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印刷2009/03/09 12:05

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徳岡正肇のこれをやるしかない! / 第5回:「シアター・オブ・ウォー」をやるしかない!

徳岡正肇のこれをやるしかない!
グラフィックスとデータ再現に凝りまくったWWII陸戦RTS 第5回:「シアター・オブ・ウォー」をやるしかない!

 

「リアルなRTS」という二律背反に挑むゲーム

 

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「シアター・オブ・ウォー」(以下,ToW)は,ロシアの1C Companyと,コンバットミッションシリーズで知られるBattlefront.comが協力して開発した戦術級RTSだ。日本ではドライブが日本語マニュアル付き英語版で発売している。

 1Cといえば,「IL-2 シュトルモヴィク 1946」など,リアリティ命のWWIIコンバットフライトシムが有名なパブリッシャである。そのプロダクトに「コンバットミッション」のBattlefront.comが参画するのだから,どこをどうひねっても,ライトな要素が忍び込みそうにないセッションである。その期待(?)にたがわず,ToWは実に硬派な仕上がりのRTSとなっている。

 

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車両のモデリングはとても緻密。解説文も詳細で,読んでいるだけでも,その筋の人には割と楽しめる

 とはいえ,RTSであるという段階で,普通はある程度ゲーム的色彩が強くなるものだ。例えば第二次世界大戦当時において,戦車同士の交戦距離はだいたい1000mである。歩兵の交戦距離にしても,塹壕戦や市街戦といった特殊なシチュエーションを除けば100m単位だ。もしこのスケールを保持したうえで,RTSの基本である1ユニット=1両/人を守ったら何が起こるか。
 例えばドイツのIII号戦車は全長6.41m。1000mの距離で交戦すると,ざっと156ユニット分くらいを隔てて撃ち合うことになる。こうなると俯瞰視点を取っても「なんとか両方の車両が見えるかな……」となりかねない。RTSという文法には,どうしてもいくばくかのデフォルメが必須なのだ。でないと,プレイヤーは豆粒よりも小さい戦車と,数ドットの歩兵を指揮するハメになる。

 そして,驚くべきことにToWは,ここで豆粒よりも小さい戦車を選んだのだ……。うーむ……。とりあえずは,世界にまだこういう開発姿勢が残っていたことを賞賛したうえで,以下,実際にToWがどんなゲームなのかを見ていこう。

 

 

兵士一人単位でスキルと成長を再現

 

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単発シナリオも用意されている。兵員の成長とか,かったるいなあと思う人はこちらで

 なにはともあれ,ToWはRTSである。対AI戦では進行速度調整こそできないものの,自由にポーズがかけられるし,それほどシビアなタイミング管理が要求されるわけではないこともあって,アクション性は若干低めだが,それでもターンベースの作品に比べると,ある時間内に行う作業量は多い。操作はフルマウスであるものの,視点の切り替えにはキーボードを併用したほうが便利だ。

 ゲーム全体の造りとしては「緻密なデータに基づいたシミュレーション」である。兵員が成長するといったRPG的要素も取り込まれているとはいえ,スキルと称して超常現象もどきのフレーバーを持っていたりはしない。
 プレイヤーはシナリオやキャンペーンで,ドイツ軍/英米軍/フランス軍/ポーランド軍/ソ連軍などからプレイする勢力を選び,それぞれの部隊を率いて目的を達していく。
 キャンペーンでは自分の部隊が成長するといった要素もあり,長期戦ならではのジレンマと達成感を堪能できる。成長の主体がユニット単位でなく,兵士単位であるあたりにも,こだわりが感じられる。ToWでは,例えば戦車なら砲手/操車手/車長といった形で,複数の兵士が乗り込んで初めて機能するシステムになっているため,それが可能なのだ。

 

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チュートリアル。途中,戦場の霧効果のせいで,「破壊せよ」といわれた敵ユニットが見つからなくなったりすることも。習うより慣れろ,で

 

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ゲームはだいたいこれくらいの視野で展開される。見ろ,人がゴミの(中略)だ!

