさせる要素になればいいと考えています。
Breeden氏:
“WoWにルーツを持つ作品としてのハースストーン”を強調するのはもちろんですが,ワイルドからのカードが再録される「コアセット」が導入されることもあり,昔のカードに手を加えるにはいいタイミングなんです。(呪文系統は)カードパック固有のメカニズムではなく,ハースストーンにおける基本ルールを追加した,と捉えると理解がしやすいでしょう。
――呪文系統を実装するにあたっての開発エピソードや,それ以前に出たアイデアなどがあれば伺いたいです。
Breeden氏:
近いメカニズムとしては,WoWに存在するSpecialization(専門)を導入してクラス内を細分化する仕組みも検討していました。例えば,WoWのウォリアーには「Arms」「Fury」「Protection」という3種類のSpecializationがあり,そこから選んだものによって使えるスキルなどの構成が変化します。
ただ,その仕組みをまるごとハースストーンに導入するとなると,10クラスに各3つのSpecialization,合計30種類ものバリエーションを管理する必要が出てきてしまう。これは多すぎますよね。対して,7種類の呪文系統を導入するだけであれば,管理可能な範囲に収まります。例えば“炎の呪文”をカテゴリにまとめれば,複数のクラスをまたいだ分割も可能になり,直感的にも理解しやすくなるでしょう。そういった流れで,呪文系統のアイデアにたどり着いたというわけです。
――「英雄の書」ではハースストーンでお馴染みのキャラクターが登場していましたが,新要素の「傭兵の書」はどういった内容になるのでしょうか。
Chayes氏:
(グリフォン年では)1年を通してWoWの新人から英雄に成り上がっていく物語を伝えたいので,そこで登場する新たなキャラクターのお話が「傭兵の書」で語られます。先程も紹介したシャーマンのブルカンも,この中に登場する傭兵のひとりですね。もちろんWoWでお馴染みのキャラクターも登場しますが,可能な限りWoWのお話を知らなくても楽しめる内容にしています。
また,拡張セットだけでは語りきれない物語を補完する意味合いもあります。これから1年を通して,みなさんが新たなキャラクター同士の交流を知り,成長を楽しめるようなコンテンツにしたいですね。
――「ハースストーン マーセナリーズ」についてはいかがでしょう。いわゆるソロ・アドベンチャーではなく,新たなモードを追加する狙いはどこにあるのでしょうか。
Chayes氏:
開発初期なので語れることは少ないのですが,マーセナリーズはWoWの人気キャラクター……ラグナロスやシルヴァナス・ウィンドランナー,そしてキングクラッシュでチームを組んで戦う,ローグライトなシミュレーションRPG風になる予定です。
ハースストーンは常に新しい遊び方を追求しています。プレイヤーにとって馴染みがある要素を元に,一味違う体験を生み出したバトルグラウンドが良い例ですね。それと同様に,スタンダード・ラダーとは異なる体験ができる場所として,この新モードを提供したいと考えています。
――ダークムーン・レースでは,シーズンの途中に「アップデートセット」がリリースされました。今年の拡張セットでも近い施策を行う予定はありますか?
