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[インタビュー]海外イベントを飛び回るアークライトに,ゲームマーケットのこれからを聞く
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印刷2026/05/19 07:00

インタビュー

[インタビュー]海外イベントを飛び回るアークライトに,ゲームマーケットのこれからを聞く

 国内最大規模のアナログゲームイベント「ゲームマーケット2026春」が,2026年5月23日と24日の2日間で開催される。アークライトが主催する本イベントは,もはや日本のアナログゲーマーにとってはおなじみの存在だろう。


 筆者ら(Im Karton)はここ数年,ドイツで開催される世界最大のアナログゲームイベント「SPIEL Essen(シュピールエッセン)」やアメリカ「Gen Con(ジェンコン)」といった,海外イベントも取材しているが,そうした場所でも,ゲームマーケットやアークライトの露出を見かけることが増えたように感じる。特に現地へ積極的に足を運んでいるのが,同社の鈴木健右氏だ。

 そこで今回は鈴木氏,そしてゲームマーケットで事務局長を務めている草野彰宏氏に,海外行脚に至った背景やイベントを回った印象を聞いてみた。今まさに変化しつつあるゲームマーケットの姿や,今後の展望についても語ってもらった。


日本発アナログゲームとゲームマーケットに集まる,海外からの注目


4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。ゲームマーケットは,ボードゲームを始めとするアナログゲームファンにはおなじみのイベントですが,その主催であるアークライトで,どのような人が働いているか知っている人はあまりいないかと思います。
 まずはお二人の経歴を簡単にお聞かせいただけますか。

鈴木健右氏。昨年はSPIEL Essen,Gen Con,Lucca Comic & Gamesなどを訪問。今年フランス・カンヌで開催されたFestival International des Jeuxではイベントにも登壇した
画像ギャラリー No.001のサムネイル画像 / [インタビュー]海外イベントを飛び回るアークライトに,ゲームマーケットのこれからを聞く
鈴木健右氏(以下,鈴木氏):
 アークライト事業戦略室の鈴木です。
 アークライトにはアナログゲームの出版とゲームマーケットの運営事業の部門があるんですが,事業戦略室はその両方に関わる部門です。
 もともと,それぞれ完全に別事業ではあるんですが,両方で相乗効果があったほうがいいよね,ということで設置されました。今は1人部署なんですが。

草野彰宏氏(以下,草野氏):
 草野です。ボードゲーム事業部の事業部長をやりつつ,ゲームマーケット事務局長をしています。役割としては一番雑用をやっている,というところでしょうか(笑)。
 ボードゲーム事業部,ゲームマーケット事業部といった現場のチームはとても良い評価をいただいていて,私がなにか指示をするというよりも,現場から経営に提案したり,橋渡しをしたり,といった仕事をすることが多いですね。

4Gamer:
 事業戦略室は出版とイベントの両方に関わる,ということですが,ボードゲームに関して,国内での作品の企画や海外での版権買い付けの商談もされるということですか。

鈴木氏:
 そうですね。今,事業戦略室では日本発のゲームを海外に届ける,という取り組みを行っていて,企画やプロジェクト運営をしています。
 日本のメーカーとしてこれまではゲームを買い付ける側,ローカライズする側の役割が多かった中で,今後は日本のゲームを買いたいと言ってもらう,そこに応えていく,という流れを作る契機にあるのかなと思っています。
 直近では,林 尚志さんの「レイルウェイブーム」の世界展開に取り組んでいました。昨年アークライトから出版した作品ですが,今年のSPIEL Essenでは多くのブースで販売されるだろうと見込んでいます。また,海外での買い付けの業務にも関わっています。

4Gamer:
 海外アナログゲームイベントの取材をしていると,鈴木さんを見かける機会が多い気がしますね。出張数はアークライトの中でも1番多いんじゃないかなと思って見ていました(笑)。

鈴木氏:
 そうかもしれません。海外出張に加えて,イベント事業は広報宣伝も兼ねていた部分があって,国内の企業さんと話す機会もいただけています。ですので,昨年は九州に出張するなど,国内イベントにも出展していますね。

