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[インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】
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印刷2023/06/30 12:00

インタビュー

[インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】

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 バンダイナムコというグループの中には,実にさまざまな会社がある。
 持株会社である「バンダイナムコホールディングス」のもと,読者の皆さんに一番馴染みがあるであろう「バンダイナムコエンターテインメント」BLUE PROTOCOLで存在感をさらに大きくした「バンダイナムコオンライン」,ゲーム開発の「バンダイナムコスタジオ」,“バンナムナムコ”の名前が付かないところでは,「ディースリー・パブッリシャー」もバンダイナムコグループの会社だ。
 ほかにもいくつもの会社があるのだが,その中に「バンダイナムコネクサス」という,社名からは一見何をしているのか今ひとつ分からない会社がある。「エンターテインメント」「オンライン」「スタジオ」はなんとなく想像が付くが,「ネクサス」とは何なのか。グループ内で何をしている会社で,どういう立ち位置なのか。
 バンダイナムコグループの「主要グループ会社」「エンターテインメントユニット」のところを見ると,

オンラインゲームおよび配信するプラットフォーム、IPファン向けサービスの開発・運営・分析など

と書いてある。分かるような,分からないような。ここだけ読むと,なんか地味そうだなぁというイメージはある。

 でもそんなネクサスが,「新しく人を採用したいので,会社のアピールをしたい」と言ってきた。確かに何をしているのか興味があるし,(失礼ながら)新規採用に向けて何をアピールするのか,すごく聞いてみたい。そんなわけで,バンダイナムコネクサスの代表取締役社長である手塚晃司氏にご登場いただき,いろいろとお話を聞いてみることにしよう。

バンダイナムコネクサス 代表取締役社長 手塚晃司氏
実は,4GamerがソフトバンクのDOS/Vmagazineの中にあったころからのお付き合い。とても久しぶりに名前をお見かけしたと思ったら,たいそう偉くなっていてビックリした
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4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 ……と改まって挨拶してますが,古くからの知り合いというのは本当にインタビューしづらくてですね……。

手塚氏:
 本当ですよね(笑)。

4Gamer:
 とはいえ直接お話するのは久しぶりだし,そんなに表に出る人ではないので,改めて経歴からお願いします。

手塚氏:
 ではそもそもの話からすると,私が初めに入社したのはイマジニアという会社でして,そこで初めてお会いしたんですよね。

4Gamer:
 そうですね。まだ4GamerがなくてDOS/Vmagazineだったころです。

手塚氏:
 そうそう(笑)。当時は,カバーの谷郷さんが直属の先輩でした。
 それでご存知の通り,イマジニアってすごくいろんなゲーム作ってました。ゲームボーイとか一生懸命やって。

4Gamer:
 メダロット懐かしい。

写真は2013年のTGS会場から(関連記事
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手塚氏:
 そう,メダロット! メタビーっていうキャラの着ぐるみの中に入って,街のおもちゃ屋さんとか横浜そごうとかで,握手会とか撮影会とかやってましたよ。懐かしいなぁ。

4Gamer:
 当時のゲーム会社はどこも人遣い荒かったですからね。

手塚氏:
 そう,基本ハードワーク(笑)。まぁでも確かにあのころはどこも同じだったかもしれない。
 そこに4年半いて,当時もう「iモード」が立ち上がりの時期だったので,PCのほうでネットワーク系やってたなら……ということで,そのスキルが使えるバンダイネットワークスに転職して。

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 「鉄拳」シリーズプロデューサー・原田勝弘氏による対談企画「原田が斬る!」の第9回をお届けする。原田氏が今回の対談相手に選んだのは,大手VTuber事務所・ホロライブプロダクションの運営で知られるカバーの代表取締役社長CEOの谷郷元昭氏だ。

[2022/06/24 12:00]

※イマジニアでiモードの担当になっていたことは,谷郷氏のインタビューでも触れられていた

4Gamer:
 バンダイネットワークスってガラケー時代にすごく強かったイメージがあります。

手塚氏:
 そう。で,そこからモバイル畑がずっと長かったですね。それこそ,いろんなキャリアさんの仕事とかもずっとやってて楽しくなってきたぞ……と思ったら,会社が合併しちゃいまして。ゲーム会社と(笑)。

4Gamer:
 大きいグループ会社あるあるですね。

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手塚氏:
 バンダイネットワークスの合併先が「バンダイナムコゲームス」でして,じゃあもう一回ゲーム作れという話になったのでゲームを作り始めて……。
 それこそ,当時はまだモバグリ(モバゲーとグリー)の時代でしたけど,だんだん「iPhone超すげー!」みたいな感じになってきてて,これでめっちゃいいゲーム出来るじゃんということでガンダムエリアウォーズという作品を……ちょっと自己主張してもいいですか?

※バンダイネットワークス株式会社(2000〜2009)は,2009年4月1日にバンダイナムコゲームスに吸収合併され,同社のNE事業本部となる

4Gamer:
 ぜひ。

手塚氏:
 ガンダムエリアウォーズは,街中で遊ぶ位置ゲーなんですよ。街を歩くと,ザクとかいろんな敵モビルスーツが出現するんですけど,出現地まで行くとARで等身大のモビルスーツが出てきて,自分のモビルスーツで倒すんですよ。ポケGOよりも5年くらい前にやってるんですよ。すごくないですか!

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 バンダイナムコゲームスは,AR(拡張現実)とGPSを用いるiPhone用ゲームアプリ「ガンダムエリアウォーズ」の配信を,本日(2011年9月30日)スタートした。価格は初回ダウンロードが85円で,以後はアイテム課金制。本日から10月31日までは,初回ダウンロードが無料となる。

[2011/09/30 13:39]

4Gamer:
 なるほど,それが言いたかったんですね(笑)。

手塚氏:
 そう! でも,当時はスマホのスペックが足りなさすぎて,ほぼARが動かなかったという……。

4Gamer:
 あれ何年ごろでしたっけ。

手塚氏:
 えっ,何年だろう……ええと,11周年くらいでサービスが終了してしまったんですけど,それが去年。去年は2022年だから,11年……そう,2011年くらいの話だと思います。まだiPhoneが4とか4Sとか,それくらいの時代。そんな時代に,ARゲームに果敢に挑戦してたという。

4Gamer:
 ちゃんと書いときます(笑)。

先日8周年を迎えた「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」いまやバンダイナムコエンターテインメントの収益を牽引する存在となっている
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手塚氏:
 ぜひ。まぁそんないろんなことをやってきましたけど,僕のプロデューサー人生の転換となった作品としては「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」iOS / Android)というタイトルがありまして,今も大好評配信中となっております。

