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「10年で世界のTop10」は決して簡単ではないけれど,一緒にチャレンジしてくれる人にぜひ来ていただきたい―――挑戦を経験にする松原健二氏は,新生SNKをどのように動かしていくのか
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印刷2022/09/09 12:00

インタビュー

「10年で世界のTop10」は決して簡単ではないけれど,一緒にチャレンジしてくれる人にぜひ来ていただきたい―――挑戦を経験にする松原健二氏は,新生SNKをどのように動かしていくのか

 いままで2回にわたって,第1開発(大阪)第2開発(東京)の話を聞かせてもらったSNKだが,実はそれを率いる社長は,ゲーム業界ではお馴染み,元コーエーテクモの社長である松原健二氏だ。
 4Gamerでも過去何度か登場してもらっているが,コーエーテクモを去ってからはめっきり表舞台に出てこなくなった……気がする。やれスマホでブイブイ言わせてるとか,やれセガでバリバリ働いてるとか,いろいろな噂は聞こえてきたが,去就が広く公開されてインタビューを受けてもらえたのは久しぶりだ。

 いままでの氏の経歴を振り返りつつ,なぜこのちょっと変わった話を受けて,このあとSNKをどうしていくつもりなのか,そこのところをいろいろと聞いてみよう。

SNKの代表取締役社長CEO 松原健二氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / 「10年で世界のTop10」は決して簡単ではないけれど,一緒にチャレンジしてくれる人にぜひ来ていただきたい―――挑戦を経験にする松原健二氏は,新生SNKをどのように動かしていくのか

4Gamer:
 とてもとてもお久しぶりです。今日はよろしくお願いします。

松原氏:
 こちらこそ。そういえば明日からCEDECなので,そっちもよろしくお願いしますね(笑)。

※インタビューは2022年8月22日に実施している。CEDEC 2022は8月23日から

4Gamer:
 そういえば,最後に松原さんに直接インタビューをしたのはCEDECの話でしたよ,確か。

松原氏:
 そうでしたっけ。

4Gamer:
 2010年のことです。

松原氏:
 じゃあ,最後に基調講演やった時ですね。12年ぶりなんですね。

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 東京ゲームショウも押し迫った来週8月31日から,毎年恒例,12回目となった開発者の祭典「CEDEC 2010」が開催される。この3年で驚異的ともいえる進化を遂げたCEDECの立役者である松原健二氏に,改革の詳細と今後の展望などを聞いた。

[2010/08/26 00:00]

関連記事:[CEDEC 2010] CEDECはゲーム開発者の「課題を顕在化する場」,そして「自己研鑚を促す場」である。松原健二氏による基調講演「CEDECとは? ─そのもたらす価値の追求─」


4Gamer:
 そうなんですよ。なにせコーエーテクモ以降の松原さんって,なぜか毎年1回,ChinaJoyのときに上海のホテルのロビーでしかお会いしなかったじゃないですか(笑)。

松原氏:
 そうでしたっけ(笑)。でも確かに,セガの時には僕はもうインタビューを受けたりしないで,あんまり表に出てなかったですしね。

4Gamer:
 ほとんど出てらっしゃらなかったですね。

松原氏:
 SNKになってからもそこまで多いわけではないので,なにとぞお手柔らかに……。

4Gamer:
 とりあえず4Gamer的にも松原さんの登場は久しぶりなので,まずは素直に経歴から改めてお聞きします。そもそも最初はゲームじゃないんですよね。

松原氏:
 そうですね。私はもともと大学のときコンピュータに興味を持ったんですが,まぁ当時コンピュータに興味を持つということは,イコールでハードを作ってみようかということなので,最初に日立製作所というところに入りました。

4Gamer:
 そういう時代ですね。

松原氏:
 ええ。メインフレームとかスーパーコンピュータとか,大きいやつを。一つ開発するのに3年から4年かかるし,かなり規模の大きい投資もされたりして,そういうものをやってました。
 私はスーパーコンピュータを作ってからゲームの世界にやってきたわけで,今年のCEDECの基調講演をしてくださる松岡先生とは逆なんですね。松岡先生は,修士課程あたりまで,任天堂の岩田さんと一緒にハル研でゲームを作ってた方なんですよ。

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関連記事:[CEDEC 2022]“スパコン”と“ゲーム技術”が作りだす新たな世界。「ゲームはスパコンの夢を見るか,スパコンはゲームの夢を見るか」レポート


外部サイト:HAL研で活躍した伝説のプログラマーが予感する「組み込み開発とAIの組み合わせは、今後伸びていく」話(はてなニュース)


4Gamer:
 そんな方だったんですか。

松原氏:
 そう。学生で研究しながらハル研でゲームを作ってたんです。その後は研究にフォーカスして,そこからの松岡先生はスーパーコンピュータひと筋で。
 まぁ私は逆の道を進んだのですが,11年間を日立製作所で過ごしてハードウェアにどっぷり浸かって。

4Gamer:
 あれ,日立に結構いらっしゃったんですね。

松原氏:
 でもさっき言ったように,1つ作るのに3年から4年かかるので,実際に作ったのはメインフレーム1機種と,スパコンが……1と4分の3機種ぐらいです。

4Gamer:
 なんとなく3つくらい?

松原氏:
 そうですね(笑)。
 その後留学をした後に退社して,Oracleに就職しました。当時アメリカで仕事したかったんですよね。ご存じのように,データベースで世界一の会社ですけれど,やっぱり「世界で一番のシェア」を持っているというやり方を,結構そこで身につけられたと思います。
 それで,ハードからソフトと歩んできたんですが,そうこうしている間に2000年前後くらいからはインターネットの仕事に。

※アメリカが本社。データベース管理システムを中心とした企業向けソフトウェアの開発,販売を行っている。(Oracleコーポレートサイト

4Gamer:
 2000年は4Gamerがオープンした年ですが,インターネットで「ちゃんとビジネスが出来るようになった」のは,その直前くらいだった記憶があります。

松原氏:
 古い話ですけど,僕がインターネットに触れたのは80年代後半でした。メールから始まって,インターネットの掲示板があって,一般の人はまだ全然インターネットなどというものにアクセスしていなかった時代。

4Gamer:
 そうですよね。僕が初めて「インターネット」を強く意識したのは,社会人2〜3年目くらいのときに触ったMosaicですから,80年代後半はまだ全然……。NIFTY-Serveとかに出入りしてた記憶があります。

※改めて調べてみたら,1993年にリリースされたらしい(Wikipedia

松原氏:
 そう,そんな時代です。それが1995年になってWindows 95が登場して,ホームページ制作が始まって……。ようやくインターネットがビジネスになりそうだということで,私もその世界の中でビジネスがしてみたいなあと思ったんです。それで広く探してる中で,オンラインゲームを作るけど,どう? と,某日吉にある会社さんからお話をいただきまして(笑)。