4Gamer:
 世界展開の取り組みについて,積極化させた契機はどういったものになるのでしょうか。

草野彰宏氏。2022年に前任の刈谷圭司氏から引き継ぐ形でゲームマーケット事務局長に就任した。昨年はアメリカ・インディアナポリスで開催されたGen Conを訪問
画像ギャラリー No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]海外イベントを飛び回るアークライトに,ゲームマーケットのこれからを聞く
草野氏:
 事業戦略室の取り組み以前も,SPIEL Essenやドイツ・ニュルンベルクの玩具見本市「Spielwarenmesse(シュピールヴァーレンメッセ)」など,海外には毎年,誰かしらアークライトから訪問していました。海外ボードゲーム出版に向けた買い付けの仕事があるので。
 出展については,アークライト単体での出展は2023年からですが,共同出展という形では過去に2回ほど行っています。日本のゲームを海外に紹介する「Japon Brand(ヤポンブランド)」さんと合同という形で2018年と2019年に出展しました。

鈴木氏:
 私が海外イベントに最初に訪問したのが2022年のSPIEL Essenだったのですが,そのときは完全にパブリッシャとしての参加でしたね。ゲームマーケットの担当としての立場も持ってはいましたが,仕事は主にバイヤー活動として行きますという話でした。
 そんな形でしたが,ゲームマーケットへの期待値をすごく感じたのもこの年で,世界展開に注力する大きなきっかけになりました。
 同時に情報の少なさや日本語しか対応がないことでのハードルの高さ,という課題もいただいて。受け入れ態勢さえできれば,海外のパブリッシャさんが新作を見に来てくれるようなイベントになっていけるんだろうな,というのを感じました。

4Gamer:
 日本発アナログゲームの紹介も最初からセットで構想されていたんですか?

鈴木氏:
 そうですね。出張として行くのであれば,やれることは最大限積み上げたいと思っていたので。日本発アナログゲームとイベントの両方を広げていくというのは,アークライトだからこそできる仕事だと同時に考えていました。

草野氏:
 そういった意味でも2023年に「アークライト&ゲームマーケット」としてSPIEL Essenに出展したのはいい転機になったなと。ヤポンブランドさんとの出展では,アークライト自体の紹介や自社ボードゲームの展開としてSPIEL Essenに参加していて,ゲームマーケットについては全然広報していませんでした。
 そこで,ゲームマーケットを前面に出して,それをフックに日本発ゲームを紹介するという役割を持てば,もっと広げていけそうだと。そんな動きを手探りで始めた年でした。

鈴木氏:
 あとは日本発ゲームへの注目が同時多発的に大きくなったタイミングというのもありました。
 2022年はオインクゲームズ「SCOUT!」がドイツ年間ゲーム大賞(SdJ)にノミネートし,同じく「HEY YO」がinnoSPIELを受賞した年でもありました。
 そこから2023年に「キャット・イン・ザ・ボックス」がGolden Geek Award受賞,「IKI 江戸職人物語」がSdJエキスパート部門にノミネートしています。
 その後も2024年は「TRIO」がAs d'Or大賞を取って,2025年「ボムバスターズ」のSdJ大賞受賞と続く,そんな4年間の動きがありました。
 こうした流れと我々の取り組みが,たまたま同時に重なったのがよかったのかなと。話題になったあとで動いても間に合わなかったような気がしています。

SPIEL Essenでの「アークライト&ゲームマーケット」ブースの模様。ゲームマーケットの紹介に加え,毎年数点の日本発ゲームを展示している
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4Gamer:
 手ごたえのようなものはありますか。

鈴木氏:
 ありますね。ゲームマーケットについても年々「知ってる知ってる,行きたいんだよね」と言っていただくことが多くなりましたし,作品についても海外市場が寄ってきているように感じています。
 もともと日本で主流になっている軽量級の作品と海外のマニアックなゲームは別物,という感じで見ていたんですが,ビジュアルの面も含めて、最近は海外で評価されるゲームに,日本発ゲームに似たテイストの作品も増えてきたな,と思うことも結構あります。そこはここ数年で変化した部分ではあるかもしれませんね。

4Gamer:
 海外イベントでも低単価のゲームが増えてきていますよね。

鈴木氏:
 ここ数年の動きとして,「重いゲームが海外でも売れなくなってきたから安くしたいんだ」という話は聞きますね。
 さらに,生産コストが上がったことで,重量級ゲーム「Great Western Trail」の軽量版「El Paso」みたいに,重量級ゲームは小さくしないと同じ値段で作れないとか。
 有名なタイトルのデュエル版を出す,という動きも似たようなトレンドかと思います。
 今後,そうした世界的な流れが,小箱ゲームが多い日本発作品につながっていくかもしれません。

