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「三國志13  with パワーアップキット」では,拡張版の枠を越え,プレイスタイルまで変えたい。利川哲章プロデューサーへのインタビュー
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印刷2016/09/10 00:00

インタビュー

「三國志13 with パワーアップキット」では,拡張版の枠を越え,プレイスタイルまで変えたい。利川哲章プロデューサーへのインタビュー

三國志はPCで育ってきたシリーズ


4Gamer:
 「三國志」シリーズ「信長の野望」シリーズを通してプレイしてみて,「信長の野望」が前作を踏襲しつつ,少しずつ改良を加えていくスタイルなのに対し,「三國志」は毎回,斬新なチャレンジをしていると感じました。開発チームにそういう方針はあるのでしょうか?

画像集 No.018のサムネイル画像 / 「三國志13  with パワーアップキット」では,拡張版の枠を越え,プレイスタイルまで変えたい。利川哲章プロデューサーへのインタビュー
利川氏:
 そうですね,やはり「新しい要素を入れないと,シリーズが廃れてしまうだろう」という気持ちはあります。これは歴代制作者に通じる思いではないでしょうか。
 新しいゲームシステムであったり,ビジュアルであったり,技術的なチャレンジをしたり,そういう変化の幅は大きいのかもしれないと思います。

4Gamer:
 リリース済みのものでは最新作である「三國志13」では,技術的なチャレンジとしてどのようなことを行ったのでしょうか。

利川氏:
 「絆」システムというのは,言ってみればキャラクター同士の関係についてのデータベースです。このデータベースの上で武将プレイを繰り広げていこうというのは,ひとつのチャレンジとなりました。

4Gamer:
 「三國志13」のパワーアップキットは,PC,PS4,PS3という3つのプラットフォームに向けてのリリースですが,こうなると,特にPS3版の開発が難しくなりませんか。

利川氏:
 プラットフォームごとの特徴があるので,それぞれの大変さがありますね。開発する立場としてはいろいろな要素を入れたいわけですから,データ量や3D描画まわりはいつも「戦い」と言わざるを得ない状況になります。

4Gamer:
 「三國志13」のPC版は,シリーズのナンバリングタイトルとしては初めてSteamでも販売されましたね。手応えとしてはいかがでしょうか?

利川氏:
 SteamはDL販売なので,時間を選ばずに,欲しくなった時に購入していただけていると思います。「三國志13」での手応えもよいですし,「三國志」というIP自体がアジア市場と親和性が高いですし,可能性を感じています。

4Gamer:
 現在,公式サイトでパワーアップキットに収録されるシナリオ案が募集されていますが,この企画は台湾でも行われていると聞きました。それくらい人気があるということですか。

利川氏:
 「三國志」は日本で生まれ,ファンの方々に育てられたゲームで,海を渡ったアジア圏でもたくさんの方々にも遊んでいただいています。そういったファンの方々の声にも応えたいと思って立ち上げた企画ですね。
 あちらでは「三國志」コンテンツのビジュアルがかなり広く浸透していて,ある種のデファクト・スタンダードになっているようですね。

4Gamer:
 それは凄い。海外の「三國志」ファンの反応は,やはり日本のファンとは違うのでしょうか。個人的には,武将のキャラクター像などが,日本と海外でかなり異なっていると思うのですが……。

利川氏:
 ええ,「三國志」シリーズに登場する呂布は,やはり日本における呂布のイメージですから,大陸の人が思うものとはかなり違うキャラクターになっているかもしれません。
 ですが多くの人は,「このゲームではこういうキャラクターだ」とプレイされているようです。

4Gamer:
 ちょっと意外でした。三国志はあちらがお膝元ですから,そういったことには厳しいのかと思っていたので。

画像集 No.019のサムネイル画像 / 「三國志13  with パワーアップキット」では,拡張版の枠を越え,プレイスタイルまで変えたい。利川哲章プロデューサーへのインタビュー
利川氏:
 受け入れてくださるアジアのプレイヤーの,懐の深さも感じます。
 ただ,同時にプレイヤーの意見が見えにくいとも言えるわけです。パワーアップキットでは,海外,特にアジアでのプロモーションも行っていきますが,そこには海外プレイヤーの皆さんの声をもっと聞きたいという狙いもあります。

4Gamer:
 それだけアジアで「三國志」が受け入れられているというのは,すごいことだと思います。

4Gamer:
 海外での盛り上がりはもちろん嬉しいのですが,古くからPC版の三國志を遊んできた自分からすると,国内でもPC版が盛り上がってほしいですね。

利川氏:
 いやまさに,弊社は日本におけるPCゲームの老舗でもあるので,PCゲームを盛り上げていきたいなという思いは強いです。
 私達の世代だと,ゲームと聞いてまず思い浮かべるのがPCゲーム,という人は多いですよね。

4Gamer:
 確かに。

利川氏:
 「三國志」と「信長の野望」は,PCで育ったIPでもあります。ですからそこはやはり大事にしていきたいですね。


800名もの武将をどう描く?