4Gamer:
 名前出しちゃダメなんですか(笑)。

松原氏:
 で,日吉にご訪問して,創業者ご夫妻にお会いして,私はゲームの開発経験もないし,そもそも社会人になってからゲームに触れる機会もほとんどなかったんですが,インターネットの仕事には興味があるんですという話をしたら「ぜひおいで」と言っていただけて。それで「信長の野望 Online」とか作ったり。
 前々回でインタビューしていただいた,藤重や市川はオンラインゲームで一緒に仕事をした間柄ですね。

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[2022/04/28 11:30]

4Gamer:
 はい,よく存じています。

松原氏:
 オンラインとモバイルのゲーム事業に携わって,そこそこの事業規模にしたときに,次は社長をやらないかという話になり,コーエーの社長を2007年から4年半ほどやってました。

4Gamer:
 我々ゲームメディアが知っている松原さんはその頃ですね。

松原氏:
 そうですね。そして2010年の後半に退任したんですが……その頃のことをちょっと思い出してみてください。ソーシャルゲームが世の中を席巻しようかというタイミングで,「サンシャイン牧場」とか,そういうのが流行ってた,そんな時代です。

※「mixi」で2009年8月にサービスを開始した農場シミュレーションソーシャルゲーム。翌年には利用者数が500万人を突破した。2016年にサービス終了

4Gamer:
 あれから10年以上も経ってるんですね。

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松原氏:
 そんなソーシャルゲームに非常に興味を持っていたところに,世界で一番DAUが多いゲームを作ってる会社からちょっとお声がけいただいたので,サンフランシスコにも行ってみて。「DAUってどれくらいですか」と聞いたら「ええと,今は2億2000万か3000万かそれくらいかな」みたいな感じで言われて(笑)。

4Gamer:
 あの当時,そんなにDAUあったんですかあの会社。

松原氏:
 ちょっと桁違いの話を聞かされて,これはもうやっぱりここに入って,ソーシャルゲームの開発や運営,トータルのパブリッシングやユーザーアクイジション,そういうものを身につけられたらいいなと思って,Zynga……というかZynga Japanに入りました。
 さすがに1年目くらいはなかなか結果が出せなかったんですけど,2年目ぐらいからいい結果を出して,これからアプリも出てきて,いよいよと思ったら……なんか本体がちょっとよくない感じになっちゃいまして。

※ソーシャルゲームの元祖「FarmVille」の開発元。当時は主にFacebook上のブラウザゲームを開発していた(Zyngaコーポレートサイト

4Gamer:
 そうでしたね。それまで調子いい話を多く聞いていたので,ちょっと驚いたのを覚えてます。

松原氏:
 北米以外のスタジオ全部がクローズされました。人生の中で,会社が解散になって辞めざるを得なかったのは,その1回だけですね。本当に残念でした。

※2012年Bostonスタジオを閉鎖した翌年,日本法人も解散

関連記事:ZyngaがBostonスタジオの閉鎖などのリストラを発表。日本やイギリスへの影響も必至


関連記事:Zynga,2013年1月31日をもって日本法人ジンガジャパンを解散


4Gamer:
 そのあとすぐセガというわけではなかったですよね。

松原氏:
 すぐに競合他社に行くのもどうかと思いましたし,契約上のこともありましたし。

4Gamer:
 なるほど確かに。

松原氏:
 その後1年くらい大学に戻ったんですけど,セガさんからお声掛けいただいて,セガに入ったのが2014年のことです。当時は,セガゲームスという会社がモバイル専門で開発運営していて,本体のセガがあって。
 私は両方に関わるようになりました。モバイルの方ではCTO的な役割を,PCと家庭用では事業責任者を引き受けていました。

※12年東京大学生産技術研究所特任研究員。15年明治大学総合数理学部客員教授。15年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授

4Gamer:
 お会いする機会もあんまりなかったですけど,そんなに忙しかったんですね,あのころ。

松原氏:
 そうなんですよ(笑)。
 それで2016年からセガゲームスの社長になって4年間社長をやって,組織再編をした2020年のタイミングで退任しました。年齢も年齢だったし,ちょっとハーフリタイア的な感じで……。

4Gamer:
 いや,そういう年齢じゃないですよね,まだ(笑)。

松原氏:
 ありがたいことに,辞めてすぐ「一緒にやってくれませんか」というお話もいろいろいただいたので,どういう風に仕事をしようかなと考えていたのが,2020年からの1年間ぐらいですかね。

4Gamer:
 つまり,そこからまだ1年くらいしか経ってないですね。

松原氏:
 あれ,本当ですね(笑)。

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SNKが90年代のように光り輝くばかりか,それ以上になってほしい


松原氏:
 なので2021年の年明けに,とあるエージェントから連絡がきて,松原さん今なにやってるんですかと。SNKがサウジアラビアの財団に買収されて,次のCEOを探しているんだけどいかがですか,というお話がありまして。

4Gamer:
 ホントに最近です。

松原氏:
 最初は私も,なんでサウジアラビアの財団が日本のゲーム会社に興味を持って買うのかとか,買うのはいいけどそのあとどうするんだろうとか,そういう部分にはすごく興味があったので,いろいろお話させていただきまして。

4Gamer:
 MiSK財団とですか?

松原氏:
 そうです。ちゃんと当事者から聞かないと,自分も前向きに考えられないですしね。MiSK財団って,サウジアラビアの青少年の健全な育成を目的とするNPOなんですよね。

※皇太子殿下であるムハンマド・ビン・サルマン(Mohammed bin Salman)氏によって設立された非営利団体。SNKを買収したElectronic Gaming Development Companyを所有している(MiSK財団オフィシャルサイト

4Gamer:
 はい,存じています。

松原氏:
 NPOが事業会社を持つのはどういう理由なんですかと聞いてみたら,やはりサウジアラビアは,もちろん石油は大事なんだけど,エンターテイメントを若者の目指す方向として,非常に重要視してるわけです。

4Gamer:
 ええ。ありあまるパワーのやり場とか,魂を燃やすところとか,そういう意味ですよね。

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松原氏:
 おっしゃるとおりです。
 日本とサウジアラビアが協力してやっていく事業の中で,日本のエンタメがすごい進んでるから,サウジアラビアとしてはゲームや漫画,アニメ,そういう部分で一緒にやっていこうと考えているわけで,国同士の合意で策定された「日・サウジ・ビジョン2030」にもちゃんと書かれているんです。

※新しい日サ協力の羅針盤として,脱石油依存と雇用創出のためサウジが追求する「サウジビジョン2030」と,GDP600兆円の達成に向けて日本が追求する「日本の成長戦略」のシナジーを目指し,重点9分野と同措置に関し,両国の合意に基づき,31件の先行プロジェクトを選定して実施しようと,「日・サウジ・ビジョン2030」が2017年に策定された。(JETRO「日・サウジ・ビジョン2030」作成経緯

JETRO「サウジアラビア ビジョン2030」(PDF)


