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20周年を迎えた「スペースチャンネル5」開発陣が集結。“パート1誕生秘話”,VRで復活を遂げる“最新作に懸ける思い”を聞いた
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印刷2020/02/22 12:00

インタビュー

20周年を迎えた「スペースチャンネル5」開発陣が集結。“パート1誕生秘話”,VRで復活を遂げる“最新作に懸ける思い”を聞いた

(C)SEGA
画像集#034のサムネイル/20周年を迎えた「スペースチャンネル5」開発陣が集結。“パート1誕生秘話”,VRで復活を遂げる“最新作に懸ける思い”を聞いた
 2019年12月,セガ(現セガゲームス)の「スペースチャンネル5」が20周年を迎えた。ドリームキャストやPlayStation 2向けにシリーズ作品がリリースされ,現在も熱心なファンを多く抱えるミュージカルアクションゲームだ。4Gamerでは昨年末,同シリーズの強烈な個性に魅了されたライター陣が,それぞれの思いを綴る特別企画を掲載している。

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 1999年12月16日はドリームキャスト用ソフト「スペースチャンネル5」の発売日である。そして本日(2019年12月16日),「スペースチャンネル5」は20周年を迎えた。この機会にあらためて,名作ミュージカルアクションゲームの軌跡を振り返り,ライター3名によるコラムをお届けする。

[2019/12/16 21:00]

 当然,「スペースチャンネル5」に愛を注いでいるのは,ファンに限ったことではない。開発陣の愛にも長く支えられてきたからこそ,最新作「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」(PlayStation VR版がグランディングから2020年2月26日発売予定)が誕生したと言ってもいいだろう。


 今回はシリーズ最新作の発売を記念して,「スペースチャンネル5」シリーズに携わるセガゲームスとグランディングの開発陣に集まってもらった。「スペースチャンネル5」の誕生秘話や当時の思い出,そして最新作への意気込みまでたっぷりと語ってもらったので,じっくりと目を通してほしい。

吉永 匠氏:「スペースチャンネル5」シリーズのキーマンと呼べる存在。シナリオ執筆およびゲームデザイン・ディレクターとして携わってきた。「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」ではストーリー&ゲームデザイン・アドバイザーとして,セガゲームスから参加幡谷尚史氏:セガゲームスで長きにわたってサウンドクリエイターを務め,「スペースチャンネル5」をはじめとする作品にキャッチーな楽曲を提供。「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」でも,サウンド面を協力している
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栗原直哉氏:グランディング所属。「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」リードプログラマーを務める。VRデモ「スペースチャンネル5 VR ウキウキビューイングショー」が出展された東京ゲームショウ2016の会場で,最新作の制作を直訴したという経歴を持つ堀田 昇氏:グランディングで「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」のディレクターを担当。かつては吉永氏や岡村氏と同じく,セガソフト9研→ユナイテッド・ゲーム・アーティスツに所属。「Rez」のグラフィックデザイナーを務めた岡村峰子氏:グランディング代表取締役にして,「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」プロデューサー。エイベックスからセガに転職したという経歴を持ち,同シリーズのアシスタントプロデューサーとして開発からプロモーションまで広く関わった
画像集#022のサムネイル/20周年を迎えた「スペースチャンネル5」開発陣が集結。“パート1誕生秘話”,VRで復活を遂げる“最新作に懸ける思い”を聞いた

スペースチャンネル5 公式ポータルサイト

「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」公式サイト



始まりは「シルエットの女の子をお手本通りに踊らせるゲーム」


4Gamer:
 本日はありがとうございます。「スペースチャンネル5」(以下,SC5)の発売から20周年を迎え,最新作「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」の発売も控えています。まずは“パート1”を手がけた皆さんと当時を振り返り,最新作への橋渡しを担っていただければと思います。

※インタビュー収録:2019年11月上旬。

吉永氏:
 20年も経っていますから,忘れていることばかりですが(笑)。ひとまず思い出せたことを年表にしてきたんですよ。

※ここで吉永氏による年表が登場。以下は年表から抜粋したもの(敬称略)。

[三畳紀]
■1993年
 ∟シルエットの女の子をお手本通りに踊らせるゲームの企画書[吉永]

