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「Dの食卓」「エネミー・ゼロ」「リアルサウンド 〜風のリグレット〜」など,強い作家性を持つ作品を手がけてきたゲームクリエイター・飯野賢治氏。その飯野氏が遺した“1ドット”というミニマルなテーマにあらためて向き合うプロジェクトとして「ONE-DOT GAMES」は立ち上がった。
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「ONE-DOT GAMES」には5種類のゲームが収録されており,そのうち1本は飯田氏が発案,2本は飯田氏のゼミに所属する学生たちのアイデアをもとに制作されたものだ。
![]() 立命館大学 学生企画「ONE-DOT ZERO」 |
![]() 立命館大学 学生企画「ONE-DOT GARDEN」 |
![]() 飯田和敏企画「ONE-DOT Eyes」 |
![]() STUDIO-KURA企画「ONE-DOT Block Breaker」 |
4Gamerでは,2025年末に行われた企画合宿を取材し,さらに2026年初頭に飯野由香氏,飯田和敏氏,開発を担当したSTUDIO-KURAの青木秀雄氏にインタビューを行った。
飯野賢治氏をよく知る人と,その名前をほとんど知らなかった世代が,同じテーブルで“1ドット”に向き合う。その中で,どのように「ONE-DOT GAMES」は形作られていったのか――企画合宿の様子を交えながら,3名のインタビューをお届けしよう。
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生誕55周年企画から始まった新たなゲームへの一歩
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。昨年末には企画合宿にもお邪魔させていただきましたが,そこで話し合われていたものが,いよいよ「ONE-DOT GAMES」としてリリースされることになります。
まずはあらためて,そもそも「ONE-DOT GAMES」とはどういうプロジェクトなのか。そして,今回の企画がどのように動き出したのか,というところからお聞かせください。
飯野由香氏(以下,由香氏):
去年(2025年)が飯野賢治の生誕55周年で,いろいろな企画やイベントを行いました。
そのひとつに飯野が手掛けた55曲を収録したアルバムをデジタル配信する企画があって。その中に「one-dot enemies」の楽曲があり,権利関係について青木秀雄さんに問い合わせをしたのが最初のきっかけでした。
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4Gamer:
青木さんのSTUDIO-KURAは,飯野賢治さんと「one-dot enemies」を制作されていたんですよね。
青木秀雄氏(以下,青木氏):
はい。西 健一さんと飯野さんが「newtonica」を作ったときに,私の兄と飯野さんが知り合いになりまして。それで「二人で何かやってみようか」という話から生まれたのが「one-dot enemies」でした。
4Gamer:
楽曲の権利確認のやり取りから,ゲーム自体をもう一度動かしてみないか,という話に広がっていったわけですか。
青木氏:
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そこから,飯野さんのゲームを何か新しい形でできないか。シンプルなゲームだからこそ,これをベースに何かできないか,という話になっていきました。
由香氏:
私としても,飯野のゲームは何かの形で出したいという思いがずっとありました。
ただ,私自身はゲームクリエイターではありませんし,今の会社は音楽配信がメインになっています。新しくゲームを出すと言っても,何をどうすればいいのか分からなかったんです。
4Gamer:
そこで,開発者である青木さんになら相談できると。
由香氏:
はい。それで青木さんと話を進めて,新しいゲームも作ってみようと。そしてそれなら,若い世代にも関わってもらえたら面白いのではないかと思うようになりました。
4Gamer:
なぜそこで,若い世代とゲーム作りをしたいと思ったのでしょうか。
由香氏:
飯野賢治を知っている世代だけではなく,若い世代が「one-dot enemies」や“1ドット”というテーマから,どんなものを考えるのか見てみたいと思ったんです。
それに加えて,飯野がかつて関わっていた「イルカ(ILCA)の学校」のように,若い人たちと一緒に考え,作っていく場を,もう一度やってみたいという思いもありました。
4Gamer:
飯野さんが発起人として行われた,若いクリエイターの育成や協働を推進するプロジェクトですね。
「ゲームクリエイター 飯野賢治」は,何を遺したのか。「イルカの学校」特別講義「夭折の鬼才 飯野賢治を学ぶ。」聴講レポート
2013年4月6日,“新時代のイノベーター養成プログラム”「イルカの学校」において,特別講座「夭折の鬼才 飯野賢治を学ぶ。」が行われた。“映像で振り返るKenji Eno”をテーマとしたこの講座では,飯野氏と親交の深かったILCAの発起人およびゲストによるトークも繰り広げられた。その模様をお届けしよう。