「Saudi Vision 2030」オフィシャルサイト


4Gamer:
 ちゃんと読んだことはなかったんですが,明記されてるんですね。

松原氏:
 はい。サウジアラビアでエンタメを推進する中での一つの取り組みが,SNKを事業会社として取り込むということなんですね。でもそれは「所有」であって,事業自体は日本の会社としてしっかりやってくださいという感じなんです。

4Gamer:
 私も以前何度かフェサール王子とお会いしたときにその手の話を聞きましたが,彼らって決して「お金持ちの道楽」などではなくて,日本のゲーム会社をリスペクトしていて,そこにぜひとも絡みたい……みたいな心意気がすごいですよね。本当に好きで買ったんだろうなぁ,と。

松原氏:
 本当にそうですね。SNKが,90年代のように光り輝くばかりか,それ以上になってもらうことがSNK買収の目的だ,と。……MiSK財団設立者である皇太子殿下が,格ゲー大好きでSNKの大ファンだという部分も大きく影響したと思いますが(笑)。

4Gamer:
 おっしゃるとおりです(笑)。

松原氏:
 「90年代のように光り輝くばかりか,それ以上になってほしい」というのは,皇太子殿下から直々にいただいた言葉です。

4Gamer:
 彼ら自身が一番SNKをSNKらしくしたがってるというか,そういう感じが強いですよね。

松原氏:
 そうですね。
 SNKが持っているレガシーIPを,ちゃんと大きなものにしていくとか。そういうのは“リバンプ”と私は呼んでますが,リバンプはリバンプで大事なことです。でもその一方で,SNKが90年代に成長したのはやはり新しいことに次々とチャレンジして,失敗もあったけど成功もあったわけです。

4Gamer:
 はい。あのころのSNKはホントにバリバリいろいろやってました。

松原氏:
 そんなわけで,新しいIPにもこれから取り組んでいくような,そういうことを皇太子殿下やMiSK財団にも理解してもらってると思うので頑張りたいですね。
 ……でもまぁ世界でTOP10のパブリッシャに,10年でなるという,なかなかに難しいお題をですね……(笑)。

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4Gamer:
 いやホントにそうです(笑)。
 でも,最初はなんでSNKの社長が松原さんなんだろうと思ってたんですけど,今までのお話聞いてたら,なんか理解できました。松原さんって,我々ゲーム業界的には「コーエーテクモの顔」というイメージが強いんですけど,日立の頃からグローバルに目を向けてずっと仕事をしてきてたわけですよね。オラクルとかZyngaが最たるものかと思いますが。だから,今回の話はまさにうってつけなんだろうなあ,と。

松原氏:
 確かにコーエーテクモでは9年過ごしましたけど,IT時代のキャリアも含めると,大きい会社も小さい会社も,外資系も日本企業も,一通りは経験してます。そういう経験も踏まえて,呼ばれたのかなとは思いますね。

4Gamer:
 にしても,来たそのお話を受けた理由は何ですか? 今までの会社とはちょっとまた毛色が違うといいますか。

松原氏:
 そうですね……,これだけのチャレンジをさせてくれるということ。あと,海外の財団でありながら,日本の会社として成長してほしいという要望を持っていたということ。日本のゲーム業界にとっても,これだけ外資の会社が後押ししてくれるのは,ありがたいことですよね。その中でも,ボリュームも,チャンスの大きさも非常に大きいものだと思ったので,お引き受けしてみようかなと。

4Gamer:
 今おっしゃってましたけど,ここ最近日本のゲーム会社だったり開発者だったりを助けてくれる方って,たいがい海外のゲーム会社なんですよね。どこもかしこもほぼ海外で,とくに中国はすごく目立ちます。
 私個人は,誰であれ助けてくれる方がいるのであればそれは大歓迎です。日本のゲーム業界そのものが評価されているわけですし,そのままだと会社がなくなってしまったり,開発者が業界を去ってしまったり,そういう未来になりかねないわけですから。まぁ日本の会社さんもがんばって支援してほしいところなんですが……。

松原氏:
 そうですねえ……。たしかに中国の会社さんは結構支援してくれてますね。私の前の会社でも,独立して中国の会社さんから資本を受けてるケースとかありますし。
 それはそれとして,今おっしゃったように,日本のゲーム会社にはまだまだ力があるんだという評価がされているのはとてもいいことですね。

※ここで触れているのは,おそらく名越稔洋氏率いる「名越スタジオ」の件だと思われる

4Gamer:
 そうですね。

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松原氏:
 さらに加えて,日本のゲームの開発能力……人材であれスキルであれ,いろんなノウハウがあるということに海外も注目して,それをビジネスとして取り込もうとしているわけで,それもいいことだと思います。
 SNKにおけるサウジアラビアみたいに,日本の会社として成長してほしいし,それはサウジにとっても非常にいいことだし,サウジと日本の友好関係にもとても役立つ……みたいなのもありますよね。なので広い捉え方で日本に投資してくる会社が,まだまだこれからあってもおかしくないんじゃないかという気はします。

4Gamer:
 フェサール王子と話したときも,中国の投資担当の人たちと話したときもそうですけど,皆さんに共通してるのは,日本のIPで育ってるということですね。だからもしかしたら,彼ら的には恩返し的な側面もあったりするのかもしれません。

松原氏:
 確かにそうですよね。日本のゲームだけじゃなくて,アニメだとかいろんなエンタメのIPに対するシンパシーが強いというか。ある意味で恩返しなのかもしれない。そういう強いIPを生み出した日本に学びたいという姿勢が,最近強くなってきたような気がします。

4Gamer:
 油断すると抜かれちゃいそうです。

松原氏:
 4Gamerさんが立ち上がったころの2000年代……PS2の頃って,洋ゲーと日本のゲームが分断していて,ゲーム性とか遊び方とかコミュニティとか,そのすべてが「違う世界」だった時代があるわけじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。

松原氏:
 ああいう時代からすると,今は非常にグローバルになってきて,私達SNKもそうですけど,マルチプラットフォーム/マルチリージョンみたいなものが当たり前なので,よりいっそう……何て言うんでしょうかね,国境を越えて「あれ楽しいよね」っていうことに,どんどん広がりが出てきたように感じますね。


規模が大きくなっていろんな選択肢がある中でも,自分たちのコアとなる考え方とか作り方はブレないほうがいい


4Gamer:
 それらをいろいろ考えると,今回の一連の動きは,きっと90年代のSNKがあったからこそだと思うんです。

松原氏:
 そうかもしれませんね。私の90年代はサラリーマンになって日立製作所に入って,ガリガリIT系で仕事をしてた頃なので,その頃正面からゲームに向き合ってないんですよね。なので,今40歳くらいのSNKファンの人に比べるとちょっと……。SNKに入ってから,そういう部分で学ぶところがすごく多いです。

