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「007 First Light」の“ボンドらしさ”を支える技術。ゲームエンジン「Glacier」の進化とNintendo Switch 2版開発[gamescom]
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印刷2026/08/26 18:19

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「007 First Light」の“ボンドらしさ”を支える技術。ゲームエンジン「Glacier」の進化とNintendo Switch 2版開発[gamescom]

 高級ホテルや華やかなパーティーに潜り込み,群衆に紛れて目的を果たす。こう並べて語ると,「HITMAN」シリーズのエージェント47「007 First Light」ジェームズ・ボンドには似たところがある。

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 とはいえ,同じゲームエンジンを使えば,そのままボンドのゲームが作れるわけではない。無口なクローンである47に対し,ボンドには60年以上にわたる映画で形作られてきた人物像がある。機知に富み,チャーミングで,派手な爆発やカーチェイスの中心に立つ。そんな“007らしさ”をゲームで表現するため,IO Interactiveは独自エンジン「Glacier」へさまざまな手を加えた。

 gamescom 2026の開幕前日に開催された開発者向けカンファレンス「gamescom dev」で,「Glacier: Platform Adaptability and Performance Lessons from '007 First Light'」と題したセッションが行われた。
 登壇したのは,IO Interactiveで独自ゲームエンジン「Glacier」の開発を統括するエグゼクティブプロデューサーのCris Vega氏と,プリンシパル・コアプログラマーのKristofer Hammarsköld氏だ。

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一度ロードしたら最後まで。“007らしさ”を支えるGlacierの変化


 Glacierは,同社が25年以上にわたって開発してきたゲームエンジンで,最初のコードが書かれたのは1997年だ。2006年にアーキテクチャを大きく刷新し,以降も「HITMAN」シリーズをはじめとするタイトルとともに更新されてきた。その設計で特徴的なのが,ゲームを動かすランタイム,開発者が作業するエディタ,素材をゲームで扱える形へ変換するリソースシステムが,それぞれ独立していることだ。

画像は「HITMAN 3」
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 ひとつのエディタから,PCやコンソールなど複数のハードでゲームを動かし,見た目や挙動を比較できる。逆に,複数のエディタをひとつのランタイムへ接続し,同じゲームを動かしながら,それぞれの担当箇所を編集することも可能だ。この構造は,開発中のクラッシュにも強い。
 セッションでは,複雑な照明やパーティクルを含むシーンに意図的な不具合を起こし,ランタイムをクラッシュさせる動画でそれが示された。ゲーム画面は暗転したが,エディタはそのまま動き続けている。問題を修正して再接続すると,1分ほどで元のシーンへ戻った。エディタとランタイムが別々に動いているため,一方が落ちても,もう一方が保持する作業内容までは失われない。

 Glacierには,対象ハードの制約をエディタ上で再現する「Virtual Platforms」という機能もある。オブジェクトやプロパティ単位でプラットフォームごとの設定を持たせ,性能に応じてLODや描画内容を切り替えられるものだ。
 単純に表示物を減らせば処理は軽くなるが,作品に必要な見た目まで失われかねない。この仕組みによって,プログラマーだけでなくアーティストも,実際の見え方を確かめながら各ハードの最適化へ参加できる。

 こうしたGlacierの土台を使いながら,IO Interactiveは「007 First Light」に必要な技術を「Cinematic」「Fluid Experience」「New Tech」という3つの軸で整理した。

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 まず「Cinematic」で重視されたのが,ボンド自身のアニメーションだ。
 「HITMAN」のエージェント47は,自らを強く表に出さない人物として描かれてきた。一方のボンドには,60年以上にわたる映画で形作られた人物像がある。それは長年愛されてきたものであり,表情や立ち居振る舞いにも“らしさ”が求められる。そのため本作では,顔の表情と全身の動きの両方に関する技術を強化した。

 光の表現も作り直された。映画の007は,現実の風景を撮影しながら,それを現実以上に魅力的に見せる。「007 First Light」でも同じ感覚を目指し,新しいグローバルイルミネーションシステムを開発したという。

