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グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた
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印刷2012/06/04 10:00

インタビュー

グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた

「コンプリートガチャ」の問題,そしてRMTについて


4Gamer:
 ガチャの話の流れで,やはり時期が時期だけに聞かないわけにもいかない質問をさせてください。先日各紙で報道された「コンプリートガチャ」(以下,コンプガチャ)についての質問です。

吉田氏:
 はい。

4Gamer:
 コンプガチャについては,これまでにいろいろなメディアで取り上げられていますが,先日,消費者庁から正式に「景品表示法違反」との見解が示されたことについては,どのように捉えていますか。

画像集#027のサムネイル/グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた

吉田氏:
 そうですね。こういうのはどこからお話すればいいのか分からないのですが,まず大枠のスタンスとして,いろんな方から沢山のご意見,ご指摘を頂いているなかで,グリーとしては,そういった声に真摯に対応していきたい,いくべきだと思っています。ですから,青少年保護であるとか,消費者庁からの指導であるとかに関していえば,多くのお客様により安全に弊社のサービスを遊んで頂くために,必要な対応なり対策は粛々とやっていくつもりです。

4Gamer:
 端的に言って,コンプガチャの仕組みが「法律的に問題があるのではないか」という議論は社内であがらなかったんですか?

吉田氏:
 それは,弊社のコンプライアンスはどうなっているのかというご指摘だと思うのですが,弊社も何か新しいことをやる際には,社内の法務であったり,外部の弁護士事務所などといったところに随時確認を取りながら,今までずっとやってきたところではありまして,決して「何もやってなかった」というわけではありません。

4Gamer:
 ただ,結果としては「違法という見解」が示されてしまったわけですよね。

吉田氏:
 はい。弊社としては,消費者庁の見解が出る前に,指摘のあったコンプガチャに関しては5月中に新規リリースの中止と全面撤廃を決定していました。また,その上で今回の決定を重く受け止めて,プラットフォーム事業者として,SAPさん向けにガイドラインを設けて,自主的な対応の強化を図っていくつもりです。

4Gamer:
 見解が出る前に決めていたとおっしゃいますが,結果としては消費者庁の動向が情報として流れ出してから,それを受けての決定のようにしか見えませんでしたし,多くのユーザーさんもそのように思っているのではないでしょうか。そのイメージを払拭するためにも,いつごろから問題を認識しており,いつごろから改善のプロジェクトは動いていたのか,参考までにお教えいただけますでしょうか。

吉田氏:
 コンプガチャは,社内はもちろん,関係各所と連絡をとりながら違法性はないという認識で提供してきたサービスです。しかし,4月24日に消費者庁長官の会見があり,判断基準の見直しがあるかもしれないということが分かったため,社内や6社とも協議した上で,最終的に終了することを決定しました。

4Gamer:
 ちなみにガイドラインというのは,発表された6社協議によるガイドラインとは別のものですか?

吉田氏:
 いえ,そのガイドラインです。すでにある程度までは完成していて,今は各社と連絡を取りながら,内容を詰めているところです。

※5月25日にガイドラインの内容は公に公開された

4Gamer:
 コンプガチャの撤廃や今後の取り組みの発表など,新聞各紙の報道を受けてからの業界の動きは,とても迅速だったと思います。しかし,これは純粋に疑問なのですが,政府から直接“規制”という形で介入が入る前に,業界の自主規制で問題を沈静化させることはできなかったんでしょうか。

吉田氏:
 ソーシャルゲームの市場が急速に拡大するなかで,弊社も,出来る限りのことはしているつもりです。もちろん,努力が足りないのではないか,脇が甘いのではないかと言うご意見はあると思います。

4Gamer:
 消費者庁からこのような規制が入るにあたって,事前に勧告なり連絡というのはなかったんですか?