4Gamer:
 前回の大阪の話を聞いて改めて思いましたが,古き良きゲーム会社というか。

松原氏:
 大阪ってまだ200名いかないくらいです。開発150名,管理数十名っていうそういう規模。それで今まで20年くらい,旧SNKまで含めると40年くらいやってきたわけです。
 そういう規模に慣れてる会社に,「さあ,世界のTOP10を目指しましょう」っていう雰囲気を昨年から持ち込んで。

4Gamer:
 わざわざ言うまでもないですが,かなり高いハードルですよね。

松原氏:
 そうですね。でも実はTOP10っていう言葉を持ち出したのは私なんですよね。

4Gamer:
 あれ,そうだったんですね。

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松原氏:
 皇太子殿下とお話をしてるときに,彼も「世界のトップレベル」のような表現は確かに使ってました。やっぱり具体的なものにしたいので「世界でTOP10レベル」みたいな話を持ち出したんです。
 でも皇太子殿下もMiSK財団もそこにとても共感してくれた……というか発言の真意を理解してくれて,そういう形を目指しましょうということになりました。
 ……大変じゃないの? というのはさすがに分かっているんですが,やはりまずは一つ大きいグランドチャレンジというものをキチンと持って,そのグランドチャレンジを実現するためには,どういうやり方で,どういう運営体制で,どういう経営体制で……というものを,会社の中にどんどん作り上げていくということがとても重要だと思うんですよね。

4Gamer:
 そのあたりは,経営者的にはどんなことから手をつけようと思ってますか?

松原氏:
 外からはなかなか見えないことですが,まず会社の中の仕組みがグローバルに対応できるようにしないといけないですし,体制がスケーラブルに動いてどんどん増えていっても,キチンとスケールアップ性を持てるようにしようというのが大事ですね。やはり180人くらいの,キレイにまとまった小さい会社だと,それに見合ったやり方をしますから。
 これは社内全般に言えることで,開発の管理もそうだし,財務とかプロジェクトの管理なんかもそうですね。

4Gamer:
 そうですね。表からはまったく見えませんけど,そこが今後のすべての土台になりますもんね。

松原氏:
 そのへんは,今までのコーエーテクモやZynga,セガでの経験が生きますね。タイトルの管理会計はこうで,プロジェクトの管理はこうで,それを支えるさまざまな技術支援やコーポレート部門など,かなり大きく見直しましたね,この1年で。

4Gamer:
 グローバル規模でのプロジェクトなんて動かしたことないですが,急には出来ないでしょうし。
 例えば弊社はいま50人ですけど,やはり管理も運用も50人の規模に見合った形になってるんです。

松原氏:
 そうなんですよね。だから,SNKの今までのやり方はもちろん正しかったし,事実利益も出ていた。ちゃんと成り立っていたんです。でも新しい大株主のお題を持ち込むときには,今までのやり方ではスケーラブルに動けないというだけで。

4Gamer:
 急に「グローバルTop10」とか「AAA」とかですし。

松原氏:
 AAAのタイトルを作っていくときにはそれなりの投資をする必要があるし,そうするとプロジェクトの管理もセンシティブになっていきます。ちゃんとα,βという形で内容を確認して,いいものに仕上げてくという。そういうやり方は,やはり導入する必要がありますからね。

4Gamer:
 そうやって一気に変更することで,社内でハレーションとか起きたりしなかったんでしょうか。

松原氏:
 全くない……わけじゃないと思うんですけど,キチンと説明をして,今までのやり方と,TOP10を目指すやり方にはこういう差があって,こういう課題があって,あるべき姿はこうだよね,みたいな話をして。
 そうすると,今までの経験から「こういうやり方のほうがいいです」みたいな意見もいろいろ聞けたりして,ある程度共感が得られたなと思った段階で導入しました。……とか簡単に言ってますが,社内のほとんどの制度を作り直した感じがしますね。

4Gamer:
 すごいわかります……。やりたくないです。

松原氏:
 人事制度,財務会計,管理会計,子会社のマネージメント……。
 そういったことに取り組んできた1年でしたね。新しいプロジェクトが既にスタートしてますが,そのプロトタイプの審査であったり,そういうところに外部の評価をうまく取り入れたりできてます。

4Gamer:
 その場合の外部というのはどのあたりですか?

松原氏:
 この場合は「海外」ですねやはり。海外から見てどういう点が良いところで,もっと改善した方がいい点はここで,みたいな意見です。そういう客観性のあるものを取り入れて,開発の人間が見て「ああそうか,なるほど」と思って自分たちのモノにする。そういうプロセスが,おかげさまで浸透しつつある感じがしますね。

4Gamer:
 昔の……本当に昔のSNKは,そういうことを無意識にやっていたように思います。これはアラブで売るからこうしてみよう,これは中国で売るからこうしよう,みたいなこと。それがもう1回,システマティックになって戻ってきた感じですね。

松原氏:
 そうですね。どこの会社さんもそうだと思うんですけど,規模が大きくなって,いろんな選択肢がある中でも,やっぱり自分たちのコアとなる考え方とか作り方というものは,ブレないほうがいいと思うんです。とはいえ,作品を世界中で売っていくのであれば,それぞれのお客さんに向けて,売れる要素を満たしているのかという答え合わせをフェーズごとにしていくのは重要だと思うんですよね。

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4Gamer:
 その2つはバランスが難しそうですね。

松原氏:
 そうなんです。海外の方ばかりを向いてそこを狙うんじゃなくて,開発者に確固たる考えがあって,それをベースに物作りを進めていくというのは基本であって決して変わらないと思うんですよ。ただこれだけの規模になってくると,社内の中であっても,作る人間だけじゃなくて,売る人間もサポートする人間も,みんながその途中途中でどういうものなのかを共有できるようにしていくというのは必要なんじゃないかと。

4Gamer:
 じゃあ昔からそれを無意識にやってたSNKと,今まで他の会社でそれをやってた松原さんとは,なかなかいい感じのタッグですね。

松原氏:
 そう,今までのSNKもなんとなく感覚的にはやっていたので,180度今までと違うことをやってくれと言ったわけではなくて。もう少しなんかこう……可視化したり,システマティックにやったりしようよ,と。そうしたほうが様々なメリットがあるということは,割と理解して吸収してもらえてるんじゃないかと思いますね。

4Gamer:
 じゃあ,あとは人材ですね。

松原氏:
 何をさておいても,開発の力を伸ばすには人材です。良い人に入っていただいて,これからの10年間を成長していく。
 成長というのは売り上げを伸ばすという意味もありますけど,今までのSNKのIPをリバンプしたり,新しいIPに取り組んで,これを世界に羽ばたかせたり,ということ全部ですよね。言うは易く行うは難し。

4Gamer:
 もちろん簡単なことじゃないと思います。

松原氏:
 その簡単じゃないことを,チャレンジだと思って一緒に取り組んでくれる人。100メートル走というよりは,やはり長距離マラソンのような感じだと思うんですよね。そういう共感をしてくれる人にぜひ入っていただきたいなあ,と思ってます。
 そういえば4Gamerさんが,前回,前々回とウチのスタッフに話を聞いてくれた記事を読んで,興味を持ってくれた人が増えたと思うんですよ。

