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  • 発売日:2026/09/24
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「SILENT HILL」を復活させたのは「様子見をしない」こと。英語が話せない3人が語る,グローバル開発と「推し」の時代のプロデュース術[CEDEC 2026]
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印刷2026/07/28 16:22

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「SILENT HILL」を復活させたのは「様子見をしない」こと。英語が話せない3人が語る,グローバル開発と「推し」の時代のプロデュース術[CEDEC 2026]

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 「SILENT HILL」シリーズは,2013年の「SILENT HILL: BOOK OF MEMORIES」を最後に,10年近く沈黙していた。それが2022年の「SILENT HILL Transmission」でシリーズ復活を宣言すると,2024年に「SILENT HILL 2」,2025年に「SILENT HILL f」を立て続けに発売し,2026年には「SILENT HILL: Townfall」の発売を控えている。この立て直しを支えたのは,シリーズを長く見てきたベテランの蓄積なのだろうか? それとも,まったく別の何かなのだろうか?

 CEDEC 2026では,その問いに真正面から答える講演が行われた。タイトルは「SILENT HILLのプロデュース術  『推し』の時代に推されるゲームをめざすには? ユーザーの熱量を重視するプロデュース方針と海外開発を軸にしたグローバルゲーム開発進行」。登壇したのは,コナミデジタルエンタテインメント 第1制作部の統括プロデューサーで,「SILENT HILL: The Short Message」「SILENT HILL 2」「SILENT HILL f」「SILENT HILL: Townfall」のプロデュースを手がける岡本 基氏。同じく第1制作部のアシスタントプロデューサーで,「SILENT HILL 2」の開発・進行管理を担当した松尾泰樹氏。そして「SILENT HILL f」でプロデューサーアシスタントとして,台湾の開発スタジオとの制作進行を担当したプランナーの杉本絢音氏の3名だ。

左から杉本氏,松尾氏,岡本氏
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 冒頭で岡本氏が示したのは,チームの構成である。25年以上続くシリーズだけにベテラン揃いを想像しがちだが,実際は半数が20代で,過去に「SILENT HILL」に関わっていたベテランはチームに1人もいない。岡本氏が2019年にコナミデジタルエンタテインメントへ入社してから,ゼロからメンバーを集めていった新チームだという。

 「社内ベンチャーというと大げさですが,新規事業を立ち上げるような気持ちでチームを拡大してきました」と岡本氏。若い世代が権限を持ち,最新のホラーゲームと過去の「SILENT HILL」を分析・研究しながら,海外デベロッパとゲームを作る。それが現在の体制である。

半数が20代,開発パートナーはほぼすべて海外,シリーズ経験者はゼロ。チーム紹介のスライド
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 開発パートナーは,ポーランドのBloober Team,アメリカのAnnapurna,スコットランドのScreen Burn,台湾のNeoBardsと,欧州・北米・アジアに広がる。開発途中で終わったものも含めれば,海外と組む案件が非常に多いのが「SILENT HILL」チームの特徴だ。

主要タイトルの開発パートナーを示した世界地図
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 では全員が英語を使えるのかというと,そうではない。岡本氏は「ここにいる3人は英語が全然できません」と切り出した。制作チーム15人のうち英語ネイティブは約3人,つまり2割で,残る8割は英語を話せない。それでも欧米のスタジオとは英語でやり取りし,アジアのスタジオとは先方の通訳を介して日本語でコミュニケーションを取る。ミーティングは英語話者に通訳してもらうため,日本語だけの場合と比べて会議時間が2倍から3倍かかる。だからこそ会議は効率よく進める必要がある,というわけだ。

 一方で,チャットツールやメールなどのテキストコミュニケーションは機械翻訳で対応しており,英語ができないメンバーも参加できている。昨今のやり取りは大半がテキストなので,これで実務は回るという。

制作チームの2割が英語話者,8割は英語を話せない。それでもグローバル開発は成立している
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 ここで岡本氏が強調したのは,「グローバル開発をするのに英語ができないと無理,ということではない」という点だ。重要なのは言語ではなく,ゲームをちゃんと作れるかどうかである。海外には日本の10倍,20倍の数の開発会社があり,その中から最適な会社を選べることのほうが,日本語が通じることよりはるかに価値が高い。

 「自分が英語をできないと,海外の会社とのコミュニケーションにおっかなびっくりになって,選択肢から自然と外してしまうプロデューサーもいらっしゃると思います。でも,その会社のゲームを遊んでみて,それがしっかりしているなら,そちらで選んだほうがいい」(岡本氏)。