吉田氏:
 この場で内容についてお話することはできないのですが,関係各所と連絡は取らせていただいております。

4Gamer:
 今回の動きで一つ不思議に思えたのは,なぜ「コンプガチャ」に絞って公式の違法見解が示され,規制への流れが,それも急に出来上がったのかというところなんです。そもそも,消費者庁や警察庁が問題視していた部分は景品表示法というより,青少年保護や未成年略取の観点,あるいはRMTやそれにまつわる問題(不正や反社会勢力の関与など)がメインだったと認識していたのですが。

吉田氏:
 それらの点については弊社がコメントできる立場にありません。

4Gamer:
 個人的には,コンプガチャだけが問題視されるというのも,これはこれで違和感があるんです。RMT問題などへの対処が,この一件で不問になったわけではありませんよね?

吉田氏:
 その件でも,弊社は関係各所と密に連絡を取らせて頂きながら,より健全なサービスの実現に向けて,さまざまな対策を行っています。実際,直近ではRMT業者への対策を実施/発表しましたし,実効性のある対策として,トレードするためにはIVR認証を必要としたり,友達申請後一定期間はトレード制限をかけたりもしています。

4Gamer:
 PCオンラインゲーム業界では,よく不正対策として大規模なアカウント停止を行ったりもしていますが,グリーさんの方ではそういったアクションをとられないのですか?

画像集#002のサムネイル/グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた
吉田氏:
 アカウントの停止自体は弊社でも行っています。前回は,3000〜4000人規模のものを行っていたかと思います。アイテムのデータの固有IDを紐付けて,不正な取引が行われないように監視できるシステムを構築したり,監視チームを強化して対応に当たらせたり,「やれることはどんどんやっていこう」という姿勢で取り組んではいるつもりです。

4Gamer:
 より実効性のある対策が必要なのではないのですか。例えばですが,もっと大規模なアカウント停止措置をしたり,トレードという仕組み自体を廃止したり。PCオンラインゲームの例で言えば,そうした措置を強行する事例や,一定以上のレアアイテムは取引できないタイトルも少なくありません。グリーさんは,サービスの規模からいってそのくらいの対処は必要だと思うのですが。

吉田氏:
 弊社が大規模な対応を実施すると,少なからず混乱を招いてしまう可能性がありますので,関係各所と連携して,必要な対策を慎重に検討していきたいと考えています。

4Gamer:
 まぁただ,公表される消費者センターへの問い合わせ件数って,何も「ちゃんとした相談」だけではないんですよね。これもまたPCオンラインゲーム業界の事例で申し訳ないのですが,それこそ「退会したいのですが」とか「なんかログインできません」みたいな,ちょっとした問い合わせも含めて「オンラインゲーム絡みの問い合わせ」としてカウントされてしまうことは理解できるので。

吉田氏:
 ええ。そういうところも少なからずありますね。

※消費者庁に寄せられた携帯向けソーシャルゲームに関する苦情/相談の件数は,2010年では5件だったものが,2011年に58件になったと発表されているほか,国民生活センターによると,コンプガチャを含むオンラインゲーム(こちらはPCオンラインゲームを含む)に関する相談は2009年度が1437件,2010年度が2043件,2011年度が3445件と急増しているという。ちなみに,PCオンラインゲームが社会問題として取り沙汰された時は,月に数百件単位の問い合わせが各地の消費者センターに届いていたこともある


いまだに残る「射幸性」の問題


4Gamer:
 あの,これはもう,ズバリお聞きしたいのですが,グリーさんは「射幸性」についてはどう考えているんでしょう。ゴールデンウィーク明けの一連の報道や発表は,あくまでコンプガチャに絞った話になっていますが,議論の根本でいえば,結局は「射幸心を煽ることがどこまで許されるのか」につきるかと思うのです。

吉田氏:
 ええと,ここだけはぜひ誤解しないでいただきたいのですが,我々は,プラットフォーマーとして長期的な視点でビジネスに取り組んでいますし,その意味で「サービスの健全化」というのは,何もお題目というわけではなく,責任ある企業の判断として正しい方向だと思っております。

4Gamer:
 先ほどのガイドラインの話もそうなのですが,ガイドラインを設けてそれを遵守していくという部分は分かるんです。ただ,具体的な対応策として,どのような取り組みを行うというのが見えないので。

吉田氏:
 一つには,これは先日発表させて頂きましたサービスがありまして,任意申し込みですが,設定した金額で「注意告知」を出すようにできます。通知が出るデフォルトの設定金額は,15歳以下は5000円で,16歳以上は1万円ですが,最低金額1000円から,以降1000円単位で設定できます。

4Gamer:
 年齢認証など,ユーザーの本人確認はどうしていくんでしょうか? 

