「扉を開けなさい」と言っているのはあの人だけ
4Gamer:
ここから先はネタバレを含むような,少し踏み込んだ質問をさせてください。
物語の終盤,扉を開けてループするか,隠されたレールを進んでループから抜けるか,という分岐があります。片方はスタッフロールも出て,いかにも正解に見えますが,じつはこれも正解という位置づけで作られているわけではないのでしょうか。
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いえ,そこは隠されたレールに進むルートを正解としています。あけすけに「ここが正解です」みたいに出てくる扉が,間違いです。
裏道にある「自分の電車」に乗るというのがすごく大事な部分です。「見えない暗闇の隅っこに,自分の道がある」ということを到達点として,それまでのすべての場面を作っているんです。
4Gamer:
そこは明確に描いた部分であると。
木村氏:
よく思い出してほしいんですが,「扉を開けなさい」なんて言ってる人は,実はヤスヨしかいないんですよ。「扉を開ける」って,すごくポジティブな言葉に聞こえるけど,それは罠です。作者としては,そういうあけすけな,表向き良い言葉に騙されるなよという思いを込めています。
4Gamer:
冒頭の「100点で生きなくていい」という話と,まっすぐつながっていますよね。正しいとされる道じゃなくて,もっと端っこに,何かがあるのかもしれないという。
木村氏:
このゲーム,暗闇みたいなところに突っ込むと開ける場面が,あちこちに仕込んであるんですよ。最初の森でも,墓の穴に入るとバッと広がったりするじゃないですか。実は「ドラゴンクエスト」(初代)のオマージュなんです。ドラクエ1の,暗い場所に入ったらパッと開ける。僕あれがすごい好きで。もう,いろいろなものがオマージュなんですよ。
4Gamer:
もしかしたら,あのゆっくりとした歩きも当時のRPGのオマージュですか。
木村氏:
そうですね。とにかく何でも手間を省こうとせず「ゆっくり歩きましょうよ」という意図で遅くしています。最初はもっと遅くしていたんですが,チームのみんなから「あの速さだと弾を避けられないからもう少し速くしてくれ」と言われ続けて,ちょっとずつ上げていったんです。
4Gamer:
話をヤスヨに戻すと,彼女やラスボスは世間一般の総意のような存在にも見えてきますが,結局はなんだったのでしょうか。
木村氏:
それは「ナニカ」なんです。プラットフォームにいた人たちも言ってますけど,「ナニカ」をすごく感じてしまって,うまく動けなくなる。未知の力で何だとははっきり言えないんだけど,簡単な一言で言えば,同調圧力だったり,世間の常識だったり,そういうことです。
でも最近のそういう圧力って,同調圧力の「圧」もかかってないのに,「なんかこっちがいい」というのが染み付いていますよね。しかもその「ナニカ」は,全員が同じじゃなくて,「ここの人たちにとってはこれ」「あそこの人たちにとってはこれ」と,いろんな「普通」がすごくたくさんある状態になっていますよね。
4Gamer:
そのすべてを気にしようとすると,身動きがとれなくなるという。
木村氏:
実は当初,「普通」って名前も考えていたんです。「普通の大人」みたいな。普通に囚われると,あのケンケンだって宝石になっちゃう。
宝石って硬いじゃないですか。強固なもの,立派なもの,みたいなものの意味合いで出しているんですけど。そんなことを考えていくうちに,「普通」じゃなくて,「ナニカ」がいいなと思いました。
人は感動するために生きている
4Gamer:
さて,本日新しい発表があるとうかがっているのですが,そちらについて聞かせてください。
木村氏:
はい。今回Switch版の豪華特典が入った「ストレイチルドレン トレジャーボックス」を作ることにしました。7月24日に予約開始で,初回限定生産です。
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4Gamer:
どんな特典が付属するのでしょうか。
木村氏:
まずは160ページにわたる開発資料集が付属します。今回展示した倉島さんの資料の山と僕の資料の山を可能な限り詰め込んでいます。「moon」のときの開発資料集より密度が高いです。
あとはアクリルキーホルダーと,「ミカヅキ」の古地図。ゲームの中で発売中止になった幻のRPGの「ミカヅキ」が,ちゃんと出ていたらどんなものだったかを表現しています。
あとは,ブックレット付きの「ミカヅキ」の体験音楽CDを作りました。
4Gamer:
体験音楽CDというのはどういったものなのでしょうか。
木村氏:
チップチューンの音楽で,「昔,あのミカヅキの対応ハードで流れていたであろう音楽はこれだ」というのを作っています。歪んでしまう前の「ミカヅキ」の曲ですね。
ブックレットには,いろんなミカヅキのゲーム画面も載ってます。背景の田崎がUnityでゲーム画面を真面目に作って,そのスクショをとりました。チームからは「これは一体何なんだ」「どうするつもりなのか」といろいろ言われましたが(笑)。
4Gamer:
画面も当時のハード風に合わせて制作されたんですね。
木村氏:
もちろんです。今回のコンセプトは,「ストレイチルドレン」というゲームにまつわるすべてを,タイムカプセルじゃないですけど,徹底的に詰め込もうという思いで作りました。
「ストレイチルドレン」ってゲームの規模的に考えて,Onion Gamesとして最後のRPGになるんですね。やっと僕ら自身も落ち着いてきたので,ここでやっておこうかなと。
4Gamer:
ダウンロード販売が先行するなか,あえて物理のパッケージを作ることへの特別な思いはありますか。
木村氏:
それはめちゃくちゃありますね。僕は,ゲームを物理パッケージで出すことにすごい意味があると思ってるんですよ。生産性とか利便性とか,お金儲けの観点で言えば「データだけを作って,みんなにゲームが届いて遊べるんだからいいじゃないか」という考えもありますが,僕に言わせれば「わかってないな」と思う。
