パブリッシャから契約を打診された。
AIを使ってゲームを作っていいのか。
子どもが誤って課金したと返金を求められた。
チート行為をしているユーザーを見つけた。
ゲーム会社から急に損害賠償を請求された。
ゲームを作る側も遊ぶ側も,無関係と思っている人も。こうしたゲームにまつわる法的問題を,はてさてどう攻略する?
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4Gamerがたびたびお世話になっている,ゲーム好き弁護士の前野孝太朗氏が執筆した書籍「ゲームと法律 攻略ガイドブック 〜開発・宣伝・運営を支える基礎知識〜」が,技術評論社より発売された。
本書は書名を読んで字のごとく,ゲーム業界にまつわる著作権・契約・生成AI・利用規約・ガチャ・チートなどの法律問題に踏み込み,全30問のQ&A形式で解説していく“法の攻略本”だ。
イラストは「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」の板鼻利幸氏が手がけ,推薦文はヴァニラウェアの神谷盛治氏が「ゲーム作りにしか興味ないし 契約書とか見ないよネ」としたためている。
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弁護士さんと,ゲーム1本を“1〜100まで生成AIで作ろう”としたらの思考実験。最近インディーゲーム界隈からの相談が増えてるらしい?
ゲーム制作における「企画〜リリース」までの工程に,生成AIを用いたらどうなるのか? ゲーム好き弁護士の前野孝太朗氏とともにシミュレートした。なお,本稿では制作物の品質等は度外視で,“法的観点”を中心に見ていく。
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- カメラマン:永山 亘
ゲーム業界は「スマホ新法」でどう変わる? アプリの課金方式が変わるかもしれない2025年12月以降の動向を,弁護士に解説してもらった
2025年12月18日,新たな法律「スマホソフトウェア競争促進法」が全面施行される。スマートフォンのOS・アプリストア・ブラウザ・検索エンジンに“選択の余地”が生まれる動向を,ゲーム好き弁護士の前野孝太朗氏に解説してもらった。
ゲームの「利用規約」って……読む? 私たちは普段なにを同意し,昨今はなにを破るとダメなのか。弁護士に教えてもらった
新作ゲームが出たぞ! さあやるぞ! となって起動後に最初に目にする“利用規約”。垂涎の新体験を前に,流れ作業でガンガン同意してきたアレには,なにが書かれているのか。ゲーム好き弁護士の前野孝太朗氏に教えてもらった。
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前野氏にはこれまでも,上記のような問題の話を聞いてきた。その縁もあり,今回は本書についてもインタビューさせてもらった。
この本で対峙するゲーム世界の魔物たち(法律問題)は,以下のとおり(クリックで展開)。これらの攻略法とはいかなるものだろう。
目指したのは,ゲームと法律の攻略本
4Gamer:
本書の校了と発売,おめでとうございます。
前野孝太朗氏(以下,前野氏):
ありがとうございます!
4Gamer:
執筆の苦労は初めての取材のときから聞いていましたが,ようやく完成したこちらの「ゲームと法律 攻略ガイドブック 〜開発・宣伝・運営を支える基礎知識〜」は,どんな本なのでしょう。
前野氏:
ひと言で言うと,“ゲームと法律の攻略本”です。
ゲームの開発・宣伝・運営,あるいはゲーム利用時に,なにか法的な問題を起こしてしまいそうなとき,ゲームの攻略本を開くような感覚で,必要な項目を読める本を目指してきました。
内容も小難しいものではなく,誰でも読みやすい文章を心がけて,全30問のQ&Aで解説しています。ちなみに攻略本をイメージしたのは,単に私が好きだからです。最近はちょっと数も減っていますが。
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4Gamer:
これまでの人生でパッと思いつく攻略本はありますか?