 実際,新卒で「SILENT HILL」チームに入り,最初から海外スタジオとだけ仕事をしていて,日本のスタジオと組んだ経験がないメンバーもいる。最初からグローバルが当たり前の環境なら,特に支障なく慣れていける。日本式の開発が染み付いていないぶん,むしろ自然に適応しているというのが岡本氏の見立てだ。

英語が話せなくてもグローバル開発には参加できる,というメッセージ
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「様子見リメイク」はしない。企業が本気を見せる


 シリーズを復活させるにあたり,岡本氏がまず取り組んだのはアイデンティティの明確化だった。世の中には「SILENT HILL」からインスパイアされたインディーホラーが無数にある。同じようなものを作るのではなく,あえて定義を狭く尖らせて,差別化ポイントを打ち出す必要がある。

 そこで軸に据えたのが「サイコロジカルホラー」だ。主人公の悩みや葛藤,罪や過去と精神世界で向き合い,自分の答えを探す物語。事物やクリーチャーは人物の心理やトラウマのシンボリックな投影であり,世界を彷徨う行為自体が心理的プロセスのメタファーになっている。そして,そのサイコロジカルホラー度がもっとも高いのが「SILENT HILL 2」である。だから1作目からではなく,2作目からリメイクしたのだという。

アイデンティティを尖らせるという方針。1作目ではなく「2」からリメイクする理由がここにある
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 もう一つの前提が,ユーザーとの関係だ。「SILENT HILL」は過去に発売中止となったタイトルがあり,それがシリーズ中断の一因になっている。つまり,ユーザーからの信用が低い状態からのスタートだった。本気で復活させようとしていることを信じてもらうには,まず企業の側が本気度を示さなければならない。

 岡本氏が避けたのが「様子見リメイク」である。過去作のリメイクやリマスターを1本出してIPの温度感を測り,売れたら次を出す,という進め方だ。「リメイクで戻ってくるユーザーは,せいぜい過去ユーザーの半分程度」と岡本氏は見ており,そもそも企業が様子見をしていることはユーザーにもすぐ伝わってしまう。企業が様子見をするなら,ユーザーも様子見をする。だからこそ最初から複数タイトルを見せる必要があった。

「様子見リメイク」はしたくなかった。企業が本気を見せるからユーザーも本気になって応援してくれる,という考え方
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 実際,1本目となる「SILENT HILL 2」の予算提案書の段階で,3タイトルぶんのロードマップを提示して社内承認を得ている。実際のスケジュールに変更はあったものの,ゲーム3本と映画を軸に組み立てる戦略は当初からのものだった。

 「どうせリメイクでしょう?」という冷めた見方には3本プラス映画の発表で応え,「またサイレントヒルが舞台でしょう?」という予想には日本を舞台にした「SILENT HILL f」の発表で応える。ユーザーを良い意味で驚かせ,感情を揺さぶってワクワクさせることが熱量につながる,というのが岡本氏の主張だ。

「SILENT HILL 2」の予算提案書の段階で提示された3タイトルのロードマップ
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 ここからは松尾氏にバトンが渡り,「SILENT HILL 2」のグローバル開発の実務が語られた。開発を担当したのは,ポーランドのBloober Teamだ。もともと「SILENT HILL 2」に強く影響されてホラーゲームを作り始めたと公言しているスタジオである。

 松尾氏がまず挙げたのが,開発の標準化だ。日本以外の海外のゲーム開発では,企画提案書,GDD(ゲームデザインドキュメント。探索や戦闘,パズルといったゲームデザインの概要を項目別に網羅した資料),マイルストーン定義,レベルデザインといった用語やプロセスが共通化されている。そのためポーランドのスタジオとの経験がスコットランドのスタジオに活き,さらに台湾のスタジオにも活きるという形で,国ごとの開発文化の差に戸惑ったことはないという。

開発の「標準化」は日本を除く世界共通。1つの海外スタジオでの経験が次の国でも活きる
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 具体的な事例として示されたのが開発プロセスである。海外のスタジオの多くは早期にGDDでコア要素を固め,バーティカルスライスと呼ばれるフェーズで,ゲームの1エリアを製品想定のクオリティで作り上げる。そこでクオリティラインとボリューム感を両者で合意してから本制作に入るため,認識のずれが起きにくい。「SILENT HILL 2」も「SILENT HILL f」も「SILENT HILL: Townfall」も,バーティカルスライスの規模感や内容はほぼ同じだったそうだ。

