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印刷2019/12/03 21:27

イベント

「Sky 星を紡ぐ子どもたち」がiPhone Game of the Yearを受賞。Appleが開催した「Best of 2019」の模様をレポート

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 Appleは北米時間の2019年12月2日,2019年内でもっとも注目されるべきアプリを選ぶ「Best of 2019」をニューヨーク市内で開催した。今回のイベントでは,さまざまな分野のアプリが対象となったが,本稿では,ゲーム分野の5部門ならびに,特別賞として日本の有名タイトルを含む複数作品がピックアップされた「Game Trend 2019 進化した名作ゲームたち」に焦点を当てて,イベントの模様をお伝えしよう。


iPhone Game of the Year

「Sky 星を紡ぐ子どもたち」 by thatgamecompany


 「Sky 星を紡ぐ子どもたち」は,これまでに「風ノ旅ビト」「Flowery」といった作品を世に送り出してきたJenova Chen(陳星漢:チェン・シンハン)氏率いるthatgamecompanyが,対応プラットフォームをモバイルに絞るという大きな決断を下し,7年もの歳月をかけて開発した渾身の作品だ。

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 会場に姿を見せたチェン氏に,その理由を尋ねたところ,3年ほど前にAppleからの助言により,売り切り型のビジネスモデルからFree-to-Play(基本プレイ無料)に切り替え,よりプラットフォームに合ったゲームシステムに改良していったという。そして,まだ「ゲームはアートになり得る」という考え方が浸透していない,モバイルユーザーを対象にしたデザインの練り直しも進めていったと述べていた。

thatgamecompanyのJenova Chen氏
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 先述したとおりSkyは基本プレイ無料で楽しめる作品だが,このため「いくら稼いでいるのか」とよく尋ねられるという。チェン氏は「そんなことのためにゲームを作っているのではない」と語り,「ゲーム開発者というより,アクティビストのような心持ちさえある」と続けた。
 また,本作を手に取った人に敬意を払ったうえで,感情に訴えかけられるゲームが存在することさえ知らないユーザー層へのアプローチを考慮していたことに念を押していた。

 なお,チェン氏によると,日本でSkyをプレイしてくれている82%のプレイヤーは女性で,ゲームにおけるプライムタイムは23:00になるという。これについて,「学校や職場,育児などで疲れた就寝前に,ちょっとした人とのふれ合いを楽しんでいるのではないか」と分析するチェン氏だが,氏の開発コンセプトをもっとも理解したのは日本の女性ゲーマーということになるのかもしれない。

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 「風ノ旅ビト」「Flowery」「flOw」……そして「Sky 星を紡ぐ子どもたち」。いつも優しい雰囲気で,素晴らしいBGMを備える,アーティスティックな作品を作るのがthatgamecompanyのJenova Chen氏だ。彼のゲーム観を,いろんな方向から聞いてみよう。

[2019/10/16 12:00]


iPad Game of the Year

「Hyper Light Drifter」 by Abylight / Heart Machine


 「Hyper Light Drifter」は,2016年にPCやMac OS向けにリリースされた後,さまざまなプラットフォームに移植されてきた2DアクションRPGだ。16ビット風のドット絵が印象的で,「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」「Diablo」といったクラシカルなタイトルにインスパイアされたという。

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 そのiPad版は,Nintendo Switch版をベースに移植したものだ。4:3のアスペクト比に合わせたグラフィックスに苦労の跡が感じられるが,Haptic Touchがプレイに上手く組み合わされ,ゲームとしても高く評価されている。iOSで買い切り型のゲームアプリを選ぶのであれば,Hyper Light Drifterを選ばない手はないというほどの存在感となっていると言えるだろう。


Mac Game of the Year

「GRIS」 by Devolver Digital / Nomada Studio


 「GRIS」は,大切なものを失った衝撃で声を出せなくなってしまった主人公が,うつ状態から再生していく心の軌跡をゲームメディアとして表現した作品だ。ゲーム内には失望を示す青がテーマのレベル,怒りを示す赤がテーマのレベル,悲しみから解放されるカラフルな最終章など,さまざまなステージが収録されており,水彩画を思わせるアートワークも高く評価されているとのこと。

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 会場には,本作でマネージングディレクターを務めたDavid Ricart(ダヴィッド・リカルト)氏がおり,話を聞くことができた。GRISは元々,アーティスト達がMacで制作したゲームとのことで,彼らはモニター上で自分達のゲームが動いている様子を見て感動していたそうだ。
 また,GRISはPCやNintendo Switch,スマホなど複数のプラットフォームで展開されている。スマホ版については,キャラクターをより大きく描いたり,操作面でジェスチャーをサポートしたりと,細かな調整をしっかり行ったことも語っていた。

GRISでマネージングディレクターを務めたDavid Ricart氏
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 なお,リカルト氏は,ジェノヴァ・チェン氏と同じ舞台に立つだけでも光栄と話しており,ゲームを自己表現や感情の描写できる媒体として捉える姿勢に同調していた様子だった。
 ちなみに,GRISはMac版の開発をもって一段落ついたとのこと。ほぼゲーム開発経験がなかったというアーティストによる作品がゲーマーに大きく受け入れられたのは事実であり,彼らの今後にも期待したいところだ。


