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[COMPUTEX]JOLED製有機ELパネルを使ったASUSのディスプレイ「PQ22UC」をチェック。発色の美しさと黒の締まりは素晴らしい
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印刷2018/06/09 00:00

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[COMPUTEX]JOLED製有機ELパネルを使ったASUSのディスプレイ「PQ22UC」をチェック。発色の美しさと黒の締まりは素晴らしい

 例年,COMPUTEX TAIPEIで面白いディスプレイ製品を発表するASUSTeK Computer(以下,ASUS)は,2018年も興味深い新製品をいくつも出展している。とくに今年のASUSは,非ゲーム分野のハイエンドユーザーや,アーティスト,デザイナーといったプロフェッショナルに向けたディスプレイ製品の拡充に力を入れているようで,まるで日本のEIZOの立ち位置を目指しているかのようである。
 というわけで,ASUSが出展したディスプレイ新製品から,「世界初のポータブル4K有機ELディスプレイ」を謳う「PQ22UC」について,色度計による計測を交えてレポートしよう。

世界初の4K HDRポータブル有機ELディスプレイであるというPQ22UC。2018年1月に発表済みであるが,発売時期はまだ決まっていない
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日本製の有機ELパネルを採用

RGB自発光方式で,リアル10bit駆動を実現


 本来であれば,まずはPQ22UCのおおまなか特徴を説明してから,細部に入るのが筋なのだが,本稿ではあえて,本製品が採用する有機ELパネルについて先に説明したいと思う。なお,ディスプレイ本体の説明を先に見たいという人は,こちらのリンクで製品の話に飛べるので活用してほしい。

 PQ22UCで注目すべき点は,有機ELパネルに日本企業のJOLED(ジェイオーレッド)製品を採用していることだ。
 JOLEDとは,ソニーやパナソニックといった,かつて大画面有機ELテレビの開発に取り組んでいた企業の開発者が合流した「日の丸有機EL軍団」と言うか,「メイドインジャパンの映像パネルメーカーにおける最後の砦」とでも言うべき有機ELパネル専業メーカーである。ただ,近年は大画面テレビ向けの大型パネルではなく,中小型の有機ELパネル開発を優先しているとのことだ。
 高い技術を持ちながら,なかなか採用製品が市場に登場してこなかった企業であるだけに,「ASUS製品にJOLEDパネルが採用」というのは,実はけっこうなホットトピックと言えよう。

PQ22UCで採用したものではないが,JOLEDは,曲がる樹脂製フィルム基板に有機ELパネルを形成する技術を有する
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 JOLED製有機ELパネルの特徴は,大きく3つある。
 1つは,画素構造がRGBストライプ構造であるという点だ。
 現在市販されている有機ELテレビで採用事例が多いのは,LG Electronicsの子会社であるLG Display(以下,LG)製の有機ELパネルであるが,これは白色に発光する有機EL画素に,RGBカラーフィルタを組み合わせた方式を採用している。

 LG製有機ELパネルの発光層は,青色有機ELの発光層と黄色(ないしは橙色)有機ELの発光層を組み合わせて構築するので,RGBカラーフィルタを使う関係で,各サブピクセルからの透過光は,光源として光らせた白色光の3分の1しか目に入らない。つまり,エネルギー効率が悪いのだ。
 一方,JOLED製の有機ELパネルは,各RGBサブビクセルが,赤緑青の単色で自発光する有機EL画素からできているので,エネルギー効率がいい。また,RGB各色の光がカラーフィルタを経由する必要がないので,必然的に色再現性にも優れている。

 ちなみに,JOLED製有機ELパネルのRGBサブピクセルは,インクジェットプリンタのような装置を使い,RGB有機材を塗り分けて成形する「印刷方式」で製造しているという。この方式は,真空環境での製造が必須な蒸着方式よりも,製造設備コストが抑えられる利点があり,大中型パネル向けとしては量産効果が高いとのことだ。

製造に印刷方式を採用するJOLED製有機ELパネル
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 2つめの特徴は,TFT(Thin Film Transistor)回路に用いる素材にある。
 TFTと聞けば,液晶パネルを連想する人も多いだろうが,有機ELパネルの画素も,液晶パネルと同じTFT回路で駆動するのだ。

 TFT回路に用いる素材には,低温ポリシリコン(LTPS)やアモルファスシリコン(a-Si)などを用いることが多い。とくにLTPSは,電子移動速度が非常に速くTFT微細化にも適しているため,高解像度パネルに向いているという。
 一方でLTPSには,リーク電流が大きいという欠点もある。リーク電流を低減するため,サブピクセルあたりのTFT回路を2基直列化した「ダブルゲート構造」をとる必要もあって,微細化の難度は高い。