吉田氏:
 そこは,登録されたユーザー情報で判断することになりますね。

4Gamer:
 うーん……でも,オンライン上のアカウント登録だと,例えば子供が正直に年齢を入力しているかどうかって分かりませんよね。

画像集#007のサムネイル/グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた
吉田氏:
 そこはおっしゃる通りです。ただ,ここはとても難しい問題で,例えば,親から携帯電話を買い与えられて,キャリアにちゃんと情報が登録されている場合は,弊社からも確認もできるんですが,一方で,そこも親の名義になっていたりして,そうなってしまうと弊社から確認する手立てがないだとか,いろいろと問題というか,一企業の対応には限界があるのも確かなんですよね。もちろん,だからやらなくてよいって話じゃないですよ。

4Gamer:
 子供が「大人」を演じることもあるし,その逆のパターンもあります。そして,得てしてそういう「嘘」を付くユーザーが問題を引き起こしたりしがちですよね。こういった部分に対して,何か実効性のある対策はないものなんですか。

吉田氏:
 仕組みを詳しくは言えないのですが,ある程度までは実装されているフィルタリング機能で引っかかります。また,パトロールチームが365日24時間体制でチェックしながら,随時対処しています。あとは,未成年はコミュニケーションを上下2歳までのユーザーさんだけに制限したりといった,安全性を高めるためのいろんな仕組みを導入しています。

4Gamer:
 あと,射幸性という意味でいえば,ガチャ自体も規制の対象になるのではないか,という指摘もあります。ガイドラインでは,通常のガチャについての記述ないし制約はあるんですか。

吉田氏:
 通常のガチャに関する記述は含まれておりません。

4Gamer:
 ガチャ自体を問題視する声の中には,「レアカードが当たる確率などが不当に操作されているのではないか?」などという疑惑もあるようですが。

吉田氏:
 出現確率は個々のゲームや場面において「設定」されており,少なくとも当社のゲームでは,不当な人為的操作は行われていません。


結局,何に対して批判されているのか


4Gamer:
 改めてお聞きしたいのですが,今,違法であるかどうかという話だけではなく,ソーシャルゲーム業界への風当たり自体がとても強くなっているタイミングだと思うんです。これはなぜだと思いますか。

吉田氏:
 いろいろなご指摘があるのは理解しています。

4Gamer:
 そうなんでしょうか……。

吉田氏:
 うーん……。

4Gamer:
 これまでのゲーム産業自体がそうだったと思うんですが,まったくの新しい市場が急に立ち上がり,それが拡大していくときに,社会との軋轢が生まれていくというのは,ある意味では仕方がないことだとは思うんです。

吉田氏:
 はい。

4Gamer:
 けれど,そうした軋轢が表面化したとき,批判の対象になることは,「自浄のための努力をしているのかどうか」につきると思うんですよ。新しい市場/分野で,新しいことに挑戦するときは,当然ですが,法整備などのルールが整っていないケースが少なくありません。どこまでが良くて,どこからが駄目なのかという線引きも曖昧です。そこでどこに線を引くかを,社会は見る。そういう話です。

吉田氏:
 僕らも,お客様に安心して楽しんでいただくために,日々努力はしているのですが,市場や事業の拡大と,それに伴って発生する,今までには存在しなかったさまざまな問題に対して,よりスピード感を持って取り組む必要があると考えています。

4Gamer:
 過去のゲーム業界,直近で言えば,PCオンラインゲーム業界もそうでしたが,急激に市場が拡大して,会社の規模も一気に何倍にもなっていって。そのなかで,理路整然とした対策を打っていくことの難しさは理解しているつもりです。その上で,2月の「探検ドリランド」の騒動からコンプガチャの廃止に至るまでの動きを見ていると,やはり「後手に回りすぎじゃないか」という印象は拭えないんですね。