4Gamer:
 海外から,日本のゲームに対して,どういったコメントがあるのでしょうか。

鈴木氏:
 海外のパブリッシャさんから言っていただけることで多いのが,「会社員だとなかなか作れない発想のゲームが多いよね」というコメントですね。
 海外ではデザイナーさんが会社でボードゲームを作っているのに対し,日本は同人市場も活発なので,そこに価値を感じていただけているのかと思います。
 これは日本にボードゲームのクリエイターさんがいっぱいいて,年2回のゲームマーケットを活用していただく中で,どの国よりも早いペースでゲームが生まれているからこその部分もあるのかなと。


行って分かった,海外ボドゲ市場の多様なカルチャー


 鈴木氏は,SPIEL Essen(ドイツ・エッセンにて毎年10月に開催),Gen Con(アメリカ・インディアナポリスにて毎年8月に開催),Festival International des Jeux(フランス・カンヌにて毎年2月に開催。以下,FIJ),Lucca Comic & Games(イタリア・ルッカにて毎年10月に開催)といった海外の大規模イベントを訪問し,草野氏も昨年Gen Conを訪問している。会場の模様とともに感想を聞いてみた。

4Gamer:
 お二人とは海外のイベントで何度かお会いしました。ヨーロッパやアメリカの世界的なアナログゲームのイベントを回られているかと思いますが,印象に残ったイベントはありましたか?

鈴木氏:
 私が海外イベントに最初に訪問した,2022年のSPIEL Essenの印象がとても強いです。一番は規模感で,やはり海外のアナログゲームの事業規模ってすごく大きいんだなと。各企業ブースもすごく力が入っていて,いろんな新作が見られますし,毎回新鮮に感じています。
 加えて,各パブリッシャが「SPIEL Essenで新作を発表する」ことを中心にビジネスモデルを構築しているのも,改めての発見になりました。

草野氏:
 行くまでは,SPIEL Essenへの出展スケジュールとは別に,年間の新作リリーススケジュールのようなものがあると思っていたんです。〇月にはこれを作って,〇月にはこれを発表,というように。

鈴木氏:
 ところが,思った以上にSPIEL Essenに間に合うように作ろう,という動きでしたね。4〜5月あたりで工場が混雑しているのはこれが理由かと気付きました。

ドイツ・エッセンで開催される世界最大級アナログゲームイベント,SPIEL Essenの開催風景。大手を始め世界中のボードゲームパブリッシャが集う
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4Gamer:
 アメリカ・Gen Conも訪問されたということですが,いかがでしたか。新作発表会であり販売イベントでもあるSPIEL Essenに比べて,TRPGセッションを始めとする参加型イベントや試遊に重点が置かれたイベントですよね。

鈴木氏:
 Gen Conはホテルと連携した開催が特徴的でしたね。宿泊型で一日がっつり遊ぶんだ,という組み立てで。あとは来場者がすごい体力だなと。夕方までゲームの買い回りをして,そのあとでそこらじゅうで夜通し遊んでいる。そして朝,またやってくる。
 Gen Conでは,日本IPの存在感もありました。目抜きの広告は日本のTCGだったり,海外限定で流通している日本アニメのボードゲームだったり。

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アメリカ・Gen Conの模様。コンベンションホール会場に加え,ホテルの宴会場を使ったゲームイベントなども行われている
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4Gamer:
 フランスのFIJはいかがでしたか。夜間に開催されるテストプレイイベント「オフナイト」にも参加されていたと聞いています。

鈴木氏:
 面白かったですね。プロトタイプを持ち寄ってゲームデザイナーさんがテストプレイを提供する,といったイベントは日本以外でもやっているんだなと。アメリカのPAX Unpluggedでもこうしたイベントがあると聞いています。
 そして,FIJはAs d'Orの授賞式や会場の規模感もすごかったですね。あれだけで一大エンターテインメントでした。ビジネスエリアがしっかり確保されているのも特徴的です。

FIJ内で開催されるボードゲーム賞,「As d'Or」表彰式の模様。カンヌ国際映画祭にも使われる豪華な会場でその年の大賞作が決まる
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FIJ内テストプレイイベント「オフナイト」の模様。プリンターで刷ったばかりの,まさにPaper&Playといった作品も多く見られる
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4Gamer:
 アナログゲームイベント以外では,Lucca Comic & Gamesにも訪問されていましたね。コミックコンベンションという趣の異なるイベントだったと思いますが,いかがでしたか。