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- ライター:大陸新秩序
- 業界動向
由香氏:
はい。飯野には,もっと若い人が気軽にクリエイティブに触れる場を作りたいという思いがありました。
日本では,芸術的なことやクリエイティブなことに触れる機会が少ないのではないか。自分の素質や好きなことを知る機会を作りたい。そういう思いがあったんです。
ただそれをするには,ゲームという作品をきちんと完成させて届けるところまで若い人たちを導いてくれる人が必要です。そこで思い浮かんだのが飯田さんでした。
立命館大学でゲーム制作を教えていらっしゃることを思い出し,無理を承知でお願いしたんです。
飯野賢治のゲームをもう一度動かすことの重さ
4Gamer:
飯田さんは,この話を聞いてどう感じましたか。
飯田和敏氏(以下,飯田氏):
かなり葛藤しましたね。飯野さんのことを知っているだけに,飯野さんのゲームをもう一度動かすということの大変さも分かっていましたから。自分でいいのか,という気持ちが大きかった。
飯野さんが亡くなった直後はいろいろ関わらせてもらいましたけど,それが終わってからは,僕の中で失った友人とのことに一度整理をつけて,「次に行こう」となっていたわけです。
もちろん,やりたくないわけではありません。ただ,やれるのか。自分にそれが背負えるのか,という問いがありました。簡単に「やります」と言えるものではなかったです。
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由香氏:
そのとき,今の学生さんの感覚についても話してくれましたよね。
飯田氏:
そうですね。由香さんが思い描いている若者像と,今の学生たちは違うかもしれないよ,という話もしました。そんなに簡単なものではない,と。
4Gamer:
実際に学生さんへは,どのように声をかけたのでしょうか。
飯田氏:
由香さんから話をもらって,秋学期の始まりにゼミで声をかけました。
「こういう企画があります。やりたい人はいますか」と。あくまで有志を募る形ですね。こちらから「やれ」と言うものではありませんし,由香さんにも「手が挙がらなかったら無理だよ」とは伝えていました。
4Gamer:
どれくらいの学生さんが手を挙げたんですか。
飯田氏:
最初は5人で,最終的には4人のチームになりました。
手を挙げてくれた学生たちは,すごくいいクリエイションを発揮してくれました。1人は学業や生活の事情があって抜けることになったのですが,やりたい気持ちはすごく強く,辞退するときもとても丁寧に連絡をくれて。
そこで僕は,少し消極的になっていたんだなと思いました。そこは由香さんのように,もっと若い人たちを信じてあげなければいけなかったと。
4Gamer:
飯野賢治さんの名前を聞いて,学生さんたちはどのような反応だったのでしょうか。
飯田氏:
ほとんど知らなかったですね。最初に「かつて飯野賢治というゲームクリエイターがいました」と説明したんですが,みんなポカンとしていました。
でも学生たちが知らないこと自体は別にそれでいい。そういうものだと思っていました。
それは僕自身もそうで,ゼミに通う人たちは僕の作品を知らない。そもそも教員として,これまでの経歴や実績ではなく,今の自分がどんな言葉を発することができるかで学生と向き合ってきたつもりですしね。
「飯野賢治の気になること。2025」開催。今から55年前の5月5日に生まれた,夭折のクリエイターが我々に残したもの
2025年5月5日,東京・新宿歌舞伎町のトークライブハウス「ロフトプラスワン」にて,飯野賢治氏の生誕55周年企画「飯野賢治の気になること。2025」が開催された。飯野氏とゆかりの深い人々が登壇し,その生き様やクリエイティブ精神を振り返った。
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4Gamer:
そもそも今,飯野さんの作品をプレイする環境ってかなり限定されますよね。
興味を持つきっかけになるゲーム自体に触れられる機会がない。
飯田氏:
そうなんです。だからそこであらためて,飯野さんのゲームを今遊べるもの,今触れられるものとして置きなおさなくてはいけないとも思いました。
映画が好きで若いころにいろいろ観ていましたけど,「戦前の名作映画を観ろ」と言われてもピンとこなかったこともあったし,興味を持ってもたどり着けなかった。
それと同じで,今ゲームを学んでいる学生でも,過去の作品や作家に自然にたどり着くわけではないし,興味を持っても触れる機会がほとんどないとそこから先に進まない。
4Gamer:
分かります。最初に触れたときにしっくりこなくても,あとで何かのきっかけでまた触れたときにすごく理解できる,ということもありますよね。音楽,映画,ゲームなどどれもですが,今触れるものがあることは大事だなと思います。
では,このプロジェクトを学生たちに興味をもって動いてもらうには,どうすればいいと考えましたか?
