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「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号
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印刷2011/12/28 16:26

インタビュー

「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号

画像集#003のサムネイル/「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号

 ドワンゴの代表取締役会長・川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」。連載が開始されてから,まだ2回という本企画だが,そんなことなどお構いなしに,2011年を総括する「年末特別号」をお送りしたい。……とはいっても,内容はいつも通りで,相変わらずのぐだぐだ話である。

 今年を締めくくるテーマは,「ネットの未来は本当に明るいのか?」。近年,インターネットの普及と発達によって,さまざまな分野が劇的に便利になっていく一方で,デマ拡散などでも見受けられるネットリテラシーの問題や,集合知ならぬ集合愚の問題など,いろいろと負の面も顕在化してきたようにも感じられる。そんななかで,インターネットが世の中,ひいては人間に与える影響とはなんなのだろうか。川上氏自身,「中二病的」と評した今回の対談だが,年末年始のネタの一つとして,ぜひじっくりと読んでみてほしい。

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12月12日に行われた「『原点回帰』ニコニコ動画5周年記念新サービス発表会(仮)」の様子
画像集#006のサムネイル/「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号


4Gamer:
 もう年の瀬ですね。
 今回は,年末あるいは年始に向けたテーマで,何かお話ができればと思うのですが……。

川上氏:
 今年は,大震災とかも含めて,いろいろなことがあった一年でしたね。震災当時は,ニコニコ動画でもNHKの放送をサイマル中継したりしましたけど,振り返ってみても,本当に激動の一年だったと感じますよ。

4Gamer:
 そういえば,ニコニコ動画でやっていたあのNHKの中継って,どういう経緯で実現したものなんですか?

川上量生(仮)。川上氏が一時期結構遊んでいたという「ダークソウル」より。
画像集#007のサムネイル/「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号
川上氏:
 NHKのサイマル配信は,最初はUstreamの日本のユーザーが,個人でNHKさんに許可をとってやっていたんですよ。だけど,あの時,そのせいで日本とアメリカを繋ぐ回線が混雑し始めていて,「このままUstreamでNHKを見るユーザーが増えていくと,日本とアメリカの回線がパンクする」という状況になっていたらしいんです。それで「ネットでテレビ放送を中継するなら,国内にサーバがある事業者にもやってもらえないのか」という相談があるところからドワンゴのインフラチームにあって。それを受けてすぐにNHKに打診を出したら,即OKという返答が返って来たんです。

4Gamer:
 なるほど。当時は,携帯電話などの通信網が寸断される一方で,Twitterを始め,情報インフラとしてのインターネットの安定性に注目が集まるキッカケにもなりましたよね。

川上氏:
 でもその裏側では,日本と海外とのネット回線がパンクする一触即発の状況だとか,そういうことが起こっていたわけで。ニコニコ動画のサイマル配信は,そんな意味でも日本の役に立っていた訳です。あのときはNHKさんに素早い判断をしていただけて本当によかったです。

4Gamer:
 そのニコニコ動画についてですけど,来年に向けて何か仕込みをしていたりはするんですか?

川上氏:
 最近,社内でもよく話しているんですけど,来年は,ニコニコ動画にとっては“相当面白い年”になると思いますよ。

4Gamer:
 面白いというのは,どういう方向でですか。

川上氏:
 詳しくは来年4月にやる「ニコニコ超会議」で発表する予定なんですけど,一言で言うと「原点回帰」ですね。ニコ動の原点とはなんだったのか。ニコ動の楽しさを突き詰めるとこうだよねってサービスが発表される予定です。

4Gamer:
 それは「動画への接し方が変わる」とか,そういう方向ですか?