私なら「スーパーロボット大戦」系なんですが。
前野氏:
めちゃくちゃありますよ。
それこそ,本のイラストを担当してくださった板鼻利幸さんが参加された「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」(以下,FFCC)は,中学生のころに出会ったときからものすごく好きで,発売された攻略本はアルティマニア(※)まで全部買いました。
※スクウェア・エニックスが発行しているゲーム攻略本シリーズの名称。辞書に等しい情報量と,鈍器じみたサイズ感に定評がある
4Gamer:
攻略本や説明書って,読んでるだけでおもしろかったですしね。
前野氏:
いや,本当におもしろかったですよね。ゲーム画面だと表現しきれなかったデザインが見られたり,世界観の裏側も楽しめたりして。
4Gamer:
そういえば,書名は攻略本ではなく「攻略ガイドブック」ですね。
前野氏:
そこは編集さんといろいろな案を出し合ったのですが,ゲームの攻略本って「書名で“攻略本”とは名乗らない」ことが多いじゃないですか。私のなかで,攻略本の書名は,「攻略ガイドブック」や「究極攻略ガイド」のようなイメージでした。
そのため,「攻略本」を書名には入れませんでした。
4Gamer:
そう言われると確かに。攻略本って俗称や総称だったかも。
では話を戻して,前野さんはなぜこの本を執筆されたのですか。
前野氏:
なによりも一番は,ゲームの事業に関わる方々の法律問題に関する負担を減らし,より本来の業務に集中できる環境作りに貢献したいという思いがありました。
今どきのゲームは開発・宣伝・運営において,著作権や景品表示法をはじめとする多種多様な問題が横たわります。しかし,ゲームと法律の悩みを調べようにも,それらを解説している書籍やWebサイトというのはあまり存在していません。そのため,調査に意識や時間が割かれて,本来のゲーム作りや宣伝方法の検討などの時間が減ってしまう状況があります。
4Gamer:
あっても「開発者や弁護士のブログ単発ネタ」が大半ですもんね。
うちにしても,記事ごとで散らばってしまっていますし。
前野氏:
そこで,ある程度まとまった分量の情報があり,手もとでサッと参照できるツールとして,本を出せないかと3年ほど前に企画しました。それから技術評論社と縁ができまして,今に至るわけです。
もちろん,本書は電子書籍も用意しています。
4Gamer:
ニッチな領域で,本の強みを生かすと。
イラストの板鼻さんには,どういう経緯でお声がけしたんですか。
前野氏:
本の表紙については,せっかくなのでゲーム関連のイラストレーターさんにお願いできないかと,2025年末に編集さんと話し合っていました。ただ,ゲームイラストは会社所属の方々が描いていることも多く,そことの兼ね合いで依頼するのは難しいだろうとも考えていました。
ただ,その当時,板鼻さんがスクウェア・エニックスから独立されるというニュースを目にしたんです。最初は,私が大好きなFFCCのキャラクターデザインを手がけたお方とあって,以降のご活躍を応援するような気持ちでいたのですが。年明けのことですね。
「今ならばもしや,板鼻さんにお願いできるのでは?」と思いつき,すぐに編集さんに「私がいかにFFCCが好きか」をつづった長文を送らせていただいたところ,話が進み,板鼻さんからもご快諾いただけたんです。
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4Gamer:
依頼後は対面されたりしましたか。
前野氏:
打ち合わせの際に直接お会いさせていただきました。
そのとき,板鼻さんは私の目の前に座られたのですね。本当に大好きなゲームを手がけられた方と対面して,もう頭の中が真っ白になりました。なにをお話ししたのか,あまり覚えていないのですが,たぶん,私は相当に挙動不審だったと思います……(笑)。
とにかく,FFCCが大好きで,その御礼だけはお伝えしたいと思って,使い込んだFFCCのアルティマニアをお見せしながら,しどろもどろに,いかにこのゲームが好きだったかをお伝えしたような記憶があります。
4Gamer:
完全にただのファンですね(笑)。
前野氏:
それと,板鼻さんに書籍のイメージを事前にお伝えしていたところ,なんとラフを制作してくださったんですよ。それがもうイメージと本当にぴったりのすばらしいイラストで,私も編集さんとその場で「これでいきましょう」と。しかもラフの現物までいただき,帰ってすぐに額縁に入れて飾らせてもらい,そのラフを励みに執筆しました。
左の画像は打ち合わせ時に前野先生@kotaro_maeno のお話を伺ってその場で描いた鉛筆画。
— 板鼻利幸 TOSHIYUKI ITAHANA (@ItahanaT) July 24, 2026
後日その絵を先生が額装して写真で送ってくださいました。並べて見ると面白い。
※前野先生、勝手に画像を上げちゃってスミマセン!#ゲームと法律攻略ガイドブック https://t.co/7fYfOZMPxP pic.twitter.com/QdgmyWuOqG
4Gamer:
巡り合わせがよかったわけですね。
ちなみに,FFCCはどこがそんなに好きだったんですか。
前野氏:
本題からは遠ざかるのですが(笑),FFCCはゲームキューブにゲームボーイアドバンスを接続して,最大4人で協力して遊べるゲームでした。
そのころ,周囲で流行していたゲームは対戦系が多く,一緒に協力して遊べるものが少なかったんです。そこにFFCCが現れて,友人と泊まりがけでもう夜通し,みんなで合体魔法だの謎解きだのしてのめり込みました。みんなで遊んだあの時間が,私にとってはものすごく楽しくて,私のゲーム人生における一つの原体験になっています。
おかげで高校でも大学でも,泊まりになったときは,私が必要なものをすべて持ち込んで,周囲に「FFCCやろう! おもしろいから!」とすすめまくっていました。
4Gamer:
強火なファンっぷりがうかがえます。
もう一方,推薦文の神谷さんのほうとはどのようなきっかけで?