GDDからDay 1 Patchまで,開発フェーズの定義。どの「SILENT HILL」でもほぼ同じ流れになる
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 IPならではの事情もあった。「SILENT HILL」の売上は9割以上が海外であり,海外のゲームファンや開発者がその魅力をすでに言語化している。テーマの分析,ゲームのテンポやカットシーンのタイムテーブル解析,象徴の美学とメタファー,霧や裏世界のアートの指針,登場人物の精神分析的解析。こうしたバイブルを各スタジオが独自に持っており,KONAMI側でもグローバルでのユーザー調査と過去作分析を経てバイブルを作成した。両社がそれを持ち寄ることで,強調すべきポイント,つまりコストをかけるべきポイントが明確になる。

「SILENT HILL」は海外の開発者にとっても共通言語になっている
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 もっとも,初のグローバル開発ゆえのトラブルもあった。マスタ提出,つまりプラットフォームホルダーの審査に出す段階のクオリティに対する考え方の差である。KONAMI側はマスタ提出段階で最大限のクオリティを担保したいと考えていたのに対し,開発会社側は早期にマスタを提出し,プロモーションの反響を見つつDay 1 Patch(発売日に配信する初回パッチ)で改善するスケジュール感で進めていた。対応として,初回マスタ提出時に必ず守りたいクオリティラインを明文化し,優先順位を記載したうえで工数を踏まえて協議・整理した。

 「開発の初期段階で,初回のマスタ提出の基準を明確化する必要があると感じました。グローバル開発を初めて行ううえで発生してしまう落とし穴だと思うので,共有させていただきました」(松尾氏)。

マスタ提出のクオリティ基準をめぐる認識の差。初期段階での明文化が必要だったという
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 なお,本作のクリーチャーはオリジナル版から担当していた伊藤暢達氏,音楽は山岡 晃氏が手がけている。こうしたオリジナル版の作り手と開発会社の間の交通整理はKONAMI側が担い,フィードバックをテキストベースで伝えつつ,それがスケジュールにどれだけ影響するかを確認しながら進行した。QAについても,欧州で会社を立てる案を検討したうえで,ノウハウの蓄積とクオリティ判断のスピードを優先して国内に置いている。

 松尾氏が最後にまとめたのは,「簡潔でストレートな伝達」の重要性だ。日本的な遠回しの依頼をすると,時差もあいまって求めている返答がなかなか得られない。「相手は一緒にものづくりを進めていく仲間なので,リスペクトを持って伝えるぶんには失礼ではありません。初期段階から譲れない点やスケジュールをしっかり明文化し,言葉にすることが重要だと感じています」(松尾氏)。

日本的な配慮重視のコミュニケーションとグローバルのそれとの差。認識の齟齬はスケジュールのロスに直結する
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 余談だが,質疑応答ではポーランドの11 bit studiosに勤務する参加者から,「ポーランドの会社は開発終了ギリギリまで修正し続ける文化がある。そこは日本と違って苦労したのでは」という質問が出た。松尾氏は「まさしくスケジュールに直結した」と認めつつ,ゲームを良くしたい思いは同じなので,どこまで手を加えるかのラインを引くことを意識してスケジュール管理をしたと答えている。岡本氏も「完成させると言っている期日になっても完成していない,ということが本当にある。かなり現場がやきもきしながら作っていたのが実態です」と,率直に振り返った。パブリッシャ側にできるのは必要な時間を現場に与えて我慢することだけだった,とも語っている。


日本が舞台の「f」。作家を選ぶには「読む」力が要る


 続いて話題は「SILENT HILL f」に移る。舞台をアメリカの架空の街から日本へ移した理由について,岡本氏は旧シリーズの売上低下の原因を「飽きられたから」と分析していた。同じような舞台,同じようなゲームプレイ,同じようなストーリーが続けば体験が似てしまう。そこでサイレントヒルを街の名前ではなく現象として捉え直し,世界のどこでも同じ現象が起こりうる設定に切り替えた。行き先の候補としてアジアが魅力的に映り,KONAMIが日本企業である以上,まずは日本だろうという判断に至ったという。

