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Access Accepted第800回:連載800回記念 〜 変わり続けるゲーム業界
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印刷2024/08/05 08:00

業界動向

Access Accepted第800回:連載800回記念 〜 変わり続けるゲーム業界

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 2004年9月にスタートした当連載は,今回で800回となった。2004年というと,まだ"インディーゲーム"などという言葉もなく,「フォートナイト」や「Roblox」のようなゲームビジネスが発展するなど,ほとんどの人は思っていなかったころだ。とくに最近の変化のスピードは早く,ゲーム業界は大きく変わりつつある。今回は,当連載の軌跡を振り返りながら,現在のゲーム市場の動向についてまとめておきたい。


短い期間で豹変するゲーム業界


 当連載はついに800回を迎えた。その第1回を掲載したのは2004年9月のことだったので,20年というマイルストーンを達成したことになる。20年で800回なので,年間あたりは40回掲載してきた計算になる。掲載日である月曜日は休日が多いことに加え,この数年は取材のための出張が増えたこともあって休載が増え,2021年10月に掲載した第700回からの100回分だけで2年10か月もかけてしまった。2006年12月にスタートした「男色ディーノのゲイムヒヒョー」に,回数で抜かれるのは時間の問題かもしれない。

 そんな話はさておき,巣ごもり需要で活況だった2021年と比べると,この2年ぐらいでゲーム業界の諸事情は大きく変化している。どこまでをゲーム業界と定義するかで経済規模も異なるが,海外では“コロナ明け”となった2022年は屋外に出るアクティビティが好まれたのか-4.3%というかなりの縮小となった。Reutersの記事によると前年比で2023年は0.6%の低成長,そして今年も2.8%ほどになるという。これまでゲーム市場は年間7〜8%の伸びで成長してきたことを考えると,かなり急ブレーキがかかっているのは間違いない。

コロナ禍が終わり,筆者はとにかく出張が増えた。知人やご近所の人に「出張が多くて楽しそうですね」などとよく言われるが,腰痛持ちの50代には,苦痛のほうが大きいし,時差ぼけにも苦しむようになってしまった。なお,画像は「Kerbal Space Program 2」を取材したときの,ESAスペースセンターの天井にあったISSの大型模型(2023年2月撮影)
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 今後の展望はどうなるか? 日本ではコロナ禍でキャンプがブームになったが,それも急速に冷え込んだので,再び自室で過ごす機会を増やしていくのかもしれない。現在,ゲーム業界でもリストラの波が押し寄せているが,MicrosoftやSony Interactive Entertainment(SIE)のような“開発者にとって最大のサポーター”であるプラットフォームホルダーたちでさえ,人員整理を推進している。彼らも「今後数年は元に戻らない」と考えているようだ。

 Xboxを率いるフィル・スペンサー氏も,オンライン配信によってどこでもゲームがプレイできるほどグローバル市場化したゲーム産業には伸び代がなくなっていることを,以前から公言している。

 ここから市場を広げるためには,VRやクラウド,メタバースなどの新技術に投資を続けるか,ほかのエンターテイメント市場へと乗り込んでいくしかない。

FireTV Stickに,Xbox Game Passとコントローラだけが付属する商品も販売されている。究極的な「Game as a Service」型への方向転換といえそうだ
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 実際,MicrosoftはAmazonとの協力によってFire TV Stickの一部機種をXbox Game Passに対応させ,サブスクリプションとクラウドサービスを使った究極的なサービスを展開。SIEもPlayStationプラットフォーム独占タイトルのPC版をSteamで盛んにリリースし,Bungieの次期FPS「Marathon」をXboxプラットフォームでも販売することを明らかにしている。まだ潮流を読んでいる段階だろうが,これまで主体だった「独占タイトルをいかに増やすか」という流れとは大きく異なるモデルへの移行を考えているようだ。


業界の変遷と企業の戦略転換


 当連載の過去100回分の記事を振り返ると,ゲーム業界の大きな変化が見えてくる。特に注目すべきは,主要パブリッシャの大胆な決断だ。過去3年間の動向を象徴する記事をいくつか挙げてみよう。

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[2021/10/18 10:30]
EAがFIFAとのパートナーシップ終了を予告していた

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[2022/01/31 12:00]
メタバース戦略を背景とした大型買収を分析

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 大型買収が続き,業界再編の動きを見せるゲーム業界。今回は,米国時間2022年1月31日に発表されたソニー・インタラクティブエンタテインメントによるBungieの買収について解説する。Bungieは独立したデベロッパとしてマルチプラットフォームでのリリースを継続するとしており,買収したメリットが分かりづらい。キーワードとなっている「ライブゲーム」にその答えがあるようだ。

[2022/02/07 12:00]
ライブサービスゲームの重要性と企業戦略の変化を論じている

 これらの記事から,ゲーム業界の変化に合わせて主要パブリッシャが大きな決断をくだしてきたことが分かる。ブランド戦略の見直し,大型買収,新しいゲーム形態への注力など,業界の変革期を象徴する動きが顕著であった。

 また,コロナ禍でリモートワークや従業員のケアも大きな焦点となり,GDC 2022ではEidos Montrealが週休3日制を取り入れたという話をしたことや,PlayStation StudiosのDEI(Diversity, Equality & Inclusion)への取り組みなどが紹介されたことは,「第719回:GDC 2022で見えてきた,“現実”と直面するゲームデベロッパ」でお伝えした。

