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「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
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印刷2012/03/03 00:00

インタビュー

「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

日本的でありながら,世界で共感を得る作品


4Gamer:
 国内ではすでに発売されている「GRAVITY DAZE」ですけれど,海外での発売はこれからですよね。とくに昨今のゲーム開発においては,海外市場を意識せざるを得ない背景もあると思いますが,本作で海外向けに気を配ったことはあるんですか?

外山氏:
 そこもいろいろ考えざるを得ない部分ですよね。ただ,僕が以前に手がけた「SIREN:New Translation」では,逆に向こうの土俵を意識しすぎたという反省があるんです。

4Gamer:
 反省,ですか。

外山氏:
 言ってしまえば,欧米風のゲームは,欧米ですでにいくらでもあるものです。だから,それをあえて日本で作って持っていく必要はないなって感じたんですよね。あの時はマーケット的な事情などがもろもろあって,その中では最大限の結果を残したつもりなのですが,生き残るため,と奔走するうちに何かを見失っている自分に気が付いて。
 やっぱり,日本の良さ,日本の強さをちゃんと理解して,そこを明確に打ち出して,それでいて普遍性が高いっていうのをやらないといけないなと思ったんです。

画像集#006のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

4Gamer:
 でもそこは,ある種の矛盾を抱える箇所ですよね。日本的な文脈を強くしすぎると,当然「それは欧米では受けません」みたいな話になりますし。

外山氏:
 そうかもしれませんが,私たちの身近な例でも「上田作品(※)」っていう凄く良い成功事例がありますよね。強烈に日本的な何かがありながら,それが世界中で共感を呼ぶみたいな。

※「ICO」および「ワンダと巨像」で知られる,上田文人氏が手がけた作品

4Gamer:
 確かに「ICO」や「ワンダと巨像」は,日本人らしいセンスが散りばめられた作品ですよね。

外山氏:
 上田さんの作品を見ていて「すごく羨ましいな」っていうのがあって。僕もああいったものに少しでも近づきたい,というのは意識していました。

4Gamer:
 特異すぎて難しそうですけど(笑)。

外山氏:
 そうですよね(笑)。
 ただ,海外向けと言っても,実はそこまで難しく考えているわけでもなくて。スーパーメジャーではないかもしれませんが,たとえば,海外でもドラゴンボールが受けていたりしますよね。だから,共感を持てるキャラクターがいて,そのキャラクターが活躍して,成長していくのが嬉しいみたいな部分は万国共通だと思うんです。なので疎外感を感じさせたり,そもそも共感が得られないテーマを盛り込んだりしなければ,基本的には通用するはずでしょう。

4Gamer:
 例えば「GRAVITY DAZE」では,具体的にどういった指示を?

外山氏:
 「GRAVITY DAZE」で僕がイメージしていたのは,70年代のアニメとかにあった「誰もが楽しめる娯楽性の高いヒーローもの」だとか。そういうものですね。

4Gamer:
 主人公が能力を使うときに,ちょっとアメコミっぽい雰囲気になるのも,そうした方向性の一環なんですね。

外山氏:
 あとは,セクシャルなところの見せ方だったりとか,そういう“分かりやすく伝わる部分”です。逆に「なんだかよく分からない……」と思われそうな部分は,極力持ち込まないようにしました。


脳内に変化をもたらすものは「なんでもゲーム」


4Gamer:
 しかし,改めて思うんですけど,「GRAVITY DAZE」は“ゲームならではのエンターテイメント”になっていますよね。とくに本作は,PS Vitaというゲーム機があってはじめて実現可能な遊びになっていると感じます。
 外山さんはゲームを制作するうえで,ほかのエンターテイメントとの差別化みたいな部分って意識されるんですか?

画像集#012のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

外山氏:
 ああ,それはとても意識します。僕の中のゲームの定義……というと大げさなんですけど,ゲームならではっていう意味でいうと,応答性があるインタラクション部分と,もう一つは,言い方が難しいんですけど,脳内麻薬抽出装置的なところだと考えていて。ゲームにはこの2つの柱がある,というような感覚は持っています。

4Gamer:
 ゲームが面白くなる仕組みというんでしょうか。外山さんがそういう部分をどう考えていらっしゃるのかというのは,昔から興味があって。

外山氏:
 ゲームに限らず,抑圧から開放されるものや,脳に与える刺激というか,脳内に変化をもたらすものは,僕は「なんでもゲームだ」と思っています。もうちょっと厳密に言うと,そうした効果を生み出す仕組みがきちんとあるもの,ですかね。

4Gamer:
 その“脳に与える刺激”みたいな部分を生み出す要素ってなんだと思います?