飯田氏:
まずは「伝えなきゃいけないんだな」と。
僕が知っている飯野さんと,「one-dot enemies」というゲームの成り立ちを話さなければいけない。そのためには自分自身もあらためて「one-dot enemies」というものに向き合ってみることにしました。
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飯野賢治を知らない世代が“1ドット”に触れるまで
4Gamer:
あらためて「one-dot enemies」に向き合ってみて,どのように感じましたか。
飯田氏:
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「エネミー」という共通の言葉があって,さらにゼロの次の数字である“イチ”,つまり「One」入っている。そしてそれが,「エネミー・ゼロ」という真逆といえるシンプルなゲームなんだなと。
4Gamer:
面白いですね。リッチなゲームからは真逆な“1ドット”のミニマルなゲームだけど,ゼロからイチで続いているとも見えるという。
飯田氏:
「エネミー・ゼロ」は非常に大きな作品で,関わる人数が多ければ,お金の流れも複雑だった。ものすごく大変なことですが,飯野さんはそれを社長業とクリエイター業を同時にやっていたわけですね。
そして「エネミー・ゼロ」のあと,一度ゲーム作りを整理する期間があった。それからしばらく経って,App Storeという誰でも参入できる新しい場が出てきた。ゲームを取り巻く環境も,作る環境も変わる。新しいことをやれると思ったんでしょうね。
由香氏:
飯野は,そういう新しいものに乗っかるのが本当に好きでした(笑)。
飯田氏:
そうそう。大作に大きなお金をかける流れになっていった中で,これもゲームなんだと,ドットをただひたすら潰していくゲームを作る。それを,大作を作った当人である飯野賢治がやる。
今回「one-dot enemies」に向き合う中で,そういうことがあったのではないかと考えました。
由香氏:
本人はどこまで考えていたんだろう。でも,飯田さんがおっしゃっていることはなんだか分かります。
今回飯田さんにご相談したのも,まさに飯野のことを理解したうえで「こんなことを考えていたのではないか」と向き合って,新しい「one-dot enemies」を作ってくれると思ったからなんですね。
だから,こういう話を聞けるとうれしいですね。
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作るものは「2」ではなく“0.5”
4Gamer:
それでゼミの中から有志が集まり,制作が始まっていったわけですね。何から始めたのですか?