人間って,身体性を持って生きているんです。友達と直接会うとか,自分の宝物になる本を物理で買うことが,反作用として重要視される世界が,同時に来ると思うんです。
例えばボードゲームの世界って,この5,6年の間にすごく人口が増えてるんですよ。ゲームという遊びが,人と人が出会って会話するコミュニケーションの,本当に重要な道具として,とても意味があるみたいな感触があって。
そこには,普通に生きてると気づかないような,いろいろなアイデアが入っていて。「こんな喜びもあるのか」「触った感触だけで当てろというのか」みたいなのが,いっぱいあるんですよ。
4Gamer:
アナログには,何者も介さずに,直接アクセスできる強みもありますよね。
木村氏:
古いファミコンのカセットも,今でも子どもたちに遊ばれていたりするじゃないですか。物理は図書館みたいに,残しておくライブラリとして,すごく素晴らしいんだということを伝えたいです。だって肉体があれば,アクセスできるんですから。
ただ,僕の会社の(予算的な意味で)規模的に「ストレイチルドレン」を物理もダウンロードも同時に,とはいかなかったんです。物理パッケージは,自分たちの生きた証のように残っていくので,「ストレイチルドレン」の世界を物理的にも残すことには,すごく意味があると思っています。
4Gamer:
今回の展覧会も,まさにそういう意味のある催しでした。
木村氏:
そうなんです。ネットに上げたりYouTubeで配信すればいいんじゃないの,たくさんの人が見られるじゃん,という考えはたしかにあると思うんです。
数字で言えば,この方法が最大効率じゃないのは当然分かるんです。見たかったのに来られない人がいることも分かるんです。ただ,直接ファンの人に見てもらって,狭い空間で直接会話して,「これはこうだったんだよ」ということを話す。それは僕らのモチベーションも上げるし,多分参加者の方も「聞けてよかった」と思ってくれてるはずなんですよね。
……あのですね,最近,「ゲームを作ってる理由」がやっと分かったんです。これ,大々的に書いてほしいんですけど。
4Gamer:
なんでしょうか? ぜひお願いします。
木村氏:
それは“人が感動するために生きている”ことが理由だと思うんです。僕はあまり「どう生きるべき」みたいな話はしたくないんですけど,感動するために生きているんだなと感じることがやっぱり多いんです。
その感動がいつ起こるかというと,人と人が直接出会って話を聞いてる時に起きるなと感じるんですよ。
もちろん,ゲームをひとりで遊んでる時にも意味はあるし,ゲームの中のキャラクターに人間を感じることもある。でも,その感動したことをみんなとしゃべった時に,より大きな感動が生まれるんです。
やっぱり生きる糧になるのは,心が動くこと,感動することで,それを手伝うために僕はゲームを作ってるんだ,と強く思うんですよ。
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4Gamer:
ひとつの真理だと思います。
木村氏:
世の中で「インディーゲームが当たってものすごく売れました」みたいな話があるじゃないですか。僕は,売れたことよりも,そのゲームを発明した人たちに感動するんです。今までの社会の構造ではありえないような広がり方をして,しかもそれがほんの数人のゲームチームによる発明だという。
本当に嬉しくて,人のゲームなのにすごい宣伝してる(笑)。
4Gamer:
本当に“めっちゃカンドウ”されているじゃないですか(笑)。
木村氏:
はは(笑)。今インディーゲームを作っている人たちの中には,そういう人たちがいっぱいいるんです。だから,僕も後をついていきたいなって。
4Gamer:
いえ,木村さんはむしろ道を示してきた側かと。そして展覧会にもファンの皆さんが集ったわけです。
木村氏:
今回の展覧会をやろうと思ったのも,そういったきっかけからなんですよ。若い作り手たちと出会うようになって,もっとしっかり人間と付き合おうと。僕にできることをやろうと思ったんです。
以前は「CDを買ったら握手」みたいなイベントは好きじゃないなと思ってたんですけど……ひねくれていたと認めます。今回の展覧会でも「グッズは販売していないんですか」とすごく聞かれてしまって。
4Gamer:
まさに身体性の話ですよね。せっかく来たからには,何かを持ち帰りたい。
木村氏:
特来場典のステッカーはあったんですけど,「次に何かやる時は作っておきます」と皆さんに伝えました。
4Gamer:
今後の展開や次のイベント開催を期待しています。では最後に,読者のみなさんにメッセージをお願いします。
木村氏:
「ストレイチルドレン」の発売直後は,バグを直しながら「もうダメだ」って思っていたんです。僕も倉島さんも死にそうだったし。ゲームを作る体力がもうないかも,という葛藤がありました。
そして現在,荒波を抜けたらまた疲れ果てて,「もうゲーム作るのええわ」みたいな気分になっていた。本当に,「ストレイチルドレン」の中で表現していること自体を,僕自身が味わっていたんです。
でも,いろいろな人に出会って感動しているうちに,「いや,もうちょっとやったほうがいいんじゃないか」という気分になっています。RPGを作る体力が足りないのは素直に認めつつ,でも何かを作ることはできるはず。「やめない」ってことを次の抱負として掲げていきたいと思っています。
4Gamer:
まだまだ成仏してる場合ではない,と。
木村氏:
うまいこと言いますね(笑)。そこちゃんと強調しといてくださいね。
4Gamer:
はい(笑)。本日はありがとうございました。
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