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[CEDEC 2013]「『日本のゲームが海外に通用しない』なんてウソだ!」日本語ペラペラのフランス人講師達がフランスの日本ブームの実情を伝える
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印刷2013/08/22 14:51

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[CEDEC 2013]「『日本のゲームが海外に通用しない』なんてウソだ!」日本語ペラペラのフランス人講師達がフランスの日本ブームの実情を伝える

 2013年8月21日,神奈川のパシフィコ横浜で開催されている「CEDEC 2013」では,フランスにおける日本文化の人気に着目した,「『日本のゲームが海外に通用しない』なんてウソだ!〜大人気の日本コンテンツの実態〜※なんと日本語セッション!」という講演が行われた。
 「フランスからやってきた日本通たちが,日本のオタク文化,ひいてはゲーム文化にエールを送る」という興味深い内容となっているので,講演の様子をお伝えしていこう。

 「海外では日本文化への注目が集まっているので,積極的に海外進出していこう」という気運が高まっている。日本政府が推し進める「クール・ジャパン」戦略の名前を耳にした読者諸兄も多いと思う。
 その一方,「日本のゲームはもう海外で通用しないのではないか?」という指摘がなされているのも一部では聞かれる。「果たして本当に日本のゲームは海外に通用しない」のだろうか? この疑問に答えてくれるのが,フランス人講師のお二人だ。

左から「The History of Nintendo」など日本ゲームに関する著書のあるフロラン・ゴルジュ氏と,日本のサブカルチャーを取り扱うケーブルテレビネットワーク「Nolife」のアン・フェレロ氏
画像集#002のサムネイル/[CEDEC 2013]「『日本のゲームが海外に通用しない』なんてウソだ!」日本語ペラペラのフランス人講師達がフランスの日本ブームの実情を伝える

 フロラン・ゴルジュ氏は日本のビデオゲームを研究している著述家で,任天堂の歴史をまとめた著書「The History of Nintendo」シリーズは評価が高い。雑誌「ニンテンドードリーム」で,氏の連載を読んだことがある人も多いのではないだろうか。
 アン・フェレロ氏は,ゲームやアニメなど日本のサブカルチャーを取り上げるケーブルテレビネットワーク「Nolife」に勤務しており,日本のマンガやアニメに精通している。
 両氏共に日本語はペラペラ。この講演も日本語で行われたほどで,日本文化への理解の深さがうかがえる。


「UFOロボ グレンダイザー」から始まった日本ブーム〜フランスのオタク第一世代


 まず,フランスにおける日本文化ブームの背景について,フェレロ氏が語った内容をまとめておこう。
 フランスでは1970年代後半から「ジャングル大帝」「リボンの騎士」といった日本アニメが放映されていたが,この時点ではブームと呼べるほどのムーブメントにはならなかったという。転機となったのは1978年に放映された「UFOロボ グレンダイザー」(フランス版タイトル「ゴールドラック」)。フリード星の王子,デューク・フリードが巨大ロボット「グレンダイザー」を駆り,宇宙征服を企むベガ星連合軍の「円盤獣」と戦うという内容だ。

 当時のフランスアニメは,内容がマイルドかつ一話完結のものが多かったそうで,グレンダイザーと円盤獣が激しくバトルする連続アニメの「ゴールドラック」は,男子を中心に大人気に。本作を見て育った子供達は「ゴールドラック・ジェネレーション」と呼ばれる,フランスのオタク第一世代になっていったという。

 ちなみに「ゴールドラック」がフランスで放映されるようになったのは,値段の安さも理由の一つだという証言がある。同作のフランス放映を担当していたカネストリエ氏によれば,当時のフランス製アニメ1話を制作・放映するのに約150万円かかっていたのに対し,「ゴールドラック」の1話は約100万円で翻訳・放映ができたという。

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日本アニメによって育てられた子供達〜フランスのオタク第二世代


 「ゴールドラック」人気のきっかけとなったのは,フランスのテレビパーソナリティであるドロテさんが司会を務めた「レクレA2」という番組だった。
 1978年にスタートした「レクレA2」は「ゴールドラック」のほかに,「キャンディ・キャンディ」「宇宙海賊キャプテンハーロック」といった日本アニメを放送,日本ブームの立役者となった。

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 その後,ドロテさんは1987年に「クラブ・ドロテ」という番組を開始し,その中で「ドラゴンボール」「聖闘士星矢」「キン肉マン」「北斗の拳」「超電子バイオマン」「宇宙刑事シャイダー」といった日本のアニメや特撮を放送して,それらも大人気となる。

 この時の「クラブ・ドロテ」の視聴率は「55%や65%あるのは当たり前」(フェレロ氏)だったという。放送時間は一週間に30〜40時間にも及んでおり,朝夕に「クラブ・ドロテ」が流れる,「一日中,ドロテの番組がある」(フェレロ氏)ような状態だったそうだ。
 この影響を大きく受けた若者達は「ジェネレーション・ドロテ」というフランスのオタク第二世代として,「ゴールドラック・ジェネレーション」と共に,現在の日本ブームを支える存在になっていった。自身が「ジェネレーション・ドロテ」であるゴルジュ氏は,「我々は日本アニメに育てられた,といっても過言ではない」と語る。

 子供達が日本アニメに熱狂する一方,フランスの親はいい顔をしなかったという。日本アニメの暴力的なシーンや性的なシーンが問題となり,該当シーンはカットされたりセリフを変えられた上で放映されたりした。
 例えば,「北斗の拳」のケンシロウが北斗神拳で悪党どもを破裂させるようなシーンはカットされたうえ,前後のセリフもギャグ的なものに変えられているし,「シティーハンター」の冴羽 獠が美女をホテルに誘うシーンも,レストランに誘うようにセリフが差し替えられているという。
 同じ時期に「放送局は一定の割合以上,フランス産の作品を放映しなければならない」とする法律が制定され,フランスのテレビからは日本アニメが姿を消してしまったのだという。