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4Gamer:
 おお,それはお役に立ててよかったです。

松原氏:
 あらゆる手段で採用活動に取り組んでいますけど,やはりまだまだですね。でも新卒採用については,そういう意味で非常に手応えがありましたよ。

4Gamer:
 この間も思ったんですけど,それちょっと意外なんです。
 失礼ですがSNKという会社が新卒に響くって……どういう理由なんでしょう? 純粋に興味があります。

松原氏:
 新卒応募者の皆さんのレジュメを見て「なぜSNKに興味を持ったか」みたいなところを読んでいると,やはり会社に歴史があって,格ゲーのIPを大事にしている。一方で新しいことにもチャレンジして,トータルで世界トップを目指す,という部分にビビッと来てくれたみたいで。

4Gamer:
 その船に私も乗りたい,と。

松原氏:
 そうですね。そういう感じで興味を持っていただいたようです。
 あとは説明会ですかね。やはり,大阪の第1スタジオと東京の第2スタジオと,両方からキチンと人を出して説明してもらったのが良かったのかな。説明会を聞いて面接とかに臨むコンバージョン率が,すごく高かったと思います。そこは非常に手応えを感じました。

4Gamer:
 言うまでもないですが,最近どこの会社の偉い人と話しても「人がいないんですけど,どこかにいい人いません?」ですよ。

松原氏:
 そうなんですね(笑)。
 でも思うんですけど,これから取り組むタイトルって,どのプラットフォームに出すとしても,世界的に開発規模が大きくなっていく流れがどんどん進んできてるのではないかと。つまり,そういう大きなものに取り組んでいく会社に,ある程度リソースが集約していく雰囲気もあるかなぁ,という気がしてますね。


自分たちで組織を作っていくことも大事ですけど,M&Aもターゲットに含めてます


4Gamer:
 さっき前々回のインタビューの話をしてふと思い出したんですが,「今後10年でTop10」というのは,逆に言うと「10年しかないですよ」という話を藤重さんとした気がするんです。でもここに来る前にふと「10年前って何があったんだっけ」と改めて考えたら,結構昔なんですね10年前って。何か覚えてらっしゃいます?

松原氏:
 パズドラが出たのが2012年です。

※さすがの即答。「パズル&ドラゴンズ」は2012年2月20日でした

4Gamer:
 さすがです……。あとWii Uも10年くらい前です。

松原氏:
 あとどんなのがありましたっけ。

4Gamer:
 Windows 8も10年前です。あとスカイツリー開業とか。そう聞くとめちゃくちゃ古い気がします(笑)。
 でもパズドラが即出てきたのはさすがですね。

遡ってみると,2012年2月に「パズル&ドラゴンズ」,10月26日にWindows 8,11月18日にWii Uの発売があった。もう10年も経つのか……
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二つそれぞれは,文字を繋げて単語を作るパズル「もじとも☆」(2012/03/16),と「あやかし陰陽録」(2012/05/30)
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松原氏:
 いやあ2012年にパズドラが出たときはZyngaにいて,Zyngaで2つのアプリを出したんですよ。あのころですし,まだブラウザベースのラップアプリでしたけど。

4Gamer:
 ブラウザベース懐かしいです。

松原氏:
 で,2つめの陰陽師のやつが凄く売れたんですけど,あのときにフルアプリで作ったのがパズドラだったんです。森下さんによく踏み切れましたねという話をしたら,やはりずいぶん大変だったようで。当時山本さんもCEDECで話してましたけど,2012年よりも前の時点でフルアプリに取り組んでいたというのはやはりすごかったですね。なので強く覚えてるんです。

※「森下さん」は,ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長の森下一喜氏,「山本さん」は「パズル&ドラゴンズ」プロデューサーの山本大介氏を指している

関連記事:[CEDEC 2012]「パズル&ドラゴンズ」成功のポイントは「嫁レビュー」。プロデューサー山本大介氏の語る人気アプリが生まれた背景とは


4Gamer:
 でも本当に過渡期でしたから,あのころは。

松原氏:
 まだガラケーが残ってて,いつスマホに乗り換えるか,みたいな話があり。

4Gamer:
 そうですね,そんな時代。

松原氏:
 まだ結構な数がブラウザアプリでしたよね。
 いま話をしながらちょっと思い出したんですが,Zyngaでラップアプリについてアメリカに説明するわけですよ。向こうはすでにフルアプリになってたんですが,日本サイドは「いやいや,まだブラウザのラップアプリです。これが一番いいんですよ。作りやすいし,サーバー側でどんどんイベントとか提供できるし」と。そして,そういうイベントでビジネスモデルを作るんだ,とか。

4Gamer:
 理解してもらえました?

松原氏:
 いやあ全然アメリカと違うので,なかなかね。反対はされないんですけど,「そうなってんだ……?」みたいな感じで(笑)。まぁ一番最初に言われたのは,「なんで縦持ちにするの?」でしたけど。

4Gamer:
 あれって本当に理解されづらかったですよね。

松原氏:
 日本は電車の中でつり革を持ちながらやるんです! とかいろいろ言って(笑)。
 あと向こうのユーザーインタフェースの基本原則は「ユーザーにスクロールなんかさせるな」なんですよね。もう全部画面に入れろと。

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4Gamer:
 全部入れろ……。まぁでもちょっと理解できます。

松原氏:
 ユーザーはスクロールを嫌だと思わないのか? と聞くので「これはこれで慣れです」と。ガラケーから来てるせいか,今のところスクロールも全然大丈夫! みたいなそういう話をたくさんしました。

4Gamer:
 こうやって見ていくと,やっぱり10年は意外と長いですね。

松原氏:
 とはいえ,コンソールでもモバイルでも最近は開発期間が長くなってきたから,1タイトル3〜4年,それを超えるものもある……ってなると,そこそこの規模で10年って,そんなに長いわけではないですね。

4Gamer:
 そうなんですよね……。

松原氏:
 ゲーム作りの基本というのは,デバイスとかビジネスモデルとかプラットフォームとかいろいろと変わるところはあっても,ゲームが楽しいものであるというのは変わらないと思うんですよね。キャラクターがあってストーリーがあって,それに対して操作をして楽しむというところ。
 そういうところの面白さを実現できるチームがすごく大事なんですけど,ただ出口に関してはプラットフォームだったりビジネスモデルだったりというものが,どんどん変わっていくわけです。ユーザーとの接点にしても,昔はネットがなかったこともあって,ユーザーからのフィードバックはハガキでしたしね(笑)。