4Gamer:
 知らない人はいないタイトルですね。4GamerでSensor Towerのデータを使った連載をしてますが,そこを見てると一体累計でいくら稼いでいるのかという……。

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 Sensor Towerによれば,「ドラゴンボールZ ドッカンバトル」の世界累計収益は37億ドル(約5000億円)を突破し,バンダイナムコエンターテインメントの収益を牽引する存在となっている。本作は,先日8周年を迎えたパズルRPGだ。8周年イベントの期間中には,App StoreとGoogle Playで1位を獲得した。

[2023/02/24 12:06]

手塚氏:
 でも基本的にはさっき指摘があったように,僕の名前はあんまり表に出てないですね。ちょっと前は,スマホ系のプロデューサーが顔と名前を出すのはよくないという時代だったので。

4Gamer:
 それは業界全体……でもないですよね。企業文化ですかね。

手塚氏:
 そうですねおそらく。掲示板とかで叩かれたりすることもありますしね。

4Gamer:
 なるほど。でもまぁ昔から携帯系の人はあんまり表に出ない気がします。

手塚氏:
 そうですね。モバグリの時代でも,プロデューサーってあんまり表に出なかったと思います。当時は配信番組なんかもなかったですしね。
 その後の「ドラゴンボール レジェンズ」,「ONE PIECE トレジャークルーズ」とか「ONE PIECE バウンティラッシュ」とかずっとこのチームでやらせてもらっていて,僕がマネージャーで,部下たちがプロデューサーとして立って……という構成でスマホ事業を立ち上げていった感じですね。

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 さまざまなデータや分析環境を提供しているSensor Towerによれば,スマホアプリ「ONE PIECEトレジャークルーズ」の2022年5月の日本での収益が,1700万ドル(約23億5000万円)以上を記録したという。5月は本作がサービス開始8周年を迎えた月。1700万ドル以上という数字は,過去最高であるという。

[2022/07/20 13:38]


分析をちゃんとしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです


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4Gamer:
 そこまではサクセスストーリーなんですが,そこから何をトリガーとして,いまのネクサス(バンダイナムコネクサス)につながっていってるんですか。

手塚氏:
 あぁそれは割と明確で,「ドッカンバトル」って最初は今と比べると売上が少なかったんですよ。

4Gamer:
 あれ,そうなんですね。

手塚氏:
 はい。不具合が多かったこともあるんですけど,各方面からの期待値には届いてなくて。なんとかしないと……というときに,内部で分析をしてみたんですね。

4Gamer:
 それらしい話になってきました。

手塚氏:
 アプリを分析って,その当時はまだうちでは全然やってなかったんですけど,どういう理由で,どこがダメなのかということを分析して,その結果をもとにして改善,ということを繰り返してみたんです。
 それこそ何百という数の改善をしていたら,これがやるたびにどんどん数字がよくなっていって……。それがきっかけで「分析にちゃんと取り組むべき」となったんです。

4Gamer:
 どうしてもこの業界は,勘とかフィーリングが強い側面がありますしね。

手塚氏:
 そう。「こういうのが面白いんじゃない?」みたいなのを勘で言ったり(笑)。
 まぁでもゲームってやっぱりクリエイティブな仕事なので,そういう風になりがちなのはすごく分かるんです。でもそこをちゃんと,お客さんがどういうことを思って,どういう行動を取ったのかを分かるようにして,直していきましょうと。そしたら売上が20倍くらいになったんですよ。

4Gamer:
 20倍! 戻ったら調べてみますね。20倍はちょっとすごすぎて気になります。

というわけで早速調べてみた。2015年1月21日にローンチした「ドッカンバトル」は,確かにしばらくは鳴かず飛ばず。それが,1周年を過ぎたあたりの2016年2月5日に突如大きい山が来て,以降散発的に売上が大きくなっていき,常に売上の立っている状態になった(Sensor Towerのデータより)
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手塚氏:
 まぁそんなこんながあって「このノウハウはほかのタイトルでも使えるよね」という話になり,BNEでそういう事業を,中に取り入れるようにしてきました。
 でも実際にやってみたら,そういうことができる人って当時はあんまりいなかったんですよ。

※BNE:バンダイナムコエンターテインメントの略称

4Gamer:
 そのころのゲーム業界だと,そうかもしれません。

手塚氏:
 分析って何? みたいな時代でしたしね。人がいなくて,作業をお願いしていた会社はあったんですけど,そこでもラインを増やすのが結構大変……みたいな話もあったので,これはもう自分のところで採用して,いろんなタイトルを見れば横比較もしやすいし,うちの独自の強みになるのではと思って,中で会社を作ろうと動きはじめたんです。

4Gamer:
 それがBXD。

※2017年8月3日,ドリコム社と合弁でBXD設立。2021年3月1日,社名をバンダイナムコネクサスに変更。

外部サイト:バンダイナムコネクサス5周年の軌跡


手塚氏:
 はい。そのBXDを作る1年くらい前に,どうしたものかと考えてたんですが,以前からお付き合いさせていただいてたドリコムの内藤社長と話してるときに,HTML5でゲームができるようになりましたっていう話もあって,じゃあこれを使って,新しいプラットフォームの立ち上げと同時にデータ分析ができるチームを……みたいな。

4Gamer:
 欲張りです。

手塚氏:
 中に抱え込めたら,お客さんのことがもっともっと分かるようになるよね! と大いに盛り上がりまして(笑)。

4Gamer:
 でもこれいまずっと聞いていて気付いたんですが,何気に手塚さん,黎明期から全部自分のこととして見てきてるわけですよね。結構強いかも。

手塚氏:
 確かにそうですね。基本的には誰もやってないところをやろう,と心がけてきたんですけど。

4Gamer:
 ええ。

手塚氏:
 これメリットがあって,誰もやってないから怒られないんですよ。

4Gamer:
 あ,分かります。

手塚氏:
 かつて4Gamerさんもそうだったんじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。大昔はWebだけで完結してるメディアってあんまりなかったので……。

手塚氏:
 そう,前例がないから……。

4Gamer:
 誰も怒れないんです。

手塚氏:
 そう(笑)。さっき話に出たエリアウォーズの初月の売上なんて,ものすごく低いんですよ。ものすごく低いんですけど,誰もほかにやったことがないから,それが高いのか低いのか評価できなくて,「まぁがんばってるね」みたいな感じになって助かったり(笑)。

4Gamer:
 似たようなことは結構ありました。

手塚氏:
 黎明期ってそんなもんですよね。理由は後からいろいろ付けられるし。

4Gamer:
 最初はエイヤで結構適当なんですよね。

手塚氏:
 そう。でもやっぱこうフルスイングで振りにいかないとな,というのもありました。安定収益があるうちに次,さらに安定収益ができたらさらに次……という形で今までやってきています。

画像集 No.009のサムネイル画像 / [インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】

4Gamer:
 でもいまの話聞いてて思ったんですが,ガラケー時代からネイティブアプリになって,その過程で,ゲーム業界とはあまり関係のない会社さんも結構外から入ってきてましたよね。外から来た人たちは分析してなかったんですかね?