飯田氏:
まずは簡単なレクチャーというか,僕が知っている「one-dot enemies」の成り立ちや,飯野さんがどういう人だったのかを話しました。
そこから,「じゃあ飯野賢治というクリエイターにそれぞれ向き合って,何か考えてみよう」と,学生たちにもそれぞれアイデアを出してもらいました。
もちろん僕も一緒に考えました。先生が「君たち考えてきなさい」と言って終わりではなく,飯野さんを知る自分が今,このお題で何ができるのだろうかと考える。そこから,いくつかの案を出していきました。
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由香氏:
学生さんたちはゼミのあとに集まって,少しずつ進めてくれていました。開発の青木さんを交えたオンライン会議もありましたし,私も参加させてもらったことがあります。
4Gamer:
今回の「ONE-DOT GAMES」は,「one-dot enemies」の続編というより,その思想を受け継ぐ作品という位置づけですよね。
方向性や共通認識のようなものはあったのでしょうか。
飯田氏:
おっしゃるとおりで,今回目指すのは「2」ではないと思いました。
「2」を作れるのは,やっぱり飯野さん本人しかいない。では僕たちができるのは何だろうと考えると“0.5”なのかなと。
4Gamer:
0.5ですか。
飯田氏:
これは学生たちと話している中で,“ハーフ・ドット・エネミー”という言葉が出てきたことがきっかけで。これ,学生が言ったんです。いい言葉ですよね。
ハーフ・ドットなんて現実にあり得るのか。マスクして隠せばいいのか。そもそもそれは,ハーフドットと呼ぶのか,みたいな話にはなったんですが(笑)。
でもそういうことではなく,精神的な指標として面白いなと。今回の向かう先が,そこで少し共有できた気がします。
4Gamer:
飯野さんの作品をそのまま引き継ぐというより,そこにどう向き合うかを考える合言葉になった。
飯田氏:
そうですね。飯野さんが1ならその半分。「飯野さんのゲームを引き継ぐなら,こうしなければいけない」ではなくて,「飯野さんだったら,これを面白がってくれるかな」くらいの気持ちで,という意味でも。
4Gamer:
重たく考えないようにというか。飯野さんを知らない世代にとっては,残された作品や言葉から,自分たちなりにクリエイター像を考えて作品を作っていくことになる。そこに唯一の正解があるわけではないですよね。
飯田氏:
そうそう。それぞれの向き合い方でいいんです。
もし,できたものを飯野さんが見て「こんなの俺じゃねえよ!」と怒ったとしても,それはそれでいいんですよ。「いや,だってあなたもういないんだから」って(笑)。それくらいの感覚でいいんじゃないかというのが,自分の中にもできたんですね。
学生と一緒に作る中で,自分自身も飯野さんの作品を扱うことになって,あらためてその距離感のようなものが持てたのだと思います。
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オンラインでは“拾いきれなかった言葉”によって前へ進んだ企画合宿
4Gamer:
昨年末の企画合宿にお邪魔させてもらいましたが,それまではオンライン中心で進めていたのでしょうか。
由香氏:
それまでは飯田さんや学生の皆さんとオンラインで話をすることはあったんですが,どうしても時間が限られてしまうんです。
「今日はここまでにして,また次にやろうね」という形になりがちで,話は進んではいるけど細切れになってしまうところがありました。
飯田氏:
ひとりの発言に対して,みんなが聞き手になるというか,個別の発表のようになってしまうんですよね。
そうなると,何かを一押ししたいときに,入れないんですよ。途中でほかの人が気になったことを言えなくて,企画を広げにくい。議論の熱が少し逃げてしまうところがある。
4Gamer:
オンライン会議ではよくありますね。
由香氏:
それで,ある程度企画の方向性が見えてきた段階で,一度ちゃんと集まって考えようということになりました。それが年末の合宿です。
時間に余裕があるぶんしっかり考えられるという空気になれて,みんなで本当に意見を出し合えました。全員で集まれたのは,すごく良かったです。
終わり時間も自由に決められましたしね。もちろん「ちゃんと寝ようね」という前提はありましたけど,ついエンドレスで話しあっちゃうような環境でした(笑)。
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飯田氏:
同じテーブルを囲んでいると,横から入れるんですよ。「それはこうじゃない?」とか,「ちょっと待って,今の面白いよね」とか。オンラインでは拾いにくいものが拾える。