 企業運営の観点では,こうした直接的に収益に関わらない構造改革は決してプラスに働くわけではないようで,Eidos Montrealは同年5月に親会社のスクウェア・エニックス・ホールディングスからEmbracer Groupへと売却され,さらに今年に入って全従業員の20%が解雇されるというニュースが明るみになり,新作「Deus Ex」がキャンセルされてしまった。

 こうした縮小の動きは「第749回:ビッグパブリッシャによるビッグプロジェクトの行方」や「第762回:強気の買収攻勢をかけていたEmbracer Groupが大規模なリストラプログラムを発表」,「第776回:ゲーム業界にも冬が到来か。欧米メーカーで相次ぐ解雇の波」,さらには「第786回:ゲーム業界の就職氷河期に光を照らす灯火たち」などで記したように,2023年からは非常に顕著なホットトピックとなっており,今後の動向次第ではさらにリストラは続いていくかもしれない。


インディーズシーンの変容


 当連載では,日本からは見えづらいインディーズシーンにもスポットライトを当てている。その中で注目すべき出来事があった。

コロナ禍以降の大きなトピックは,セクハラ疑惑などの労使問題で揺れたActivision BlizzardのMicrosoftによる巨額買収だろう。「第779回:MicrosoftのActivision Blizzard買収は結局なんだったのか。これまでの流れをおさらい」でもまとめてある
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 インディーゲームブームの旗手ともいえる「Braid」のHD版,「Braid, Anniversary Edition」が2024年5月にリリースされた。元のゲームは2008年にリリースされたパズルアクションで,インディーゲーム界に大きな影響を与えた作品である。

 しかし,このマイルストーン的な作品の再リリースにもかかわらず,セールスは芳しくなかったようだ。開発者のジョナサン・ブロウ氏は,「売り上げは犬のク○のようだった」と配信し,Eurogamerなどで話題となった。状況は深刻で,開発を委託したサードパーティに支払う余裕もなく,ブロウ氏が率いるTheklaのチーム存続も危ぶまれるほどだという。

 この事態は,かつて注目を集めたインディーゲームでさえ,現在の市場で苦戦している現状を浮き彫りにしている。インディーゲーム業界の厳しい現実と,市場の変化を示す象徴的な出来事と言えるだろう。

 「Braid」のHD版リリースの苦戦には,複合的な要因がある。旧版が現行のプラットフォームの多くでプレイ可能な状態であることから,HD版を新たに購入しようというゲーマーが少ないことは想像に難くない。
 しかし,この事例は業界全体に警鐘を鳴らしている。これまで業界を率いてきた著名なクリエイターでさえ,その経営の舵取りを慎重に行わなければならない現状を示しているのだ。
 
 もちろん失敗だけでなく,インディーゲーム業界の成功例にも注目してきた。例えば以下の記事がある。

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[2024/06/03 11:00]

 これらの記事では,インディーズの中でも大きく輝く作品や開発チームに焦点を当ててきた。今後もこうした記事を増やし,インディーゲーム業界の多様な側面を探っていきたい。成功例と困難な事例の両方を取り上げることで,インディーゲーム業界の現状をより深く理解し,その未来を考察する一助となるのではないだろうか。

 また当連載では,ゲーム業界の未来を形作る重要なトレンドに注目してきた。以下に,特に注目すべき記事をいくつか挙げよう。

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[2022/04/25 11:30]
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メタバース技術のゲーム業界への影響を考察

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 「くまのプーさん」を題材にしたホラー映画やゲームに注目が集まっている。くまのプーさんといえば,ほのぼのとしたイメージが強いが,原作小説が2021年末をもってパブリックドメインとなったことで起きた現象だ。今回は二次創作物の商業展開や,今後パブリックドメイン化するキャラクターについて紹介する。

[2023/05/15 08:00]
著作権切れコンテンツの新たな活用方法を探る

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 ハリウッドでは,AI利用への危機感を含めた待遇改善に向けたストライキが続いているが,その一方で生成系AIの進化を歓迎するドラマ制作者は少なくないようだ。また,ゲームビジネスにおいても,亡くなった声優の声を蘇らせたり,膨大な時間が掛かるアセットのHD化を行ったりと,ポジティブに活用されている。

[2023/10/23 08:00]
AIがゲーム開発に与える影響を分析

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[2023/11/27 08:00]
ゲームビジネスモデルの変化と課題を考察

 これらのトレンドは,今後のゲーム業界の流れを大きく変える可能性がある。広告,メタバース,AI,新しいビジネスモデルなど,多岐にわたる分野での変化が予想される。
 今後も当連載では,これらのトレンドをしっかりと注視していく。果たして,次の100回が載る頃には,ゲーム業界はどのように様変わりしているだろうか。その変化を見届け,分析していきたい。

筆者は,昨年に引き続き今年のBitSummitにも参加。年間1万本を超えるほどの作品が量産され,“インディポカリプス”(Indie-apocalypse)などと言われて久しいが,インディーシーンの勢いや盛り上がりを感じられる賑わいぶりだった
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

※次回の更新は2024年8月19日の予定です
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