Apple TV Game of the Year

「Wonder Boy: The Dragon’s Trap」 by DotEmu / Lizardcube


 「ワンダーボーイ」は,日本のゲームメーカーであるエスケープ(後のウエストンビットエンタテインメント)がアーケード向けに開発した作品で,1986年にシリーズ第1作がリリースされている。
 今回受賞した「Wonder Boy: The Dragon’s Trap」は,セガ・マスターシステム向けソフト「モンスターワールドII ドラゴンの罠」をリメイクしたものだ。2017年にはPS4,Nintendo Switch,Xbox One,Mac向けに,2019年にはスマホ向けにもリリースされ,好評を博しているという。

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 開発を手がけたLizardcubeでディレクターを務めるCornut Omar(コルヌ・オマール)氏は,かつてキュー・ゲームスに在籍し,「PixelJunk」シリーズに携わったクリエイターだ。
 本作の開発中には,ウエストンビットエンタテインメントが破産して版権の持ち主が変わるなど,想定外の事態にも見舞われたそうだが,オリジナル版を手がけた西澤龍一氏に協力を仰ぎ,アニメーションを忠実に手書きで描き直したり,サントラも当時の雰囲気を損なわないよう,ミュージシャンにオリジナル曲を書いてもらったりと,地道な作業を重ねて完成にこぎ着けたという。海外メディアからは「レトロゲーム・オブ・ザ・イヤー」も受賞しているとのこと。

(写真左から)「Wonder Boy: The Dragon’s Trap」の配信元である,DotEmuのCyrille Imbert(シリ―ル・アンベール)氏,開発を手がけたLiczardcubeのディレクター,コルヌ・オマール氏
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Apple Arcade Game of the Year

「Sayonara Wild Hearts」 by Annapurna Interactive / Simogo


 「Sayonara Wild Hearts」は,2010年の創業以来,モバイルプラットフォームやインディーズゲーム界隈で高い評価を得てきたSimogoが贈る新作タイトル。悪く言えば,“頭でっかち”になりすぎた作品群への反省から,肩の力を抜いて開発された作品となるが,蓋を開けてみるとかなりボリュームのある作品になったという。同社にとっては,2015年にリリースした「SPL-T」以来,4年ぶりのタイトルで,定額制ゲームサービス「Apple Arcade」のほか,PS4とNintendo Switch向けにもリリースされている。

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 タイトル名に「さよなら」という単語が添えられており,日本のポップカルチャーから大きな影響を受けている。その内容は,主人公自身の失恋経験で次元に歪みが生じたことにより,パラレルワールドにいるもう1人の自分「フール」と,リズムゲームで対峙していくというものだ。

堀井雄二氏
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 このほかにも,2019年にリリースされたいくつかの作品が「トレンドセッター」(トレンドを作り出すアプリ)として特別賞を受賞している。日本からはスクウェア・エニックスの「ドラゴンクエストウォーク」や,DeNAとポケモンの協業によって開発された「ポケモンマスターズ」などの作品が選ばれている。
 選考理由には,過去の大ヒット作品をうまくモバイルゲームに昇華させた「進化した名作ゲームたち」とされており,そのラインアップを見ると,大手メーカーがモバイルプラットフォームを意識していることをつくづくと感じさせる。

 今回のイベントには,「ドラゴンクエスト」の生みの親である堀井雄二氏も参加していた。コメントを求めたところ,まだまだシリーズ作品は日本でのファンベースのほうが高いとはいえ,「海外のモバイルユーザーにもしっかりと認知されてもらっているのが光栄です」と述べていた。単なる移植に留まらない開発のノウハウが大手メーカーにもしっかりと蓄積されており,Appleがゲームを再認識している証左になるのかもしれない。

「2019年のゲームのトレンド:進化した名作ゲームたち」受賞作品
  • 「マリオカート ツアー」
  • 「Minecraft Earth」
  • 「ポケモンマスターズ」
  • 「Call of Duty: Mobile」
  • 「ドクターマリオ ワールド」
  • 「ラングリッサー モバイル」
  • 「ドラゴンクエストウォーク」
  • 「アサシン クリード リベリオン」
  • 「Alien: Blackout」

 Appleで「Apple Arcade」部門を総括するAnn My Thai(アン・マイ=タイ)氏にも少しお話しをうかがう機会があったが,タイ氏によると対応ゲームアプリは,サービス開始より10週間ほどの現在でちょうど100作を超えたそうだ。フリーミアム(Free-to-Playを基本にする課金型ゲーム)によってプレミアムゲームが淘汰されていくという目まぐるしいほどのモバイルゲーム市場の進化の中で,その答えを模索する手段として「定額制ゲームサービス」という方向性を,かなり以前から研究していたという。
 1年間に膨大な数のゲームアプリがリリースされているが,その内容は「玉石混淆」という表現がピッタリと来るほど。中には質の悪い作品や,ジェノヴァ・チェン氏が筆者との立ち話の中で表現していた「ユーザーの弱さにつけ込むゲーム」も多いのは事実であろう。Apple Arcadeや「Best of the Year」の選定を含めて,良質なアプリの存在を消費者にも知ってもらおうという,Appleの方針や動機がしっかりと伝わってくるのではないだろうか。

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