ゲームの企画って,そういう横からのひと言で急に動くことがあるんです。だから,現場で話し合うというのはやっぱり大きかったですね。
青木氏:
学生企画の「ONE-DOT ZERO」は,あの場にみんなで集まったからこそのゲームですね。
オンラインで順番に話していたら,あそこまでのアイデアにはならなかったかもしれません。
4Gamer:
「ONE-DOT ZERO」は,スマートフォンを傾けながら,見えない1ドットを操作し,画面の黒い面積を削っていくゲームですね。
黒を削るほど画面は白くなり,1ドットの行方が分かりにくくなっていく。塗るのではなく削る。“見えなくなる”ことを遊びにしているのが面白いと感じました。
飯田氏:
合宿で大事だったのは,アイデアを広げるだけではなく,実装に向けてどこまで絞るかでもありましたね。
学生たちはいろいろ考えてくる。でも,そこから先は青木さんが実際に作れる形にしていく必要がある。
だから,この合宿で方向性が見えて,次は青木さんのターンになる。学生たちが「こうしたい」と話したことを十分に聞いてもらって,できる範囲でベースを作ってもらう。そこから,動いたものを見てまた返す。そういう流れが見えてきたんです。
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4Gamer:
学生さんたちの企画を見るうえで,飯田さんはどのあたりを意識していたのでしょうか。
飯田氏:
一つ挙げるとするならまさに今話したことで,“それがやりすぎかどうか”を見ていました。
企画は,思いついたものがワーッと出てきます。でも,「それ,何か月でどうやって作るの?」という話になると,そこまでは考えられていないことが多い。
そこが見えていないものは,いくら深掘りしようとしても難しいんですね。具体的には,そのアイデアを実装する人のことは考えられていなければならない。
4Gamer:
やりたいことを出すだけではなく,納期や実装の現実性も含めて,どこまで実現できるかを考えるということですね。
飯田氏:
これは学生に限らず,ゲームを作りたいという人にはよくあるのですが,最初に設定資料集のようなものを作る人は多いんですよ。「どうですか,この世界観」と。
でも,そこで僕は必ず聞くんです。それを誰がどうやって,いくらかけて作るのか,と。実現性が考えられていなければ,絵に描いた餅以下の妄想になってしまう。
で,これは上からモノを言おうってことではなくて,僕自身の自戒であり反省でもあるんです。30年ぐらいゲームを作っていて,ずっとそれで苦労してきましたから(笑)。
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4Gamer:
自分が表現したいものを,コストや納期の中にどう収めるか。スコープを広げすぎないようにすることも,制作の大事な部分ですよね。
由香さんは,合宿での学生さんたちを見てどう感じましたか。
由香氏:
1ドットというお題から,こういうふうに考えるんだ,という驚きがありました。
たとえば「ONE-DOT GARDEN」も,「one-dot enemies」の本当にごくごくシンプルな見た目から,あんなふうに可愛らしい世界が広がるんだと思いました。合宿の時点で,やっぱり彼らにお願いしてよかったと思いましたね。
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4Gamer:
青木さんは,その場でプロトタイプのようなものを出して実験されていましたね。
飯田氏:
青木さんは早いんですよ。Unityなどのゲームエンジンによって開発の障壁が下がっていることは踏まえつつも,それにしても青木さんの速度感は早い。感服しました。
僕は“セーブ主義”というか,実現が難しくなるから物量をそんなに増やさないようにしようと,そこだけは学生に口を酸っぱくして言っていたんです。でも,それを青木さんがさっと作ってしまうんです。
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青木氏:
もったいないお言葉です。私にとって飯野さんはもちろん,飯田さんもレジェンドなので,そういっていただけるとうれしいのですが,プレッシャーもあります(笑)。
飯田氏:
いえいえ。レジェンドって言われるのもプレッシャーだなあ(笑)。
4Gamer:
合宿でできたアイデアは,その後どのように作られていったのでしょうか。
青木氏:
「ONE-DOT ZERO」と「ONE-DOT GARDEN」は,合宿で話し合った内容を元に私たちがゲームを制作し,それをまた学生たちに見てもらってフィードバックをもらう。
それを反映してまた見てもらうというやり取りで磨いていきました。
飯田氏:
往復書簡みたいな作り方ですよね。こういう作り方も,ちょっと珍しくて面白いですよね。学生たちには本当に貴重な機会をいただけたなと思います。