川上氏:
 はい。動画の楽しみ方が変わる,という感じですね。そもそもニコニコ動画って,リアルタイムじゃないけど,リアルタイム性やライブ感が感じられる楽しさ,疑似的なのライブ感が面白かったわけですよね。でも最近は,その面白さが生放送だとか,本物のライブ感に取られてしまったという気持ちがあって。だから,その面白さがまた動画の方に戻ってくる,触った瞬間に「あ,これはニコ動だ」って感じられる。そういう方向のものを考えています。

4Gamer:
 それは気になりますね……。ただ,なんというか,ニコニコ動画の初期の頃って,その凄さがまだちゃんと“説明できた”と思うんですよね。みんなが別々の時間で見ているんだけど,動画ではあたかも一緒に見ている(同期している)ように感じられる“疑似同期性”の仕組みだったりだとか。ニコニコ動画はここが凄い,ここが新しいよねって説明を,僕自身も頭の中では整理出来ていたんです。――だけど,ここ最近のニコニコ動画は,何が凄いんだかよく分かりません(笑)。

川上氏:
 分からないような方向を目指していますからね(笑)。

4Gamer:
 ただ,勢いっていう意味で言うと,ますます伸びている印象がありますよね。ニコニコ動画が5年経ってもなお活力を失わない理由ってなんなんでしょうか。

川上氏:
 一つには,やっぱり「生放送」の役割が大きかったことが挙げられるんじゃないですか。トラフィックで言うと,全体の3割くらいなんですけど,ここでいろんなイベントや取り組みが行われているので,ユーザーから見て常に新鮮なイメージが保たれているんです。

4Gamer:
 ニコファーレなんかも,そういった流れの一つということですよね。

川上氏:
 はい。今年は,ニコニコ動画が”メディアとして認知された最初の年”だと思うし,同時に,それを運営する株式公開企業としてのドワンゴには疑問符が付けられた一年だったと思うんです(笑)。

4Gamer:
 なに無駄金を使っているんだ,みたいな話ですか? ニコファーレの総工費は12億円でしたっけ。

画像集#008のサムネイル/「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号
川上氏:
 まぁただ,そもそもニコニコ動画の需要って,さっきも話に出た疑似同期的な面白さがコアだったんですけど,生放送がこれだけ流行ってくると,じゃあやっぱり本物の同期(ライブ)の方がいいのかって話にもなる。だけど,そういうわけではなくて,動画には動画の良さがあるよねっていうのを,もう一度見つめ直したいんですよね。

4Gamer:
 時間を拘束されないのは,Webサービス(非同期型の)の魅力の一つだったわけですしね。

川上氏:
 ただ生放送に関して言うと,トラフィックは全体の3割でも,コメント数とかは動画と比べて6倍くらいあったりして。そこの熱量というか,そういう部分はやっぱりリアルタイムの方が強いなとは感じるんですよね。

4Gamer:
 でも,リアルタイム性や同期が求められるコンテンツって,少なくともネットの中では,とてもコアなものだったわけじゃないですか。オンラインゲームもそうですし,もっと遡ってパソコン通信時代のチャットなんかにしても,比較的コアな人がハマっていたという印象があります。ニコニコ生放送というのは,そのあたりのニーズがもう少し一般層に降りてきた……という理解でよいんですか。

川上氏:
 んー,いや。そこはコンテンツに対する熱意の問題なんじゃないのかな。そもそもコミュニケーションサービスにおいて,ユーザーがコンテンツをどう扱うのかというと,基本的には友達と同期するために使うわけですよ。で,以前は匿名だったり知らない人と同期するための方法論として,「コアなゲーム」っていう吸引力の強いコンテンツが必要とされていたと思うんです。

4Gamer:
 それは確かに。

川上氏:
 だけど,例えば実際の知人だったり,よりパーソナルな空間になると,同期するだけなら吸引力が低いコンテンツでも構わないわけですよ。公式生放送とかはともかくとして,一般ユーザーが使うニコ生っていうのはそういうところだと思いますよ。パーソナルなところの同期なんですよね。

4Gamer:
 その意味で言うと,いわゆるネット界隈のコミュニティを見渡すと,とくに最近は,かなりパーソナルな方向を志向したサービスが多いと思うんですよ。TwitterやFacebook,Mixiもそうで,バーチャルというよりは実社会での繋がりが意識されている。でもニコニコ動画は,不特定多数というか,知らないその他大勢の人と同期するってところが,独特の面白さなわけですよね。