鈴木氏:
 イタリアは,TRPGがボードゲームと同じくらいの規模で,今はもう五分五分なんだよ,という評判を聞いていたのですが,実際に見て納得しました。日本発のTRPGにも興味を持ってもらえて,こういう作品をイタリアでも出してほしい,といった声は業界関係者からも多くいただきました。
 また,展示場でない一般の都市を使った町ぐるみの開催というのも,ほかにはない特徴です。ゲームマーケットでも,現在は千葉県・千葉市の後援をいただいているので,イベントの宣伝という以外でもいろいろとできることがあるな,と刺激になりました。

Lucca Comic & Gamesの会場となっているイタリア・ルッカ市街。城壁に囲まれた中世都市のような街並みに,コスプレや展示が絶妙にマッチしている
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ボードゲーム販売・試遊が提供されている「Lucca Games」ホール内の模様。Lucca Comic & Games自体はコミックコンベンションだが,こちらも行列ができるほどの大盛況
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Lucca Comic & GamesではTRPGの存在感が大きく,Lucca Games以外にも建物1つを借り切った「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の展示などが行われた
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4Gamer:
 今後は,どういったイベントへの訪問を予定しているのでしょうか。

鈴木氏:
 イギリス・バーミンガムで開催されている「UK Games Expo」に訪ねてみたいと思っています。規模感も順調に拡大していて,Gen Conに近い雰囲気ということも聞いていますし。
 あとはアメリカの東海岸,フィラデルフィアで開催されている「PAX Unplugged」ですね。残念なことに,昨年はゲームマーケットと同日開催になってしまって訪ねられなかったので,今年こそはと。
 アジア方面では,中国・上海の「Shadow Market」というイベントを訪ねてみたいと思います。中国には,ほかにもいくつかイベントがあるんですが,社内のメンバーから「勢いがあるから,今行くならShadow Marketだよ」と聞いたので。これまではヨーロッパ・アメリカ方面に行くことが多かったのですが,アジア方面のイベントも気になりますね。

4Gamer:
 さまざまな国のイベントに足を運んでいらっしゃいますが,今後のゲームマーケットの運営に生かせそうだな,と思ったポイントはありましたか?

鈴木氏:
 たくさんのヒントがありました。いろいろ見て思ったのは一口にアナログゲームイベントと言っても,ボードゲーム主体のものもあれば,TCGやTRPGの割合が大きいイベントもありました。ボードゲーム以外のアナログゲームや,ほかのコンテンツを取り込むことで大きくなっている部分もあるようです。
 データだけ見ると3万人のイベントです,5万人のイベントです,という規模で見てしまいがちですが,例えば,ボードゲームだけで比べてみると,ゲームマーケットの方が実は大きいな,と感じたイベントもありました。

草野氏:
 出展しているゲームの構成というのは,今後ゲームマーケットを広げていくうえでのヒントでもありますね。
 今のゲームマーケットはボードゲームの割合が大きくて,非常にありがたい反面,「アナログゲームの祭典」と銘打っているので,同じくらいTCGやTRPGでも盛り上がるイベントにもしていきたいんです。昨年から「TRPGギルド」は他社さまを含めた少し異なる形での開催となっていますが,これもTRPGの盛り上がりに対して何かできることがないか,という取り組みでした。
 もちろん,TCGやTRPGもそれぞれがすでに温まっている分野ですし,海外とは事情も違う部分があります。例えば,欧米ではショップのボードゲームコーナーにTCGが置いてあることは多いんですが,日本ではボードゲームとTCGは別々のショップになっていることが多いですね。

鈴木氏:
 泊まりがけで遊ぶ,という開催形式もやってみたいですね。日本でも過去に例があって,TRPGイベントの「ジャパンゲームコンベンション(JGC)」は宿泊型のイベントでした。

草野氏:
 多くの人に来ていただくうえで,夜まで遊べるというボリューム感は,1つのポイントだと思っています。
 ゲームマーケットは日本で一番大きいアナログゲームイベントではあるんですが,来場者のデータを見ている限り,日本全国から来ていただけているわけではないと考えています。イベントのボリュームを上げることで,首都圏外の方も旅行に組み込んで参加していただけるかもしれません。

鈴木氏:
 海外の方も同様で,海外のイベントに比べると、日数的なボリューム不足のコメントをいただくことが多いですね。「1日立ち寄るだけだったら会社を説得できないよ」「2日でも短すぎる」といった声を聞きます。