吉田氏:
 そこについては,厳しいご批判があるのを理解しております。

4Gamer:
 ただ,それは一方で,「もっとしっかりしてくれ」という声でもあると思うんですよ。

吉田氏:
 そうですね……。今,ソーシャルゲーム業界にとってとても大事な時期だと思うのですが,僕ら自身がもっと自主的に,前のめりにアクションを起こしていかなきゃいけないってことだと感じています。

4Gamer:
 そうですね。

画像集#009のサムネイル/グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた
吉田氏:
 繰り返しになってしまうんですが,僕らとしては,やっぱり長くサービスを使ってほしいと思っていますし,そのためには「安全で安心できる環境」というのが必要不可欠だと考えています。先ほども少し触れましたが,責任ある企業として「サービスの健全化」を目指すことは,判断としても“正しいこと”だと思うからです。だから,いろんなご意見を素直に受け止めて,やるべきことはやっていきたい。

4Gamer:
 スマートフォンが今後のメインプラットフォームの一つになるのは間違いないと思いますし,ソーシャルゲームというものが,そのなかで大きな役割を果たすのも確かだとは思うんです。それだけに……。

吉田氏:
 はい。ご批判もある種の期待値だと思って,今後の取り組みをしていければと思います。

4Gamer:
 分かりました。健全化に向けての今後の取り組みを期待しております。
 本日はありがとうございました。

吉田氏:
 ありがとうございました。

画像集#026のサムネイル/グリーは何を考え,何を目指すのか。ソーシャルゲームの未来,そして議論の渦中にある規制について聞いてみた


 異なる立場にある人が,さまざまな角度からソーシャルゲームについて議論を行っている。
 ある者はソーシャルゲームを「日本の将来を背負う産業だ」と言い,ある者は企業を名指しして「社会悪だ」と言う。とくに消費者庁から「景品表示法違反」の見解が示されてからは,後者の批判は少しエスカレート気味になっているようにも見える。

 ゲーム業界側からのスタンスで見れば,議論の是非はともあれ,ソーシャルゲームが数少ない成長分野であることは確かだ。ここ1〜2年で,ゲームメーカーの多くが本格的にソーシャルゲームへの進出を果たしているし,何かと厳しいニュースばかりが目立ちがちな昨今のゲーム業界に,景気のよい話があることは悪くない。ただし……。

 ソーシャルゲーム市場が,“今ある形のまま拡大していく”ことに対して,業界内であっても少なからぬ懸念を感じている人はいる。ソーシャルゲームはゲームという文化の地位向上に貢献できるのか,ゲーム市場の拡大に貢献できるものなのか,もっと言えば,ソーシャルゲームが導く次のゲーム市場とはどんなものなのか。

 筆者自身もそんな“懸念を感じている”人間の一人である。だからこそ,今回のインタビューを通じて,日頃のさまざまな疑問をグリーへと投げかけてみたわけだが,取材を終えた今もなお,彼らがどこまで“ゲーム”ビジネスを考えているのかが分からない。
 なるほど,プラットフォーマーとして「長期的なサービスにした方が正しい」という考え方には賛同できる。ではグリーは,本当に長期的に遊ばれるビジネスを意図したアクションを行っていくだろうか。今現在,実際に見えるアクションは,本当に顧客との長期的な信頼関係を築くに足りているだろうか?

 インタビューの中で,筆者は,ソーシャルゲーム業界の「自浄のための努力」について言及した。相手からのリップサービスを求めていたわけではなく,4Gamerという媒体は,かつてオンラインゲームが直面した大きな問題を見てきているからだ。企業が企業である以上,利益を求めることは至極当然の目的となる。その中で割かれることになる社会への姿勢は,企業がユーザーの便益や幸せをどこまで客観的に考えられるか,という話でもあり,そうしたスタンスを見せないままで「顧客との長期的な関係」は築けないと,経験的にも思えるのである。

 今回の騒動を経て,ソーシャルゲーム業界は「健全化」に向けて大きな舵を切った。今後もプラットフォーマーとして更なるリーダーシップを発揮し,顧客と真の信頼関係を築ける企業に成長する――それが,今後のグリーという企業に求められているシナリオだろう。今後の動きに注目していきたい。

――2012年5月18日収録

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