4Gamer:
 「三國志13 パワーアップキット」では,人物がさらに追加されて,総勢800名以上が登場するわけですが,これらのキャラクターのパラメータは,どのように設定しているのでしょうか。曹操や劉備クラスであればともかく,三国志に詳しい人ですら「誰?」となるような人物になると,もはや手がかりのようなもないのでは,と思うのですが。

利川氏:
 かなり苦労しますね。正史と演義をあわせても記述がほとんどなくて,そのうえどういう仕事をしたのかに言及がないこともあります。
 そういう場合は,その人が関係していた人物から想像力を膨らませることがしばしばですね。

4Gamer:
 三國志には,周倉など,架空の人物も登場しています。パラメータを設定するとき,実在・非実在ということは考慮されるのでしょうか。

呂玲綺
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利川氏:
 基本的には演義ベースですので,その記述を踏まえて決定します。ただ,架空の人物ですと民間伝承に記述が多い場合もあって,そちらを参考にすることもあります。
 あと呂玲綺のように,「三國志」シリーズ展開の中で人気が出たオリジナルキャラクターについては,そうですね,ある程度柔軟に対応しているところはあります(笑)。

4Gamer:
 これまでの作品の中で育まれてきたものを大切にする部分もある,ということですね。
 これに関しておうかがいしたいのですが,例えば曹操であれば,小説や漫画,ゲームなど,作品の数だけ「曹操像」があると思います。
 「三國志」シリーズの場合,パラメータ以外の,イベントなどでの描き方も含めて,最終的に「今回の三國志における曹操はこうするぞ」というのは,どのように決定されているのでしょうか。

利川氏:
 基本はシリーズが作り上げてきたイメージを踏まえて,ということになります。
 ただし,新しい事実が発見されたり,時代によって人物のとらえられ方が変わったりした場合,キャラクター像を見直すことはありますね。もちろん,シリーズの各タイトルによって少し味付けが異なるということもあります。
 ただ,繰り返すようですが,基本はあくまでシリーズでのイメージを継承していく,という方向性です。

4Gamer:
 「信長の野望」ですと,シリーズの中で今川義元の描かれ方が大きく変化した印象があります。最初は“バカ殿”だったのが,武勇に優れた名君になっていったな,と。
 これには今川義元研究の進展と,それによる新しい義元像が広がっていったからだと思うのですが,三國志シリーズでそういった変化を意識されたことはありますか?

利川氏:
 主人公クラスの有名な人物に関してはないと思います。曹操の墓が発見されたりはしていますが,従来の人物像を覆すような新資料の発見というわけではありませんし。それほど有名でない武将の新資料が出てきたので,設定を変更したというケースはありましたね。
 実際には,そういう歴史学に基づいた解釈の変化というよりは,そのときの三國志ファンが注目している作品の影響を受けることはあったかもしれません。

4Gamer:
 研究ではなく作品ですか。

利川氏:
 例えば,漫画「蒼天航路」や,弊社のタイトルになりますが「三國無双」で描かれた,曹操の親友・理解者としての夏侯惇に人気が出たとき,「三國志」側でも夏侯惇の能力を見直すといったことがありました。
 あ,明らかに「これは世間での流行が影響を与えた」と断言できる人物を思い出しました。三国時代の人物ではない古(いにしえ)武将として,「三國志12」で初登場した李信ですね。これは明らかに漫画「キングダム」の影響です(笑)。

4Gamer:
 それは確かに分かりやすい(笑)。
 「三國志」シリーズの歴史を紐解くと,もしかしたら世界初の「コンピューターストラテジーゲームにおける歴史イベント」かもしれない貂蝉イベントがありますし,その後女性武将という要素が登場して,作品を重ねるごとに女性キャラクターの存在感が増しているように思います。
 「三國志」シリーズに限らず,三国志をテーマにしたタイトルでは,「よく見つけてくるな」と感心することが多いのですが,意識的に女性武将を増やしたという面はあるのでしょうか?