Chayes氏:
アップデートセットの評判はなかなかいいですね。アップデートの合間で落ち着きがちなメタへのカンフル剤として,良い機能を果たしてくれました。今後もそうした,メタに新しい風を吹き込むような試作は続けていきたいと思います。
「ハースストーン」史上初のアップデートセット“ダークムーン・レース”が1月22日にリリース。レジェンド4枚を含む全66枚を一気に入手できる
Blizzard Entertainmentは2021年1月20日,デジタルカードゲーム「ハースストーン」で1月22日に実装を予定しているアップデート“19.4”のパッチノートを公開した。その中では,全66枚の新カードをまとめて入手できる「ダークムーン・レース」や,バトルグラウンドとデュエルの調整に関する情報が明らかにされている。
――コアセットについてもお聞きします。現状で発表されている範囲で,コアセットは基本やクラシックセットと比較して明らかに強力ですよね。これはゲームへの参入障壁を減らす試みのひとつかと思いますが,それ以外にも何かの意図があるのでしょうか。
Breeden氏:
おっしゃる通り,基本とクラシックは現在のメタゲームにおいて中心的でないカードが多くなっていました。ですから,コアセットの導入によって「すぐ対戦に飛び込めるデッキ」が作れるようになり,初心者にとってはいい環境になると思います。
また,コアセットには過去のカードも含まれているので,昔の強力なカードを現在のメタで使える喜びを提供できるのはもちろん,デザインチームとしても過去のカードを前提にした新しいカードをデザインできます。このように,コアセットによって過去・現在・未来のカードを調和させられるのではないか,と我々は考えています。
オンラインイベント「BlizzConline」のオープニングセレモニーは日本語字幕付きで配信。複数タイトルのアイテムを収録した特別なバンドルも発売
Blizzard Entertainmentは2021年2月2日,2月20日と21日に開催を予定しているオンラインイベント「BlizzConline」の詳細な情報を公開し,2月2日7:00にスタートするオープニングセレモニーを日本語字幕付きで配信すると発表した。それに合わせて,複数タイトルのゲーム内アイテムを収録したバンドル「セレブレーション・コレクション」もリリースされた。
――コアセットに収録されるイセラ,マリゴス,デスウィングのリニューアルが発表されましたが,残ったノズドルムとアレクストラーザにも変更が期待できるのでしょうか。
Chayes氏:
もちろん,コアセットではリニューアルされた五大竜とも出会えます。ぜひご期待ください!
――ドラゴンたちはハースストーンの象徴的な存在ですが,そんな彼らをリニューアルする理由はどこにあるのでしょうか。
Liv Breeden氏:
まさに,ドラゴンたちはハースストーンにとって重要な存在ですから,まずコアセットに入ります。ですが,ノズドルムなどはゲームデザイン的に挑戦的過ぎる部分があり,現在のカードとの組み合わせを考えるのは簡単ではありません。そこで彼らにリニューアルを施し,ほかの新カードとのシナジーを作れるようにしたかったんです。
――では,もう少し細かな部分にも触れたいと思います。バトルグラウンドでは新種族「キルボア」の登場すると発表されましたが,これはどんな特徴を持った種族なのでしょうか。
Chayes氏:
血の結晶である「BloodGem」を扱う種族で,BloodGemを生み出すキャラクターや,BloodGemを保管することにこだわるキャラクターなどが登場します。1ターンの中で色々な選択を迫られる,今までとは違った遊びが楽しめますよ。
――シャーマンのヒーローパワーから呪文ダメージトーテム(怒れる大気のトーテム)が置き換えられますが,この意図をお聞きしたいです。
Chayes氏:
呪文ダメージトーテムは,自分がダメージ呪文を持っていない時は役に立ちませんが,時には「このトーテムを引くかどうかで勝負が決まる」といった重要な存在にもなる,なかなか面白い存在です。しかし,他のトーテムと比較すると役割の大きさに差がありすぎます。いずれかの性能を突出させないため,今回の調整に踏み切りました。
――これは現在のシャーマンの性能を鑑みての措置なのでしょうか。また,今後もヒーローパワーに直接手が加えられる可能性はあるのでしょうか。
Chayes氏:
今回の調整は「4種のトーテムのうち1種の性能が突出している」という理由での調整で,シャーマンの立ち位置を調整するためのものではありません。また,各クラスのヒーローパワー調整についても考慮はしていて,完全に考えを閉じているワケではありません。可能であれば2ターン目にやることがないプリーストの暇な時間をなんとかしてやりたいという気持ちはありますが,現状のヒーローパワーの性能には満足しています。
――では最後の質問です。ゲームの基礎的な仕組みに大きく手が加えられたことで,ワイルド環境にも何かしらのテコ入れがあるんじゃないかと期待しているプレイヤーもいるかと思います。そちらについてはいかがでしょう。
Chayes氏:
ワイルドは懐かしのカードを使ってクレイジーな戦いを楽しむ場所です。強すぎる組み合わせにナーフを叫ぶ声もありますが,逆にここでしかできない面白い組み合わせも沢山あり,バランスを取るのはかなり難しいと思っています。
開発チームとして言えることは「楽しくクレイジーに,でもヤリ過ぎは厳禁」です。特定のデッキがあまりにも無双しすぎているようなら何かしらの対策は取りたいと思っていますが“何が起こるか分からない場所”を維持するため,極力はそのままにしたいですね。
――ありがとうございました!
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(C)2017 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.
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提供:G123