4Gamer:
 雑誌を作っていたころ,読者アンケートはハガキでした。懐かしいですねえ……。

松原氏:
 ですよね。たかだか20年くらい前はそうだったんです。
 それに比べると,今こういうタイトルを作ってますとか,こういうものを提供していきますとか。発売してからも,ダウンロードコンテンツなどで継続的に世界中のユーザーさんに接点を持って……そういう部分の大切さがもっと増えていくよう気がするんですよね。

4Gamer:
 継続的といえば,小田さんが泣いてましたよ。全然チームが解散できないんだって。

※SNK第一ソフトウェア開発事業部長 小田泰之氏。経緯については前回のインタビューを参照

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SNK第2創業期の“大阪開発”が目指すのは,既存のIPを生かしてさらなる発展を遂げていくこと。キーマン2名にその様子を聞いてみる

 前回のSNKインタビューでは,新設された東京スタジオの動向をいろいろと聞いてみたわけだが,SNKといえば外せないのは,過去から今に至るまで人気を維持し続けている各種IPだ。今回は,それらIPを取り仕切るSNK大阪本社の話を聞いてみよう。

[2022/06/17 12:00]

松原氏:
 あぁそうですね。KOF XVを出したのは今年の2月ですが,DLCのシーズン2をもうすぐ出すので,それを今やってる最中です。しかも,その次をこの間発表して。

※シリーズ最新作「THE KING OF FIGHTERS XV」が2022年2月17日に発売された。秋頃には覇王丸ら,サムライチームのキャラクターDLCが配信される予定で,2023年からのNEXT SEASONについても,EVO 2022で発表された

4Gamer:
 はい(笑)。

松原氏:
 この間までWeeklyでイベントやってましたけど,格ゲーとeスポーツの親和性はやっぱり高いので,そういう取り組みが続いていくと,開発もやっぱり休む間がないですね。

※2022年5月26日から7月21日まで開催された「KOF XV ICFC Weekly Series」は,SNKとten/oが共同で開催する「KOF XV」の公式オンライン大会。(大会公式サイト

4Gamer:
 しかし人材を増やすのは,もちろん正攻法でもやるべきなんですが,いっそもう会社ごとジョインしていただくという手もあるのでは?

松原氏:
 おっしゃるとおりです。
 そういう経験という意味では,グローバルのビジネスという意味も含めて,やはりセガに6年間いたのが良い経験だったなと思ってます。セガって,ひょっとするとセガサミーグループの中でもあまり知られてなかったかもしれないんですけど,かなり欧米のビジネスが大きかったんです。

4Gamer:
 そうだったんですか。

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松原氏:
 4Gamerさんならご存知でしょうけど,Creative AssemblySports Interactiveなどは,2000年代に買収していました。「Total War」とか「Football Manager」っていうと,向こうではゲーマーだったら多くの人が知ってるタイトルですし,2013年にはバンクーバーにあるRelicという会社を買収して,私がいた6年間にも3社買収しました。

 やはり欧米でのゲーム産業ってすごく賑わっていて,その中でセガという会社に親和性を感じて,買収の話に応じてくれてセガファミリーに入ってもらって,その中でしっかりとした形で成果を出す,と。

4Gamer:
 SNKも同じようなアクションを?

松原氏:
 SNKも欧米に向かって,自分たちで組織を作っていくことも大事ですけど,10年でTOP10となると,M&Aもちゃんとターゲットには含めてます。

4Gamer:
 まぁそうですよね。ちょっとはショートカットもしたほうが。

松原氏:
 そういう点で広く,M&Aをやっていく体制も整えたいですね。


事業会社を買収するときには,取締役として経験を積んだ人間を揃えるが,執行に関してはCEO一人に任せる


4Gamer:
 どこか考えてるところはもうあったりしますか?

松原氏:
 さすがにまだ(笑)。
 でもM&Aはご縁ですよね。……これはセガの経験なんですが,ブルガリアってちょっとゲームとは離れてる感じしますよね。

4Gamer:
 突然ですね。
 ……そうですね,ゲームのイメージはあんまりありません。

松原氏:
 私もそうでした。
 そのころ,とあるドイツの開発会社さんから,ブルガリアにある自分のスタジオを手放したいというオファーがあって。ブルガリアと言われても正直よく分からない。本当にヨーグルトくらいしか知らなかった。

4Gamer:
 普通の日本人はそんな感じかと。

松原氏:
 いろいろと自分で納得したかったので,さんざん話をして,うまくいきそうだなあと思ったので買収しました。最初50人くらいだった会社が100人になり,その後QAも増やしたので150人ぐらいで,ブルガリア一番のゲーム会社になりました。
 その話を聞いたブルガリアの大統領が訪問してくれました。

※Sega Black Sea EOOD

4Gamer:
 ……ブルガリアの?

松原氏:
 はい,ブルガリアの大統領が(笑)。在ブルガリアの日本大使にも来ていただいて,ゲーム開発をいろいろ説明しました。


4Gamer:
 えらいことになってたんですね(笑)。

松原氏:
 一国の元首がゲームの開発スタジオに来るのは,なかなかですよね。

4Gamer:
 逆に,ブルガリアにとってゲーム産業はまだまだだったんですね,きっと。

松原氏:
 そうなんです。150人とかのスタッフを抱えてスタジオとして動かして,結果も出し始めたところなので注目されて。大統領が来て,この産業を伸ばすために政府としては何をやればいい? みたいな会話をして,テレビの撮影とか取材が入って。

4Gamer:
 ブルガリアで一番有名な日本人に。

松原氏:
 そんな大きい国じゃないですけどね。でもそういう国であっても,ゲーム産業に必要なデザイナーとかエンジニアとか,そういう人達はちゃんといるし,教育もしっかりしてるし,政府のサポートもあるというのが分かったのがすごく収穫でした。
 こういう,あまりフォーカスされない国々にも十分なポテンシャルがあるという学びがあったので,こういう知見は今後SNKで生かしていければと思ってます。

4Gamer:
 グローバルTOP10を目指すということは,グローバルに出ていかないと話にならないですし,グローバルを相手に会社を回して商売しないとならないわけですしね。

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松原氏:
 ゲーム産業も大体20兆円くらいになって,やはり可処分所得が大きい欧米の存在感はすごく大きいですし,言うまでもなく中国の台頭もすごいです。人口でいったら,南アメリカや中近東も相当なものだし,幸いなことに世界中で伸びてるわけじゃないですか。
 こういうものを取り込んでいく,そこでの成長の機会をキチンと捕まえるというのが,グローバル企業になれるかどうかだということだと思うんですよね。

4Gamer:
 日本のゲーム会社ではあんまり聞かない話ですね,そういうの。

松原氏:
 やはりセガにいた経験があるのが大きいと思います。欧米に8つのスタジオを持ってるのなんて,セガだけじゃないですか?