 ユニットの操作はRTSとしてオーソドックスなもの。ユニットをクリック(または範囲選択)で選び,移動先や攻撃対象を指定する。歩兵小隊であれば行軍の隊形を選択したり,体勢の変更(立つ/しゃがむ/伏せる)を指示したりもできる。
 もっとも,体勢の変更は必要に応じてユニットが自発的に行う――攻撃されると伏せる,など――ので,「ここは匍匐で進まないと話にならない」といった状況を除けば,あまり神経質にならなくてもよい。

 なお快適なプレイには,それなりのPCパワーが必須だ。Core 2 Duo世代のCPUと,PCI-Expressネイティブのグラフィックカードは必須と思ったほうがよいだろう。筆者ははじめPentium 4にGeForce 6800のAGP版という構成のPCでプレイしたが,グラフィックスオプション類をすべてオフにしても,ストレスはかなり高かった。RTSだけあってレスポンスの悪さはプレイ感覚の悪さ,ゲーム性の発揮不全に直結するので,十分注意してほしい。

 

 

兵士の挙動は,戦場のリアルをカバーする

 

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グラフィックスのクオリティは,一昔前のFPSでは追いつかないほど高い。普段は遠距離からの俯瞰画面しか見ないけど

 

 ゲーム中,ユニットにとらせられるアクションのバラエティは非常に豊かだ。というか,戦場にあっておおむね思いつく限りの行動がとれるし,なかにはかなり濃いめのミリタリーマニアでもない限り,そんな行動があること自体知らないであろうアクションもある。ざっとリストアップしてみると,

  • 匍匐/膝立ちなどの姿勢変更
  • 行軍フォーメーションの変更
  • 攻撃(対象のだいたいどこを狙うかも指定可能)
  • エリアに対する攻撃
  • 突撃
  • 防御
  • 撤退
  • 降車(牽引車両の切り離しなども含む)
  • 乗車(固定銃座への兵員配置も含む)
  • 牽引開始
  • その場で待機
  • 射撃中止
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シナリオ開始前の部隊編成。ポイント制で部隊を編成できる。質か量かという点より,作戦に適した部隊構成になっているかに注意したい

 このほか,塹壕に入る/出る,使う弾種を変更する,戦場に落ちている装備を拾う/落とすといったアクションが可能だ。当然だが,歩兵は一人単位で管理され(ただし部隊単位での指揮は可能),それぞれHPや士気などが独立したパラメータとして用意されている。
 各アクションはアイコン化されており,ユニット(あるいはユニット群)を指定してアイコンをクリックすることでそれらのアクションが可能となる。ご想像のとおり,すべてのアクションを自在にコントロールするには若干の慣れが必要なものの,いくつかの特殊な行動(牽引車両の切り離しなどはめったに使うものではないので……)を除けば,すんなり習得できるだろう。

 

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歩兵を塹壕に入れたいときは,カーソル形状の変化に注目。この状態で移動を指示すれば,自動的に塹壕に入って,そこで戦線を形成する

 これらアクションの利用法についてはチュートリアルでも詳細に解説されるが,正直チュートリアルは詰め込みすぎのきらいがあり,とりあえず一番シンプルな操作法を覚えたら,あとは実戦で「死んで憶える」のがよさそうだ。

 前述のように,基本的には「ユニットを選んで,ターゲットを右クリック」のシステムだし,塹壕に入ったり乗り物に乗ったり,野砲に人員を配置したりというときには,カーソルの形状が変わるため,特殊なアクションをさせたいときに,いくつものボタンを押す必要はほとんどない。

 

 

驚くべきリアリティで処理される損害判定

 

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シナリオの冒頭には,ちょっとした動画が挿入される。敵の陣容が微妙に分かったりするので,意外と大切

 

 ToWのリアリティ路線は,アクションの多様さだけに留まらない。いわゆるダメージモデルについても,執念とでも思うほかないくらい,詳細な条件が用意されている。ダメージ計算に当たって,参照されるパラメータは以下のとおりだ。