 かたやa-Siは,一般的な液晶パネルに採用されることが多い素材であるが,利点は製造工程がシンプルという点にある。ただ,電子の移動速度が,LTPS比で数百倍も遅いという欠点がある。どちらも一長一短というわけで,最近注目を集めているのが酸化物半導体を素材に用いることだ。
 有名なシャープの「IGZO液晶」は,まさしく酸化物半導体の一種を素材に用いた液晶パネルである。酸化物半導体は,リーク電流がLTPSと比べて1000分の1程度と低く,シングルゲート構造で問題ない。そのうえ,電子移動速度もa-Siの数十倍は高速でありながら,製造コストもa-Si並みに抑えられるといった具合で,極めて優れたTFT素材なのだ。

 ここでようやく話がJOLEDに戻るが,JOLED製有機ELパネルは,酸化物半導体を活用したTFT回路で有機EL画素を駆動している。JOLEDは,自社のTFT回路を「TAOS-TFT」と命名しているのだが,このTAOSとは「Transparent Amorphous Oxide Semiconductor」,つまり「透明アモルファス酸化物トランジスタ」という意味があるのだ。
 ただ,今回のPQ22UC試作機が使っている有機ELパネルは,既存のLTPSを使用しているとのことで,実際の製品でTAOS-TFTに変更するかどうかは検討中とのことであった。

酸化物半導体をTFTに用いているのもJOLED製有機ELパネルの特徴だ
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 3つめとなる特徴は,JOLED有機ELパネルは「リアル10bit駆動」パネルであるということ。
 液晶パネルか有機ELパネルかを問わず,現在のディスプレイやテレビでは,「Frame Rate Control」(以下,FRC)と呼ばれる時間方向のディザリングによって,階調ビット数を疑似的に増やしているものが多い。たとえば,“疑似的”な10bit FRC駆動パネルの場合,パネル自体は8bit駆動なのだが,残り2bit分の階調をFRCで作り出すわけである。

 しかし,JOLEDの有機ELパネルは,この階調ビット数の疑似的な増加という手段はとらず,リアル10bit駆動に対応しているのだ。それだけ繊細な階調制御に対応できるとも言えよう。リアル10bit駆動のメリットは,動体を目で追った場合や,あるいは混色によるグラデーション表示などに現れる。疑似10bit駆動パネルでは,擬似輪郭(マッハバンド)が見えることがあるものの,リアル10bit駆動なら,それがないのだ。

 といった具合に,JOLED製有機ELパネルを使うPQ22UCは,一般的な有機ELテレビよりも,色再現性に優れているという。そこで,謳い文句どおりの性能を発揮しているのか,ASUSブースのデモ機を使い,色度計で色スペクトラムを計測してみた。
 テストに用いた色度計は,筆者がAV Watchで連載中の「大画面☆マニア」で使用している楢ノ木技研製の「ezSpectra815V」だ。覚えている人もいるだろうが,2017年のCOMPUTEX TAIPEI 2017でも,ezSpectra815Vを使ってASUS製ディスプレイの色スペクトラムを計測したことがある(関連記事)。

 色度計についての詳しい情報は,筆者による記事「大画面マニアの新兵器,スペクトロメーターでディスプレイの“色”表現を計測」を参照してもらうとして,PQ22UCの計測結果を見ていこう。
 RGBそれぞれが鋭く立ち上がっていれば,表現したい色を正確に表現できていると言えるのだが,PQ22UCでは,RGB各色のピークが鋭く立ち上がっているうえに,各色のピークもかなり揃っている。そのうえ色と色の谷間も深く,色の分離具合が素晴らしい。RGB各色がきちんと分離しているということは,RGBを混ぜて作る中間色の再現性が優秀ということを意味する。

PQ22UCの白色光における色スペクトラム実測結果
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 ASUSブースのデモ映像は,純色や暗部の再現性をアピールする内容だったが,RGB各色の美しさと有機ELならではといえる黒の締まり,コントラスト性能の良さは確認できた。
 ブースにいた担当者によると,PQ22UCはsRGB色空間カバー率で100%,デジタル シネマ向けの色域規格「DCI-P3」の色空間カバー率は99%,広色域規格「BT.2020」の色空間カバー率も約90%を達成しているというから,すごいの一言だ。とくに,BT.2020の色空間カバー率は,現在のハイエンドテレビでも80%代がほとんどなので,PQ22UCの色再現性は相当に優秀であると言えよう。

純色表現を主体したPQ22UCのデモ表示
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22インチサイズながら,モバイル用途も考慮