前野氏:
神谷さんも同じく,私がヴァニラウェアさんのゲームがものすごく好きだったのがきっかけです。「ドラゴンズクラウン」は友人と通話しながら延々と周回しましたし,「オーディンスフィア」や「十三機兵防衛圏」も大好きだったため,今回お願いさせてもらいました。
ちなみに本の帯ですが,キャッチーですばらしいコメントはもちろんのこと,実はリバーシブルになっていまして。裏面には「神谷さんのイラスト付き原文直筆コメント」が書かれているんです。
これは神谷さんに「こういう仕掛けがあったほうがおもしろいのでは」とご提案いただいたもので,技術評論社さんの協力もあって実現することができました。これはぜひ,店頭で手に取ってみていただきたいです。
4Gamer:
人によっては気付けないお得情報だ。
デザインの遊び心も含めて,お堅い法律本ではないんですね。
前野氏:
はい。法律の本はどうしても文字が多かったり,内容が難しかったりしてしまうものですが,今回は可能な限りかみ砕き,文中にもイラストを散りばめて,できるだけ読みやすい本を心がけています。
第1章:ゲーム開発フェイズ
4Gamer:
ここからは内容について聞かせてください。
まず,本書はどのような構成になっていますか。
前野氏:
メインは4つの章で構成しています。
本は序章からはじまり,第1章が「ゲーム開発フェイズ」,第2章が「ドキュメント制作フェイズ」,第3章が「ゲーム宣伝フェイズ」,第4章が「ゲーム運営フェイズ」となり,全30のQを解説していきます。
4Gamer:
30問の設題は,著者的に過不足はどうですか。
前野氏:
正直,本に盛り込めなかった内容もたくさんあります。もしすべて書いていたら,ページ数は数倍に膨れ上がっていましたね。
内容の取捨選択は編集さんともかなり議論しました。たとえば,法律の専門家としては法律についてイチから説明を入れたくなります。しかし,抽象的な説明が多いと読み手としては分かりにくい。そのため,今回はそのバランスをみながら,ある程度ポイントを絞ったかたちです。
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4Gamer:
では具体的に,「ゲーム開発フェイズ」から説明してもらえますか。
前野氏:
ゲームの開発段階ではやはり,「著作権」に関するご相談が多いですね。既存の作品と似たものを作っていいのか,AIを用いて開発してもいいのか,インディーゲーム開発者が小規模かつ少人数で制作したときの課題や,パブリッシング契約の注意点なども解説しています。
4Gamer:
具体例だと,Q2「仲間と5人で協力して、ゲームを開発中です。ただ、開発の方針で少し揉めていて、1人が開発から離脱しそうです。離脱した場合、その人の開発部分の著作権はどういう扱いになりますか?」なんていろいろ想像させられる設題ですが,見解はどうでしょう。
前野氏:
前提として,昨今は法人ではなく,友人や知人と複数人でインディーゲームを制作する例が増えています。その際,このQのような問題が生じかねないため,気をつけたほうがいいと考えています。
例えば,私がよく携わるベンチャー企業の法務の場合,会社設立時に「創業メンバーの誰かが離脱したとき,株式などの権利関係をどうするか」を取り決めておくことが多いです。これを創業者間契約と呼びます。
一方,インディーゲーム開発者の場合,こうした取り決めを事前にしていないことが多いです。といっても,これはゲーム業界のみならず,エンタメ業界全般で言えることではありますが。
4Gamer:
結果,どんな問題に発展するのでしょう。
前野氏:
まず,著作物の著作権はなんらかの取り決めをしない限り,制作者本人が有します。そのため,例えば「離脱したAさんが制作したイラスト」は,原則として,Aさんが著作権を持ちますし,そのほか音楽や3Dモデルも各自に帰属し,それぞれがそれぞれの権利を持つことになります。
このときワーストのシナリオを想定するなら,「残りの4人が数年かけてゲームを完成させたが,発売段階になってAさんが権利を主張した」ですね。こうなると,Aさんから取り分を請求されることも考えられますし,SNSで炎上することや,最悪の場合,販売プラットフォームでの販売停止にまで発展する可能性もあります。
これらは事前に取り決めをしていなかった以上,Aさんの主張自体は認められるケースも多いでしょう。