  • 弾道(武器によりすべて異なる)
  • 入射角
  • 命中部の装甲
  • 不発弾
  • 爆発による影響
  • 爆発
  • 爆風による衝撃波
  • 二次損害
  • 跳弾
  • 対HEAT防御
  • 弾体の炸裂
  • 発火

 これらの要素は,あくまでも入り口に過ぎない。例えば射撃目標が車両の場合,それらはいくつかのパーツで構成されるオブジェクトとして扱われる。そのパーツとしては,以下のものが用意されている。

  • シャーシ
  • トランスミッション
  • エンジン
  • 車輪/軌道
  • 砲塔
  • 主砲
  • 機銃
  • 乗員

 また,車両には前方/後方/上方/側面/底面という5方向に対して装甲厚が設定されており,砲塔とシャーシではその値が異なる。いや,砲塔底面に装甲データはないけど。

 

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このように,十字砲火によるキルゾーンをうまく作れれば,敵部隊は簡単に壊滅する

 そろそろお腹いっぱいになってきたと思うが,まだ先は長い。これらはあくまでも,弾体と目標物の話だ。これに加えて,射撃手の状態や能力,ターゲットの状態や距離,移動速度,命中した点による変化などなど,さまざまな変動要因が勘案される。最終的に,一般的な「攻撃」の流れは,内部処理的に16手順を経過して行われることになる。

 もちろん,これらはすべてPCが自動処理してくれるし,プレイヤーが関与できる部分はあまり多くない。あくまでも,戦場のリアリティを再現するために,こういった細かな手順が組まれているということである。

 ……ちなみにToWでは,戦車の主砲で歩兵を撃つことができない。ジュネーブ条約で禁止されているためだ。でも,「なんとなくそのあたり」に撃ったら歩兵に当たっちゃったというのはOKらしい。ToWのリアリティは,こんな思いがけないところもサポートしている。

 

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ノルマンディ上陸作戦後,ヴィレル・ボカージュでの戦闘。西部戦線でも有数の激戦地だ

 

 

「自分の部隊」で大戦を戦い抜く

 

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兵士の成長を管理するところ。経験点の配分は全自動にもでき,基本的に全自動配分が楽でよい

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ゲーム内で戦車が活躍しているところ。もちろん,プレイ中こんなにカメラを寄せることはまずないが

 

 システム全体が強いリアリティ路線で組まれている一方,兵員の成長面においてはRPG的な要素も強く見られる。とはいえ,ハイスキルな乗員が操る戦車が,戦場で“無双”をするという展開にはなり得ない。
 むしろ歴戦の戦車兵であっても,緻密に練り込まれたPAKフロントの前には,いともたやすく撃破されるという,ある意味で戦車マニアの夢とかロマンとかを,マゾヒスティックな方向に詰め込んでいる。それはそれとして,やはり極地的な戦闘においては,個々人の能力が勝敗に影響を与える傾向がある。

 個人的な印象に留まるが,とくにDriver/Gunner Skillを高いレベルで持っている兵士が死んでしまうと,キャンペーンを続ける気力を根こそぎ持っていかれそうになるくらいショックが大きい。「そんなものは,スキルを持っているかいないか以外,問題ないじゃないか」といわれればそのとおりなのだが,戦場で最大の攻撃力と突破力(砲兵を除く)を備えたユニットの効率が落ちると,やはり部隊全体にその負担がのしかかってくる傾向がある。

 

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キャンペーン各シナリオの開始時には,戦況図と作戦概要が提示される。戦況図は割とフレーバー要素だが,作戦概要はしっかり頭に入れておきたい

 

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ボカージュに引かれた独軍防衛ラインの様子。ボカージュを構成する生垣は,うまく再現できていない模様

 

 ともあれ,戦闘経験を積ませて部隊を強化していくのは,楽しいものだ。部隊の編成をカスタマイズできる機能とあいまって,「自分の部隊」が出来ていくのが,キャンペーンの魅力といえるだろう。

 

 

グラフィックス強化版「コンバットミッション3」?