「ポケモン・ジェネレーション」,そしてネットで日本作品を楽しむ人々〜フランスのオタク第三・第四世代


 続きを見たいのに,テレビでは日本アニメが放映されない,というフラストレーションから,フランスのオタク達は原作である日本のマンガを購入。さらに,フランスの出版社に出版を要望するようになり,日本のマンガが本格的に売られることになったという。

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 1990年代後半からは,日本のマンガやアニメをフィーチャーしたフェスティバルが開催されるようになり,1999年からスタートした「ジャパン・エキスポ」は2013年には23万人もの来場者を集めた。


「Nolife」がまとめた,「ジャパン・エキスポ」の様子。コスプレやコンサート,日本食の屋台など,日本文化が満喫できる内容になっている
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 2000年にはフランスでも「ポケットモンスター」が放送され,「ポケモン・ジェネレーション」と呼ばれる,フランスのオタク第三世代が誕生する。日本のマンガの翻訳が増加するなど,マンガやアニメのマーケットが急成長した。その後,ネットでファンが翻訳したマンガやアニメを観る,第四世代のオタクが登場するなどして現在に至る。


日本の戦隊シリーズをリスペクトしたフランスのファン達によるオリジナル特撮ドラマ「フランスV」。必殺技も「メンバー達が次々と仲間にボールをパスしていく」と「ゴレンジャー」のオマージュになっている
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 少々長くなってしまったが,フランスにおける日本文化ブームが,長い歴史を持っていることが,お分かりいただけただろう。


「欲しいのは日本らしいゲーム」〜フランス人ゲーマーの声


 続いて二人は,講演に先立って行ったアンケート結果をベースに講演を進めていった。

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 フランスのゲームサイトに掲載されたアンケートに答えたのは6393人。平均年齢は25歳,男女比は9:1となっている。フランスのゲーマーが日本文化に関してどのように考えているかが分かるアンケートと言えるだろう。

アンケートに答えたフランス人ゲーマーの中で,日本に興味を持つ人は9割。中でもゲーム・食・マンガへの関心が高い
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日本マンガ,アニメでは「ドラゴンボール」の人気が高く,クリエイターでは北野 武氏の評価が高い。ちなみに,北野氏はタレントと言うより映画監督として知られており,テレビで「たけしの挑戦状」が紹介された際には大きなショックを受けた人が多かったそうだ
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 「初めて購入したゲーム機は何か」という質問では,日本製ハードが87%を占めている。ファミコン(NES)がトップで,ゲームボーイ,メガドライブ,マスターシステム,初代PlayStationと続いている。

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 初めて購入したゲームソフトのトップ52では,「スーパーマリオブラザーズ」を筆頭に,「ポケットモンスター」「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」「アレックスキッド」シリーズなど日本製ゲームが上位を独占。海外製ゲームが登場するのは13位の「クラッシュ・バンディクー」が最初で,その後も19位の」スパイロ・ザ・ドラゴン」,24位の「レイマン」,32位の「ポン」,33位の「トゥームレイダー」など数は少なく,総数はわずか11本に過ぎない。

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 子供のころに遊んでいたゲーム機の制作国に関しては,51%とほぼ半数のゲーマーが,そのゲーム機が日本製か西洋製かの区別が付いていたという。ゴルジュ氏によれば日本ゲームと海外ゲームの違いは「触れば分かる」くらいに歴然としていたという。「スイッチを入れるだけで遊べた」というほど作りが丁寧であったことが理由だそうだ。

 このように日本ゲームを愛するフランス人ゲーマーだが,「日本で作られたゲームである」というだけで買ってくれる人は少数派のようだ。
 日本ゲームの輸入版を買ったことがある人が52%,フランス版であっても元の日本語音声が残っていて欲しいと思う人は87%にも達している。しかし,「ゲームがどの国で作られたか」ということが購入基準となり得ると答えた人は全体のわずか26%に過ぎない。「日本のゲームだから売れるのではなく,面白いものがあれば買う」という方向性が表れているのではないか,とゴルジュ氏は分析しているが,このあたりは日本のゲーマーとあまり変わらないと言えるだろう。

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 RPGなどメッセージ量の多いゲームをフランスで発売する際,フランス語への吹き替え費用がかかるのではないか,と思われがちだが,フランスのゲーマーは日本語の音声はそのままに,フランス語で字幕を入れたバージョンを求めているという。
 「日本でデザインされたキャラクターなのに英語をしゃべったりしていると逆に不自然に見える」(ゴルジュ氏)。「日本のアニメをたくさん観て育ってきているので,日本語が聞こえても大丈夫。声優さんの演技にも慣れています。フランス語に翻訳された字幕があれば大丈夫です」(フェレロ氏)とのこと。
 最後にゴルジュ氏は「フランス人は,日本人が海外向けに開発したものではなく,日本らしいゲームを好んでいます。日本人は『塊魂』や『メイド・イン・ワリオ』といった斬新で先の展開が読めないものや,ファンタジーなど夢を与えてくれるものを作るのを得意としています。リアルなものはハリウッドに任せ,現実ではあり得ない世界を体験させてくれるものを作ってほしいです」と日本のクリエイターにメッセージを送り,講演を締めくくった。

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 昨今,日本ゲーム界では海外に向けたゲームの必要性が言われているが,「丁寧に作られた,個性的で面白いゲーム」がほしいというニーズはフランスも日本も変わらないようだ。「国が違っても,ゲーマーの心は一つ」というシンプルな事実に気づかせてくれる,楽しい講演だった。
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