■1994年
 ∟背景がムービーの「某有名IP」アドベンチャーゲームの企画[湯田/吉永ほか]
 ∟同年,一旦散開。それぞれ別の部署で仕事

[ジュラ紀]
■1996年
 ∟背景がムービーのアドベンチャーゲーム「電眼(deen-guns)」の企画[湯田/吉永]

■1997年
 ∟「スペースチャンネル5」のプレゼンビデオ作成[湯田/ササキ/吉永(お手伝い:岡崎)]
 ∟社内プレゼン,プレゼン通過,企画者がサウンドの部署に移籍[湯田/幡谷/吉永/宮部/茂呂/岡崎ほか]

[白亜紀]
■1998年
 ∟渋谷に開発部署を移す[水口/湯田/幡谷/吉永/宮部/茂呂/岡崎/岡村ほか]

■1999年
 ∟「スペースチャンネル5」発売[第9ソフトウェア研究開発部]


※編注
  • 湯田:湯田高志氏。SC5 ディレクター。劇中のディレクター「ヒューズ」役としても出演。
  • ササキ:ササキトモコ氏。サウンドクリエイター。企画立ち上げ時,チームに在籍していた。
  • 岡崎:岡崎 健氏。SC5 デザイナー。SC5 パート2 トータルシーンデザイナー。
  • 宮部:宮部由美子氏。SC5 アートディレクター兼デザイナー。SC5 パート2 ディレクター。
  • 茂呂:茂呂真由美氏。SC5 デザイナー。SC5 パート2 アートディレクター。
  • 水口:水口哲也氏。SC5およびSC5 パート2 プロデューサー。

4Gamer:
 恐竜の時代なんですね(笑)。1993年の「シルエットの女の子をお手本通りに踊らせるゲーム」というのは,何のことでしょうか。

吉永氏:
 私が会社に入って,ほぼ最初に書いたと言っていい企画ですね。この直後のセガサターン時代に,背景がムービーのアドベンチャーゲームを湯田さん(湯田高志氏)と一緒に企画したんです。ただ,それらはプレゼンが通らず,世の中には出ていません。

4Gamer:
 当時,吉永さんや湯田さんはどちらの部署にいらっしゃったんですか。

吉永氏:
 第3CS研究開発部です。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を作っていたチームですが,私は在籍期間が長いわりにソニックシリーズに関わったことがなくて(笑)。

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幡谷氏:
 当時はサターンで「NiGHTS」や「バーニングレンジャー」を作ってから,ドリームキャストの立ち上げに合わせて「ソニックアドベンチャー」を作り始めていたね。

吉永氏:
 その頃,私は外部の開発会社とセガサターンの「月花霧幻譚 TORICO」を作っていました。その延長という感じで,湯田さんとドリームキャスト向けのアドベンチャーの企画を担当することになったんですが,それが1996年のところにある「電眼(deen-guns)」です。まだミュージカルや音楽ゲームという内容ではなかったですね。

4Gamer:
 「電眼」は初めて聞くタイトルです。どんなゲームだったのでしょうか。

SC5のエンディングより。前身となった「電眼」プロジェクトのアイコンが入っている
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吉永氏:
 「AKIRA」のようなイメージの近未来を舞台にした,ハッキングをしながら進んでいくアドベンチャーゲームでした。主人公は男の子で,SC5とはまったく違う内容です。
 実は,SC5のエンディングに「電眼」プロジェクトのアイコンが入っていて,こっそりとルーツになったタイトルをアピールしているんですよ(笑)。

4Gamer:
 ええっ,それは気がつきませんでした! あとで確認してみます。
 その翌年(1997年)にはSC5のプレゼンビデオが完成していますが,ここでササキトモコさんが加わり,企画がだいぶ固まったというわけですか。