 

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自走対空砲の床面のメッシュまで再現してある,このこだわり。でも普段は全部豆粒大

 ざっとToWの構造面を見てきたが,ToWを最も簡単に言い表すなら,「コンバットミッションのRTSバージョン」である。とくに視点変更周りのインタフェースは「コンバットミッション」そのものだし,ダメージモデルにも明らかに同作品の影響が認められる。いや,「コンバットミッション」も3以降,リアルタイム操作モードが加わったので,かえってややこしい説明かもしれないが。

 「コンバットミッション」シリーズと比較して良くなった点といえば,グラフィックス関係だろう。とくに車両関係のグラフィックスは緻密で,挙動もリアルだ。視点を思いきりユニットに寄せて確認しなければ見えないようなアクションまで生真面目に再現していることには,ある種の感動すら覚える。ただし,それ相応に処理負荷は高い。

 一方,この作品が緻密なRTSであるがゆえの問題もある。まず気にかかるのは,「思い通りに行動しないユニット」の存在だ。先に説明したとおり,歩兵ユニットが攻撃を受けると,まずはその場に伏せる。あるいは大きなダメージを受ければ動揺し,場合によってはパニックを起こして壊走する。これらは戦場のリアルな空気を演出するに当たって有用だし,シミュレーションとして妥当かつ必要な要素でもある。

 

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戦車戦で大敗を喫するソ連軍。歩兵の運用はともかく,戦車については抜本的に作戦の練り直しが必要な局面

 しかし,RTSとしてはどうか。RTSでは,短時間のうちに状況を把握し,指令を発する必要があり,そのテンポこそがゲーム性のキモといってよい。そうだとすれば,プレイヤーの意思とは違う理屈で動くユニットが続々と出現するのは,RTSの持つゲームとしてのテンポを損なう。
 ToWを純粋なRTSと考えず,随時ポーズをかけつつ進めるゲームと捉えることも可能だ。しかしそれにしては,一瞬の判断が問われるシーンが多すぎる。戦略級の“リアルタイムストラテジー”では,重要な判断が問われるシーンで進行が自動的に停止するものだし,設定を変更することで,プレイヤーにとって重要な場面で自動的にポーズがかかるようにもできるものなのだ。

 一方ToWに,そういった機能はない。ゲームを開始する前の設定で「士気崩壊による壊走」をなくすように設定することは可能だが,それはそれで悲しい妥協といわざるを得ないだろう。

 

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敵航空支援を迎撃したりすることも。こんなにのどかな良い天気なのに,戦争なんぞをしなくてはならんのです

 

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右上の迫撃砲アイコンをクリックすると,砲撃支援を要請できる。悪夢のような火力を持っているので,有効に使いたい

 そしてToWの操作性は,お世辞にも良いとはいいがたい。「コンバットミッション」流の視点変更操作は,あれがプロット式のゲームだから許されるのであって,リアルタイムでユニットに指示を出さねばならないゲームには向いていない。少なくとも,あきれるほど選択しにくいユニットが生じてしまう。例えばマップの一番手前に存在するユニットは,ほぼ真上から見ないと存在に気づかない。これはRTSとして如何だろうか?

 確かに「次のユニットを選択する」のショートカットキーを使うことで,この問題は解決できるが,快適な操作とはいえないだろう。
 また,パスファインディングの問題も非常に根深い。確かに,混沌を極める戦場に「最適な移動経路」など存在しないかもしれない。だが,たった2台のトラックが,よく分からないところでいともたやすく渋滞する言い訳にはならないだろう。

 

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地図読みが重要な典型例。右側に見える対戦車砲3門は,前線の塹壕が見えていない(反斜面陣地を形成している)。これをどう考えるかは,プレイヤーの発想次第

 では,まったくもってダメなゲームなのかといえば,十分に面白いのが複雑なところだ。とりあえず第二次世界大戦の欧州戦線において,陸戦の一つの究極形としてPAKフロントが成立したことは,このゲームをプレイすれば痛いほど実感できる。