川上氏:
 集会所みたいな位置づけですよね。そもそも僕は,ニコニコっていう“町の広場”を作りたかったんです。本当は,もっとネット全体にプッシュできるような仕掛けが作りたかったんですけど,それはちょっと難しいかなと思って,だったら広場を作ろうって考えたんですよね。何か事件があったときに集まる場所――それがニコニコのコンセプトですよ。

4Gamer:
 ニコニコ動画が登場してくる前って,オンラインゲーム(MMORPG)が凄い流行っていたじゃないですか。で,その当時の“コミュニティ論”って,大抵は「いかにお客さんを囲い込むか」「いかに忠誠心をあげて,逃がさないようにするか」,それがコミュニティサービスのあり方だ,みたいなものが多かったんです。

川上氏:
 そうですね。

4Gamer:
 一方で,以前,ひろゆきさんが語っていた2ちゃんねる(のコミュニティ)とかの捉え方って,もう「人が入れ替わる前提」の考え方なんですよね。村みたいな寄り合い所帯的なコミュニティではなくて,あくまで知らない人が行き交う駅のホームだったり,都市そのものみたいな捉え方をしていて。今でこそ,そういう捉え方は広く知れわたっていますけど,少なくとも当時は,そういうことを語れる人は少なかったと思うんです。

川上氏:
 囲い込むと,囲い込んだ人達が“常連化”するんですよ。それって短期的にはいいんだけど,長期的にはコミュニティ衰退の一因になるんですよね。

4Gamer:
 じゃあ,衰退しないコミュニティってどういうものなんでしょう。

川上氏:
 まず,常連が少ないっていうのが超重要でしょう。あと,Facebookなんかがやっている方法として,実社会と紐付けて消滅しないようにというのもありますし,それはある程度は有効でしょう。まぁただ,実社会と結びつけたら衰退しないのかっていうのはこれからのテーマだろうし,匿名のコミュニティが衰退しないってわけでもない。衰退しないコミュニティっていうのは難しいテーマですよね。

4Gamer:
 今の2ちゃんねるの状況ってどうなってるんでしょうね。

川上氏:
 2ちゃんねるも高齢化が進んでるみたいですよ。ニコニコ動画はまだ若いけど,それもこの先どうなるか分からない。まぁでも,コミュニティの寿命云々で言うなら,やっぱり「新鮮さ」はとても重要だと思うんですよ。ニコニコ動画がまだ勢いを保てているのも,この新鮮さを提供し続けられたことが大きいんじゃないかな。

4Gamer:
 その新鮮さっていうのは,具体的にどういうものを指すんですか?

川上氏:
 存在感ですよね。存在感の大きさ。あるいは話題性。それをいろんな方面で発揮できるというのが,新鮮さだと思う。

4Gamer:
 存在感ですか。

川上氏:
 うん。例えば,個々のユーザーにとってのニコニコ動画の存在感っていう話をすると,最初にハマっていた頃って,それこそ一日5時間とか6時間使って,ニコニコ動画を見ていた人も多いと思うんです。じゃあ,それが5年続くかっていったら,絶対にそんなことないですよね。昔ハマりまくっていた人ほど,きっと今は,触れる時間って減っていると思うんです。辞めた人だって少なくないはずで。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 そういうニコニコ動画の昔のヘビーユーザーで,今は離れた人達がどう思っているかが重要なんです。あるサービスのことを終わったと決めつけるのは,今のユーザじゃなくて昔のユーザなんですよ。
 もし今のニコニコ動画が彼らが知っている昔のままだったら,やっぱり「もうニコ動はオワコンだ」とかって思うに決まってるんですよ。でも,そういうイメージが付いていないのは,ニコニコ動画が常に変化していて,新しい世界を広げているからだと思うんです。ニコニコ自体が,全然違うものに変化していっているからなんですよ。
 たとえ新しいニコニコが彼らの好みじゃなくても,それは関係ないんです。ニコニコが社会的に意味ある形で存在感を発揮しているということさえ実感できたら,昔のニコニコじゃないと批判はしても,本音の部分でオワコンだとは思わない。

