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南米最大の都市サンパウロで開催されたgamescom latam 2026が閉幕した。3回目という生まれたてのゲームイベントながら,来場者数は前年比17.5%増となる15万4000人を記録。ブラジルという「巨大な消費市場」が世界トップクラスの「生産拠点」へと急速に形を変えつつある,エネルギッシュな勢いが伝わってきた。
gamescom latam 2026で実感した熱気
2026年4月29日から5月3日まで,ブラジル・サンパウロのコンベンションセンター,ディストリト・アンヘンビ(Distrito Anhembi)で南米最大規模のゲームイベント,gamescom latam 2026が開催された。ドイツ・ケルンで8月に開催されるgamescomのフォーマットをライセンスしているだけあり,B2B向けのミーティングや開発者向けのセッション,一般来場者向けの試遊やeスポーツ大会,コスプレショーなどが行われる総合的なゲームイベントだ。
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第3回となる今年の来場者数は前年比17.5%増となる15万4000人を記録したが,この数字以上に筆者が注目したいのは,商談スペースや展示ブースに漂う「発展のスピード感」である。
B2Bにおけるミーティング数は前年から46%増加し,そこで動く成約見込み額は1億8000万ドル(約280億円)にのぼる。来場者の熱量も高く,任天堂などのブースに交じって,Riot GamesやRoblox,King.comといったオンラインゲームやモバイルゲーム関連企業の存在感が際立つのもブラジルのゲーム市場らしさを感じさせる。
国際的な大型イベントへと発展しているのは,昨年と比較しても明らかだ。B2Bエリアには世界59か国から1100社以上の企業が集結し,その顔ぶれはデベロッパやパブリッシャにとどまらず,GoogleやUnity,NVIDIA,Logitechといったテクノロジー企業,投資家,アウトソーサー,そして多国籍のサービスプロバイダにまで及ぶ。わずか3日間のネットワーキング期間中に実施されたビジネスミーティングは1万3000件を超えたという。
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エキスポフロアに目を向ければ,1230のブランド(ゲーム以外を含む)が名を連ね,122のパートナー機関がエコシステムを支えている。
公式発表によれば,参加したスタジオは700以上,その多くがグローバル市場への足がかりを求めているようだ。前述の「1億8000万ドル」という数字は,ブラジルが世界のゲーム産業における「戦略的ハブ」として機能し始めたことの裏付けと言えるだろう。
こうしたビジネスの爆発的な加速を支えている存在が,Abragames(ブラジルデジタルゲーム開発者協会)だ。かつてブラジルにおけるゲーム開発は「法的に定義されていない」という不安定な立場に甘んじていたが,Abragamesが長年にわたって粘り強く続けてきたロビー活動が結実した。
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その象徴が,2025年に完全施行された「ゲーム法案(Marco Legal dos Games)」だ。これにより,ゲーム開発は「IT・ソフトウェア産業」として国家の認可を受け,研究開発に対する税制優遇や公的な助成金の活用が可能になった。
Abragamesのエグゼクティブ・マネージャーであるパトリシア・サトウ(Patrícia Sato)氏らが推進する「Brazil Games」プロジェクトの支援もあり,国内のスタジオ数は1000社を超えた。これまでは大手パブリッシャのアセット制作を請け負う「外注先」としての側面が強かったブラジルの開発現場だが,自社IPを掲げて世界と対等に渡り合う「クリエイティブの供給源」へと猛スピードで脱皮を図っている。
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ゲーム生産国として足を踏み出すブラジル
2億1350万人の人口を抱え,年齢中央値は35.3歳。ゲーム市場としては非常に魅力的なブラジルだが,Abragamesの会長であるロドリゴ・テラ(Rodrigo Terra)氏は,gamescom latam 2026の開会式で「ブラジルは世界第5位のゲーム消費国。今後は世界第5位の生産国を目指す」と宣言した。
テラ氏の言葉は単なるスローガンではない。これまでのブラジルゲーム産業は,北米のAAAタイトルのアセット制作や低コストのアウトソーシング先としての役割が中心だった。しかし,今回のエキスポフロアで筆者が目の当たりにしたのは,その構造の劇的な変化だ。