 ドイツのタンクエースとして有名なミハエル・ビットマンが残した「戦車はそんなには怖くない。PAKのほうがずっと厄介だ」という言葉は,プレイヤーの脳裏に何度でも繰り返されることになるだろう。シナリオにもよるが,それくらいセットアップ時の計画性と,「地図を読む」能力――それはそのまま,計画的かつ緻密な面白さに転化する――が重い意味を持つ。このレベルでの再現性は,従来のこの手のRTSに丸ごと欠けていたものだ。

 

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シナリオが始まる前に,マップは徹底的にチェックしておく必要がある。とくに右上の画面のように視点を下げることで,どこからどこに射線が通るかを確認できる。俯瞰視点だけで見ていると,小さな丘陵や茂みなどが射線を遮っていることに気づかないケースが多い。この「地図読み」はToWの大きな楽しみの一つだが,スムースに進めるにはPCパワーが必須

 

 筆者はもっぱらシングルプレイを楽しんだが,ある程度趣味が共通する友人とオンラインで対戦しても面白いプレイができると思う。勝ち負けはともかく,あの時代の戦場の雰囲気を楽しめるはずだ。やろうと思えばエディタで自作シナリオを作ることも可能なので,好きな人にとっては相当に長く遊べるタイトルになり得る。

 

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キャンペーンの選択画面。ついポーランドを選んでしまいそうになるが,初心者はぜひドイツを

 ああ,そうそう,それはそうとして,とりあえずToWのキャンペーンを初めてプレイする人は,まずはドイツを選ぶことをオススメする。キャンペーンを選択するボックスの左上,つい最初に選びたくなる場所には,よりによってポーランドが入っている。筆者のような人間にはたまらなく興味を惹かれる配置だが,あまり常識的ではないし,シナリオの難易度も当然ながら常識的ではない。

 いやその,なんというか1Cなんだから,例えばソビエトが左上とかじゃダメだったんだろうか? あるいはBattlefront.comだからオーソドックスに米英連合が左上とか。なんでポーランドなんだ。そしてなんでその隣がフランスなんだ。個人的には嬉しいけど。

 

 

RTSの隘路をウォーゲーム史全体に位置付けてみる

 

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ポーランド戦が終わると,次は低地諸国+フランス戦。この調子でキャンペーンは続いていく

 最後に,ToWそのものの評価とは若干ズレるが,ToWも含めたPCのリアル系RTS(あるいはストラテジー)に共通する,ちょっと批判めいた見解を述べ,逆にToWを見る目についてスタンスを明らかにしておきたい。現状のリアル系RTSに対しては,かなりネガティブなことを書いてしまうことになるが,それが決してゲームとしてのToWや,そのほかの作品の全的評価ではないことを,あらかじめお断りしておく。

 ToWだけでなく,この手のリアル系RTSをプレイしていて一番気になるのは「結局,俺って何者なの?」という問題だ。
 例えばToWにおいて,プレイヤーは部隊全体を指揮するが,この部隊が戦争の中で何をすべきかを決定できるほど偉くはない。一方,プレイヤーは戦車兵の配置を決め,装填手がケガをすれば車長が装填手の仕事もするように再配置し,歩兵が敵をどのあたりまで引きつけて射撃するかを決め,敵の車両が見えればそのどこを狙うべきかを指示する。

 

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ドイツキャンペーン最初のシナリオ。初期配置はメッシュのかかった範囲であれば好きに変更できるので,思い切って全兵力を左翼に展開してみた

 いや,指示するというか,指示できてしまうのだ。場合によっては,しなくてはならない(しないと勝てない)。だが歴史上,そんなことができる/しなくてはならない指揮官など,実在しない。1814年,フランス戦役におけるナポレオンは手ずから大砲の照準を定めて,周囲の兵達の士気を大いに高めたというが,もちろん全軍の大砲にそれができるはずもない。いったい,何種類の「隊長」職を兼ねなければならないことか。