画像集#007のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
外山氏:
 もうだいぶ昔に読んだ本なんですけど,ゲームに限らず,娯楽はトランス状態と密接な関係があるっていう説があって。その説明でかなり納得のいく部分があったので,僕自身は,その理論に傾倒していますね。理性を殺される状態というか,一種の催眠状態になるというか。

4Gamer:
 さっきの上下感のお話で言うと,「GRAVITY DAZE」は,ある種の違和感が一つの面白さにもなっていると思うんですよ。

外山氏:
 ええ。そうした混乱も“誘われる要素”の一つですよね。エンターテインメントで変わった演出や仕掛けを用意するのも,そういう理由が強いんじゃないですか。

4Gamer:
 変わった仕掛けという意味でいうと,外山さんのゲームって,特異な演出がよく使われるという印象があるんですけど,やはりそういう考えに基づいているんですか?

外山氏:
 僕がゲームを作る時は,メカニック(≒システム)として柱になるものを一つ考えるんです。「SIREN」では,それが「視界ジャック」というシステムでしたし,「GRAVITY DAZE」では,「重力操作」というシステムがそれに当たります。
 そして,こういったメカニックの柱に対して相性の良い世界観であるとか,アートワークみたいなものを組み合わせれば,ゲームの大枠の部分はできるんじゃないかなと思っていて。

4Gamer:
 なるほど。ということは,外山さんはシステム部分からゲームを作っていくタイプ……ということですか?

外山氏:
 いや。うーん,そこはなんというか,メカニックの部分はもちろん必須なんですけど,絶対先にというものでもないんですね。

4Gamer:
 では,どうやって着想を得ていくのでしょう。

外山氏:
 最初からポロッと出てくるわけではないんです。それこそ映画とかテレビとか,あるいは漫画とかそういった,日常の経験からいろんな刺激がちょこちょこと自分の中に溜まっていって。こうした蓄積が何かしらの体験だったり,ビジュアルと融合して,企画が生まれてくるといいますか。

4Gamer:
 合わせてお聞きしたいんですけど,外山さんが最近ハマっているものって何かあるんですか?

外山氏:
 今は「GRAVITY DAZE」の開発がようやく一段落したところでもあるので,積んであったゲームを片っ端に遊んでいます。「Portal 2」とか「キャサリン」とか,他にもいろいろ。

4Gamer:
 そのタイトルのチョイスも興味深いですね。

外山氏:
 いやぁ……。「Portal 2」も「キャサリン」も,遊んでみたら「GRAVITY DAZE」を作るうえで参考にできる部分が沢山あって。これはもっと早く遊んでおけばよかった!って思っちゃいましたよ(苦笑)。


一時はプロジェクト中止の危機も?


4Gamer:
 「GRAVITY DAZE」って,PS Vitaのフラグシップ的な位置づけのタイトルになっていますよね。その意味では,いろいろと背負うものが大きかったと思うのですが,開発の中で,そうしたプレッシャーは感じていたんですか?

外山氏:
 そうですね。とくに「GRAVITY DAZE」は,ローンチ時期に出るタイトルとしては異例とも言える時間をかけて作っていた作品だったので,その分の責任は背負わなきゃいけないとはいつも考えていました。これは,プロジェクトの当初からそう思っていて。

4Gamer:
 そうですよね……。

画像集#013のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
外山氏:
 それに,今だから笑って話せますけど,実は,僕らのチームがそこ(フラグシップタイトルとしての役割)からこぼれ落ちそうになった時期があって。思い返せば,その時が一番苦しかったですね。

4Gamer:
 こぼれ落ちる?