幡谷氏:
 この頃はセガサターンからドリームキャストへと世代が変わる直前で,新しいタイトルを模索していたんです。
 当時,「パンツァードラグーン」のプロデューサーをしていた近藤さん(近藤智宏氏)が手がけるプロジェクトがあって,そこに関わっていたのが僕とササキさんでした。でも,そのプロジェクトが無くなってしまい,何か新しいことをやりたいと考えていたときに声がかかったことを記憶しています。

4Gamer:
 その後,プレゼンビデオが完成したというわけですね。

吉永氏:
 いくつかのパターンがありましたが,どれも黄色い衣装の女の子が踊って戦うという内容でしたね。このときには「ミュージカルとゲームの融合」というテーマがあって,タイトルも「スペースチャンネル5」と決まっていました。
 今日は映像を持ってきたので,ちょっと見てもらいましょうか。

※ここでプレゼンビデオの映像が再生される。

4Gamer:
 おおっ! 動きが少し固いものの,これはSC5の原点と呼べる内容ですね。音楽も「メキシカン・フライヤー」を使っていますし。

プレゼンビデオよりキャプチャ。我々のよく知るSC5の面影が垣間見える
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吉永氏:
 踊りのシーンは当時,バグチェックチームにいたダンサーのスタッフが担当していますが,それ以外のシーンは湯田さんです(笑)。モーションキャプチャでは全身にケーブルをつないでいたので,後ろでケーブルをさばく人も踊りを覚えていないと大変なことに……。そんな時代だったんです(笑)。

4Gamer:
 時の流れを感じます(笑)。このときにゲームの内容は決まっていたんですか。

吉永氏:
 お題に対して入力するのではなく,流れている音楽の要所に合わせて“決め入力”をして,それに成功するとシーンが進んでいくという内容でした。SC5と比べると,もう少し単純な音楽ゲームだったと思います。

4Gamer:
 このプレゼンビデオの手応えはいかがでしたか。

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吉永氏:
 会社の大きな会議室で社長や本部長といった偉い人に見てもらったら,嘘みたいな話ですが拍手喝采だったんですよ。そのときに中山社長(中山隼雄氏)から「こういうのが欲しかったんだよ!」と絶賛されたことを覚えていて,心の中では「ドラマみたいだ!」と感激しました。

 その一つ前の機会にプレゼンをしたのが,先ほどの「電眼」だったんです。こちらは暗いイメージの映像だったので,「もっと明るいものが欲しい」というオーダーがありました。当時からセガはマニアックなお客様が多くて,ドリームキャストの発売に向けては「一般層にもアピールできるようなものを」という流れがあり,そこにSC5の内容がうまくハマった形でした。

4Gamer:
 最初の企画である「シルエットの女の子をお手本通りに踊らせるゲーム」から,紆余曲折を経てSC5にたどり着いたというわけですね。

吉永氏:
 個人的にはそんな感じです。「シルエットの女の子〜」のほうも,その後に「きみのためなら死ねる」へとつながっています。

※セガが2004年に発売したニンテンドーDS用ソフト。吉永氏がディレクターを担当。

4Gamer:
 なるほど。最初の企画は「きみしね」のルーツにもなっていたわけですか。


一癖も二癖もあるクリエイターが水口哲也氏の元へ


うらら
(C)SEGA
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4Gamer:
 アドベンチャーゲームである「電眼」からミュージカルアクションゲームであるSC5への企画変更となりますが,苦労はありましたか。

吉永氏:
 いやあ,そうでもなかったですよ。湯田さんはメガドライブ時代に「アイ ラブ ミッキーマウス ふしぎのお城大冒険」や「アラジン」といったディズニータイトルを手がけた経験があって,湯田さん自身も結構踊れる人でしたから。