 派手な爆発や煙,環境中の細かな動きを支えるのが,GPUパーティクルシステム「Smolder」だ。「HITMAN」で使われていたパーティクルはCPUで処理されていたが,爆発や銃撃,換気設備による空気の動きなどを同時に発生させると,負荷が大きくなる。そこで処理をGPUへ移し,007映画らしい大がかりなスペクタクルを扱えるようにした。

 群衆も「HITMAN」からそのまま受け継いだわけではない。同シリーズの群衆は,背景に置かれるオブジェクトと,個別に行動するNPCの中間に近い存在だった。「007 First Light」では,ガラやチェス大会などの場にいる人々を,もっと人間らしく見せる必要がある。表情や動き,振る舞いを増やしつつ,大人数を表示してもハードへ過剰な負荷をかけない形を探った。

 さらに,Glacierにはなかったビークルの仕組みも加えられた。当初は少し車を走らせる程度の想定だったというが,開発を進めるうちに,扱う乗り物はトラック,飛行機,船へと広がっていった。それぞれの操作感も異なり,追跡や渋滞のなかを走る場面も作られている。

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 NPCの行動を管理する仕組みも見直された。「HITMAN」では,NPCが決まったルートや行動を繰り返し,精密な時計仕掛けのようにステージを動かしていた。しかし,物語をより強く前へ進める本作では,その動きにもストーリーを伝える役割が求められる。
 そこで従来の仕組みを「Storylines」というナラティブシステムとして作り直し,NPCや群衆がボンドたちと関わりながら場面を組み立てられるようにした。

 2つめの軸「Fluid Experience」で,とくに大きな変更となったのがストリーミングだ。
 「HITMAN」のレベルは,ひとつのステージをまとめて読み込む構造だった。ミッションを終えたり,死亡してやり直したりするとメニューへ戻り,セーブデータを読み込む場合も,メモリ上のリソースをいったん解放してディスクから読み直す。

 しかし,映画のようにつながる体験に,たびたび現れるロード画面は合わない。そこで「007 First Light」では,「一度ロードしたら,そのまま最後まで遊べること」を目標に,Glacierのロード方法を根本から組み直した。
 この変更によって,プレイヤーの体験をロード画面で途切れさせず,レベルを小さく管理しやすい単位へ分割できるようになった。一方で,過去作のレベルはまとめて一度に読み込む構造だったため,ロードの基盤だけでなく,監視や最適化に使うツールも新しい仕組みに合わせて作り直す必要があった。

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 レベルは「チェックポイント」と呼ばれる単位に分割され,ゲーム中は,直前に通った場所,現在いる場所,次に向かう場所の3つをメモリ上に保持する。プレイヤーが先へ進むと,この範囲もスライドするように移っていく。
 言葉にするとシンプルだが,実際に成立させるのは簡単ではない。たとえば,あるチェックポイントで拾った銃を,その区間だけに属するデータとして置いたとする。プレイヤーが先へ進み,そのチェックポイントがメモリから消えたとき,銃まで一緒に消えてしまえばクラッシュにつながる。先へ持ち越すアイテムは,特定のチェックポイントに縛られない上位の階層へ置かなければならない。
 これはプログラマーだけで解決できる問題ではなく,レベルデザイナーやアーティストを含め,全員がチェックポイントを意識してデータを構成する必要がある。完成までには数年を要したという。

 また,本作は区間を一本道につなぐのではなく,プレイヤーの選択によって次に向かう場所が変わる「Wide Linear」の構造を採用している。チェックポイントも,そうした分岐へ対応できるように作られている。
 メモリ,CPU,GPUのどこに問題があるのかを記録し,原因を調べ,修正後の変化をまた測る。結果はグラフで共有し,問題が開発終盤まで積み上がらないよう,早い時期からチーム全体で確認していった。

 戦闘システムも「HITMAN」からの流用ではなく,ゼロから作られている。戦闘からステルスへ移り,移動やアクションを挟んで,再び戦闘へ入る。それぞれの遊びを別々に置くのではなく,途切れないひとつの流れにすることが「Fluid Experience」の狙いだ。