外山氏:
 もうちょうど一年くらい前ですかね。PS Vitaが「NGP」としてお披露目されるイベントがあったじゃないですか。

4Gamer:
 昨年1月の「PlayStation Meeting 2011」ですね。

外山氏:
 ええ。当然,ステージでデモをする時に使う作品を選ばなきゃって話になったんです。ところがその時は,人前に出せるようなものには全然なってなくて。今でこそ軽快にゲームが動いてますけど,当時のバージョンは,フレームレートとかも全然出ていなくて,動きもガクガク。とても荒い状態……というか,荒いだけならまだしも,「これは本当に完成するの?」くらいの状態だったんです。

4Gamer:
 製品版の完成度が高いので,そんな危機的な状況があったとは思いませんでした……。

外山氏:
 しかも,それが時間をかけて作っていけば改善される問題なのか,そうではないのか,それさえ区別が付かないような状況で……。「僕らはこのままで大丈夫なのか」と,チーム全体が疑心暗鬼になってしまっていたんです。

4Gamer:
 それでもE3では,なんとか表に出せるものを間に合わせたわけですよね。

外山氏:
 結果としてはそうなんですけどね。でも,PlayStation Meetingでデモを出せなかったこともあって,E3では「今度こそ絶対!」という空気のなかで,吉田から「今のままじゃE3にも出せない」と,割と直前くらいのタイミングで言われてしまって。その時は,もうプロジェクトそのものが潰れてしまうかもしれない,くらいに思っていました。

4Gamer:
 うーむ。

外山氏:
 で,それまではローンチを意識した割り振りがあったんですけど,なりふり構っていられなくなって,「これはもう,後先考えている場合じゃない」「ローンチ云々もいったん忘れて,とにかく,今この場面であるもののクオリティを上げることに専念しよう」って話をチームのみんなとして。結果,チームが付いてきてくれたおかげで,そこで一気に完成度があがって,難局を乗り切ることができました。

画像集#016のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー


「決めないディレクター」外山圭一郎


4Gamer:
 ふと思ったんですけど,外山さんって,社内ではどういう上司なんですか?

画像集#009のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー
外山氏:
 うーん,どうなんでしょう(笑)。ただ,僕の中のディレクター像って,昔は結構カチっとしたものがあって,文字通り「決める人」というイメージが強かったんです。だけど今回に関しては,意図的に「決めない」という方針を貫きました。

4Gamer:
 え,決めない?

外山氏:
 昔は,自分で絵も書いて,いろんな構成や演出も考えて,キャラクターを作ったりだとかやっていたんですが,最近では,自分がやるより任せてしまった方が良くなるっていうケースが増えてきて。極論すると,企画書を出すところまでが自分の仕事,みたいな。

4Gamer:
 それでちゃんと回るものなんですか?

外山氏:
 ええ,「誰かが決めないことにはしようがない」とか言いながら,いつのまにか,どの件は誰がどう決めるという流れができるんですよ。もちろん,チームのメンバーの能力が高くて信頼が置けるだとか,いろいろな条件があってこそだとは思いますが,これはハマると全体が凄く良い方に動くんですよね。

4Gamer:
 理想的ですよねぇ……。普通はなかなか出来るものではないですけど。

外山氏:
 だから,「GRAVITY DAZE」の開発における僕自身の方針は,とにかく「決めない」ということでした。もちろん自分の責任範囲と思っている,コンセプトや設定,プロット,キャラクター性の確立という部分はガッチリ固めるんですが,逆に,例えこの上に乗ってくる要素がイマイチだったとしても面白いとは絶対言わせるので,みたいな割り切りで。アートワークや具体的な仕様などでは「え,それどうするの?」というものがあっても,放っておくことがあったり。不安にさせるのが僕のテクニックなんですかね(笑)。「自分がしっかりしないとマズイ!」と思ってもらいたかったんです。

4Gamer:
 おっしゃることはとてもよく分かります。

外山氏:
 なんというか,僕は,サッカーチームみたいなものが理想だと思ってるんです。サッカーのポジションって,FWとかDFとか,一応の役割は決まっているけど,別に全てがルールで縛られているわけじゃないですよね。
 DFだからといってずっと後ろに張り付かなきゃいけないわけでもないし,FWが守備をする局面もあります。相手の動き方や,試合の流れ次第で,各自が判断して動きますよね。

4Gamer:
 はい。

外山氏:
 その中で,周囲との関わりをちゃんと意識して,今は自分が出るとき,守るときっていうのを考えていく。今の時代,プロジェクトには全員で取り組んでいかないと,立ちゆかなくなるところもあるので。マラドーナにボールを預けて「さあ,どうぞ」で済む時代じゃなくなってると思うんです。