手塚氏:
 どうでしょう……。まぁでもあの当時って,まだモバグリからの流れが続いていたので,決められたシステムにハメ込めば勝てる,みたいな流れがありましたし。

4Gamer:
 確かにそういう時代,しばらくありましたね。

手塚氏:
 パズドラが売れたらみんなパズドラっぽいものを作る,そんな時代。でもその中でも「当たるもの」と「当たらないもの」があったわけで,それは一体なんでだろう? ということを,少し分かるようにしたかったんです。

4Gamer:
 改めて聞くと,そういう試みが業界で大きくなってなかったのはちょっと意外です。

手塚氏:
 出来る人もホント少なかったですよ。3人とか4人とかのチームでやってる場合が多くて。

4Gamer:
 そもそもゲーム業界にそういう人が少なかったのでは?

手塚氏:
 いないですねえ。海外には結構いたりするんですけど。
 なので,そういう会社にいたけど移ってきた人達が多いです,ここ(=ネクサス)は。3人とか4人とかで頑張ってやってたのに,なんで移ってきてくれたの? と聞くと,これがお約束のような。

4Gamer:
 データが評価されなかった的な?

手塚氏:
 そうです。プロデューサーだったり上長と話をした時に「分析をしてみたんですけどこういうことだと思います」といくら説明して事実を伝えても,「感覚優先」になりがちらしいんですよ。

4Gamer:
 またそれはホントにお約束というか……。

手塚氏:
 そう(笑)。でももちろん,感覚を否定する必要もないと思ってます。
 それについては,私も会社で右脳と左脳の話をよくするんですけど,右脳のところで,ひらめきだったり,これちょっと面白くない?というのが発生したら,左脳の論理の部分とかデータの部分とかを使って,それを補強してみんなで共有化すればよいと思うんです。

4Gamer:
 そうですね。

手塚氏:
 それこそネットの世界になって,PVがどうだったとか,なんでこれが落ちてるんだとか,そういうことがもうリアルタイムで見えるわけじゃないですか。

4Gamer:
 ホントいやですあれ(笑)。

手塚氏:
 まぁ(笑)。でも「こういう見出しにしてみよう」とかやってるわけですよねきっと。それと同じことをゲームの方でやってる感じですね。

4Gamer:
 困ったことに数字は嘘をつかないですから。

手塚氏:
 そうなんです。

4Gamer:
 少なくとも一面の真実ではあります。そしてそれに追われ続けるという。

手塚氏:
 そうそう(笑)。


アナログで我々にしか取れないデータを見ていくと,「売れるIP」には共通する兆候があります



手塚氏:
 コンソールも最近,1回を1年で売り切るのではなくて,5年とか6年とかずっと売り続けているビジネスへと変貌してますよね。

4Gamer:
 そうですね。

手塚氏:
 ドラゴンボールで言うと,「ゼノバース2」というゲームが本当にずっと売上も本数もキープできてますし,DLCの売上もずっといい感じなんです。あれこそ,本当にお客さんと向き合って長い時間が経っていて,プラットフォームとしてやっているものになってるので,そのノウハウを,今社内でガッチャンコしているという感じですね。

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4Gamer:
 コンソールゲームのビジネスも,昔に比べたらずいぶん変わりましたもんねえ。

手塚氏:
 変わりましたね。

4Gamer:
 確かにそうなるとデータだったり分析だったりが,非常に重要になってくると思います。普通のプレイヤーさんだと,メディアなどで表に出るランキングしか見られないので気付かないことが多いですが,DLCなんかその最たるもので「これこんなに売れてるの!?」みたいなことよくありますし。


手塚氏:
 ありますよねそういうの。

4Gamer:
 IRとかを注意深く見ないと分からなかったりしますけど。

手塚氏:
 そういう積み重ねのところが実は大きくて,いま話に出たDLCなんて,一般のお客様からは,もうまったく売り上げが見えないわけですよ。でもライフタイムでの売上で言うと,実はかなり大きかったりするんですよね。

4Gamer:
 しかもパッケージよりたぶん利益率いいですしね。

手塚氏:
 だから今は,ゲームの設計的にもちゃんと運用に耐えられるようなものを作っていこうという形になっていて,まさにいまネクサスがそこをやってる感じです!

4Gamer:
 なんかキレイにまとめましたけど,お話を聞く限り完全にグループ全体のことを見ている感じですね。

手塚氏:
 そうです。初めはBNEのゲームからスタートして,今は……例えばアミューズメント施設やトイホビーの分析だったり。

4Gamer:
 なんかめっちゃ楽しそうです。

手塚氏:
 めっちゃ楽しいですよ!
 今まで知ることのなかったデータというか,知ることのなかった世界の話を数字で見ると,こういうことをやったらこう変わるのか……ということが,裏側まで分かるじゃないですか。

4Gamer:
 楽しいですよねえ。僕も,Sensor TowerとかSimilarwebとか見るのが大好きです。
 でも先ほど「いろいろできるようにBXDを作った」とおっしゃってましたけど,BXDが作られたころから考えたら,ずいぶん役割も変わってきたのでは。

手塚氏:
 変わってますね。

4Gamer:
 求められるものも。

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手塚氏:
 はい。
 初めはenzaというプラットフォームを作って,enza自体も,いろんなグループのいろんな機能をまとめられるようにしてあって。このおもちゃを買ったら,シリアルコードを使ってゲームの中でいいことがあるよ,みたいな連動ができるように作ったプラットフォームです。
 でもそういうのでいろいろなものをつなげていく中で,いろんな人と知り合うことができまして。需要予測しても在庫が余っちゃうのはどうすればいいですかとか,逆にもっと売れたのに機会損失をしてしまったとか,なんなら製造してなかった(笑)とかまであって,そういうのをなくしましょうということで,もうenzaを経由しないで直接の連携を図っているんです。

4Gamer:
 じゃあ逆に言うと,いろんなデータを取り扱っているわけですね,いまネクサスは。

手塚氏:
 そうなんです。
 例えばIPで言うなら,これから来るIPってみんなが知りたい話じゃないですか。今ってゲームを作るのに4,5年くらいかかるので,これが売れたからと言って作り始めても間に合わないんですよ。