 ToWについていえば,欧米のレビューの多くは「PCゲームとしていま一つ」という意見と,「クラシックなウォーシミュレーションとして最高の出来」という意見に,ほぼ二分されている。だが,クラシックなウォーシミュレーションをたしなむ人間の一人として言うならば,リアル系のRTSというジャンルは,その「クラシックなウォーシミュレーション」が陥った,細密化とコマンドコントロールという罠に,より深くはまり込んでいるように思える。

 

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戦車が塹壕線を突破,歩兵がそのあとに続いて塹壕内部を掃討。ポーランド軍陣地の片翼をもぎとる

 

 アナログのストラテジーゲームには,「コマンドコントロール」という概念がある。おおざっぱに言えば「軍隊には指揮系統が存在し,それは兵士や補給物資,兵器などのファクターと同等の意味がある」という概念だ。ミニマムな範囲で言えば,ToWにおいて銃撃を受けた兵士が自発的に伏せるのも,一種のコマンドコントロールである。「兵士が指令を聞かなくなる瞬間がある」という意味で。

 

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そのまま突破して勝利。簡単……に見えるかもしれないが,プレイに慣れるまでは,意外とあっさり負けることもある

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戦闘結果。ドイツ軍戦車が破壊されすぎているが,なにしろI号/II号あたりの戦車が主力なので……いえ,自分の指揮ミスです

 

 コマンドコントロールというアイデアは非常に曖昧だったが,概念として先進的であるとともに,リアリティを充足させる要素でもあったため,一時期のアナログシミュレーションゲーム界を席巻することになった。だがこれは両刃の剣で,その時期のゲームのなかには既存の作品に対して「コマンドコントロールっぽい何か」を要素として増やしただけで,最新作として販売されるというケースが散見された。
 現在は,それが結果的にシミュレーションゲームの発展を一時的に阻害したという意見さえある。現代のPCゲームでいうならば,「とりあえず3Dでリアルタイム」と似たような物語である。

 だが,コマンドコントロールに注目したゲームのすべてがダメだったわけではない。なかには,プレイの実現性はともかく,理想としてのコマンドコントロールをゲームシステムとして織り込んだ作品も存在する。それがThe Gamersが発売した,Tactical Combat Series(以下,TCS)である。
 TCSをアナログベースのゲームとして考えれば,常人にはプレイ不能と言いたくもなる。だがそのコンセプトは素晴らしく,プレイヤーはあくまでも明確に指揮官として,指揮下の部隊に「命令」を下すことに集中する。
 発行された命令(攻撃目標や,攻撃開始時間,作戦失敗時の退却先まで,実際に紙に書く)は,一定の確率判定を経て前線に伝達され(上層部の認可であるとか,伝令システムの物理的な遅延であるとか,タイムラグが生じる可能性は戦場にはいくらでもある),命令を受領した部隊は,指定の時間になると行動を開始する。
 この命令は当然ながら一方通行で,命令を取り消すのにもまた時間がかかる。緊急事態が発生したからといって,現在進行中の作戦をいきなり根底から覆すことはできないので,作戦にミスがあったと気がついてからではもう遅い。結果,戦場はカオスそのものの様相を呈する。考えることと戦うことに関して,時間も人も食い違うのだから,これは必然だ。

 

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南北戦争モチーフのボードストラテジーゲーム「Battle Cry」のパッケージとコンポーネント

 

 TCSがアイデアとして非常に面白いのは間違いない。だがアナログでこれを実現するには,いくつもの障害がある。発行しなければならない命令書の枚数や,その処理を考えただけでもめまいがするし,命令書の書き方やその実行方法などについて,プレイヤーが紳士的であるという大前提が,幾重(いくえ)にも要求されるのも泣きどころである。
 このようにコンセプトモデル的な様相の強いTCS(なかにはちゃんと遊べる作品もあるが,初心者お断りな点は変わらない)。だが,そもそもPCの処理能力があれば,これをもっとスマートに実現できるはずだ。命令をどのように実行するかがAIに任されるならば,プレイヤーの紳士性は問われないし,戦場の霧を味方ユニットにすら適用できるPCゲームであれば,より高いレベルでTCSの理想を実現できる。