 さて,PQ22UCの製品情報も紹介しておこう。
 製品名から想像できるとおり,PQ22UCの画面サイズは約22インチ――実サイズは21.6インチとのこと――で,解像度は3840×2160ピクセル。ソニー製のマスターモニター向け30インチ有機ELディスプレイ「BVM-X300」は,4096×2160ピクセルなのだが,PQ22UCはオーソドックスな4K解像度である。

 応答速度は0.1msと,有機ELパネルならではの超高速ぶり。液晶ディスプレイの応答速度が1〜5ms(1000〜5000μs)なので,単位が下がった100μsと言えようか。公称最大輝度は350nit(=350cd/m2)で,公称コントラストは100万:1。HDR映像表示は「HDR10」に対応しているとのことだった。

PQ22UCには専用キャリングバックが付属する予定
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 そしてPQ22UCは,意外にも「ポータブルディスプレイ」という製品カテゴリになっており,持ち運びを想定した製品コンセプトであるのがユニークなところだ。製品ボックスには,専用のキャリーバックが付属するという。
 写真家などが,撮影した写真を現場で色味を含めた画質チェックを行えるように,どこにでも持っていけることに配慮しているわけだ。

 重さや寸法は公表されていないのだが,有機ELパネルはバックライトもないので軽量であるし,厚みも非常に薄かった。20インチ以上のディスプレイであるにもかかわらず片手でも持てるので,重量は500g以上1kg未満。ディスプレイ部分の厚みも,目視した印象では5mm以上1cm未満といったところか。

 本体には,スタンドは2種類が付属する予定だ。
 1つは,ソリッドでがっちりディスプレイ部を固定できるタイプのもの。折りたたむと,コンパクトな板のように収納できる。

ソリッドタイプのスタンドをPQ22UCに取り付けた様子(左)。PQ22UCを据え置きディスプレイとして使う用途向け。右写真はスタンドを折りたたんだところで,ここまでコンパクトになる
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本体保護カバーは折り込むことでスタンドへと変身。縦置きにも対応する
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 もう1つの付属スタンドは,ASUS製ポータブルディスプレイではお馴染みの,画面カバーにもなるソフトなタイプだ。折り目に沿って折り曲げると,スマートフォンスタンドのようにPQ22UCを立てかけて設置できる。
 余談だが,2017年に発売となったポータブルディスプレイ「ZenScreen MB16AC」のように,ボールペンや鉛筆を通してスタンドにできる「穴」はなかった。

 ビデオ入力インタフェースは,USB Type-Cが2系統とmicro HDMIを1系統装備。USB Type-Cポートの1つは,DisplayPort Alternative Modeに対応しているとのこと。MB16ACには,HDMI入力がないことが不評だったようで,PQ22UCにはHDMIも搭載したようだ。DisplayPort Alternative Modeは対応しているPCはまだ少ないので,HDMI入力対応は嬉しい改善点と言えよう。

左側面のインタフェース部。USB Type-Cポートの高さが約2.5mmなので,PQ22UC自体の厚みは目測で8mm前後か
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有機ELゆえの暗さは気になるかも

それ以上の問題は価格か


 以上のとおり,PQ22UCは非常に魅力的な製品だが,弱点と言えそうなところないわけではない。
 実機のデモを見ていて気が付いたのだが,発色には文句はないものの,映像表示が暗めであるのが気になった。PQ22UCの公称最大輝度は350nitであるが,HDR表示に対応したディスプレイとしては低いのだ。最大輝度が600nit以上のHDR対応液晶テレビを見慣れていると,暗いという印象を持ってしまうのは無理もない。とくに,ASUSブースにおけるディスプレイ展示コーナーは,相当に明るい照明が点いていたので,必要以上にPQ22UCの表示を暗く見せてしまっていたのではないだろうか。

圧倒的に沈んだ黒表現は,PQ22UCにおける魅力のひとつ
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 ただ,PQ22UCは有機ELパネルらしい漆黒表現が可能だし,暗部の黒浮きがない微妙な暗色表現も可能なので,CGアーティストやグラフィックデザイナー,アニメやゲーム制作におけるカラリスト(色彩設計)には,最高のリファレンスモニターになるだろう。

 気になる価格や発売時期は未定。ただし,2018年10月頃に正式発表が行われるので,リリースもこの頃になるのではとのことだった。筆者の予想ではあるが,有機ELパネル単体のサンプル価格が60万円前後という話を,以前JOLED取材時に聞いたことがあるので,量産品パネルは安く見積もっても20万円,高ければ40万円といったところか。製品の価格がいくらになるのか,ちょっと怖いくらいである。

ASUSTeK Computer 日本語公式Webサイト


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