4Gamer:
 ですね。

手塚氏:
 じゃあどうするかというと,例えばアミューズメントのクレーンゲーム。クレーンゲームでどういうものが多く取られていて人気なのかというものが,お客さんの直接人気度を測る重要なバロメータになっていて。

4Gamer:
 あぁなるほど。なんでも持ってるバンナムグループの強みですね。

手塚氏:
 ええ。当然Googleトレンドも見たりとかしますし,ほかにもいろんなデジタルのデータがあるんですが,アナログで我々にしか取れないデータというものがグループの中にたくさんあって,それらを見ていくと「売れるIP」に共通する兆候があったりとかします。

4Gamer:
 数字は嘘をつかないと言いましたが,その中でもやはりリアルデータは重みが違う気がします。

手塚氏:
 そういう部分はありますね。この年代のこのくらいの客層にすごく人気が高いとか,課金してもらっているとか,物販がすごくよく回ってますとか,そういう話があったとして,ほかのIPでこのあとこれくらい伸びたから,じゃあ今投資してもいいよねとか,ゲームを作ってもいいよねとか,そういうことができるようになっているんです。

4Gamer:
 実際に相関関係はあるんですか?

手塚氏:
 あります!

4Gamer:
 やっぱりそうですよねえ。Wantedlyに載ってたやつですよね。

手塚氏:
 そうです,そうです。あれです。

外部サイト:バンダイナムコグループのIP軸戦略を支えるIP予測分析の紹介(Wantedly)


4Gamer:
 リアルデータこそ取れませんでしたが,オンラインゲーム全盛期になる前の,まだパッケージ流通が強かったころ,4Gamerも「パッケージ初報のリリースのPVと売上本数には相関関係があるんじゃなかろうか」と思って,検証したことがあります。当時はまだソフトバンクグループにいたので,データも見せてもらえましたし。

手塚氏:
 どうでした?

4Gamer:
 ブレはありましたけど,有意であると思われるデータは結構ありましたね。なんか,それのもっと巨大版ですよね。

手塚氏:
 そういうのもありますし,例えばゲームを作るのっていまAAAクラスだと4〜5年,数十億かかっちゃいますけど,ガシャポンだったら,クイックに作れたりするじゃないですか。

4Gamer:
 はい。

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手塚氏:
 なので,それでまず反応を見て,これくらいのスピードで売れたらじゃあ次はこれ,その次はこれ,というフェーズを切りながらIPの成長を見ていくことも,出来たりします。

4Gamer:
 なんか,ずるいな……。

手塚氏:
 そうかもしれません(笑)。
 でも僕らはどちらかというと,版元さんと一緒にそのIPを盛り上げようというのが大きいんです。過去の事例から見たら,こういう仕掛けをご一緒したらもっと盛り上がりますよとか,こういう配信番組をやった方がいいですよとか,いろんなご提案を版元さんに差し上げて,一緒にそのIPを盛り上げる方法を考えていきたいですね。


事業部ごとに分断していたデータやシステムをまとめるハブとなるのが,バンダイナムコネクサス



4Gamer:
 しかしデータサイエンス系って,最近はなかなか注目されてますけど,いま何人くらいでやってるんですか?

手塚氏:
 いま全社員で60人以上います。

4Gamer:
 あれ,すでに結構いました。

手塚氏:
 毎年10から20人くらいずつ採用していて,今年の目標は30人弱くらいです! 皆さんよろしくお願いします!

4Gamer:
 その前にどんな方を採用したいのかちゃんと言ったほうがいいですよ(笑)。というかいま思い出したんですけど,そもそもバンダイナムコネクサスというのはどんな会社なのかとか……。

手塚氏:
 あ,会社のことを全然説明してない。

4Gamer:
 です(笑)。

手塚氏:
 すいません,どんどん話が進んでしまった(笑)。
 まず大きく分けて,会社は3つの部門に分かれているんですけど,まず「経営推進部」。これは普通の会社のバックオフィスのような感じですが,それよりはちょっと範囲が広く,経営企画や広報,人事・総務・法務などをやっている部署です。
 次が,今までずっとお話してたような「データ戦略部」。データサイエンティストはもちろんですが,データクレンジングの専門の人もいたりします。

4Gamer:
 その名のとおり,データをキレイにしてくれる人ですか?

手塚氏:
 そうです。Rawデータって割とごちゃごちゃなことが多いんですが,データクレンジング担当がちゃんとキレイにしておいてくれないと,その後のデータサイエンティストとかデータアナリスト達が,キレイで正確な分析ができないという重要パーソンです。

4Gamer:
 そういう人もいるんですね。

手塚氏:
 はい。データでいろんな仕事をできる人が,いろんな業界から集まってきてくれていて,その人たちでグループ全体の分析をやらせてもらっています。もちろん分析なので,あくまでも分析結果として「こういうことをしたほうがいいですよ」という提案とかが中心です。
 そして「IPエンハンス部」は,例えばその提案を使って,どうやったらIPとして盛り上がるかということを,版元さんだったりプロデューサーと一緒に動かしていくチームです。

4Gamer:
 なるほどリンクしてるんですね。

手塚氏:
 こういう場で言っていいことだと何があるかな……あんまりないかもしれません(笑)。例えばIPのイベントっていろんなところで……それこそ世界中でやってるんですけど,そこの裏側でお客さんとどう向き合うかとか,そういうことをしています。
 ちなみにそういうのって,今までは商品別に,いろんな会社に担当がいたんです。

4Gamer:
 ネクサスが絡むとそれも変わる?

手塚氏:
 各社の担当は,もちろん自分の商品を伸ばすことを主に考えているんですけど,「IP軸戦略」と言いつつも,IP全体でお客さんが今どういう状況でどういうことに反応しているのかまとめる部署がなかったんですね。それをIPエンハンス部でハブとなって,こういうことをやっていけばこうやって盛り上がってきますよ,みたいなことを言う役割を担っています。

バンダイナムコグループIP軸戦略の概念図
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4Gamer:
 これ失礼な言い方だったら申し訳ないですけど,バンダイナムコぐらいIPを商品・サービス化していて,バンダイナムコくらいの規模があっても,そういう人はいなかったんですね。

手塚氏:
 そうですねえ。事業別の組織が基本だったからかもしれないですね。

4Gamer:
 なるほど。データも何もかも全部サイロ化しちゃってたんですね。

※サイロ化:組織の各部門が個別に資源をため込むだけの様子をサイロ(倉庫)に例え,情報が孤立して共有できていない状態を指す

手塚氏:
 そうなんですよ。それぞれの部門でデータを持っていて,それぞれの部門でどうやって売るべきかを考えていくスタイルです。でもそれは,逆に競争力を生み出すんですけどね。