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インディーゲームの祭典である「BIG Festival」の応募数960タイトルのうち,ブラジル国内からのエントリーは451タイトルだった。この事実は,開発者の意識が「誰かのゲームを作る」から「自分たちの物語を語る」にシフトしたことを意味している。
とくにブラジルの民話をベースにしたナラティブ作品や,現地の社会情勢を風刺したインディーゲームが台頭しており,これらは欧米の模倣ではない独自の「ブラジル産IP」としての輪郭を持ち始めている。
今年は現地デベロッパによるローカル色の強い新作の出展も多く,4Gamerではシリーズ化している「ARIDA 2: Rise of the Brave」をはじめ,「Black Sailors: Bay of the All Saints」「Tupi: The Legend of Arariboia」「Talaka」といった作品を紹介している。
戦うのではなく,生き残る。19世紀ブラジルの歴史教育とゲームの融合させたアドベンチャー続編「ARIDA 2: Rise of the Brave」をチェック[gamescom latam 2026]
gamescom latam 2026で,AOCA Game Labの最新作「ARIDA 2: Rise of the Brave」について話を聞いた。19世紀末のブラジル北東部で生き延びる少女シーセラを描いたアドベンチャーで,ゲーム中に直接的な戦闘要素は存在しない。資源の確保や自然の知識,環境を利用したステルスなどを駆使してサバイバルを続けていく。
18世紀ブラジルで,自由を求めて奴隷船を奪い取れ。海戦タクティカル「Black Sailors: Bay of All Saints」[gamescom latam 2026]
gamescom latam 2026で,Mandinga Gamesの海戦タクティカルRPG「Black Sailors: Bay of All Saints」を見てきた。反乱奴隷が主人公であることに,発表直後から悪意あるコメントを寄せられきたという,本作のゲーム性に注目する。
ターン制ローグライクRPG「Tupi: The Legend of Arariboia」が公開に。ブラジル先住民の神話を「メガテン」的システムでアレンジ[gamescom latam 2026]
「gamescom latam 2026」では,Mito Gamesが開発を進めている「Tupi: The Legend of Arariboia」が試遊展示されていた。16世紀のブラジルに実在した先住民族テミミノ族の英雄アラリボイアの伝承をベースにしつつ,仲魔システムを彷彿とさせるモンスターテイミングを盛り込んだ,意欲的なターン制ローグライクRPGだ。
水彩画風アートとソウルライクの戦闘が融合。「Talaka」はアフロ・ブラジリアン神話を描くローグライト・アクション[gamescom latam 2026]
ブラジル・サンパウロで開催されたgamescom latam 2026にて,同国の新鋭スタジオPotato Kidのデビュー作「Talaka」が出展されていた。手描きの水彩画風ビジュアルと,パリィや回避が重要になる戦闘を融合させた,個性的かつ挑戦的なローグライト・アクションゲームだ。
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また,サンパウロには大規模な日系コミュニティが存在しており,市民にとって日本は身近な存在だ。和食を食べたり,日本文化に触れたりできる日本人街があり,盆踊りを楽しむコミュニティの伝統も根付いている。
「ONE PIECE」や「ポケモン」といったワールドスタンダードなコンテンツが支持されるのはもちろん,ブラジルでは特撮テレビ番組「巨獣特捜ジャスピオン」などが社会現象になったこともある。
こうした経緯から,日本文化をアレンジしたような「サブ日本」とも言われる新しい形態が育っているのは,「Changer Seven」のようなプロジェクトにも見て取れる。
ブラジルから特撮ヒーローへのラブレター。ベテランスタジオによる新作アクション「Changer Seven」をチェック[gamescom latam 2026]
gamescom latam 2026で,Gixer Entertainmentの新作アクションADV「Changer Seven」を見せてもらう機会があったので,紹介しよう。ブラジルでは日本の特撮モノが絶大な人気で,本作はそうした日本文化にインスパイアされつつも,独自のヒーローを作り出そうとしている。