4Gamer:
 確かに,ヒューズ役の演技はノリが良かったですね。

吉永氏:
 私も昔からミュージカルが好きで,企画の流れとして“ミュージカルアクション”になっていったのは自然だったと思います。

4Gamer:
 吉永さんの年表によると,プレゼンの成功後に「企画者がサウンドの部署に移籍」とあります。これはどういった経緯でしょうか。

吉永氏:
 当時の上司から「これは売れるかどうか分からない」と言われた後にプレゼンが成功したわけですが,結局「うちの部署では作らない」と言われてしまったんです。そのための受け入れ先を探していたら,デジタルメディア制作部の牧野さん(牧野幸文氏)が呼んでくれたという流れですね。

幡谷氏:
 デジタルメディア制作部は映像とサウンドを作るチームです。その分室のような形で,別のフロアにいたんだよね。

吉永氏:
 そう,サウンドチームとは別のフロアでした。幡谷さんもデジタルメディア制作部に所属していて,そのタイミングでデザイナーの宮部(宮部由美子氏)茂呂(茂呂真由美氏)も合流しました。彼女達も同じような境遇にいて,牧野さんに拾われる形でした。

4Gamer:
 職人気質の個性的なクリエイターがいよいよ揃ってきたという感じです。

岡村氏:
 あんまり会社員らしくないメンバーですよね。

吉永氏:
 そうかもしれない(笑)。そんなメンバーが集まって,プレゼンビデオの延長のようなサンプルを10か月近くかけて作り,「この先,どうしようか」と考えていた矢先のことです。短パンのにこやかな男がやってきて,「渋谷に部署を作るから来ない?」と誘われたので,我々は渋谷に移ることになりました。

4Gamer:
 その短パンの男というのは,ひょっとして……。

吉永氏:
 もちろん,水口さん(水口哲也氏)です。

4Gamer:
 やっぱり(笑)。水口さんがチームに加わったことで,どんな影響がありましたか。

1999年当時,セガ第9ソフトウェア開発部(分社後はユナイテッド・ゲーム・アーティスツ)が入っていた「カレイド渋谷宮益坂」(現在は商業ビル)
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吉永氏:
 すごく刺激が増えました。渋谷に移転後,あらためて「SC5をどんなゲームにしようか」と考えているときに,水口さんが「パフォーマンスショーの『STOMP』的な要素を入れたい」という案を出してきたんですね。「それはきっと面白いけれど,ゲームに入れるのは大変だろうな……」と考えながらも,そのアイデアには大いに刺激を受けました。
 あとはプロデューサーとしての敏腕さ。とにかく周りを巻き込む力がすごくて,エイベックスの人からパントマイマーの人まで,ゲーム以外の分野からどんどん人材を集めてくるんですよ。

4Gamer:
 水口さんをはじめとする人材がデジタルメディア制作部の分室に合流して,やがて第9ソフトウェア研究開発部(ソフト9研)となったわけですね。でも,なぜ渋谷に移転したのでしょうか。

岡村氏:
 当時の水口さんに課せられていたミッションが,先ほど話題になった「新ハードであるドリームキャストに新規のファンを獲得する」というものだったんです。水口さんはその条件として,「渋谷にオフィスを構える必要がある」と主張して会社と交渉したそうです。私がセガに誘われたときも,口説き文句は「オフィスは渋谷だから」でした(笑)。

4Gamer:
 岡村さんは水口さんにスカウトされた形ですよね。

岡村氏:
 吉永さんの話に出た「エイベックスの人」が私です。営業職としていろいろなクラブでCDを手売りしていたときに,謎の短パンお兄さんとよく会っていたんです(笑)。
 さらに,ソフト9研でアシスタントプロデューサーをしていた渡辺剣人が学生時代の友達で,「どうやら短パンのお兄さんが上司らしい」と分かってから,それをきっかけに話すようになったんですが……。ある日,突然「セガに来ない?」と。

4Gamer:
 エンタメ業界とはいえ,音楽とゲームでは畑がまったく違いますね。

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岡村氏:
 最初は「来ない?」の意味が分かりませんでした(笑)。でも,水口さんは大まじめで「ゲームというのは日本が唯一,グローバルで勝負できるエンターテイメントだ」と力説してくれました。「日本の裏側のブラジルでも,日本人が作ったマリオやソニックを知っている」ということを聞いて,「確かにそうだ!」と目から鱗だったんです。