4Gamer:
 確かにそうだと思います。

手塚氏:
 あの部門よりも絶対売ってやる! みたいな盛り上がり方はするわけですし,それはそれで良いことだと思うんですけどね。でもブームがあったり,時期によって良い悪いというものが出てきてしまうので,そういうのを出来るだけ避けられるように,今はゲームがいいからゲームの方に投資をしましょうとか,いまはカードの方がいいですよとか,そういう戦略が取れるのではないかと。ONE PIECEとかは,まさにそんな感じだと思うんですけど。

4Gamer:
 なるほど。多方面に戦略的な目を向けて動けるようになると。

手塚氏:
 はい,そんな感じです。ONE PIECEが好きなお客さんって,ゲームしかしませんとか,漫画しか読みませんとか,そういう感じじゃないと思うんですね。アニメも観るし,ONE PIECEコラボのイベントに行っても楽しいでしょうし。お客さんの興味も色んなところに広がっているので,それをまとめて向き合えるシステムが必要だとなって,IPエンハンス部を作った感じですね。

4Gamer:
 最近は結構そういう動きが強くなってる気がします。例えば「ガンダムメタバース」とか「3.0 VISION」なんかがそうですけど。

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手塚氏:
 そうですね。両方とも後ろ側は僕らが深く関わっています。

4Gamer:
 プラモデルをあそこで買えるようになったりとか。

手塚氏:
 そうです,そうです。その前にビルダーズノートっていう,ガンダムのファンが集まって自分のガンプラについて自慢し合ったりできるような場所を作ってたり。

※ビルダーズノート:ガンプラを通じてファン同士がつながることを目指したコミュニティー機能「ビルダーズノート」。自分で製作したガンプラの写真を投稿したり,コメントをつけたりできる機能を搭載している。販売されているガンプラの商品情報を一覧で確認することや,商品情報を自身の投稿と紐づけることで,ファンガンプラ活動を記録・管理できる予定(関連記事

4Gamer:
 それこそメタバースですね。

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手塚氏:
 メタバースって,定義は色々だと思うんですが,3Dでチャットをする形だけではないかなと思ってて。みんながその空間にいたいと思える場所を作ればいいのかな,と思っています。なんならそれはテキストメッセージでもいいですし,写真という形でもいいだろうし。

4Gamer:
 すごく分かりますし,そういうのはどこかで講演したほうがいいですよ。

手塚氏:
 いやまあ(笑)。でも,3Dがいい人だってもちろんたくさんいるわけで,そういう人たちにはちゃんとそういうものを用意したいですし,いろんな受け皿があってもいいですよね。

4Gamer:
 グループ間を横断で動いてるネクサスは,もしかして本流のメタバースなんかにも絡んでます?

手塚氏:
 はい。全てのシステムではないですけど,一部システムは我々のほうでやってます。
 メタバースは様々な機能の集合体で,いままでは各社がそれぞれで個別に機能を作っちゃってたりしていたんですが、ニーズの高い機能を中心にうちがまとめようとしています。機能は同じでキャラとかアセットが違うだけ,ということも多いので。じゃあそのベースを我々が作って,ファンゲージという仕組みで作って皆さんに提供しますよ,ということをやってたりします。

※ファンゲージ(Fangage)とは,ファンベースでのアプローチを仕組み化することにより,IPや商品の価値を上げ,ファンとのエンゲージメント向上を目的とした取り組みです……とのこと。

「BANDAI NAMCO Nexus」事業紹介


※余談だがバンダイナムコグループは“ファンゲージ”が好きらしい。上は「Fangage」だが,違うファンゲージ(Fungage)もある。楽しいの「FUN」と,言語を意味する「LANGUAGE」を合わせた造語で,人やモノなどに,エンターテインメントで培った「アソビ」の力を取り入れることで,人々の行動を誘発して「FUN」を伝播させ,“楽しいつながり”を生み出すことを目指したデザインコンセプト……だそうです。(バンダイナムコ研究所


「これ使ってください」とお願いするのではなく,「使いたい」と言ってくれるデータビジネス



4Gamer:
 いやしかし,さっきからいろいろな話を聞いてますけど,これまた繰り返しになっちゃうんですけど,そういうデータを扱える方を数十人もいったいどこから探してくるんですか……?

手塚氏:
 ゴロゴロいたりしませんからね。

4Gamer:
 ではどういうところから?

手塚氏:
 講演会やカンファレンスでの登壇とか。

4Gamer:
 登壇ですか?

画像集 No.015のサムネイル画像 / [インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】
手塚氏:
 我々のやってることって,データ業界の中でも結構珍しいんです。新しい発想で,世の中のエンターテインメントをつなげていこうということを会社のミッションとしていることって,ほぼないと思うんですよ。
 そもそもこんなに“出口”がたくさんあるグループって,世界で見てもほとんど例がないことで,ほかの皆さんにとっても興味がある話なので,講演会やカンファレンス等で登壇するととても集まっていただけて,そこから応募していただいたりすることが多いですね。

4Gamer:
 確かに,データのアウトプット先がこんなに様々にあるグループは珍しいかもしれません。データを作ってどう使われるか,までが関与ですしね。

手塚氏:
 そうですね。うちのメンバーに言ってるのは,分析して報告して終わりではなくて,報告してそれが施策になって実施されて,お客様に喜んでいただいて,さらにそれを分析して……というサイクルが回って,初めて僕らの仕事なんです。コンサル的な分析をする会社とは違って,結果に対しての責任を持つわけです。

4Gamer:
 それは,データを扱う人としては珍しいパターンのように思うんですが,中の皆さんはどんな感じで捉えてるんですか?

手塚氏:
 すごく楽しいって言ってくれますね。それこそ対象となるIPが,ガンダムとかアイマスとかドラゴンボールじゃないですか。元々スタッフのみんなも好きなんですが,それを好きなお客さんが喜んでくれる姿が見られるということでモチベーションも高いし,退職率もめちゃめちゃ低いんですよ。

4Gamer:
 おお,そうなんですね。
 でも確かに,おっしゃるようにアウトプット先がこれだけあると,作ったデータの使い道も山ほどあるわけで,それはすごく楽しそうだなと思います。作っただけで使われないデータばっかりなのに世の中。

手塚氏:
 そうですね。ゲームが一番最初でしたけど,成功事例があることを,グループの中のいろんな人が知っているわけです。「ドッカンバトル」の売上が20倍になったこともよく知っているので,自分たちもデータを使いたいと言ってくれるわけです。

4Gamer:
 求められるデータであると。

手塚氏:
 はい。無理やり「これ使ってください」と押し込むのではなくて,使いたいんですと言ってくれたものに対して,じゃあこういうことができそうですねという形でスタートできるんです。データのビジネスという意味では,入り口のハードルがすごく低く済んでると思います。