4Gamer:
 ニコニコ動画の運営って,なんというか,僕からすると「オンラインゲームっぽい」んですよね。とてもインフラのサービスとは思えないというか。完全にエンターテイメントのロジックで動いていますよね。

川上氏:
 ああ,まさにそうです。オンラインゲームと同じですよ。それにWebサービスとかって,特にコミュニティと一緒にやってるサービスにとって,「停滞」って凄く怖いことだと思うんです。なぜなら,みんな飽きるから。しかも,ハマったものほど飽きるんですよ。そのテンションを維持できないから。

4Gamer:
 でも,さっきの話に戻りますけど,ニコニコ動画はコミュニティを“都市”みたいな空間として捉えているのが,オンラインゲームとの違いですよね。

川上氏:
 はい。あとは変な話ですが,“先に振る”っていうのも結構重要なんですよね。振られる前に振る。恋愛で傷つかないテクニックと一緒です。ニコニコ動画って,ユーザーが飽きる前にユーザーを振っているんですよ。だから,ある意味ではユーザーを裏切り続けてきたサービスでもあるんです。でもそうすると,「もう飽きた」という風にならないわけですよ。

4Gamer:
 ああ。端から見ていると,そのあたりのバランス感覚もとても興味深いんですよね。それに不思議なもので,オンラインゲームなんかが大抵そうなんですけど,コアなユーザーの意見ばかりを聞き入れていくサービスって,たいてい廃れていくんです……。

川上氏:
 そう! 絶対そうなんだよね。コアなユーザーの意見に従うばかりだと,そのサービスって必ず廃れていくんですよ。


インターネットが発達すると,人類はミトコンドリア化する


川上氏:
 なんか,いきなり話が脱線しましたね。えーと,今日のテーマってなんでしたっけ。

4Gamer:
 年末向けに2011年の総括,あるいは来年に向けた何か,という以上はまだなにも。

川上氏:
 じゃあ,「『ひろゆき』みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!」とかっていうテーマはどうですか(笑)。

4Gamer:
 え(笑)。それはどういう話になるんですか?

「『原点回帰』ニコニコ動画5周年記念新サービス発表会(仮)」でも,いつもと変わらず(?)遅刻をしていたひろゆき氏
画像集#009のサムネイル/「ひろゆき」みたいな人間が増えていくと,人類は滅亡する!――川上量生氏との対談企画「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」年末特別号
川上氏:
 実は僕の関心事の一つに,「ひろゆきが未来の日本人像なのかどうか」というものがあって。仮にひろゆきみたいな考え方をする人間が今後どんどん増えていくと,日本の将来って僕みたいな人間にとっては生き辛い世の中になるだろうって思っているんですよ。なんというか,騙せる人間がいなくなる(笑)。

4Gamer:
 彼の価値観とか,そういう意味において,ですか?

川上氏:
 いや,そういう意味ではなくて。んー……,ひろゆきって,もの凄く合理的な人間ですよね。彼は何事もロジックで考えるんですけど,それって逆の意味で言えば,彼の行動原理を参考にすると,似たようなコピーが大量に作れるってことでもあって。

4Gamer:
 んん……。もしかして,ネット空間における同調圧力の形成だとか,そういう話ですしょうか?

川上氏:
 ああ,近いですね。それに僕は,インターネットがこのまま発達していくと,最終的には「人類はミトコンドリア化する」とも思っているんですが,その引き金になるのが,ひろゆきみたいな考え方をする人間の増加なんじゃないかって考えているんですよ。

4Gamer:
 ミ,ミトコンドリア……??