4Gamer:
正直,人気を得たアマチュアサークルなノリで起業したら,少なくない数の人たちがそうなるであろうことは想像に難くない……。
前野氏:
もちろん,これはワーストシナリオです。実際,離脱しても,ここまでもめるケースが多いということではありません。ただ,契約や法務というのはワーストシナリオを想定して,対応するのが大事になります。
今回の例では,メンバーの離脱という事象自体が,円満な理由でないケースも当然考えられます。そうなると離脱後の交渉が難しい場合も多いでしょうし,あらためて著作権を集約するにも相当の手間がかかります。
過去には,個人とゲーム会社とでゲームの著作権の帰属が裁判で争われた事例もありましたが,裁判となると労力も数年単位です。この事例では,約2年半かかっています。
4Gamer:
実際問題,そうした取り決めをしていない実例は多いですか?
前野氏:
そうですね。
実情として,ゲーム制作がサークル活動などの延長線にあるときは,仲間内でいきなり契約の話をするのも難しいと思います。
けれど,制作したゲームでビジネスをすることを考えているなら,著作権に関してはメンバーがいなくなる可能性も考慮して,最初に定めておくほうがよいと思います。
4Gamer:
ほかにも著作者人格権の話も興味深く――(解説量が膨れすぎたためカット。気になる人は書籍にて)。
もう一点,最近のインディーゲームの隆盛にも関わる「パブリッシング契約」についても書かれていますよね。初歩的な知見として,そもそもパブリッシング契約とはなんなのでしょう。
前野氏:
一般的に,インディーゲームの開発者が,ゲームの発売や配信を担当するパブリッシャと締結する契約を,パブリッシング契約と呼びます。厳密には業務提携契約,パブリッシング支援契約などと名称が異なるため,パブリッシング契約という名の契約があるわけではありません。
4Gamer:
総称の攻略本,品名の攻略ガイドブックと同じですね。
前野氏:
昨今のインディーゲームは,ゲーム業界以外の会社さんがパブリッシャとして名乗りを上げており,その数が増えてきています。そういう状況もあって,パブリッシング契約は内容にかなりのバラつきがあります。
しかし,パブリッシング契約についての解説も少なく,開発者さん自身が,契約内容を判断するのが難しい状況にあり,トラブルにつながるケースもあります。
4Gamer:
パブリッシング契約は端的にいえば,開発以外の作業を任せる代わりに,利益の取り分を渡すものかと思います。
その点,書籍内では「ゲームの売上は,前払いの開発費用(パブリッシャの資金援助分)に達するまで,パブリッシャが全額を受け取る。それまでは開発者が売上を受け取れない契約」を一例として挙げられていましたが,これは一般的なことでしょうか。
前野氏:
よく見かける契約内容ですね。この条件の契約の場合,「将来的な収益をパブリッシャが前払いしている」という考え方になります。
4Gamer:
パブリッシャ側としても,せめて投資分を回収しないとビジネスが成り立ちませんし,最低限のリスクヘッジなわけですね。
前野氏:
そもそもパブリッシャは「資金援助したゲームがいつまで経っても完成しない」「発売できても資金援助分の売上が見込めない」といったリスクを背負うことになりますしね。最悪,開発ごと頓挫してしまったときは,いっさいの回収ができなくなる恐れもあります。
そうしたリスクも込みで,発売や宣伝の労力を代替していることを考えますと,この契約条件が直ちに悪というものではありません。ただ,前払いに達するあいだも,一部は開発者に支払うという条件が設定されることもあります。
いずれにせよ,「どんな契約内容なのかをしっかり認識しておく」ことが大切なわけです。
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4Gamer:
第1章では,契約交渉のエースカードとして「この条件ならほかと契約する」と言えることが大切だと力説していますが,どうですか。
前野氏:
それはパブリッシング契約に限らず,あらゆる契約で大切な考え方です。例えば賃貸物件では,求める条件と似た物件を見比べると思います。このとき,「ほかのところも見てみます」と言える状態だと,より有利な物件を見つけられたり,価格交渉につながったりする可能性が生まれます。契約後はその余地がなくなるわけですから。