4Gamer:
 売り込まなくて済むのは,確かに珍しいパターンかもしれませんね。

手塚氏:
 そうですね。おかげでスタッフのモチベーションも高いし,じゃあこれもできますかみたいな感じになってきてますし。なのでちょっと申し訳ないんですけど,手が空いてないのでちょっとだけ待ってくださいと言うことも増えてきて。

4Gamer:
 確かにドッカンバトルという前例はありましたが,実際にグループをデータでつないで横断していくときに,既存のカルチャーとかとハレーションを起こしたりはしなかったんでしょうか。

手塚氏:
 やはり,すぐに取り入れていただけるところと,そうではないところはありますね。なので,成果の見えやすいところから順にやらせてもらっていて,短期間でこういうレポートが出来て,こういうことをやったら良くなりましたという成果の積み重ねで,徐々に浸透させていってます。

4Gamer:
 そういうときでも,やはりドッカンバトルの成功が与える影響は大きそうですね。

手塚氏:
 かなり大きいです。特に僕はBNEの方のアプリ事業の統括もやってるんですけど,そっちは本当にデータ的な裏付けがないと,そもそも企画自体が通らないです。
 基本的にはまずデータがあって,データを超える発想だったりとか,データではここまでしかないけど,でもこういう新しいことをやるんでここを超えますというのは,許容します。なので,自分の壁打ち相手としてのデータがあって,それによって限界を超えてブラッシュアップしていくということをやらないと話はほぼ通らないルールなんですね。だからまあ,だいぶ鍛えられていると思います(笑)。

4Gamer:
 ある意味,フィーリングと真逆のアプローチですね。

手塚氏:
 そうかもしれません。でもフィーリングもないとちょっと,ね。
 ゲームを作ることに正解はないと思っているので,そこを,データが言う通りに作れということは言いたくないですね。自分の発想をブラッシュアップするためのツールです。

4Gamer:
 あとあれですね,データを扱っていると,そんなにセクショナリズムに陥らない感じがするんですけど,そのあたりはいかがでしょう? 数字と自分の向き合い……というか,事実と自分の向き合いというか。

手塚氏:
 そうなんですよ。情緒によって違うことを言われたりしないですからね。だってそれが事実なわけですし。

4Gamer:
 はい。

手塚氏:
 だってこうなってますよ。お客さんはこう言ってますよと言ったら,上の人達も黙るしかないですからね。下の人が戦うための武器だとも思ってます。

4Gamer:
 ブレないですからねえ。

手塚氏:
 そうですね。誤魔化しようがないので。
 それに絡んで,最近では海外の事業が半分ぐらいになってきているわけですよ。

画像集 No.016のサムネイル画像 / [インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】

4Gamer:
 バンナムさんだとやっぱりそれくらいになってるんですね。

手塚氏:
 そうですね。アプリはもちろんですが,家庭用ゲームも販売の中心は海外なんです。だから,日本人の肌感覚で「こっちの方が面白いのに」って言ってる場合じゃないんですよ。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです。

手塚氏:
 でもプロデューサーたちは,もちろん日本で生まれ育ってる人がほとんどなわけで,色味とか,表現演出とか,そういうものが本当の意味で海外で受け入れられるのかどうか,やっぱり分かりにくいんですよ。

4Gamer:
 はい。それもそのとおりだと思います。

手塚氏:
 なのでそこはやっぱり,数字として,データとして見るんです。この反応が良かったら,これは受け入れられているということだよねとか,ここでドロップしてるということは,この表現が良くないのかもしれないねとか,数字の裏側にお客さんの姿が見えてくるんです。

4Gamer:
 確かに日本のゲームが海外でローンチするとき,肌感覚……じゃないですけど,そういうものが合わないのはよく聞く話です。

手塚氏:
 そうなんです。例えば「緑色ってどういうイメージ?」というのも,各国で結構違うじゃないですか。

4Gamer:
 そうですよねえ。

手塚氏:
 「毒」って本当に緑だっけ? みたいな話とか。
 なので,例えばUIを決めるときとかも,実際に見てもらってABテストしたりもします。あと,CBTとかOBTでの反応を見ながらチューニングしていくとか。

4Gamer:
 大変そうと思いつつ,でもちょっと楽しそうですね。ある意味異文化に触れることにもなりますし。

手塚氏:
 これって反応がすぐ出るから,めっちゃ面白いですよ!

4Gamer:
 絶対そうですよね。

手塚氏:
 ゲーム作りって孤独なんですよ。作りながら「これ本当に売れるのかな……」って。

4Gamer:
 これで合ってるのかな,とか。

手塚氏:
 そう,俺たちはこれで面白いと思って信じて作ってるんだけど……みたいな。

4Gamer:
 永遠の葛藤です。

手塚氏:
 漫画家の先生とかも,やっぱりそういうところがあると聞いてます。

4Gamer:
 漫画家の先生ってひとり親方みたいなものですが,やっぱり不安と葛藤はあるんですね。

手塚氏:
 漫画においては“先生”ほどの神はいないわけですよ。セリフもキャラクターも背景も全部自分で決められるんだけど,アンケートでお客さんが何を言っているか,自分の感覚や発想がちゃんと受け入れられているかどうか。そういうお客さんの声も追われているんですよね。

4Gamer:
 商業クリエイターの皆さんの宿命ですよねそれ。

手塚氏:
 そうですね。売れて初めて,より多くの人に手に取っていただけるという部分も大きいですし。


タイトルや商品が合わなくても,「IPが嫌い」にはならない。IPそのものの強さを重視した仕掛けをする



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手塚氏:
 ところで「ネクサス」という社名は,絆とか繋がりとかそういう意味なんですが,グループの中の繋がりはもちろんなんですけど,お客さまとの繋がりをもっと強化していきたいと思っているんです。

4Gamer:
 それはどういう部分を指してますか?