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利川氏:
 意識しています(笑)。ただこれは,ゲームシステムの面で必要な部分があるんです。
 特に今回のパワーアップキットでは,結婚だけでなく子育てという要素も増えます。そうなってくると女性の登場人物もある程度の数が必要になりますし,登録武将としても女性武将を厚めにカバーできるようにしていかないと。

4Gamer:
 なるほど。ただ,「三国志」を扱う作品の女性キャラクターには,そういった必要性以上の,何か独特の執念を感じるんです(笑)。これは他社さんの作品なんですが,「それ,三国時代の人物じゃないですよね?」という女性が出てきたり。

利川氏:
 人物を追加するときには,いつも必死で魅力的な人物を探します。この前も民間伝承から1人候補を見つけてもらったんですが,神話の領域に踏み込んでいるような人物だったので,残念ながら採用できませんでした。

4Gamer:
 厳しい……。

利川氏:
 逆にお聞きしたいのですが,女性武将が増えるというのは,プレイヤーさんとしてはどうですか?
 実を言いますと,「女性武将は絶対に嫌だ」と強く要望される方もいらっしゃるんです。なので,必ず女性武将の登場は設定画面からオン・オフを切り替えられるようにしているのですが。

4Gamer:
 女性武将は端的に好き嫌いが出やすいところだと思うので,設定でオン・オフできるのは,事実上ベストの仕様ではないでしょうか。
 さきほど結婚と子育ての話が出ましたが,パワーアップキットでは,プレイした武将が亡くなった場合,子供に引き継いでのプレイが可能なんですね。

利川氏:
 はい。3人の配偶者に対してそれぞれ2人ずつ,最大で6人の子供が持てるようにするつもりです。自分が死ねば,子供に引き継いでプレイできますし,その子もまた結婚できるようにしていきたいと思っています。できればそこでさらに子供が生まれて,親子三代でのプレイができるところまで行きたいなと。
 ただ,このあたりは,今後の開発状況などによって変更されるかもしれません。


パワーアップキットは,遊び方そのものを変える


4Gamer:
 親子三代でのプレイということですが,「三國志13」のプレイテンポですと,意図して世代交代させるくらいにしないと,最初に選んだキャラクターの代で中華統一を成しえてしまうように思います。パワーアップキットでは,このあたりも調整されるのでしょうか。

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利川氏:
 「三國志13」では,ゲームのテンポ感についてもいろいろとご意見を頂きました。じっくり腰をすえて遊びたい方が「早すぎる」と感じる一方で「何回もプレイすることを踏まえると,これくらいのスピードがいい」というプレイヤーの方もいらっしゃいます。
 ゲームテンポの調整機能をアップデートで追加したのには,そういう背景もあります。

4Gamer:
 となると,その部分は「三國志13」を踏襲,ということでしょうか。

利川氏:
 ただ,パワーアップキットは,より深く,じっくりと遊んでほしいという思いで開発しています。先ほど紹介した要衝や軍勢士気といった要素も,その意図があって生まれたものです。なので,パワーアップキットを導入すると,プレイ時間は確実に長くなると思います。

4Gamer:
 そのほうが,子孫を育てていく要素はより良く機能しそうですね。

利川氏:
 そうですね,ですから自分達としては,子はもちろん孫の世代まで行けるようにしたい,と考えているんです。お伝えしたように,そこはまだ確定していないのですが。

4Gamer:
 お話を伺っていると,パワーアップキットは,「三國志13」の拡張版というよりも,「別のゲーム」を目指しているような印象があります。

利川氏:
 はい。遊び方そのものが変わるくらいにしたい,と考えています。ですので,パワーアップキットをお買い上げになられた方に,「三國志13」とパワーアップキットで,それぞれどんな印象を持たれたかをお聞きしたい,という思いもあります。
 「三國志」シリーズは,もう13作目です。シリーズ未体験の方だと,「三國志13」の13という数字を見ただけで「なんだか大変そうだ」という印象を持たれるかもしれませんし,それは久しぶりにシリーズを遊んでみようかという方にとっても同じだと思います。

画像集 No.016のサムネイル画像 / 「三國志13  with パワーアップキット」では,拡張版の枠を越え,プレイスタイルまで変えたい。利川哲章プロデューサーへのインタビュー

4Gamer:
 そこは長寿シリーズならではの悩みどころですね。

利川氏:
 ですので,「三國志13」では,「英傑伝」という物語性を持ったチュートリアルを用意するとともに,やり込もうと思えばやり込めるけど,クリアを目指せば投げ出すことなく最後までプレイできる,というゲームにしたいと思っていました。
 一方で,パワーアップキットを導入することで,より重厚に,じっくりと遊べるゲームにする,という意識を持っています。

4Gamer:
 言ってみれば無印の「三國志13」は初心者・復帰プレイヤーにも優しく,パワーアップキットはコアプレイヤーの期待にも応えてくれる,ということですね。
 また「信長の野望」シリーズの話で恐縮なのですが,最新作の「信長の野望・創造 戦国立志伝」は,先にリリースされた「信長の野望・創造」をベースに,武将プレイを取り入れた作品になっています。
 これはパワーアップキットという路線とはまた違うやり方だと思うのですが,今後「三國志」でもこういった方向性はあり得るのでしょうか?