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さらに付け加えておくと,ブラジル銀行(Banco do Brasil)や通信大手のClaroといったナショナルブランドが,昨年以上の規模でスポンサーに名を連ねていることも無視できない。国内資本がゲームを「有望な投資対象」として認識し始めたことの証左であり,テラ氏が掲げる「生産国」への脱皮を,民間の資金面から強力にバックアップする体制が整いつつあることを示唆している。Epic GamesやRiot Gamesといった大企業が現地法人を置いているのも,その兆しだろう。
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かつて日本が辿った成長の軌跡
もちろん,順風満帆な話ばかりではない。急速な発展に伴う人材不足は,ブラジルでも深刻な課題だ。急増する若いスタジオに対して,シニアレベルの開発者やプロジェクトマネージャーの供給が追いついていない。
また,昨年の法整備によって緩和されたとはいえ,依然として複雑な税制や物理的なインフラの未整備により,コンシューマ機の流通が追いつかず,海外企業の直接進出を躊躇させる要因になっている。
こうした課題に対して,Abragamesはさまざまな解決策を講じている。その1つが,今年から始まった「アクセラレータープログラム」でフィーチャーするスタジオの枠を,サンパウロ以外にも拡大していることだ。これは,ブラジルが抱える「地域間格差」の解消と「産業の分散」という非常に重要な戦略でもある。
広い国土や多文化の強みを生かし,新たなゲームハブであるサンパウロを中心にブラジル全体のネットワーク化を考えているのかもしれない。
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さらにブラジルだけで解決するのではなく,“グローバルサウスの連携”というユニークなアプローチにも挑んでいる。今回のBIG Festivalには,アルゼンチンやコロンビア,ウルグアイ,メキシコといったラテンアメリカ地域から,28本のプロジェクトがファイナリストとして名を連ねた。また,チリや南アフリカはB2B向けのパビリオンを設置している。
ブラジルがラテンアメリカ,あるいは南大西洋全体のパブリッシングや流通のハブとなることで,全体の市場規模を底上げし,スケールメリットによって人材やインフラ,市場の成長に伴う課題を克服する狙いがあるのだろう。
筆者は,1999年にGame Developers Conferenceのロビーでこぢんまりと開催されていた第1回のIndependent Games Festivalを目撃して以来,25年以上にわたってインディーゲームや“ゲーム後進国”の成長を見てきた。そのなかでも,ブラジルの官民一体となった動きのスピード感は抜群にエネルギッシュで躍動的だ。
それでいてB2B向けに開催されたセッションでは,他国の成功例にも耳を傾け,それを自分たちに活用できるかを吟味する腰の低さも持ち合わせている。
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ブラジルの国旗にある帯には,ポルトガル語で「秩序と進歩」(Ordem e Progresso)という標語が刻まれているが,gamescom latam 2026では,まさにブラジルゲーム産業の進歩の過程に遭遇している感覚があった。日本人には「サッカーとサンバ,そして広大なアマゾンの国」といったイメージがあるかもしれないが,会場で見た若いデベロッパや来場者の熱狂は無視できるレベルではないだろう。
Abragamesが先導する施策が成功すれば,ブラジルはアメリカや中国,日本などに続く「世界第5位のゲーム生産国」になれる潜在能力を持っている。そのとき,ブラジルのゲーム産業は日本にとってライバルというより,「不可欠なビジネス・共同開発パートナー」になり得るのではないだろうか。
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gamescom latam 2026の閉幕後,サンパウロの空気に触れて感じたのは,かつて日本も経験した「ゲームが文化を,そして産業を牽引する」というダイナミズムが,今まさに地球の裏側で再現されているということだ。
人々の若き情熱と,Abragamesの産業育成の努力が融合し,ブラジルが世界のトップクラスに名を連ねる日は思っているより早く訪れるかもしれない。
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著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。






