 シナリオに竜騎士07氏を起用した理由も明快だ。和風ホラーの有名作として「ひぐらしのなく頃に」の実績があること。漫画原作の「蛍火の灯る頃に」が霧に包まれた寒村を舞台にした,いわば和風の「SILENT HILL」だったこと。「彼岸花の咲く夜に」「祝姫」などホラー作品が多く引き出しが豊富なこと。そして,岡本氏自身が全著作の9割以上を読んでいたことである。

竜騎士07氏を起用した理由。当時は国内外のクリエイター数人がプロットを作っており,そのうちもっとも優れていたものが「f」になった
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 ここから岡本氏は「ゲームプロデューサーは本を読むべし」という持論を展開した。作家に発注するなら,全著作の少なくとも過半数は読んでから発注すべきである。作家へのリスペクトとして当然であるうえ,どんな作家にも当たり外れは存在するからだ。代表作だけを読んでいては短所が見えてこない。長所と短所の両方を把握してこそ,一緒に仕事ができる。

 この考えはチーム内にも浸透しており,少なくともシナリオ担当者は小説を年間100冊から200冊は読むべし,という空気があるという。オフィスには書籍コーナーがあり,シナリオ担当者の机には100冊以上の本が並ぶ。映画好きのスタッフは壁一面に映画のフライヤーを貼っている。「ゲームを遊ぶか,本を読むか,映画を観るか。時間の使い方が本当に悩ましい」と,圧をかけている本人が同情してみせる場面もあった。

作家性の長所と短所の両方を知ってこそ発注できる,という岡本氏の持論
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 日本人のシナリオライターと台湾の開発スタジオという組み合わせについて,岡本氏は「普通に考えたらうまくいかない。絶対に空中分解すると,選んでおいてなんですが僕でも思う」と述べた。だからこそ最初にコンセプトを固めることを重視し,シナリオライター,イラストレーター,コンセプトアートの会社,開発スタジオ,そしてKONAMIが集まって,シナリオプロット,クリーチャーデザインスケッチ,コンセプトアート,ゲームデザイン概要をまとめていった。このフェーズではKONAMIがディレクター的な役割で深く関わったという。

竜騎士07氏,イラストレーターのkera氏,コンセプトアートのINEI,開発スタジオのNeoBards,そしてKONAMIによるコンセプトメイキングの座組
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 竜騎士07氏が書きたかったテーマは「結婚をホラーとして描くこと」だった。日本の戦前から戦中頃の古い価値観に基づく結婚観・夫婦観を,女性の立場から現代的な目線で見たときに感じられる恐怖である。kera氏によるスケッチには,結婚で旧姓という古い人生を失うことを顔の切断で表現した老婆が描かれた。このクリーチャー自体はゲームに採用されなかったが,「顔を切断する」という表現は本編でも使われている。

 開発が本格化してからは杉本氏が事例を紹介した。竜騎士07氏のシナリオにエンディングが追加された結果,シナリオのボリュームとカットシーンの総量が大幅に増え,予算とスケジュールを大きく超過する事態となる。NeoBards,竜騎士07氏,KONAMIの三者で半年弱をかけて調整したという。並行して,ゲームプレイやカットシーン,戦闘,探索,パズルをタイムテーブルに落とし込み,プレイヤーの感情の起伏を数値で管理する作業も行われた。

 舞台の再現には特に手をかけている。「日本っぽい」ではなく「1960年の日本」を目指し,霧の町に登場するプロップスは素材と形,配置まで細かくチェックした。台湾のNeoBardsは昭和の日本を高い再現度で作り上げてきたが,実際の配置や使い方,細かい雰囲気についてはKONAMI側がディレクションしている。食卓に箸ではなくスプーンが置かれていた,といったレベルの指摘だ。

 主人公の雛子を演じる俳優は,竜騎士07氏とkera氏が挙げた候補から加藤小夏さんが選ばれた。パフォーマンスキャプチャはフェイススキャン,フェイシャルキャプチャとモーションキャプチャ,ボイスレコーディングの3ステップで実施。顔と演技と声を別々の人が担当することも珍しくないが,「f」では同一人物であることにこだわったという。俳優は全員モーションキャプチャが初めてだったため,実写の経験もある監督を演技指導に起用し,補助としてモーションキャプチャ専門のアドバイザーを付けている。

 舞台のモデルとなった下呂市金山町の筋骨地区には,地元の観光協会長への挨拶に出向いた。ホラーゲームの題材になるという性質上,どのような恐怖が描かれるのかを含めて説明したうえで,撮影取材と音声収録取材を実施している。音声収録にはNeoBardsのスタッフも台湾から来日し,マイクを立てて効果音や環境音を録ったそうだ。