4Gamer:
 そうですねぇ……。

外山氏:
 そういう意味で,「自分で判断して動いていいんだ」ってチーム全員が思えるようにしていくことは,すごく大事にしたい。僕の仕事は,戦略の部分での意思統一を図ることと,メンバーの役回りで矛盾が生じたときなどに,監督席からちょこっと出ていって調整するくらいなのかなって思っています。後は,勝てない試合が続いたら,焼肉パーティーを催す的な役回りですね(笑)。あ,実作業でも設定とかシナリオ関連とかはやってますよ。

4Gamer:
 俺も歳をとった的な話なんでしょうか……(笑)。

外山氏:
 そうですね。僕自身の仕事の仕方として,そういう傾向が年々強くなってはいたんですが,今回はそれが“極まった”って感じです。スタッフからは,「こんなに厳しくないディレクターは見たことがない」ってよく言われました(笑)。

4Gamer:
 「GRAVITY DAZE」は,ゲームの細かい部分の一つ一つが丁寧に作られていて,これはどうやって作っていったのだろうとは思っていたんですが,理由が少し分かった気がします。
 そろそろお時間のようですので,最後に読者やユーザーに向けてコメントをお願いします。

外山氏:
 まずは,「GRAVITY DAZE」を買ってくださった皆様,誠にありがとうございます。DLCの配信などをはじめ,まだまだ本作を盛り上げていきたいと思っておりますので,今後ともよろしくお願い致します。
 また,まだ買ってないという方も,製品版には,いろいろなサプライズや楽しみを盛り込んでいるつもりなので,ぜひ手に取って頂けたらと思います。
 それから,Twitterなどで感想などをお聞かせ頂けると,本当に励みになりますので,ぜひお気軽にお寄せください!

4Gamer:
 しかし,Twitterもそうですが,今は本当にクリエイターさんとプレイヤーの距離が近くなりましたよね。

外山氏:
 いやぁ,時代は変わりましたねぇ。
 ただ,やっぱりこういう商売ですし,とにかく「お客さんを楽しませなきゃ」って思うんです。Twitterのコメントがキッカケで,面白い人だなとか,面白そうなゲームだなとか,そう思ってもらえるのなら,Twitterも続けていきたいですね。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

外山氏:
 ありがとうございました。

画像集#010のサムネイル/「GRAVITY DAZE」では“何も決めない”ことを貫きました――ディレクター外山圭一郎氏インタビュー

 その独特のプレイ感覚で,プレイヤーからも高い評価を得た「GRAVITY DAZE」だが,もちろん本作は,奇抜なアイデア一発勝負のタイトルというわけではない。その真の凄みは,重力操作というアイデアを生かし切るための,隠れた無数の創意工夫にこそあり,操作方法からカメラワーク,モーション,エフェクト,そしてボタンの応答性など,あらゆる部分の作り込みのレベルが総じて高いところにあると,筆者は感じている。
 しかも,それをすでにある形のゲームではなくて,まったく新しいハードで,まったく新しいシステム(ゲーム性)に挑戦したうえでやってみせた――ということこそ,本作がもっとも評価されるべき部分ではないだろうか。

 今回のインタビューでは,「GRAVITY DAZE」という作品で,なぜそれを成し遂げられたのか。その秘密を探りたいと考えていたわけだが,各自の自主性を促す開発方針や,それでいて方向性を見失わない外山氏の手腕など,ゲーム開発以外にも通用する仕事への取り組み方が垣間見えたような気がする。

 ホラーゲームの大家として,すでに高い知名度を誇っている外山氏だが,ひょっとしたら,この「GRAVITY DAZE」という作品をもって,外山氏は本格的に“世界的なゲームデザイナー”の仲間入りを果たすのではないか。そう予感させるほど,本作の出来映えは素晴らしいものだ。
 海外での発売はもう少し先で,海外メディアの評価なども未だに定まっていない現在ではあるが,日本人の手で作られた「GRAVITY DAZE」というゲームが,世界の舞台でも成功する可能性はとても高いと感じている。

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外山圭一郎氏のTwitterアカウント

 
  • 関連タイトル:

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