契約というのは概して,「ほかと契約される」ことが最も相手側のリスクとなります。より自分に有利な条件で契約を締結するためには,「ほかと契約する」と言える状態であることがすごく大事になるわけです。
4Gamer:
わりとハッとしたんですよね。
私は「面倒だし,ここでいいや」の一択にしちゃいがちなので。
前野氏:
私は物件でも家電量販店でも,けっこうあれこれ見比べてしまうタイプですね(笑)。
4Gamer:
なので,見積もりを見比べる人と見比べない人が世の中で半々だとしたら,わりと刺さるひと言なのかなと思いました(笑)。
第2章:ドキュメント制作フェイズ
4Gamer:
続けて,第2章の説明をお願いします。
前野氏:
「ドキュメント制作フェイズ」では,ゲームに関する利用規約やプライバシーポリシー,特定商取引法や資金決済法の表記などについて解説しています。これらはしっかりとやっておかないと,それだけで法律違反になる可能性が高まります。
とくに,有償通貨を販売するなら絶対に注意すべき部分です。
4Gamer:
スマホゲームでよく目にする「特定商取引法に基づく表示」のボタンやページとかですよね。
前野氏:
はい。ゲーム内で有償通貨を販売する場合は,通常,特商法や資金決済法に関する表示が必要になります。
4Gamer:
2章で触れられていた,「チャット機能を設けるときは電気通信事業の届出が必要」とかも初めて知った概念でした。
前野氏:
オープンなチャット機能ではない,1対1などのクローズドチャットをゲーム内に設ける場合は,電気通信事業法上の届出が必要になりますね。
ただ,そんなに難しい書式ではなく,専門家に頼む必要もない,誰でも届出ができる内容ですので,そう身構えるものでもありません。
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4Gamer:
具体例として興味深かったのは,「利用規約を作るのが面倒だから,他社の利用規約と実質的に同一のものをコピーして作成したら,著作権侵害で訴えられた」の項目です。
前野氏:
実際にあった裁判例ですね。
この裁判例では,他社の利用規約の文章をそのままコピペし,どこから剽窃したものなのかが完全に判断できる状態で,なおかつ完全なコピーだったからこそ,自社のサービスには適合していない文言になっていたなど,手段にも内容にも問題がありました。
4Gamer:
以前,「著作権は“表現”が焦点」とお聞きしました。
その点,利用規約に表現なんてあるんでしょうか?
前野氏:
利用規約やプライバシーポリシーなどの文書では,おっしゃるとおり著作権が認められる部分は,限定的でしょう。
ただし,個性を発揮する部分が少ない文書でも,全文をコピーしたなら,もとの文書のどこか一部でも個性が認められれば著作権侵害になります。ある程度の分量の文書であれば,まったく個性が発揮されていない確率は低いとはいえますね。
4Gamer:
ちなみに,インディーゲームでも利用規約は必要ですか。
前野氏:
利用規約の必要性はゲーム次第ですね。かんたんにいえば,オンライン機能がない買い切りゲームの場合,必要性は高くないと考えます。
逆にオンライン機能がある場合,利用規約がないと,悪質な利用方法を重ねるユーザーに対してペナルティを与える根拠が得られず,運営に支障をきたす恐れがあります。
また,例えばApp StoreやGoogle Playで配信する場合,AppleとGoogleのルール上,プライバシーポリシーが必要になります。プラットフォームのルールによって必要である場合は作らざるを得ない,という視点もありますね。
4Gamer:
マルチプレイでのチート行為で他者に不快感を与えた人がいても,利用規約がないと法的根拠が乏しくてBANしづらい,とかですよね。
前野氏:
そのとおりです。
4Gamer:
ついでに「利用規約が必要になったから作ろう」と考えたとします。法務部やお抱えの弁護士がいる会社はさておき,そうした手段のない人が「よし作ろう!」となったときって,どうやって作るべきなんでしょう。ものすごくミニマムな例で考えた場合の話で。
前野氏:
そのゲームの内容次第ではありますが,弁護士に頼むと費用がかかり,その費用もかけられない状況であるならば,「他社の似たようなサービスの利用規約」を参考にするのが,最も手軽な例になるかと思います。