草野氏:
 一方で,幕張メッセは22:00までに撤収する取り決めになっていますし,首都圏から来た人からすれば泊まって遊ぶ距離でもない。夜まで遊ぶには,工夫の必要はあるでしょうね。

鈴木氏:
 出展者向けではありますが,各所との連携によって近隣のホテルを事前に抑えることができるようになってきました。こういった動きが進めば,ホテルのホールも借りて遊べるようになるかもしれませんし,いろいろ考えています。


日本発作品の買い付けに大きなニーズ。海外発の出展者も50団体に増加


4Gamer:
 海外訪問の取り組みと同時に,近年のゲームマーケットでは日本と海外をつなぐような取り組みへのサポートも充実してきていると感じます。

鈴木氏:
 日本から海外という動きでは,日本発クリエイターの海外進出を支援する「海外挑戦プラン」を,海外からの受け入れには出展者向けの「海外企業向け出展プラン」や業界関係者などの来場に向けた「海外ビジネス参加制度」などを用意しています。

4Gamer:
 確かにAllplayなど海外のパブリッシャがゲームマーケットに出展していましたし,会場内でも海外からの来場者を多く見かけるようになった気がします。こちらはやはり「ゲームマーケットに出たい,行きたい」という海外からの声を受けてのものなのでしょうか。

鈴木氏:
 そうですね。ゲームマーケットに対する海外企業の期待値は,当初想像したよりも高かったことがだんだん分かってきました。ただ,海外の声としては「出展より買い付けに行きたい」という要望が多かったんですね。大手パブリッシャを中心に,日本ですでに作品を流通させている企業も少なくないので。
 それで整備したのが「海外ビジネス参加制度」でした。申し込みやすくする,という狙いもありましたが,出展者から見て,一般来場なのかビジネス目的なのか分かるようにする,という意味もあります。制度を作る前にも,もちろん商談は存在し,そこから生まれたゲームはあるのですが,商談に来ていることが分からないと困ることもあるよねと。

4Gamer:
 確かに,何を目的にブースに来た人なのかが分からないと,警戒してしまいますね。

鈴木氏:
 日本のゲームが進出するという観点では,ゲームマーケットでビジネスが生まれるのは良いことなのですが,トラブルは防がなければなりません。
 海外からの来場者,日本の団体ともに,そういった商談のニーズがあるのは知っていましたし,実際にそれを契機として海外進出している事例があるのも把握していたので,きちんとルール整備して,商談の場として使っていただけるようにしました。

4Gamer:
 出展者に向けてゲームマーケットの新作を紹介するBoardGameGeek(以下,BGG)のページ「BGG Preview」への登録のサポートを呼び掛けているのも,すごいなと思いました。確かに,海外のアナログゲームイベントだとBGGに新作情報がまとまっていますよね。

鈴木氏:
 以前,SPIEL Essenに出展した際,近くにBGGさんのブースがあり,そのときに「何か一緒にやりたいね」という話になって,それを契機に実現しました。実際にアークライトが買い付けに行く際も,BGG Previewを見ていて,初めて見たときは「こんなものがあるのか」と驚いたのを覚えています。また,「英語対応しているゲームはどれか」という質問もいただくので,情報提供にもいいなと。

SPIEL Essenの新作リスト「BGG Preview」。一般の来場者が買い回りに使うのはもちろん,業界関係者もチェックするサイトだ
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4Gamer:
 海外に自分の作品を紹介していこう,という近年のトレンドと重なったのも良かったかもしれませんね。海外からの団体出展のサポートについても聞かせてください。

草野氏:
 実は,こうしたサポートをする前から海外企業の出展はありました。国内の出展者さんと同様,手続きに沿って申し込んでいただいた際には,他団体さん同様に出展いただいていたんです。
 一方,同様に受け付けを行っていたため,海外からどんな人が申し込んでいるのかを,事務局がそもそも把握できていませんでした。近年,申し込み時に登録していただくようにして,ようやく見えてきたところです。それゆえに,適切なサポートができていなかったという課題はありました。