手塚氏:
 お客様って,一度IPを好きになっていただけたら,すぐ嫌いにはならない……というか,長く好きでいただけているんですけど,やはり“商品”には寿命があるので,そこは短期間で切れがちなんです。でもIPそのものに対するお客様の状況が分かっていれば,次への投資とか,次への仕掛けというのがやりやすくなるじゃないですか。
 そのためのお客様との繋がりをすごく大事にしていて,IPとしてMAU(Monthly Active User)がどれだけ維持できているかをずっと追っかけたり。

4Gamer:
 確かに「タイトルが嫌い」「商品が嫌い」はあっても,「IPが嫌い」にはならない気がしますね。自分のことを思い出しても。

手塚氏:
 そうなんです。作品のことは,皆さんやっぱり大好きでいていただけるんです。
 同じIPでちょっと合わない作品とか商品があっても,次の商品には期待していただけるんですよね。

4Gamer:
 そうかもしれません。

手塚氏:
 それを毎年の売上だけで見ちゃうと,うまくいったとかいかないとか,そういうことを短期的に見ちゃうんですよね。
 例えば売上が低い年は,単に商材があまり出てないだけかもしれないし,低い年でもMAUが落ちていないのであれば,それは人気としてはきちんと維持できているわけで,次にもう1回仕掛けたらまた上げることができるよね,とか。言うならば「IP MAU」みたいなものを今掲げていて。

4Gamer:
 なるほど,分かりやすい指標かも。

手塚氏:
 それを毎年20%ずつアップしていきましょうという無茶ぶりを。

4Gamer:
 毎年20%!

手塚氏:
 はい(笑)。20%を4回掛けると元の数から倍になるんですよ!

4Gamer:
 かなりイケイケ感あります(笑)。
 ところで,そういうことをやっているツールって,全部内製なんですか?

手塚氏:
 内製です。プロデューサーが使いやすいツールとか,IP開発で活用できるツールとか,そういうものを中の部隊で作っていて,チューニングしていって。

4Gamer:
 機械学習なんかも全部そうですか?

手塚氏:
 そうですね。エンジニアも何人もいて,いまはやりのAIとかも中でやっているんですけど,まぁなにぶん著作権を取り扱うことが多いビジネスなので。いまの生成AIを無制限に利用するのは,リスクが大きいんですよね。

4Gamer:
 まぁ大手さんは今みんなそうですよね。

手塚氏:
 でもLLMを使って,グループ内でナレッジ共有するような内部用の研究はやってます。

※Large Language Models,大規模言語モデル。

4Gamer:
 バンナムグループって,学習データ山ほどありそうだし……。

手塚氏:
 めちゃくちゃデータ多いですよ!

4Gamer:
 いつくらいのからあるんですか?

手塚氏:
 AIをやり始めたのはここ1,2年の話なんですけど,データを入れ始めたのはもっと前からです。

4Gamer:
 でもまぁこの規模になると,さすがに全部中で作るんですね。

手塚氏:
 この規模じゃないと,逆にペイしないでしょうしね。これがあるからこそ,新しいことをする競争力になるとは思ってます。

4Gamer:
 そういうの作る人って,前は何をやってた人なんですか?

手塚氏:
 なんていうか……“大手IT系会社”さんですね(笑)。GAFAクラス。

※米国IT大手のGoogle,Apple,Facebook,Amazon.comの頭文字をつないだ造語

4Gamer:
 そういう人が転職するときに,バンナムIPは強いなぁ。

手塚氏:
 弊社に応募する前から,普通にライブとか行ってますしねみんな(笑)。

4Gamer:
 バンナムのそれはチートです。

手塚氏:
 どっちに転職しようかな,って思った時に……ね。

4Gamer:
 ずるい。

手塚氏:
 いやもうそこは,全面的にメリットとして打ち出したいです(笑)。

4Gamer:
 でも,自分の好きなIPのそばで仕事できるのはいいですよね。

手塚氏:
 はい,本当にいいと思いますよ。
 大変なこともいっぱいあるんですけど,ドラゴンボールとかONE PIECEとか,歴史に名を残す作品に関われてるというのは,すごく嬉しいことだと思ってます。

4Gamer:
 これ言い方が難しいんですが,ネクサスがやってる業務そのものって,派手か地味かで言ったら地味じゃないですか。表からは見えないし,自分がフロントに立って何かをするわけでもないし。でもそんなの関係なくなりますね,そういう嬉しさがあれば。

画像集 No.018のサムネイル画像 / [インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】
手塚氏:
 僕らは別会社として仕事を受けてるという意識じゃないんですよ。グループ全体を自分たちと一体化というか……なんだろう,支えてる……じゃなくて「一緒にやってる」感覚なんです。
 だからゲームを良くしようと思ったとき,僕らが言わなかったらゲームは良くならないので,プロデューサーと一緒の目線で責任を持ってますし。

4Gamer:
 なるほど,一体感。

手塚氏:
 はい。プロデューサー陣も,我々のことをそういうパートナーとして見てくれていて,下請けとしては見てないですね。むしろ「言ってくれないと困る」というか。

4Gamer:
 逆に言うと,そういう視点がないとなかなかいい働きは出来ないですよね。

手塚氏:
 はい。上っ面だけ入っても難しいだろうなとは思います。バンダイナムコとしてどうしたいのかという目線で,やらせてもらっているので。


“物”を扱い,お客様の心の部分を扱う会社なので,そこを中心に貢献できることが大きな魅力



4Gamer:
 しかしそういう重要な仕事をする人として,「こういう人がほしいな」みたいなのあります? と改めて。

手塚氏:
 ホームページとかにも書いてますけど,まず「自走力」ですね。

4Gamer:
 自走力。

手塚氏:
 はい。あと「ネクサス力」で合わせて2つ。
 元々僕らは社内ベンチャーのように立ち上がって,答えとかゴールとかやり方が分からないところからスタートしてるんですね。なにせ前例がないので。なので「ここまで行きたいね」というゴールは経営陣含めて設定しましょう,でもそこまでどうやって行けばいいかは自分で考えよう,と。
 歩いて行ってもいいし,楽してタクシーで行ってもいい。でも,とにかくたどり着いてくださいというのが,「自走力」です。

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4Gamer:
 なるほど。達成する力,みたいなものですね。

手塚氏:
 そういう人がちゃんといてくれるので,「こうやって行ってくださいね」という指示はほぼしたことがないですね。自分たちの力でたどり着ける人を採用しているので。

4Gamer:
 つまり決断力も必要ですよね。

手塚氏:
 もちろん必要です。目的地にたどり着けなかったら,責任は自分で取らなくちゃいけないので。
 でも,そういうことをやりたいんですという人がやっぱり多いんですよね。そういう空気に共感して入っていただくことも多いですし,ツールなんかもそうですけど,勝手に「こっちのほうがいいよね」と誰かが提案して,みんながそこに乗っかって作り上げていったり。そういう自走力が企業文化として定着してるので,そこに合う人に来てもらいたいと思ってます。

4Gamer:
 では「ネクサス力」は。

手塚氏:
 さっきの「つながり」という部分の“ネクサス”で,自分一人が分析できてよかったではなくて,つながった先の人たちがお客様と向き合っていて,結果としてお客様が一番幸せになっていただかなくちゃいけないわけです。なので,そこまで広げて考えられるのを「ネクサス力」という形で定義してます。

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(外部サイト)バンダイナムコネクサス:私たちが大切にしていること