もちろん,他社の文書をそのままコピペしてしまうと,先ほど言ったようなリスクを抱えますし,ときには自分たちのサービス内容に則さない内容になるため,チェックは必須です。それでも,なにをどういうふうに書けばいいのかの参考にはなるでしょう。
もちろん,ある程度のセールスを見込んでいるゲームであれば,お金をかけてでも専門家に頼むのが最も安全な策となります。
4Gamer:
利用規約を作るとき,最も大事な項目はなんですか。
前野氏:
重要な規定はいくつかありますが,ゲームに関して1つ挙げるとすれば,禁止事項でしょうか。禁止事項を挙げて,「〜〜に違反した場合は〜〜します」というルールを示すことは,法的にも,ルールの周知の観点でも,とても大事ですね。
第3章:ゲーム宣伝フェイズ
4Gamer:
続けて,第3章の説明をお願いします。
前野氏:
「ゲーム宣伝フェイズ」では,景品表示法の問題が中心となります。焦点となるのは配信番組での宣伝やステルスマーケティングなどですが,一番問題になりやすいのはやはり「ガチャ」です。
実際,消費者庁から措置命令や課徴金納付命令を出された事例もあるので,とくに「限定」といった表記には気を付ける必要があります。
4Gamer:
宣伝フェイズに関しては,オンライン機能や有償ガチャを搭載したゲームが対象になりますか。
前野氏:
そうですね。有償ガチャがない買い切りゲームの販売で,景表法違反が問題になるケースは限定的です。
可能性があるのは,「実際のゲーム内容とはまったく異なるネット広告で宣伝した」などですが,今まで消費者庁が問題視してきたものの多くも,オンラインゲームのガチャとなります。
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4Gamer:
具体例は,Q19「期間限定のガチャイベントを計画中です。「限定」と銘打って開催する予定ですが、その後、ユーザーの要望があれば復刻イベントも開催したいと思います。問題ないですか?」ですか。
前野氏:
まさに,景品表示法の不当表示になる可能性がある一例です。
ガチャに限らずですが,一般的に「限定」と表記されると,一般消費者は「今しか手に入らないもの」と捉えます。今しか買えない商品だと思い,購買意欲が高まるわけですね。限定ガチャのキャラクターなども,なにも表記がなければ「このガチャでしか手に入らないキャラクター」と捉えられるでしょう。
しかし,限定と銘打ったにも関わらず,半年後にまた販売されていたら,この表記は,実態と異なるものになりますよね。こうした販売方法を抑制するのが景品表示法の領域となるわけです。
ただ,昨今のスマホゲームにおいては,限定ガチャと宣伝されていたものが,わりと復刻提供されているケースも多いですが。
4Gamer:
よく見ますね。それが許されてるのはなぜなのでしょう。
前野氏:
これは提供時に「ガチャの終了後にも再登場する可能性があります」といった一文を表記し,再度実施する可能性を示唆しているからですね。
4Gamer:
なるほど。正直,この「再登場する可能性があります」の一文って,ここ十数年のスマホゲーム業界では最も多方面で活躍した文章なのでは。
前野氏:
昨今の告知では,ほぼ絶対と言えるほど入っていますしね。
ただ,表示が不十分で消費者庁の指導を受けた例もありますし,「限定」の文字を使う場合は注意すべきです。
第4章:ゲーム運営フェイズ
4Gamer:
最後に,第4章の説明をお願いします。
前野氏:
「ゲーム運営フェイズ」では,企業側もユーザー側も含めた,ゲーム発売後に起こりうる法律問題に触れています。
一例としては,お子さんが誤って課金してしまったときの返金請求や,著作権侵害の損害賠償請求を受けたときなどの解説です。
4Gamer:
子どもの予期せぬ課金に,保護者が取り消しを求める話はよく話題になっていましたが,最近も普通に起こっているものなんでしょうか。
前野氏:
まだまだあるかと思います。
現代ではただでさえ,子どものほうが電子機器に強くなっています。保護者が設定したセキュリティなどを自ら解除できてしまう子もいますし,今後も引き続き,課題としては残るでしょう。
4Gamer:
ただ,本にも書いてあるとおり,多くの事例では「法定代理人の同意を得ずに買ったものに関しては無効ですよ」となるんですよね?