 「大戦略VIII」の構想を聞いたとき,きっとそういうゲームになるに違いないと一人で期待していたというのは,いまとなっては笑い話に属するかもしれない。また実はPCゲームの黎明期において,ポニーキャニオンが「突撃レニングラード」を,まさにこの発想でPCゲーム化していたりもする。ただし,この作品には「敵も味方も等しく下級指揮官AIの愚かさに悩まされる」という,苦笑すべき罠が待っていたのだが。

 

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Bull Runの戦いに決着がついたところ。南軍右翼は崩壊しているが,中央を強引に突破して南軍の勝利

 

 装甲の厚さと着弾角,弾体の運動エネルギーをPCパワーで精密に処理することが悪いわけではない。それは確かにアナログ時代から戦術級のウォーシミュレーションゲームをプレイしてきた人間にとって,夢の実現でもあるが,時代は21世紀なのだ。はっきりいってしまえば,TCSですらもう古い。そろそろ,PCの演算能力にはまったく別方向での生かし方があることを,誰か実証してくれないものだろうか?

 もちろんその結論が「指揮官て,退屈でストレスフルな仕事だなあ」だったりすると,これはこれで困るのだが。

 

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「Battle Cry」,シナリオ「Bull Run」の初期配置

 

 一方,コマンドコントロール的にはシンプルなシステムで,戦場の混沌とジレンマを興味深く再現した南北戦争会戦級ボードゲームには「Battle Cry」(Avalon Hill)があり,これは同時期に発生したカードドリブンシステムと双璧をなすほどイノベイティブなシステム設計といっていい。

 

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「Conflict of Heroes」のプレイ風景。ユニットとヘックスが大きく,マップのヘックス数は少ない。ルールは単純で12ページほど,それでいてゲーム性は高い。戦術級の新スタンダードともいえる

 またごく最近になって,なまじのRTSよりもずっと手軽に熱く戦え,そのうえでコマンドコントロール要素も上手に取り入れた第二次世界大戦戦術級ボードゲームとして「Conflict of Heroes」(Academy Games)が登場した。
 いずれの作品も,もはや進化の行き詰まりにいると思われていた会戦級〜戦術級の世界に,ワールドワイドな衝撃を与えており,現状ではデジタル・アナログ問わず,このジャンルにおける最高傑作の一つといわれている(ASL派の人には異論もあろうが)。

 戦争は,武器と武器,兵器と兵器が戦うのではない。人間と人間が戦うのですらない。人間の組織と人間の組織が戦うのである。そうであるなら,人間の組織の振る舞いや,人間と組織の関係性というものに,もっとリソースが割かれるべきではないだろうか? いかんせん,それを実現したというだけでは,派手なグラフィックスやリアルな3D画面といった,「いかにも売れそうな要素」が自動的に組み込まれたりはしないのだが,一考の余地はある。

 そうしたウォーゲームの発展史なり,紆余曲折なりを念頭に置いてToWをプレイするなら,また違った興味が開けてくると思うのである。

 

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ボードゲームの総合サイト「Board Game Geek」で,発売されるや否や人気ランキング1位に駆け上った傑作,それが「Conflict of Heroes」。写真はパッケージの裏表(写真提供:国際通信社「コマンドマガジン」編集部)

 

■■徳岡正肇(アトリエサード)■■
「ウィザードリィ」から美少女ゲームまで,独自の視点でゲームを解説するライターの徳岡氏。今回は,ロシアのゲームを取り上げたが,やはりロシア/東欧のゲームには徳岡氏の琴線に触れるものがあるようだ。とくに,「X-Blades」のAyumiちゃんの小さな……これ以上は言わぬが華である。次回もお楽しみに。
  • 関連タイトル:

    シアター・オブ・ウォー

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