4Gamer:
 8つもあるんですか。

松原氏:
 イギリスに4つでしょ。バンクーバーと,パリと,ブルガリアと……あれ,7つか? 正確に言わないとセガに申し訳ない。

※確かに7つのようです。(セガサミーコーポレートサイト
 SEGA Europe Limited.(本体海外スタジオ,イギリス)
 Two Point Studios Limited(イギリス)
 The Creative Assembly Ltd.(イギリス)
 Sports Interactive Ltd.(イギリス)
 Relic Entertainment, Inc.(カナダ)
 Amplitude Studios SAS(フランス)
 Sega Black Sea EOOD(ブルガリア)

 
4Gamer:
 確かに(笑)。

松原氏:
 日本の会社でありながら欧米でも仕事をするというのは,セガで磨かれました。コーエーテクモ時代の海外経験で得たことは,やはり中国でしたね。北京と天津のスタジオにはとてもお世話になりました。

4Gamer:
 そうでしたね。

松原氏:
 コーエーテクモ時代から外を向いたビジネスをやっていたつもりではありますが,欧米での開発とパブリッシング双方のビジネス経験に関して言えば,セガに入ってからがすごく大きかったです。こんな経験をさせていただいたので,SNKで生かしたいと思ってますね。もちろん簡単な話じゃないんですけど。

4Gamer:
 M&Aって“会社”を買うわけじゃないですもんね。

松原氏:
 そうなんですよ。もちろんIPを買うだけでもなくて,やっぱりそこにいる人達と……。
 アジアにおいても,そういう機会があればとは思ってますし。自前で世界中の地域に拠点を作っていくという努力もありますし,M&Aもありますし。その両方の取り組みが大切かなと思いますね。

4Gamer:
 そういうことを決めていくボードメンバーがそうそうたるものなんですけど,何も言ってこないんですか。ああせい,こうせい,あれするな,これするな。

松原氏:
 取締役会では今,10年の大きな方針と中期計画を検討してます。数字面においてはやはり皆さんからいろんな意見が出ますけど,一つ一つのタイトルについては,やはりプランを実行していく中でしっかり判断して。もちろん取締役会に報告はしますけどね。

4Gamer:
 取締役に理解されづらい?

松原氏:
 というより,普段SNKの業務を執行していないので,私と同じ感覚で「今取り組んでるゲームの中身はこうですよ」と伝えるのがなかなか難しい感じです。でもやはり取締役なので,しっかりと内容を把握してほしいですし。

4Gamer:
 でもボードメンバーは割とみなさんピュアにゲーム業界の重鎮ばかりなので,説明するのはそれはそれで緊張しそうです。

松原氏:
 開発しているタイトルはこんな状況です,というのを元EA,元Activision,Perfect World,そういう名だたるゲーム企業で経験のある取締役の皆さんに理解してもらうプレゼンをするというのは,今までやったことがないですね,さすがに。

4Gamer:
 いやあ……圧迫面接みたいなイメージです(笑)。

松原氏:
 いや,そんなことはないですよ(笑)。
 サウジアラビアとして,事業会社を買収するときには,取締役として経験を積んだ人間を揃えて,ちゃんとその業務の執行にあたり,できる限りサポートをするのだと。
 一方で,そういう体制を取るけれど,執行に関してはCEO一人に任せるというのがごく普通のやり方だと聞きました。

4Gamer:
 素晴らしいですね。

松原氏:
 ちょっと日本の経営とは違いますよね。

4Gamer:
 何か茶々入れてくるのかなと思ったら,そんな感じじゃないんですね。

松原氏:
 まったく何も言ってこないわけじゃなくて,もちろんいろいろ聞いてきます。日本の会社のことや,経営のことについても,雰囲気とかそういうことがまだ分からないので教えてくれとか。ゲームの中身に関しても,どういうふうにそれを考えてるんだとか。
 まだ私も来て1年なので,いろいろキャッチボールをせねばなりません。こんな考え方の違いもあるんだな,とかそういうことを踏まえて,雨降って地固まるみたいなやりとりをしていくといいますか。

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目標に向かって打つべき手を打っていれば,そこそこはいくんじゃないかなという気がしています


4Gamer:
 藤重さんにした質問と同じ質問をしてもいいですか。

松原氏:
 どうぞ。

4Gamer:
 10年間で,パブリッシャとしてTOP10を目指して……とおっしゃいますが,普通は時間かお金か,または両方がないわけです。

松原氏:
 時間はともかく,お金に関しては「必要なものは出す」という一番怖い返事をもらっておりまして(笑)。

4Gamer:
 それです(笑)。
 逃げ道がどこにもないですよね,この話。お金がないか時間がないか,まぁ皆さんいいところで着地させると思うんです。別にゲーム開発に限った話じゃないですが。「どっちもある」という状態は,松原さん的に何かプレッシャーを感じないんでしょうか。

松原氏:
 まぁ……ちょっとは感じますね,やっぱり。10年が経つと,私は70歳です。結構な歳になっちゃいますけど,それでもやっぱり目標に向かって近づいていきたいですね。
 当然お金もたくさん遣いますし,そもそもゲームなんだから頑張っても結果はデコボコになるのがこの業界の常だと思うんです。いい数字を出すものもあり,そうでないものもあり。トータルとしてどうかという。

4Gamer:
 それはそうですね。全部が全部,絶好調に売れるものではないわけですし。

松原氏:
 そういう中でも,やはりそれなりのレベルのものを作り上げることが私に課せられた使命ですし,その延長としてTOP10を達成すればいいし。達成し切れなくても,“近づいている”という状況にあることがすごく重要だと思うんですよね。そうすればもうあとは時間の問題で,いよいよ手に届くんだ……みたいなものが見えてくるでしょうし。そのあたりが私の責務としてのボトムラインかな,と。
 まあなんだかんだ言って,目標に向かって打つべき手を打っていれば,そこそこはいくんじゃないかなという気がしていますけど。

4Gamer:
 意外と楽観的です(笑)。でも楽観的じゃないとたぶんやっていけないとも思いますけどね。

松原氏:
 ありがとうございます(笑)。
 引き受けたときに,いろいろ考えたんですけど,やっぱり今までの会社とは違うんですよね。今TOP10に向かって行こうとすると,当たり前ですけど先行投資が多くて,回収は後になるのが通常モデルだと思います。

4Gamer:
 それはそうですね。

松原氏:
 私が今まで働いていた会社はある程度成長した段階だったわけで,毎年しっかりとしたアウトプットを出し,それと並行して成長も考えるというバランス型だったわけです。その考え方からすると,いまやっていることはかなり違いますよね。新たなチャレンジに振り切るプレッシャーという初めてのことです。

4Gamer:
 なるほど。確かに求められているものがまったく違うかもしれませんね。

松原氏:
 そういう点では,20年前に「インターネットの仕事をやりたい」と思って,まったく経験がないゲーム業界に入ってきて,まあなんとかなるだろと思ってたんですが,そのときのことを,ちょっと思い出さなくもないですね。
 4Gamerさんとお会いしたときは,「信長の野望 Online」を経験したあとで,ゲーム業界に少し馴染んでたくらいのタイミングだったんですが,私がゲーム業界に入ったときには,私の周りはクエスチョンだらけでしたよ。「なんでお前がゲーム?」って。