川上氏:
 はい。インターネットがこのまま進化していくと,人間個々の価値観とか多様性みたいなものはどんどん失われていって,最後には,人間は大きなロジック/システムに支配されるただの“素子”になってしまうんじゃないかという話です。

4Gamer:
 なるほど……。でも,その意味で言うと,「インターネットが世の中に広まるとどうなるか」みたいな話のなかで,数年くらい前には,ユーザーは賢くなって,買い物するにもいい物しか買わなくなるだとか,ネットのどこかには常にプロがいていろいろ教えてくれるだとか,そういう言説って多かったじゃないですか。

川上氏:
 はいはい。

4Gamer:
 けれど,ここ数年のインターネットの動きを見ていると,「本当にそうなのかな」と僕もよく思うんですよ。

川上氏:
 昔は……というか,今でもそうかもしれないけど,「インターネットが人間の能力を拡張するんだ」っていう考え方があったじゃないですか。インターネットとはいわば“外部記憶装置”で,これからの人間というのは余計なことを覚えなくてもいいんだ,検索する方法さえ知っていればいいんだ,という。

4Gamer:
 ああ,ありましたね。

川上氏:
 でも,インターネットが発達した結果,今,何が起こっているかというと,論文とか宿題とかまでコピペする,みたいな現象が現れてきたわけじゃないですか。

4Gamer:
 はい。

川上氏:
 じゃあ,このコピペをするっていうのはどういうことなのか。これってつまり,「自分で考える」という行為を外に出しちゃっている状態なんですよ。

4Gamer:
 ああ……。

川上氏:
 さっきの“ネットとは外部記憶装置である”という話だって,本来は「人間はCPU部分を担当していて,そのCPUが外部の記憶媒体にアクセスする」みたいなモデルなわけですよね。でも,実際に起こっていることがなにかというと,他のCPUが作ったものをただコピーしているだけだったりする。

4Gamer:
 そうですね。

川上氏:
 要するにこれって,自分というCPUが外部の記憶装置を使っているんじゃなくて,自分というCPUの機能の一部が“外に出てしまっている状態”だと思うんですよね。外部記憶装置で人間の能力をエンハンス(拡張)しているんじゃなくて,人間の“思考を司る機関がどんどんインターネット上に流出”してしまっている。そんな状況なわけじゃないですか。

4Gamer:
 た,確かに……。

川上氏:
 TAITAIさんは,「人間が自己家畜化して脳が小さくなっている」って説は聞いたことがあります?

4Gamer:
 いえ,知りません。

川上氏:
 まず,一般に野生の動物と比べて,家畜は脳が小さくなるという法則があるらしいんですよ。どんな野生動物でも,人間に飼われるようになって数世代経つと共通で現れる身体上の変化がいくつかあって,そのなかのひとつが脳が小さくなるということらしいんです。僕は専門家じゃないので,詳しい理屈までは分からないんですが。

4Gamer:
 へぇ。

川上氏:
 で,なぜそうなるか。僕はいろいろ想像したんですけど,そもそも脳の大半って,本来であれば生存競争に使われていたわけですよね。どこに食べ物があるのか。これは食べて良いものなのか。あるいは自分を狙う捕食者が近くにいるのか,いないのか。野生の動物であれば,脳を常にフル回転させなきゃ生きていけない。ぼんやりしていたら死んでしまうわけです。
 ところが家畜になると,そういう危険からは解放されるわけです。つまり,生存競争で使われていた力(脳)が必要なくなるわけ。だから退化したんじゃないかなと素人考えで思っているわけです。

4Gamer:
 なかなか興味深い説ですね。

川上氏:
 翻って,人類はどうか。文明を築き,社会システムを作り上げた結果として,生存そのもののための労力が少なくなっていっているわけですよね。そして不慮の死のリスクもどんどんなくなっているという意味でいえば,人類も家畜と似たような状況に置かれていると思えるんです。

4Gamer:
 そうかもしれません。

川上氏:
 だとしたら,人間の脳だって,どんどん小さくなっていってしまうんじゃないかって思うんですよ。まだそうなっていないのかもしれないけど,今,インターネットの上で起きているさまざまな現象というのは,そういう危険性を孕んだ流れの一つだと感じるんですよね。だから,人類がこのままのプロセスで進化していくとしたら,僕は,人間って最終的には“ミトコンドリア化”するんじゃないかって感じているんです。

※ちなみに後で調べたところによると,「人類は,自己をあたかも家畜のごとく管理する動物である」という認識を指して,人類学上の概念で「自己家畜化」というらしい。ただ通常の家畜とは違って,人間は自己家畜化することで,むしろ脳が大きくなっているという研究結果もあるようだ。
 
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