利川氏:
 主に海外のゲームで,単なるデータの追加だけではなく,少し違う方向性のゲームにするDLCがリリースされることがありますよね。
 ファンの皆さんに受け入れられながら,もっと違った面から遊べるようになったり,深く遊べるようになったりといったものを,ナンバリングタイトルの間をつなぐ形でリリースしていけるのが理想ですが,最終的にはファンの皆さんがそれを望んでいるかどうか,です。

4Gamer:
 プレイヤーとの関係,という点ですと,先日放送されたニコ生の番組では質問を受け付けていましたし,さきほど話題に出たシナリオの募集も行われていて,コミュニケーションがかなり活発になったなという印象を受けます。

利川氏:
 13作めにもなると,プレイヤー間でも,「自分はこの作品が好きだ」「自分はこのシステムが好きだ」というご意見が多様化するんです。そして長くプレイしていただいている方ほど,「自分の中の三國志像」をお持ちなんですね。
 そういった思いを作品の中に汲み取ることができないかと思い,Facebookや生放送での交流,あるいはシナリオ募集といったものを実行しました。

4Gamer:
 そういった要望の中で,特に印象に残っているものはありますか。

利川氏:
 やはり,今作のテーマである「武将プレイの進化」には,多くの意見をいただきました。面白いものとしては,「竹林の七賢」(※)のような隠居生活がしたい,というものもありましたし,「獄中プレイをしたい」というご意見も頂きました。

※知識人でありながら,政治の舞台から離れるようにして隠遁生活を送り,竹林に集まっては酒を飲みながら語らいを楽しんだとされる7人の人物を指す

4Gamer:
 ……ユニークですね(笑)。華佗みたいな人生を追体験ということでしょうか。

利川氏:
 「三國志13」の開発では,水上戦へのご要望を実際に取り入れました。

4Gamer:
 水上戦は「三國志12」では省略されていましたが,「三國志13」で復活しましたね。

利川氏:
 私自身,「赤壁の戦いがあるのだから,水上戦はあるべきだろう」と思っていましたが,それを後押しして頂けた,という感じです。
 ただ,実は三国志の物語において,水上戦ってあまりないんですよ。黄河周辺でも渡河後の戦闘が焦点になっていますし,呉と戦う局面においてもそれは変わりません。赤壁の戦いも,前哨戦を除くと「船と船が直接戦闘する」みたいなことは起こってないんですよね。

4Gamer:
 確かに……。「連環の計」と,それに対する火攻めの印象が強すぎるんでしょうね。

利川氏:
 とは言っても,プレイヤーさんからのご要望をいただきましたので,入れるからにはしっかりしたものを,ということで「三國志13」の水上戦システムが完成しました。

4Gamer:
 少し話を戻しまして,シナリオ募集企画についてもう少し聞かせてください。自由にシナリオを作ってよいということなのですが,具体的にどの程度まで許されるのでしょうか。

利川氏:
 あまり具体的に言い過ぎると方向性を縛ってしまわないか心配ですが(笑),例として挙げますと,「もしも曹操が赤壁の戦いで討ち取られていたら」といったifでも,「内外の異民族が中華大陸を席巻したら」といった完全なオリジナルシチュエーションでも大丈夫ですので,「三國志13」をプレイしながら,構想を練っていただければと。
 ちなみに,パワーアップキットの発売決定を記念して,「三國志13」向けのDLCもリリースします。すでに第1弾として,「三國志11」で使用された武将スチルを配信しています。また,PC版では「武将CG追加ツール」の追加も行いました。好きなキャラクターだけでなく,自分自身を「三國志13」の世界に登場させて遊ぶこともできますので,ぜひ触ってみてください。

4Gamer:
 さきほどの話にもありましたが,特にシリーズ未体験の人は,まず初心者でも楽しめる「三國志13」をプレイするのが良さそうですね。では最後になりますが,読者へのメッセージをお願いします。

利川氏:
 これまでのパワーアップキットの範疇を越えた進化を目指して,とくに武将プレイがより自由に,より深く楽しめるような作品にするべく開発を進めています。公式Facebookでも最新情報を公開していくことになっていますので,ぜひご期待ください。

4Gamer:
 本日は長時間,どうもありがとうございました。

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