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Amanita Designといえば,手描きのアートスタイルや温かみのある世界観,そしてどこか奇妙で愛らしいキャラクターたちが織りなすパズルアドベンチャーで知られている。そんな彼らが本作のテーマに選んだのは,なんと「全体主義的ディストピア」だ。
普段のAmanitaっぽい作品かと思ったら,洗脳スピーカーにヘッドホンひとつで立ち向かうことになるのは予想外……というのがファンの素直な気持ちかもしれないが,本稿では実際にプレイして感じたことをお伝えしよう。
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段ボールの街のプロパガンダに立ち向かう
本作の舞台となるPhonopolis(声の都市)は,手描きの紙や段ボールを切り貼りして作られたミニチュアの街。しかし,その実像は息の詰まるような監視・管理社会である。
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この街では,権威主義的な「指導者」が,街中のスピーカーを使って住民たちに24時間体制で命令を流し続けている。労働はおろか,娯楽や余暇の過ごし方すらも彼の管理下にあるのだ。
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指導者が目論む最終計画は,究極の洗脳音「アブソリュート・トーン」(絶対音。ニュアンス的には絶対命令といったところ)を響かせ,全住民から個人の意志や人間性を完全に奪い去ること。
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物語の主人公は,そんな絶望的なディストピアで暮らすゴミ処理作業員・フェリックス。彼がひょんなことから手に入れたヘッドホンは,スピーカーから流れる命令をシャットアウトできるシロモノだった。
狂った時代のなかで唯一の「正気」の存在となったフェリックスは,果たしてこの社会を変えることができるのか。それとも……?
社会操作,全体主義,個人主義vs集団主義――本作の根底にあるテーマは,ジョージ・オーウェルの「1984」やチェコのSF作家カレル・チャペックの「R.U.R.」(ロボットという言葉を生み出した名作)といった,古典的ディストピアSFの系譜に連なるもの。もちろんそれはあくまで「根底」にあるもので,全体としては明るく楽しく,シュールな冒険ものではある。
でも,だからこそ随所に見え隠れする「闇」がより深く感じられるのは筆者だけだろうか。
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そしてこの世界観を支えるのは,スタジオ初となる本格3DCGと,アナログな味わいの融合だ。
ベースにあるのは,第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に花開いたロシア構成主義やシュプレマティスム(至上主義)といった前衛芸術のアートスタイル。かつて国家のプロパガンダや,技術主導のユートピアを夢見て描かれた力強いスタイルを,あえて「ディストピアを構築するデザイン」として使うのは極めて「由緒正しい」とも言えるし,その後の歴史を知っていると皮肉にも感じられる。
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謎の装置をガチャガチャいたずらする手触り
さて,そんな段ボールの街をどう冒険するのかといえば,基本はクリックやドラッグ(コントローラーならボタンの長押し)だけで進めていく,オーソドックスなポイント&クリック型のパズルアドベンチャーといったところ。
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しかも用意されたパズルのバリエーションは実に豊かだ。壁を回転させたり,床をシャッフルしたり,紙のカーテンをビリビリと破ったり。社会から解き放たれた者がいかに「無敵の存在」になるかという,メタファー的なものさえ感じさせる(笑)。
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さらにスピーカーの命令を逆手に取って,他の住民を操るような場面も多い。登場する仕掛けの数々――組み木細工のようなパズルや,スイッチやレバー,オシロスコープのような装置などは,どれもそのデザインで目を楽しませてくれ,新しい場面に進むたびにワクワクしてしまう。
その手触りは,使い方の分からない謎の機械やおもちゃを,あてずっぽうにいじって,仕組みを探っていく感覚にも近い。
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どれだけ無茶な触り方をしても,ゲームなので壊れる心配はない。というか,よく考えればこれらは支配を支える体制側の機械なのだから,「めちゃくちゃに壊してナンボ」という考え方もできる。
オトナの分別なんて捨てていいというか,ガチャガチャとイタズラして「ぶっ壊してやる」くらいの心構えが,本作を楽しむにはちょうどいいのかもしれない。
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もちろん本作にはアクションゲームのような反射神経を求められるシーンはないし(期待している人も少ないかとは思うが),昨今流行りの,プレイヤーを巧みに解法へと誘導してくれる「知識アンロック系」とも一線を画している。解けるときはスルッと解けるが,詰まるときは10分も20分も画面を睨みつけたまま立ち往生するハメに。
プレイヤーを甘やかすことのないその手応えには,インディーゲームの黎明期から独自の道を歩んできたスタジオらしい,どこか骨太でクラシカルな心意気が感じられた。
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チェコアニメの遺伝子と,ディストピアを彩る「音」
最後に,この「Phonopolis」という作品の,カルチャー的な背景についても少し触れておきたい。
現代に蔓延する「アブソリュート・フレームレート」なんてどこ吹く風な,カクカクしたストップモーション風のアニメーションと,段ボールや紙のザラついた質感。これを見て,往年の「チェコ・アニメーション」を思い出すなというほうが無理というものだ。
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イジー・トルンカやヤン・シュヴァンクマイエルといった巨匠たちが築き上げてきた,「身の回りの物質に命を吹き込む」伝統的な人形劇やコマ撮りアニメのDNAは,本作にもしっかりと息づいている。
この手作り感と温かみが溢れる表現で,全体主義を描くからこそ,チェコの人々が「体制」に対して抱く,複雑な思いが浮き彫りになるとも言えそうだ。
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そして,Amanita作品を語る上で絶対に外せないのが音楽。本作でもスタジオの長年の盟友であるFloex(トマシュ・ドヴォルザーク)のサウンドを楽しめる。
これまでの作品でも環境音と音楽が溶け合った素晴らしい体験を提供してくれたが,本作で描かれているのは「音による支配」だ。街のスピーカーが発する音は人間性を奪うものだが,そこにフェリックス(プレイヤー)が介入していくと……。
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パズルの進展に合わせてBGMも次第に楽器パートが増え,リズミカルさが強調されるなど,「次第に色づいていく」ような感覚がある。まさに人間性の復活の象徴として,音楽が使われているわけだ。
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本格3Dへの挑戦,ディストピアSFへのアプローチ。Amanita Designの新作「Phonopolis」は,同スタジオのこれまでの「おなじみのトーン」を引き継ぎつつも新たなチャレンジを感じさせるパズルアドベンチャーだ。
パズルをどんどん「解けてしまう」今風のゲームも楽しいけど,たまにはしっかり悩んで足止めを食らいたい……そんな本格派を求めるアナタにこそ,チェコの歴史と職人魂がギュッと詰まったこの街で,ギミックをガチャガチャといじる体験をお勧めしたい。
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