4Gamer:
 その感じですと,重責ではあるけどどうにかなりそうですね(笑)。

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松原氏:
 まあ,割とそういう鍛えられ方をしてるというか,そういう考え方をしてるというか(笑)。経験したことがないことをやらせてもらえてるわけですが,それがほかの人じゃなくて自分だというのが,ちょっと興奮しますね。ほかの人から学ぶべきことはもちろんありますが,どちらかというと自分の頭で考えて,初めてのことをやるという。当時のオンラインゲームがそうでしたよね。

4Gamer:
 はい,あの頃はみんなそうでした。

松原氏:
 そう,あの頃(笑)。なので自分の中では前向きに取り組めると思うんですよ。
 すべては結果を出してからなんですが,ちゃんと回っているのかどうかを,また取材していただければ嬉しいですね。

4Gamer:
 10年ありますからね。あと何回かは取材に来れますよ。

松原氏:
 要所要所で,ぜひ。
 しかしゲーム作りもそうですけど,最近はいろんなメディアがありますよね。漫画もあり,アニメもあり,映画もあり,音楽もあり,イベントもあり,ロケーションビジネスもあり。

4Gamer:
 文字通りの「マルチメディア」ですよね。

松原氏:
 そうですよね。先週ソニックの2本目の映画が公開されたんですけど,一つ目の映画のときに私はそのビジネスに入ってたんですね。これ面白そうだけど,どうなるんだろう,どれくらいいくんだろう……と思ってたら,かなりヒットしまして。やっぱりそこから「もっといけるだろう」ということで,IPにさらなる価値を付加してまたリバイバルしたり。それこそリバンプと言ってよいのでは。

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 2022年8月19日の全国公開が予定されている映画「ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ」は,新たにテイルスやナックルズが登場し,再びロボトニックとソニックが激突するシリーズ第2弾だ。試写会に足を運んできたので,なるべくネタバレに配慮しつつ感想をお伝えしよう。

[2022/07/07 11:30]

4Gamer:
 けっこういきましたよね。

松原氏:
 いやあ,1本目の映画に途中くらいから携わった立場から言うと,少なくとも私はこんな大成功を考えてなかったという(笑)。

4Gamer:
 いいんですか,そんなこと言って(笑)。

松原氏:
 いやあ,ここまで大成功だとは。でも,そういうのが出てくるのがエンタメの世界ですよね。

4Gamer:
 そこは確かにおっしゃるとおりです。予想できるなら苦労ないです。

松原氏:
 はい。我々の今後10年間でも,予想より駄目なことだって,残念ながらあるかもしれません。

4Gamer:
 それはもちろん。

松原氏:
 それを超えていくものが出てきたっていうときに,それをどうやってさらに伸ばそうか,とか。今までの20年間,エンタメ業界の中でいろいろ経験させてもらったので,これをどういうふうに使って,結果を出すか。「すごい結果出ましたね!」って言われてお話できるのが,今から楽しみなんですけどね。

4Gamer:
 でもこれまでの話を聞いてると,やっぱり割と大きい話がメインですよね。10年間でTOP10とか,AAAタイトルを作るとか。でもたぶんSNKが今まで生き残ってきたのって,要所要所で小回りを利かせて時代に対応してきたからだと思うんです。
 すべてがメインストリームで,すべてがニッチでありうるそんな時代ですから,そういう小さな動きもないとやっぱりツラくなってくると思うんですが,そこも両軸で抜かりなくやっていく感じですか?

松原氏:
 もちろんです。みんなでAAAのほう向いてドーンみたいな話ではなくて,いくつかのパターンを考えて,小回り……と言うんでしょうか,リバンプを目的としてやったり,逆にここはしっかり踏み込んでいこうってやったり。
 全部が全部,ホームランを狙いにいってるわけではないです。ご安心ください。

4Gamer:
 ヒットも二塁打も欲しいですもんね。

松原氏:
 そうですね。

4Gamer:
 いままでSNKで2回インタビューしてますが,やっぱりAAAのイメージのほうがどうしても強くなっちゃってる気がしてまして。

松原氏:
 そこが目につくのはある程度仕方のないことだと思いますけど,会社を一つのチームだと考えると,ホームランバッターも,ヒットで塁に出るバッターも必要なんです。ホームランを目指すタイトルもあれば,確実性を重視してIPの価値を高めていく方向に寄せていくというのもまた,戦術です。
 当然ながら,モバイルタイトルも含めた全部のプラットフォームでのパイプラインを考えるので,抜かりはないはずです。

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4Gamer:
 であればよかったです。ホームランに振り切っちゃうと怖いなと思ってたので。

松原氏:
 小田が率いる第1開発(大阪)はSNKが大切にしてきたIPを伸ばす方向性だし,藤重が率いる第2開発は,新しい柱となるIPをSNKにもたらすことを目指します。どちらも一か八かの「えいや」でAAAばかりを作ってるわけじゃないですよ(笑)。

4Gamer:
 さすがにそうは思ってません(笑)。でもちょっと気にはなってたんです。
 あと第1開発にせよ第2開発にせよ,前2回のインタビューで思ったんですが,なんか妙に風通しがいい組織ですよね。あれこそがSNKの伝統ですか?

松原氏:
 そうですね,SNKが本来持ってるカルチャーだと思います。
 第1開発も中国(SNK中国)も同じようなカルチャーですし,第2開発はそれらと相対しているので,結局「SNK」という会社はグループ全体で風通しが良い会社になっているんだと思います。

4Gamer:
 グループ全体ですか……。

松原氏:
 もちろん人事制度的に「上下関係」はありますよ。でも自分たちが持ってる「風通しの良さ」っていうのは,SNKが持っている非常にいいカルチャーだと思ってます。そういうところもうまく生かしつつ会社を動かしていきたいですね。

4Gamer:
 それはそれでもちろんすごく働きやすそうですし,いままでインタビューした人達はみんな楽しそうでした。でも「グローバル」に打って出るにはそれだけではダメですよね。

松原氏:
 はい。人事制度なんかもグローバル的にはまだちょっと違うので,給与面を含めて「気持ちよく働いていける」組織,自己の成長を感じていけるような組織,そういう組織を支えるような制度をね,いま一生懸命作ってるところなんです。

4Gamer:
 社内の制度って全部リンクしてるので,ドラスティックに変更するの本当に大変ですよね……。

松原氏:
 いや本当にそうですね。結構慣れてるつもりだったんですが,やはり苦労してます(笑)。

4Gamer:
 そろそろお時間のようですので……。
 いろいろとありがとうございました。では先ほど松原さんがおっしゃっていた「すごい結果」を見て,再びインタビューするときを楽しみに待ちたいと思います。

松原氏:
 はい,ありがとうございます。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

SNK採用サイト


――2022年8月22日

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