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 3つめの「New Tech」には,パストレーシングやWindows on Arm,そしてNintendo Switch 2への対応が含まれる。
 Windows on Armへの対応も進められている。COMPUTEX 2026に合わせて行われたNVIDIAの基調講演では,CEOのジェンスン・フアン氏が,RTX Sparkを搭載したノートPC上で「007 First Light」を動かす様子を披露した。


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 そしてセッション後半では,「Same Game, Different Hardware」をテーマに,開発中のSwitch2版が紹介された。
 PCでは,最新のGPUと古いCPUを組み合わせるなど,プレイヤーによって構成が大きく異なる。それに対してコンソールは,CPUやGPU,利用できるメモリが決まっており,ひとつのシステムとして最適化されている。性能だけではなく,使えるものと上限がはっきりしていること自体が強みになる。

 セッションで示された基準メモリ予算は,PC版の10,481MBに対して,Switch2版は9,381MB。ゲーム本体やアニメーション,物理,音声などは同じ予算を維持し,主にテクスチャやジオメトリといった描画部分を抑えていた。

 Switch2版は,スケーリング技術を使いながら,30fpsでの安定動作を目標に開発されている。最大解像度が決まっているため,4K向けのテクスチャやジオメトリをそのまま持ち込む必要はない。画面上の情報を対象ハードに合わせて軽くする余地がある。

 一方で,ゲームの挙動やサウンド,遊びそのものは変えない。Vega氏は,Switch2の性能を最大限に使いながら,プレイヤーには同じゲームを体験してもらうと説明した。
 新しいハードへの移植は,まずプラットフォーム担当やレンダリング担当など,数人のエンジニアから始まる。SDKを導入し,Glacierのビルドシステムへ新しいハードを追加。スレッド,メモリ,I/Oなどの基盤を整えながら,シェーダや描画機能を移していく。

 ゲーム制作が動き始めるとQAが入り,入力,音声,動画再生といったプラットフォーム固有の機能を実装する。さらに開発が進むと,アーティストやレベルデザイナーも加わり,ジオメトリ,テクスチャ,群衆などを調整する。少人数のプログラマーから始まった移植が,しだいにチーム全体の仕事へ広がっていく。

 セッションでは,Switch2へ移植し始めたころの映像も公開された。そこではフレームレートが低く,ライティングや影,透過表現なども実装されていなかった。ひとまずゲームを新しいハード上で動かした,まさに開発途中の姿だ。
 続けて映された現在のバージョンでは,同じ場面に照明や各種エフェクトが加わり,目標とするフレームレートにも到達していた。まだ作業は残っているというが,最初の映像と並べて見ると,その違いははっきり分かる。

 Hammarsköld氏は,「どのプラットフォームにもスーパーパワーがある」と語っていた。携帯できるSwitch2と据え置き機では,ハードとしての強みも,求められる調整も異なる。その違いを消そうとするのではなく,各プラットフォームがどこに強みを持つのかを理解し,ゲーム体験を損なわない部分で取捨選択する。

 セッションのまとめでは,まず作りたいゲームを定め,そのために必要な技術へ意識的に投資することの大切さも語られた。開発中には必ずトレードオフが発生するが,コードとアーキテクチャが整理されていれば,ひとつの調整による問題が別の場所へ波及することを防ぎやすい。
 さらに,最適化の状況をデータとして可視化し,職種をまたいで共有することも重要になる。新しいプラットフォームへゲームを届ける作業は,一部のエンジニアだけで完結するものではない。作り手全員が同じ情報と目標を共有することで,最適化をチーム全体の取り組みにできるという。

 ボンドをボンドらしく見せるための表情や群衆,爆発,ビークル。そして,その体験をロード画面で途切れさせず,異なるハードでも同じゲームとして動かす仕組み。「007 First Light」の開発は,新しい作品を作るだけでなく,長年使われてきたGlacier自体を次の段階へ進めるものにもなったようだ。

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