4Gamer:
 その感じだと,その2つは手塚さんが「こういう人がほしい」って思ってるだけのもの……ではなさそうですが。

手塚氏:
 はい。人事評価に絡んでます。今年ちょうど一新しまして,この2つができているかどうかで給与が変わっていくんです。

4Gamer:
 明確ではありますが,求めている人は意外とハイスペックなのでは,と思います。

手塚氏:
 そこはそうですね。
 なんかみんなですごく楽しそうに数式の話とかずっとしてるんです。ついていけない(笑)。

4Gamer:
 AIとかやってる人もそんな感じらしいですね。「よく分かんない数学の式の話を2時間くらいオレにするんだよね」って,某社の執行役員が言ってました。

手塚氏:
 はははは,なんか分かります(笑)。

4Gamer:
 ステキな変な人達ですよね。
 でもそういう変な人がいっぱいいたほうがいいです。

手塚氏:
 それはちょっと真実で,ネクサス社員の中には業界の中でもすごいと言われてる人がいたりするんですけど,そうすると「あの人と一緒に仕事がしたい」という理由で入社したりしてくれるわけですよ。
 そういう意味では,業績を広げたいからって簡単に人を増やすようなことはしたくないなぁ,と。さっき20人だか30人だかって言いましたけど,なかなか厳しいんです。

4Gamer:
 まぁそう簡単じゃなさそうなのは,聞いてて分かります。

手塚氏:
 その「自走力」「ネクサス力」がないと,スキルだけあっても取らないですね。なので逆にレベルが保てていると思います。レベル保てているからこそ,ここで働きたいということにつながって,それが循環しているのかな,とも思いますし。

4Gamer:
 まぁそうですね。実はスキルは,後からなんとかなる部分も多いですし。

手塚氏:
 そうなんですよ。

4Gamer:
 でも仕事への姿勢とか,そういうものはあとから身につかない気がします。

手塚氏:
 そうなんですよ!
 あとやっぱり人生を預かるわけで,ここから10年20年,一緒に仕事をしたいかどうかということは,すごく見てます。

4Gamer:
 いやしかし,そういう人が60人もいたりするんですかホント。

手塚氏:
 いますね。自画自賛だけどいるのすごいと思う(笑)。

4Gamer:
 ホームページの記事とかも見てみたんですが,難しいこと書いてあるのかなと思ったら,意外と分かりやすかったという。

手塚氏:
 そうなんです!

4Gamer:
 こういうことをやってるよ,というのがちゃんと分かる,いい記事でした(笑)。

手塚氏:
 キャッチーであるよう心がけました。
 それに関しても,ホームページも5周年かなんかで会社全体として作り変えたんですけど,自分たちがやってることをどうやって,面白おかしく……ではないとしても,興味を持って分かりやすくお伝えできるかを心がけて,ガラッと変えたんです。

4Gamer:
 どんなところを意識したんですか?

手塚氏:
 ちょっとその……なんていうか,最先端IT企業みたいな感じの書き方は,違うなと思って。僕らは“物”を扱ってるし,お客様の心の部分を取り扱ってる会社なので,そこを中心に貢献できるということを,ちゃんと訴求していこうと思いましたね。

株式会社バンダイナムコネクサス 企業サイト


4Gamer:
 なるほど。耳が痛い最先端のIT企業もいそうですね。

手塚氏:
 だって「すごいネットワーク技術だから遊ぼう!」って普通は思わないですよ。それよりはむしろ,かめはめ波がすごいわけで,それを見て喜んでいただくわけで,そこが会社の根本ですよね。
 まぁ……うちの子たちは本当にすごいんですけど,BNEで採用活動したらたぶん採れないんですよ。人材要件が全く違いすぎて。

4Gamer:
 人材要件だけは会社によって結構違いますからね。

手塚氏:
 会社を分けたということは,採用という意味ではすごく良かったなと思います。

4Gamer:
 職人の集団的な。

手塚氏:
 やっぱり深掘りできる人がね。
 バンダイもバンダイナムコエンターテインメントも,やっぱり対応力の高いゼネラリストが多いんですよ。「どういうボールが来ても全部はね返せます」みたいな。

4Gamer:
 さすがです(笑)。でも確かにネクサスの要件は違うか。

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手塚氏:
 はい。どっちかというと,「ここの球が来たら絶対ホームラン打てます」みたいな。ほかの球は一切打てませんけど(笑)。

4Gamer:
 局地戦闘機みたいですね。

手塚氏:
 そうですね,スペシャリスト集団です。

4Gamer:
 ゼネラリストとスペシャリスト。時代もそれを求めているような気もしますし。

手塚氏:
 それをちゃんと配置できればいいわけですからね。

4Gamer:
 別に新卒とか限らず中途でも……と聞こうとしたんですが,新卒は採らないですよねきっと。

手塚氏:
 はい。

4Gamer:
 じゃあ中途で,腕に覚えのある人ぜひ,と。

手塚氏:
 ええ。梁山泊を目指してるので。

※「水滸伝」に豪傑たちが集まって梁山泊に立てこもったとされたところから,豪傑や野心家などが集まる場所の代名詞。「優れた人物が集まる場所」の意味で使われる。ちなみに豪傑は全部で108人が集まった。

4Gamer:
 りょ,梁山泊? 分析の?

手塚氏:
 はい,「データの梁山泊を目指す」とウチのスタッフが話してましたし。

4Gamer:
 じゃあ108人必要ですね。

手塚氏:
 はい,そう言ってました(笑)。

4Gamer:
 でも確かに集まっちゃうのも悪くはないですね。
 データの解析ってまだまだ発展/発達するでしょうし,集まればどんどんまた,加速度的にいろんなノウハウが増えていきそうで。

手塚氏:
 あと使い先のところも,もっと増えてくるだろうなと思ってます。今まではデジタルの世界が中心だったんですけど,それがどんどんアナログの世界に進んでいくわけで。

4Gamer:
 結局アナログに帰ってくるんですよね。

手塚氏:
 そうですね。

4Gamer:
 デジタルが進化することによって,逆にアナログの価値が再認識されてるのはホント興味深いです。
 メディアもそうです。紙から来て,これからはインターネットだ!ってWebになって,動画になって,また紙に戻ったりして。

手塚氏:
 いや,本当そうですよね。

4Gamer: 
 結局一番いやすい場所だったり,“体感”が重要だったり,そういうことなんだろうなと思います。
 そしてそれを最先端の技術で後押しするのが,ネクサスであると。

手塚氏:
 はい,そうです。よろしくお願いします!

4Gamer:
 あ,いい感じに締まりました(笑)。

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―――2023年6月1日 
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