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飛蚊症と「リアルサウンド」がつながる,「ONE-DOT Eyes」の着想
4Gamer:
収録予定タイトルの中には,飯田さんが企画した「ONE-DOT Eyes」もあります。
学生メンバーが音楽を担当していて,これも合宿のときに話し合いがありましたね。飛蚊症をテーマにしたゲームですが,これはどのように生まれたのでしょうか。
飯田氏:
僕自身,飛蚊症の症状がずっとあります。去年あたりからひどくなって,加齢とともに起こるものなので異常ではないらしいんですけど,とにかくうざいんですよ。
意識すると見える。気になってたまらない。これをなんとか除去できればな,という感覚がありました。見えているけれど,実在しているわけではないものを潰したいという感覚が,1ドットの敵を潰すという「one-dot enemies」と重なったんです。
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4Gamer:
私も飛蚊症持ちなので分かります。これをドットに捉えて潰すという発想は「なるほど」と。
飯田氏:
目というのは,人間にとって非常に重要な器官であると同時に,弱くて,柔らかい器官でもありますよね。そこに触れていく,あるいは視界の中にあるものをどうにかしようとすることには,少しグロテスクな感覚もある。
そのことで思い出すのが,ルイス・ブニュエルとサルバドール・ダリが作った映画「アンダルシアの犬」です。シュルレアリスムの出発点であり,ある意味では頂点のような映画だと思うんですが,冒頭のシーンが非常に有名なんです。
4Gamer:
ああ……あの目のシーンですね。
飯田氏:
そうそう。映画が始まってすぐ,男は床屋のような仕草で剃刀を研いでいるシーンで。
その場面ののち夜空に満月が出ている絵が映り,次のカットでは男が女性の目に剃刀を当てている。そして夜空の満月に一筋の雲がすっと横切る場面が入り,続いて剃刀で目を横に引く絵が入る。
よく見れば切られているのは動物の目で,これは本当に人間の目を切っているわけではないって分かるんですよ。でも映像のモンタージュによって,人間の目が切られたように感じてしまう。
4Gamer:
それを理解していても,映像のつなぎによってそう見えてゾッとしますよね。
飯田氏:
僕は授業でもあの映画を見せるんですけど,あれは単にグロテスクな場面ということではなくて,目で見る芸術である映画が,「見る」という行為そのものに切り込んでいくような作品だと思っています。
僕の解釈として,「ここから先の世界を,もう普通に見ようとするな」という宣言のようなものなんです。
映画は目で見るものだけれど,その目を信じていいのか。そもそも見るとは何なのか。そういうところに踏み込んでいるのではないかと。
飯野さんの「リアルサウンド 〜風のリグレット〜」も,そこに通じるものがあると思うんですよ。
4Gamer:
あっ。“見ない”ゲームですね。
飯田氏:
そう。つまり「このゲームは目で見るな」ということですよね。
ゲームというメディアは普通,画面を見るものだと思われている。でも,そこから視覚を取り払うことで,別の感覚に向かわせる。
僕の「飛蚊症」のアイデアもそれに近いというか,自分の身体感覚が混ざったものなんです。
見えているのに,実体はない。見たくないのに,視界に入ってくる。消したいけれど,簡単には消せない。そういうものを,1ドットのゲームとして扱えないかと考えたんですね。
由香氏:
最初に飯田さんから「飛蚊症」の案を聞いたときは,もう鳥肌でした。さすが飯田さんだと。これだけで一本の作品として成立するんじゃないかと思ったくらいです。
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マニアックな思考と,大衆的な楽しさを切り離さない
4Gamer:
「ONE-DOT GAMES」が面白いのは,「ONE-DOT Eyes」のように背景には深い考えがある一方で,最終的にはシンプルな遊びとして出てくることだと思います。
飯田氏:
僕も飯野さんも,そういうタイプなんだと思います。とことん考える部分がある。でも,アウトプットは楽しめるもの,エンターテインメントにしたい。
難しいことを考える部分と,人を楽しませたり驚かせたりしたい部分が,別々のものではなく,きちんと合成されているものがいいんです。だから仲が良かったんだと思います。
4Gamer:
マニアックなものを好みながらも,大衆的な楽しさを見下さないというか。
飯田氏:
そうですね。面倒くさいことを考えがちな人は,エンターテインメントをどうしても下に見てしまうことがあります。考えが深ければ深いほど,「分かりやすいもの」や「楽しいもの」を軽く扱ってしまうことがある。