 私は元々エンターテイメントに携わりたくてエイベックスに入ったわけですが,セガもエンタメの会社なわけで,そこで水口さんは「ゲーム業界に限らず,さまざまな分野の面白そうな人間を集めて新しいコンテンツを作る」という自分のミッションを持っていたんですね。それを当時の上司に話したら,「自分は上司に名指しで誘われたから,ここにいる。名指しで『一緒に仕事をしたい』と言ってくれる人がいるのなら,それはきっとチャンスだ」と背中を押してくれたので,腹を決めたんですよ。

4Gamer:
 音楽業界からゲーム業界に入ってみて,どうでしたか。

岡村氏:
 最初は右も左も分かりませんでした。お恥ずかしながら,当時は本当にただのギャルだったので(笑)。膝上20cmのミニスカと12cmのヒールで仕事をしたり,グアム旅行の帰りにそのまま東京ゲームショウに行ったりして,なかなかの場違いぶりだったと思います(笑)。
 でも,ソフト9研のメンバーはみんな若くて,水口さんが集めた面白い人達が揃っていたので,みんなで新しい世界を切り開いていくことに対する好奇心のほうが強かったですね。むしろ,私のような異分子が続々と集まってきたので,吉永さん達のほうが戸惑っていたかもしれません。

吉永氏:
 確かに,プログラマーは(岡村)峰子さんのことを「怖い」と言っていました(笑)。

岡村氏:
 見た目がそんなでしたからね(笑)。当時はギャルでしたけど,昔からモノづくりが好きで,同人誌を作ってコミケで売っていたりしたこともあったんです。そんな話をするようになってから,みんなとすごく仲良くなったという経緯もありました。

吉永氏:
 その時は堀田さんも「Rez」チームとして,僕らの上のフロアにいましたよね。

岡村氏:
 オフィスの地下2階がSC5チーム,地下1階がRezチームのフロアだったんですよ。

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堀田氏:
 元々は別のゲーム会社に在籍していたんですが,知人から「クラブで『新しい音楽ゲームを作りたい』と話す短パンの男」の話を聞きまして(笑)。興味が湧いたので履歴書を持って,渋谷のオフィスを訪ねたんです。
 オフィスが完成したばかりだったので,「こんなところでゲームを開発できるの? カッケー!」と思って,すぐに移籍を決めました。ただ,Rezチームにはまだ人がいなかった一方で,SC5チームの人が増えていくのを見て,自分がすごく浮いているみたいで……下のフロアに降りるのが怖かった(笑)。

吉永氏:
 何でみんな怖がってるんだ(笑)。

堀田氏:
 吉永さんとは移籍後,すぐにお話をしていたので怖くはなかったですよ。変わっていただけで(笑)。でも,ほかの人はちょっと近寄りがたかったかなあ……。

4Gamer:
 Rezチームの一員として,SC5にはどんな印象を持ちましたか。

(C)SEGA
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堀田氏:
 僕がセガに入った時点で,SC5はゲームの基礎がある程度までできていましたね。それを水口さんに見せてもらったときは,「俺,こっちもやりたい」と思っちゃいました(笑)。

4Gamer:
 その希望が20年後,最新作(「スペースチャンネル5 VR あらかた★ダンシングショー」)のディレクターとして叶えられたんですね。
 それでは,渋谷での開発について教えてください。

岡村氏:
 私の印象としてはサークルの延長線上のような雰囲気で,皆さん,のびのびと楽しんで作っていましたね。誰かの誕生日になると必ずケーキが出てきて,吹き抜けのフロアに集まったり。電話のやりとりも「水口さん,電話ー!」「誰ー?」「出れば分かるー!」みたいな,すごく大らかな感じでした(笑)。
 ゲーム制作の参考になるものを誰かが見つけると,すぐに足を運んだりして,クリエイティブな環境として恵まれていたと思います。