4Gamer:
 思い返してみれば,一般ブースで海外企業のゲームを買った記憶もあるかもしれません。

鈴木氏:
 そういった方々は,日本語での出展というハードルを越えていただいていますから,そこは素直に頭が下がります。
 一方で,今後出展のハードルを下げていくにあたって,日本語ができない海外の方からもお申込みができる状況にしたいという思いもあります。単純なアナウンスの英語化だけではなく,印刷物や備品の発注などの施工会社さんとの連携や宿の確保,在庫を一時お預かりする倉庫サービスなど,日本語ができないと出展が難しい要素をサポートするサービスを準備してきています。
 また,開催日の告知が遅かったことも不便だったようです。海外のイベントでは1年前からスケジュールが公開されることが多いため,そのくらい前から時期が分からないと予定を立てにくい,ということでした。

4Gamer:
 ああ,ゲームマーケットの場合,会場で「次の春開催」といった日程が掲示されていますからね。

鈴木氏:
 そうやってサポートを始めて,今年で3年目になるのですが,海外からの出展は着実に増えてきています。ゲームマーケット2026年春では,海外からの出展が50団体に上りました。そこで今回から,そうした出展者さんを1つのゾーンにまとめて,「海外エリア」を作る試みをしています。海外からの団体ですよ,という見え方が嬉しいかどうかは団体さんにもよるかと思うのですが,これだけ海外からの出展がある国際的なイベントであることをポジティブに使っていただければ,と思っています。

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4Gamer:
 あとは海外からの一般客の方でしょうか。私たち(筆者)もブース出展をしたことがありますが,年々増えてきているように感じています。
 一方で,事前予約をしようとすると,チケットサービスでは日本の電話番号が必要になって,日本に住んでいないと使えない,というような不便があるようにも感じました。

草野氏:
 チケットサービスについては,そうですね。海外から来られた方は,現金で当日券を買って入場していただくしかない,というのが現状です。反対に「当日券を買えば入れますよ」というのは伝えたいところかもしれません。

鈴木氏:
 海外のイベントを回って,SPIEL EssenもGen Conも,開催日にはチケットが売り切れてしまっており,当日入場お断りになっていることに驚きました。実際に海外の方からも「行ってみたいけど,高い旅費を払って当日入れないと大変だから……」と言われて,最初は何のことだか分からなかったんですが,そういう問い合わせだったのかと納得しました。
 ゲームマーケットについては,当日入場ができないということは必ずないようにしてあります。「ぜひ安心して来てください」とお伝えしたいですね。

Gen Conでは,開催前のチケット売り切れは恒例の光景となっている
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クリエイターも隣接カルチャーも気軽に入れるゲームマーケットに


4Gamer:
 最後に,ゲームマーケットの今後について聞かせてください。前回のゲームマーケット2025秋では来場者数3万人を達成していましたが,何か変化を感じるところはありましたか。

鈴木氏:
 3万人という数値は意識していたところではありましたが,大きな景色の変化はあまり感じませんでした。実はコロナ禍前の2019年も2万9300人と,かなり近いところまで行っていたんですよ。

草野氏:
 あくまで通過点というイメージですね。達成したからどう,ということはなくて,ここから先,5万人,10万人としていくために,何ができるかを考えたい。そういった意味では,今までとやることは変わらないかなと思っています。

4Gamer:
 先ほどは海外関連や新しい取り組みについてうかがいましたが,出展者さん向けだったり,日本のユーザーさん向けに取り組みたいこともありますよね。

草野氏:
 国内向けには,クリエイターさんが気軽に出展できるよう注力していきたいと常に思っています。
 嬉しいことに,年々作品のクオリティが上がっているという感想を多くいただいています。
 一方で,こうした取り組みが,初めて参加される方のハードルを高くしてしまっていないかという懸念もあります。
 そこで,「チャック横丁」や「ゲームマーケットチャレンジ」のように気軽に参加できる出展プランを用意したり,ゲーム制作者支援コーナーを設けたりと,出展者をサポートする取り組みにも力を入れています。
 「まずはここから始めてみませんか」と声をかけられるような,間口の広さは常に意識しています。

鈴木氏:
 あとは落選をなるべく出さないように,すごく気を付けています。
 この問題は,東京ビッグサイトから幕張メッセへの移転の一番大きな理由でもあります。

草野氏:
 それと,ゲームマーケットでの取り組みに加えて,一般来場者さん向けには定番商品をちゃんと持ってくる,ということはアークライトとして気を付けていますね。新作を目指してくる方もいる一方で,いろんなところで売っている定番品を会場で買いたい人もいる。
 たとえば「ito」を売っていますか,というお問い合わせは,毎年いただきます。なので,定番商品をちょっとでもいいから持ってこよう,と話をしていますね。