でも,僕らは両方があってこそのゲームだろうと考えていました。ちゃんと考える。だけど,最終的には多くの人に遊んでほしいし,遊んだ人を驚かせたいし,楽しませたい――そこが分かれていないものがいいんです。
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4Gamer:
今回の「ONE-DOT GAMES」も,すごく考えられている一方で,入口はかなりシンプルですよね。1ドットを潰す,1ドットを追う,という。
飯田氏:
そこがいいんです。とことん考えるんだけど,最終的に出てくるものは,ぱっと触れて面白いものにしたい。それで楽しいでいいし,そこから何か感じた人は掘り下げてもらえればいい。飯野さんも,そういうところがあったと思います。
4Gamer:
インタビューの最初のほうで,飯田さんがこのお話を受けるときの葛藤の話をされていましたよね。
プロジェクトが進む中で,飯田さんの中にあった,飯野さんの作品に向き合うという“重さ”は変わっていきましたか。
飯田氏:
変わりましたね。最初はかなり頑なだったというか,自分の中に半ば拒絶的な姿勢もあったと思います。
飯野さんのことを知っているからこそ簡単には触れられないし,軽く扱いたくない。かといって重く扱いすぎると,それはそれで何もできなくなる。
でも,飯野さんのことを知らない若い人たちと一緒に作品に向き合ってみて,そう考えていたものが溶けていくような感覚がありました。
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4Gamer:
学生さんたちが,飯野賢治というクリエイターを自分なりに調べ,解釈し,そこから作品を作っていく。その姿を見ることで,飯田さん自身の向き合い方も変わっていった。
飯田氏:
なんだか,自分も気楽にやっていいのかなと思えました。
別に誰かが飯野さんを背負うわけではないし,飯野さんの代わりになるわけでもない。みんなでうまく責任を分担できた場だったなと思います。
「飯野さんならこうしなければいけない」っていう場所だったら,もう動けなくなっていたかもしれない。
でも,今回の感じは少し違っていた。学生たちは,飯野さんをリアルタイムでは知らない。でも,知らないからこそ,自分たちなりに調べて,考えて,飯野さんと向き合ってくれた。その向き合い方が,僕にとってもよかったんです。
4Gamer:
先ほどお話しされていた,「飯野さんだったら,これを面白がってくれるかもしれない」という距離感ですね。
飯田氏:
もちろん名前を貶めるようなことはしてはいけない。でも,だからといって,誰も触れられないものにしてしまうのも違うなと思えたんですね。
飯野さんを高いところに置いてただ眺めているだけでは,何も動かないですから。
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4Gamer:
これも先ほどそんな話になりましたが,飯野さんというクリエイターを知るきっかけになるものとして,今遊べるゲームがあることの意味も大きいと感じます。
飯田氏:
説明だけでは届かない。遊べるものとしてそこにあることで,初めて「実はこういう人がいてね」という話ができる。
大きな記念碑を建てるのではなく,まず触れるものを置くところから始めるという意味でも「ONE-DOT GAMES」はいい形ではないかなと思います。
由香氏:
飯野賢治を知らない世代の方にも参加してもらって,ゲームとしてだけでなく若い人たちが関わったプロジェクトとしてもやりたいことができたと思います。協力してくれた人たちには本当に感謝です。
新しい解釈の「ONE-DOT GAMES」があって,そこからいまも遊べる「one-dot enemies」にもつながる。ゲームで飯野賢治というクリエイターがいたことを伝えられるようになってうれしいです。
フロムイエロートゥオレンジは,ずっと飯野の追悼事業をしてきたようなところがありました。2026年はようやくゲームを復活させられたことで,あらためて力も入ります。
4Gamer:
2026年5月に開催される,BitSummit PUNCHへの出展も予定されていますね。
飯田氏:
BitSummitは,飯野さんが亡くなったときがちょうど第1回の開催で。主催者にも友人がいて,すごく悲しんでいて,追悼企画や特別映像の制作をしてくれたんですよね。
4Gamer:
2023年には没後10年で,由香さんがステージに登壇されていましたね。今回も出展だけではなく,最終日の5月24日にステージイベント「KENJI ENO 55 Memorial Live」が予定されています。
由香氏:
はい。BitSummitにはいろいろなご縁があって。だから17年ぶりのゲームのリリース時期に初めて出展できることが本当にうれしいです。メモリアルライブを行う機会まで与えていただけたことにも心から感謝です。
4Gamer:
若いインディーゲームファンやクリエイターが集う場所で,飯野さんのファンだけではなく,飯野さんを知らない世代にもゲームを届けられる。
由香氏:
そうですね。飯野賢治ファンの方にはもちろん楽しんでほしいのですが,まったく知らなかった人にもぜひ遊んでもらいたいです。
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4Gamer:
そしてこの記事が載るころには,「ONE-DOT GAMES」がリリースされています。
由香氏:
そうですね。「ONE-DOT GAMES」は難しいゲームではないので,ゲームファンに限らず,幅広い方に楽しんでいただければと思っています。
年配の方でも簡単に遊べると思いますし,若い人にとっては「なんだろう,この小さなゲームは」という興味から,飯野賢治の作品に触れる入口になればと思います。
本当に小さな一歩,それこそ“1ドット”からのスタートだと思っています。
初心に戻って,小さなことからコツコツとやっていく。まずはこの小さな点を打つところから始めて,そこから少しずつ,いろいろな人たちにつないでいきたいです。
飯田氏:
飯野さんがいなくなったあとに,こうやって動き出すというのは,僕は飯野さんらしいロックな形かなとも思うんですね。
Queenとアダム・ランバートみたいな,フロントマンを亡くしたバンドのメンバーが新しいボーカルを立てて続けていくことがあるじゃないですか。そういうのに近いのかなというのも思っていて。
4Gamer:
分かります。若いころはそういうものに思うところもあったんですが,どう見られるかではなく,自分たちのバンドと曲を紡いでいこうという強さみたいなのを感じられますよね。
飯田氏:
そうそう。もちろん僕たちが作っているものは,飯野さん本人が作るものではない。そこは絶対に違う。
でも,残った人たちが,知らない世代も巻き込みながら,自分たちの形で鳴らして伝えるというのはすごくいいなと。
4Gamer:
飯野さんが遺したものを,いまの人たちが自分たちの形で伝える。その最初の1ドットである「ONE-DOT GAMES」が,どんなふうにプレイした人に響くのか楽しみです。本日はありがとうございました。
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「ONE-DOT GAMES」概要
5種類のゲームを収録した無料ゲームコレクション
2026年5月17日リリース:3タイトル(以下1・2・3)
後日追加リリース:2タイトル(以下4・5)
1.立命館大学 学生企画「ONE-DOT ZERO」
スマートフォンを傾けながら,見えない1ドットを操作し,画面の黒い面積を削っていくゲーム。黒い面積を削れば削るほど画面は白くなり,やがて1ドットの行方が分からなくなる。進むほどに上昇する難易度。果たしてクリアできるプレイヤーは現れるのだろうか。
音楽:spinstealthspike(ミノやん[NORWAY])
2.元ワープ開発者X企画「ONE-DOT Blink」
プレイヤーが瞬きするたびに,セルフカメラが反応し,1ドットのエネミーが増えていく。できるだけ瞬きをせずにエネミーをタップで撃破していくことが本作の攻略ポイント。シリーズの中でも,初代「one-dot enemies」に最も近いゲーム性を持つ作品。
音楽:spinstealthspike(ミノやん[NORWAY])
3.STUDIO-KURA企画「ONE-DOT Block Breaker」
バーに1ドットを当てることで,ブロックを崩していくゲーム。迫り来るブロックを避けることに集中すると,1ドットを見失う。シンプルなルールながら,プレイヤーの集中力が試される作品。
音楽:Kosuke Anamizu
4.立命館大学 学生企画「ONE-DOT GARDEN」
庭に咲く花を害虫から守りながら,どれだけ長く咲かせ続けられるかを競うゲーム。途中に現れるミツバチや,庭の中央に鎮座する石が攻略のポイントとなる。
音楽:Kosuke Anamizu
5.飯田和敏企画「ONE-DOT Eyes」
「アクアノートの休日」や「太陽のしっぽ」を手がけた,ゲームクリエイター 飯田和敏による作品。加齢とともに発生する飛蚊症(ひぶんしょう)。実在はしないが自分には見えてしまう“飛蚊”(1ドットのエネミー)を潰し,視界をクリアにしていくゲーム。
音楽:志食(立命館大学学生)



















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