前野氏:
そうです。民法では,判断能力が低いとされる未成年者が勝手にした契約は,原則として,その法定代理人が取り消せるルールになっています。通常は,親御さんですね。
これをゲームに当てはめると,ゲーム内課金はゲーム会社との契約ですから,親の承諾を得ず,子どもが誤って課金をしてしまい,その契約の取り消しを求めた場合,民法上は取り消すことができます。
4Gamer:
極論ですが,「親の同意もなしに,コンビニで少額のお菓子を買ってしまった場合の返品」も民法上で可能なのでしょうか。
いや,この程度は実際,店側が良識の範疇で返品を受け入れるだろうと理解していますが,法的に判断するものとしたら。
前野氏:
それも未成年者のやった行為として取り消しの可能性があります。しかし,そうした疑問を未然に解決する例外もいくつかあります。
例えば,コンビニで買える少額のお菓子となると,一般的には「子どものおこづかい」で買われることが多いはずです。このとき,保護者が子どもに自由に処分していいと渡したお金,いわゆるおこづかいで買ったものについては,取り消せないことになっています。
あとは,おつかいのために渡されたお金をその範囲で使った場合や,子どもが大人だと偽って買ったものも取り消せないですね。
4Gamer:
ああ。おこづかいはそれ自体が,保護者の了承済みのお金と判断されると。金額的にも納得か諦念の範疇にあるでしょうし。
前野氏:
一応,法的には「〜〜万円までは許容される」といった基準はなく,目的を定めずに処分を許した財産であれば,子どもが自由に処分できることになっていますね。
4Gamer:
1万円ならおこづかいの範疇(と見るかは個々人に委ねつつ)と諦める人でも,10万円になると話が変わる人は多そうな。
前野氏:
最終的には,家庭内でそのお金が渡された経緯なども含めた個別事情をみて,判断することになりますね。
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4Gamer:
あと,本では「サービス終了前の告知」についても言及されていますが,このときの「60日前の告知」は義務なんですか? 直近で「明日サ終します」なんて例もありましたので,念のため聞いておこうと。
前野氏:
まず,60日前に告知せよという義務も,30日前ではダメといった法律もありません。
ただ,サービス終了に関わる損害賠償請求が争われた裁判例で,利用契約に「サービス終了の60日前に告知します」と記述されていた状況下で,実際にこの期限までの告知がされたことを,ゲーム会社に有利な事情として考慮した事例があります。
この裁判例を踏まえれば,「サービス終了時は60日前に告知」という規約にしておき,そのように運用したほうが望ましいといえるでしょう。
4Gamer:
サ終に付随する問題としては「有償通貨の払い戻し」もわりと挙がりますが,この払い戻しというのはあらためてどうなのでしょう。
前野氏:
かんたんに説明しますと,有償通貨を発行して,一定の基準額を超えた場合,財務局等への届出義務が生じます。
この届出後にサ終をする場合,事業者には払戻義務が生じますね。
4Gamer:
ものすごい初歩の話,今回の取材準備中に気付いたのが,「有償通貨って,会社側はちゃんと相当額の現金を担保したうえで取り扱わないといけないものなんだな」と知ったことでした。
なんでしょう。最近はお財布の中身すっからかんで,無形のデジタルな有償通貨も信用経済らしく勝手に信じて使っていましたが,企業側にはちゃんと現金相応に取り扱わせる法律があったんだなと。
前野氏:
そうですね。そこの法律が定められていないと,消費者が前払いしたお金を持っているだけの事業者が,お金を使い込んで倒産し,消費者が被害を受ける,ということがあり得ますので。
今おっしゃったように,現金でデジタル通貨を買いますと利便性は高まる一方,お金の実体感がなくなっていきます。ただ,ゲーム内通貨の仕組みというのは,将来ゲーム内で使うお金を「前払い」しているだけなのですね。使わずにサービスが終われば,本来,返してもらうべきものともいえます。
ゲーム内で有償通貨を発行して,基準額を超えた場合,事業者は,有償通貨の未使用残高の半額を供託等の方法で保全しなければなりません。こうした担保により,事業者が万が一にも倒産したときでも,消費者が被害を受けにくい仕組みになっています。
4Gamer:
数値を弄って錬金術しているわけじゃないんですねえ。
では最後に,Q28「ゲーム会社から、著作権侵害などを根拠に損害賠償を求める内容証明郵便を受領しました。1週間以内に返答しなければ裁判をすると書いてあり、とても怖いのですが、とにかくすぐ謝ったほうがよいでしょうか」。これちょっとどうなのでしょう。
前野氏:
権利者から著作権侵害などを理由に,「この表現は変えてください」「販売をやめてください」といった通知が送られてくるケースですね。
そして,なかでも最も重い通知が,弁護士の名義で,郵便局が内容を証明した「内容証明郵便」が届くケースです。
4Gamer:
人生で見たことあるだろうか。
前野氏:
内容証明郵便が届くだけで多くの人はビックリするでしょうし,中身の書類にだいたい書かれている,「1週間以内に回答しなければ法的措置を取ります」といった文章を目にすると,対応の仕方がますます分からず,さらに混乱する人が多いかと思われます。
この対応についてですが,まず,「今すぐに返事しなければ」と焦って返信する人もいらっしゃるかと思いますが,これはあまり良い手ではないですね。
4Gamer:
放心してすっとぼけた夜,布団のなかで怯えてから対応しそう……。
前野氏:
最善策は,こうした書面が届いた時点で,弁護士などの専門家に相談することですね。
そもそも,弁護士名義の内容証明郵便を送ってきた時点で,相手方には,弁護士への依頼料が発生しています。「弁護士費用をかけてでも行う」と決めた通知だということです。
相手方に弁護士がついている場合は,個人で対応することが難しい状況が多いでしょう。弁護士の側からこういうことはいいづらいのですが,やはり早めに相談されたほうがよいと思います。
4Gamer:
内容証明郵便の時点で,もう法律の舞台に上げられてしまっていると。こういうタメになる知識が,この本に載ってるわけですね?
前野氏:
そんなに持ち上げないでもらって大丈夫ですから(笑)!
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4Gamer:
ならば最後に,ゲーム業界ではこの先,この本でも攻略しきれない新たな魔物たちが現れると考えていますか。
前野氏:
それはもう,必ず生まれると思っています。
ゲームというのは総合芸術とも呼ばれるとおり,さまざまな表現や技術の最前線にあり,そのぶん問題が表出しやすいです。
現時点でも,前回のインタビューで話しましたが「声の権利」の議論が盛んになっています。また,AIも今後さらなる進化が予想されます。そうしたところから,新たな課題が生まれてくることで,1年後にはまったく想定していなかった問題が起こっていても不思議ではありません。
4Gamer:
ですよね。
前野氏:
ただ,新たな問題が起こっても,著作権や契約の考え方が根本から変わるわけではありません。AIのように,既存の法律の応用で対処することが基本になるはずです。この本も,今のゲームと法の基本を理解する土台として役に立てれば,うれしく思います。
そのうえで,今回収まりきらなかった話や,これから生まれる課題というのも,私なりに引き続き発信していければと考えています。
この「ゲームと法律 攻略ガイドブック」の反響次第では,また書籍の形で出させていただくこともあるかもしれません。この本も3年もかかってしまいましたので,次にいつ出せるのかは,わかりませんが……。
4Gamer:
なら,次は究極攻略ガイドブックですかね。
前野氏:
完全攻略ガイドブックかもしれませんが(笑)。
今回は内容的に,「完全」や「究極」といったワードは言いすぎと思って控えましたが,次はそう言えるようにがんばります!
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■商品
書籍:ゲームと法律 攻略ガイドブック 〜開発・宣伝・運営を支える基礎知識〜
著者:前野孝太朗
定価:2420円(税込)
発売:2026年7月24日
判型:A5
頁数:224ページ
ISBN:978-4-297-15694-7(紙)
978-4-297-15695-4(電子)
■プロフィール
前野孝太朗(まえのこうたろう)
シティライツ法律事務所 弁護士。
ゲーム・ネットコンテンツなどのエンタメ法務と、AI・IT法務を主に扱う。ゲーム会社およびゲーム開発者からの各種相談(契約書、利用規約、著作権等の知的財産権、景品表示法等の法令に関する法律相談やM&A、ゲームの法律監修など)に対応。CEDECやIndie Developers Conferenceなどでの講演、雑誌・Webメディアへの寄稿などを通じて、ゲームに関する法的問題を解説する活動にも取り組む。趣味は、ゲーム、クラシック演奏(ヴィオラ)、家電調査、野球観戦。
修習中に大好きなゲーム会社に2週間行かせていただいたことが一生の思い出。
著作権法学会会員。日本商標協会会員。
【X】https://x.com/kotaro_maeno
【note】https://note.com/k_maeno

