スライドには現実の筋骨地区とゲーム内,現実とコンセプトアートが左から順に並べられた
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考察と「推し」。ファンダムとともに成長する


 開発後半には3種類のテストとレビューが実施された。メタスコアをレビューしていた評論家やライターが集まった外部コンサル企業による模擬レビュー,国内テスト企業によるマイルストーンごとのチューニング視点のレビュー,そして北米での8人程度によるフォーカステストである。

 岡本氏がここで語ったのは,直感と検証の関係だ。企画の発案はプロデューサーの直感によるものだが,その仮説は検証しなければならない。日本舞台のサイレントヒル,竜騎士07氏の起用という直感に対し,「日本舞台だがSHらしい雰囲気に仕上がっている」「竜騎士07先生のシナリオは魅力的」というレポートが上がってくる。「レビューを行うこと自体が,自分で自分の腹を切っているような感覚でもあるのですが,世に出すまでの間に,本当は信じなければいけないところにあえてメスを入れています」(岡本氏)。近年のタイトルでは,シナリオのプロット段階での評価や企画書レベルの基本仕様の判断,競合分析にもこの仕組みを使っており,シナリオプロットのレビューはチームのスタッフ,海外の外部コンサル企業,そしてAIレビューを組み合わせた多重チェックになっているという。

 そして講演の後半は,タイトルにもある「推し」の話に入る。岡本氏は令和を「批評から考察へ」「萌えから推しへ」と整理してみせた。考察系のドラマや考察動画が増え,考察コンテンツがブームになっている。「SILENT HILL」も竜騎士07氏の作品も,どちらも長く考察されてきたコンテンツだ。真実はしっかり存在しているが,すべてが明かされているわけではない。細部まで緻密に作り込まれているから説得力があり,同時に計算して隠されている部分がある。実体はあるが霧に包まれて曖昧さが残る物語こそが,考察に向いているというわけだ。

「批評から考察へ」「萌えから推しへ」。参考文献として三宅香帆氏の「考察する若者たち」が挙げられた
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 「f」ではこの性質を意識して情報を出している。PVはOfficial Reveal Trailerから発売日発表トレイラー,ストーリートレイラー,ローンチトレイラーへと段階的に情報を増やし,ゲーム本編も周回を重ねるごとに真実の輪郭が見えてくる構造になっている。結果として,数十を超える考察動画が公開される状態になった。

 もう一つの成果がファンアートである。狐面の男というキャラクターが「メロ狐」として女性から高い人気を集め,多数のファンアートが投稿された。同人誌も何冊も作られ,従来の「SILENT HILL」とは明らかに異なるユーザー層にリーチしている。発売から4か月が経過しても,毎週何本かのニュース記事になる状態が続いたという。

狐面の男が「メロ狐」として人気を集め,多数のファンアートが投稿された
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 質疑応答では,考察と推しをキャスティングの時点から狙っていたのかという質問が出た。岡本氏は,考察については「ひぐらしのなく頃に」「うみねこのなく頃に」を持つ竜騎士07氏の起用時点から意識的だったと明言する一方,「推し」については「狐面の男に関しては,狙ったというよりは当たったという感じ。あれだけ女性に人気になるかというと,結果論であるというのが実態です」と正直に答えた。

 ファンダムに対しては燃料を投下し続けている。「SILENT HILL iF」としてIF設定のイラストを投稿したり,従来はやっていなかったキャラクターの誕生日イラストを投稿したり。考察とファンアート,売上,配信動画数,SNSでの反応といった指標を参考にしながら,高い熱量を維持しようとしている。コミカライズやポップアップストアの展開も,その一環だ。

 岡本氏は最後に,講演全体を次のようにまとめた。英語が話せなくてもグローバル開発はできる。共通言語はゲームであって英語ではなく,日本語が話せるスタジオより面白いゲームを作れるスタジオのほうが優先度が高い。ストーリーが重要なゲームではシナリオが最重要であり,ライターの選定には読む力が問われる。レビューは徹底して行い,直感を検証する。情熱は大切だが,思い込みは大敵である。そして,考察と推しがムーブメントになっている今,ファンダムとともに成長していきたい。

 「SILENT HILL: Townfall」の発売を控えたチームが,何を土台に3本を送り出してきたのか。その具体が数字と失敗込みで語られた1時間だった。



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