吉永氏:
 そういう環境を用意してくれたのが,水口さんでした。

堀田氏:
 水口さんは普段から「気になったことがあるなら,すぐに行け」「積極的に遊びに行け」と言っていました。仕事中,みんなで飲みに行ったり映画に行ったりしてから,会社に戻ってきて夜中まで仕事するとか。今ではちょっと考えられませんけど(笑)。

当時の開発風景
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岡村氏:
 当時のセガの姿勢も,ドリームキャストの発売を控えていたことから,面白いものを作るための環境作りや予算に対しては,すごく寛容だったと思います。

堀田氏:
 おもちゃやガジェットといった流行(はや)り物が,すべて会社にあったんですよ。吉永さんがローラーシューズを履いてオフィスに現れたのを,今でも覚えてます(笑)。オバケみたいにスーッと移動してるから「何だ?」と思ったら,「ニューヨークで買ってきた」と(笑)。

岡村氏:
 履いてた,履いてた!(笑)

吉永氏:
 外で履くのは怖かったので,社内の移動に使っていました(笑)。とにかく大らかな時代だったんですよ。

4Gamer:
 そんな素晴らしい環境のもと,SC5の開発は順調に進んだのでしょうか。

うららの初期CG
(C)SEGA
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吉永氏:
 いやあ,かなり大変でした。出題に対して回答するだけでは音楽ゲームとして単純すぎるし,踊りを入れるところもないという難点を解消する必要があったんです。「ダンス」と「シューティング」と「決め」という,それぞれのシーンをカテゴライズして組んでいくという最終的な仕様に至るまでには,相当な時間を費やしました。
 そこまでの過程が長かったので,仕様が決まってからは時間との勝負になりましたね。マニュアルが完成してからも,細かい仕様の変更が発生するくらいには切羽詰まった状況でした。

岡村氏:
 デザインチームも,例えばうららのデザインを決めるために,膨大な量のイラストを描いてはやり直し……というサイクルを繰り返したりしていました。

吉永氏:
 デザインは湯田さんが見ていたので,私はそんなに心配してなかったんですけど(笑)。



「メキシカン・フライヤー」の構成がゲームにベストマッチ


4Gamer:
 プレゼンビデオのBGMには「メキシカン・フライヤー」が採用されていますが,この曲を選んだ理由はなんでしょうか。

幡谷氏:
 元々,湯田はSC5に対して「レトロフューチャー」というコンセプトを持っていて,「それにピッタリと合う音」をササキさんが懸命に探していたんです。「1960年代の音楽」が合うということに気づいて,このコンピレーションアルバム(「The Thriller Memorandum: Mood Mosaic Series」)の1曲目に入っていた「メキシカン・フライヤー」を見つけました。

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吉永氏:
 「メキシカン・フライヤー」の144bpmというテンポや,定期的に決めの部分が入ってくる構成は,ゲームにすごく向いているんですよ。プレゼンビデオを作っていたときも,説明する部分と見せる部分が順々に出てくる流れがピッタリと合っていたんです。

幡谷氏:
 ササキさんは当時から「ラウンジミュージックをゲームに採用する」という作り方を提案していました。ちょうどあの頃の小西康陽さんの楽曲のような「1960年代のテイストを取り入れたリミックスワーク」の下地があったことで,その模索の過程で見つけたのが「メキシカン・フライヤー」でした。

4Gamer:
 ところで,幡谷さんはどのあたりからSC5チームに合流したのでしょうか。

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幡谷氏:
 湯田がプレゼンビデオを作っているときは横で見ていて,音についての相談に乗ったりしていたんですが,すごくセンスがあって,これまでになかったゲームとして憧れていました。その後,「ROOMMANIA#203」の企画が立ち上がり,ササキさんが本格的に関わることになったので「その抜けた穴は私が!」とすかさず立候補したんです(笑)。