「チャック横丁」の模様。箱なしチャック袋のゲームに限定し,気軽な出展を応援。ちょうちんが下がったブースがお祭りのようだ
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鈴木氏:
 また,ゲームマーケットを広げていこうと考えた際に,年2回のゲームマーケットについて,春と秋の位置づけを変えたんです。これまではシンプルに春・秋2回開催,ということだったんですが,国際的な取り組みは春に集中させて,秋は国内向けにしっかりやっていこうと。昨年は謎解き祭りをやったりしましたね。
 特に秋はSPIEL Essenを始め,大規模な海外イベントが続くので,海外から来づらい時期ではありますし。

4Gamer:
 今後ゲームマーケットを広げていくために,具体的に取り組みとして考えていることがあれば教えてください。

草野氏:
 繰り返しになってしまいますが,TRPG,TCGなどボードゲーム以外のアナログゲームに対して,何かできることがないか考えていきたいですね。
 あとは,デジタルゲーム関連でも協力できることがあるかもしれません。今年のゲームマーケットでは,同時開催のBitSummitさんと会場をつないで,共同でイベントを開催できればと思っています。

鈴木氏:
 アナログゲームを作っているクリエイターと,デジタルゲームを作っているクリエイターはそこまで遠い世界でもないだろうと思ったので,あらためて連携ができるといいですね。
 それ以外にも,ゲームマーケット運営としては,新しいお客さんにアナログゲームの魅力を伝えていく役割がありますから,アナログゲーム以外でもいろんなイベントと連携していきたいと思っています。

4Gamer:
 BitSummitのボードゲームコーナーが盛り上がっている,という話はちらほら聞く気がしますね。それ以外では,どのようなイベントと連携しているのでしょう。

鈴木氏:
 ニコニコ超会議さんでは,ゲームマーケットのブースを出展していて,連携を進めています。ボードゲームを配信に使ってもらって,楽しさを伝えてもらったりとか。
 東京コミコンさんへの出展も行っています。サブカルや海外文化といった点では相性がいいコンテンツだと思いますし,海外のIPを使ったアナログゲームも多いですしね。BitSummitさん含めて,いずれもゲームマーケットより大きなイベントですから,ゲームマーケットを見てもらえる機会になるよう,いろいろと話を進めています。

4Gamer:
 今年のゲームマーケットでの新しい取り組みなどがあれば教えてください。

鈴木氏:
 クリエイター,来場者両方に関連する話として,今回の2026春の開催から「全卓試遊OK」となりました。従来は試遊卓の設置可否がプランによって分かれていたんですが,少なくとも今開催のルール上は「チャック横丁」含むすべてのプランでゲームが遊べるようになります。
 アナログゲームのイベントとしてもっと体験に振りたいな,という思いがあったので,実際にその場で遊んでみる体験をもっと増やしていきたいなと。販売だけのイベントとなると,通販でカバーされちゃって,別にイベントに行かなくてもいいよね,みたいな話にもなりうると思うので。

4Gamer:
 最後に,ゲームマーケットの来場者・出展者へのメッセージとして,見どころや大事にしていきたいことがあれば教えてください。

鈴木氏:
 ゲームデザイナーさんたちを主役に据えつつ,アークライトとしてお届けしたいと思っていることは,特設コンテンツとしていろいろと準備しています。みんなでつくる企画のような,ゲームマーケットならではの催しもやってみたいですね。
 多くのお客さんに来てもらうことが,ゲームを作る方にとってもいいことでしょうから,まずは5万人規模を目指していけるような道筋を引いていきたいです。

草野氏:
 新しい体験ができる場所,というのをイメージしています。新しい施策もありますが,ゲームマーケットはアークライトだけでできるイベントではなくて,クリエイターさんに支えていただいているイベント,というところはどこまでも変わらないと思っています。みなさんと協力しながらアナログゲームそのものを盛り上げていく,きっかけとかフックになれればいいのかな,と考えていますね。
4Gamer:今月に迫った開催が楽しみですね。本日はありがとうございました。

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 直近開催される「ゲームマーケット2026春」は5月23日,24日の2日間開催。入場チケットはぴあ,イープラスにて購入できる。


 また,記事中にて紹介した海外アナログゲームイベント,SPIEL Essen,Gen Con,Festival International des Jeuxについては,4Gamerでレポートを掲載している。

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