吉永氏:
 幡谷さん,最初は怖かったなあ。「怖いサウンドの人が来た……」と(笑)。ササキさんも緊張する対象なんですけど,幡谷さんとはまた違う感じでしたから。

幡谷氏:
 僕は湯田や水口とは同期でしたからね。

4Gamer:
 なるほど,それで緊張を(笑)。プロジェクトに参加されてからはいかがでしたか。

幡谷氏:
 湯田が理想としていた「1960年代のイタリアのテレビから流れるサウンド」というイメージをつかむのが難しくて,最初はうまくいかなかったんです。なかなか湯田に納得してもらえなくて……。

吉永氏:
 昨日,幡谷さんが思い出したそうですが,リポート3の隕石が飛び交うシーンの音楽が完成したときに,初めて湯田さんに認められたらしいですよ(笑)。

幡谷氏:
 そうそう,アステロイドベルトのところ。水口も話していたことがあるんですが,「B級感」や「エセスパイ音楽」といったような,偽物っぽさと格好よさが同居するバランスを湯田は求めていたんじゃないかと思います。

4Gamer:
 それが最初はつかめなかったと。

幡谷氏:
 つかめなかったですね。当時,この手のコンピレーションアルバムをたくさん買って研究しました。

4Gamer:
 開発中はゲームの仕様と音楽,どちらが優先されていたのでしょうか。

吉永氏:
 こちらの都合で,出題の入力パターンなどを先に作ることが多かったですね。幡谷さんには「すいません。この譜面に合う曲を」と発注しつつも,ステージに合った曲の雰囲気を作ってもらうという要望もあり,「やりづらいだろうな……」と思っていました。

幡谷氏:
 いやいや,そんなことはなかったけどね。ゲームでやりたいことと音楽が密接な関係にあることは認識していたし,こちらの要望も聞いてもらっていましたから。ステージのクライマックスに帰結するために,「序盤から中盤はこう組み立てる」といった大まかな設計も用意されていたので,決してやりづらいということはなかったです。

吉永氏:
 SC5のときは,私が1人で出題を作っていたので,幡谷さんにはめちゃめちゃ相談していた記憶があります。

幡谷氏:
 僕は,入力をするときにどんな感覚で1発を決めるかという部分に対して,「その1発を気持ちよく決めるために音楽が後押しする」ことに注力していたんです。「スーパーマリオブラザーズ」のBGMの最初のフレーズ,「タラッタッタラッタッ♪トン!」の「トン!」の部分のように,1発を打つために音楽がお膳立てを作ることが爽快感につながると強く考えていて,それは吉永にもよく話していました。

(C)SEGA
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 その点,水口はどちらかと言えば「1発の決め」ではなく,「コール&レスポンスが気持ちいい」というイメージを持っていたので,彼が入ってきたときはちょっと混乱がありました(笑)。

吉永氏:
 テンポを上げて盛り上げたいという水口さんのアイデアに対し,それだけでは成立しないというゲームデザインとのバランスの調整が必要だったんです。結果的には,それらが両立できる内容にまとまって……本当に良かったんですけど(笑)。

幡谷氏:
 そうなんですよ。うまく入力できると,バックトラックがどんどん変わってキメ感が増していくとか。ちょうどいい着地点が見つかったんですよね。

4Gamer:
 さまざまなジャンルのサウンドを採用していますが,これらはどのような基準で選んでいるのでしょうか。

幡谷氏:
 ジャンル自体を特別に意識することはなくて,ゲームのシチュエーションやバリエーションに対して,「どう必然性のある音楽を用意するか」を考えていました。

吉永氏:
 こちらからもジャンルを指定したことはないですね。シチュエーションと出題を伝えて,あとはサウンドを作る人の感覚で決まってくる感じでした。

幡谷氏:
 SC5では僕のパートナーだった床井(床井健一氏)が,ブラスのカッコいい系の曲を多く作っていました。SC5のカッコいい曲は,だいたい床井が作ったものですね。僕は茶目っ気があったり,ホッとするようなものだったり,そういう曲の担当が多かったかな。全体的なバランスは良かったと思います。
 僕も30年近くサウンドの仕事をやっていますけれど,SC5は自分の代表作だと思っています。

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