宗教改革500周年にちなみ，キリスト教関連のボードゲームがエッセンに集結。ヨーロッパゲームコレクター協会の展示をレポート

　今年（2017年）は，ルターがヴィッテンベルク城教会に「95ヶ条の論題」を張り出し，宗教改革が始まってから500年目にあたる。 この歴史的な出来事とボードゲームを絡める企画として，日本ではキリスト新聞社が宗教改革500周年ゲームコンテスト（大賞は『ルターの宗教大改革』）を実施した。

　この動きは，ドイツ・エッセンで開催されたボードゲーム見本市SPIEL’17の会場でも見られた。ドイツのマールブルクに拠点を置くヨーロッパゲームコレクター協会（European Society of Game-Collectors）が，「宗教改革500周年 - ゲームの中の宗教」と題した企画展を行ったのだ。本稿では，文化史的な観点からも価値の高いこの展示を，写真を中心に紹介しよう。

ヨーロッパゲームコレクター協会公式サイト（ドイツ語）

ESGのロゴおよび今回の展示のポスター

展示ブース全体の雰囲気はこんな感じ。「ドイツ人のもっとも好きな“おもちゃ”」である自動車も乗り入れるあたりに，今年の展示に対する意気込みが感じられる

例年と同じく，協会名誉会長のRudolf Rühle氏（右）による展示品解説も行われた

展示品には20世紀前半のゲームが多く，今となっては非常にレアなものばかりだ

「神はサイコロを振らない」というアインシュタインの主張に真っ向から挑むようなサイコロ

聖書に基づくビンゴゲーム

各種の絵合わせパズル

このトランプには，聖書に出てくるさまざまな植物が描かれている

シンボルがキリスト教のものになっている「スピード」

双六は，巡礼などの具体的なものから，「天国/永遠への旅」といった形而上的なものまでさまざまだ

こちらは世界中を伝道して回る双六

伝道や支援活動を行う地域に関する神経衰弱

この人道支援に関する東ドイツのゲームは，「教会内での使用に限る」との当局の但し書き付き。ゲームに対する当時の統制がうかがえる

キリスト教への信仰があついサッカー選手に関するカードゲーム（中央）

4枚の絵柄を揃える「カルテット」のキリスト教バージョン。カルテットは，その昔ドイツで大人気だっただけのことはあり，聖書の登場人物や聖人を揃えるものから祈祷文まで，さまざまなテーマのものが作られている

このカードはなんと実際の贖宥状としても機能する。遊び方は不明だが，カードに書かれたお祈りを唱えると，数百日分の免罪が得られるそうだ

ルターやほかの宗教改革者に因んだゲーム

ゲームではないが，playmobilの宗教改革バージョンも発売されている

宗教改革をテーマにしたスカート

こちらは，お祈りの文句や聖書に関するクイズなどが書かれた，宗教教育を想定した作品

聖書の中の故事に因んだゲームも数多い

「カタンの開拓者たち」ならぬ「カナン（聖書における約束の地）の開拓者たち」

カルカソンヌのモルモン教バージョン（右）

近年発売された各種のゲームも展示

非常にディープな宗教戦争もののストラテジーゲーム「Here I Stand」の大型マップ

カトリック対プロテスタントの抗争を扱った「Sola Fide」。SPIEL’16でレポートしているので，気になる人は参照してほしい（https://www.4gamer.net/games/363/G036338/20161119001/）

　出展されていた作品を見ても，カトリックやプロテスタントなどの各宗派がクラシックなものから最新ゲームまで，実に多彩な作品と関わってきたことがよく分かる。
　それらの多くは，キリスト教の教義や聖書のエピソードなどを「遊びながら学んでもらう」ためのものだが，現代社会で教会が実施している世界各地への伝道や人道支援などのキャンペーンに対する理解を深めるための，いわば広告戦略の一環になっているものも少なからず存在しているのが面白い。
　なお，解説をしてくれたRühle氏によれば，これらのゲームの発売には，各宗派が抱えるキリスト教系の出版社が大きな役割を果たしているとのことだった。

　また，宗教を取り扱ったゲームとしては，歴史上の宗教対立をテーマとした作品も忘れるわけにはいかない。16〜17世紀の宗教戦争は，ヨーロッパの中では悲惨な歴史として捉えられていることから，今回の企画展でも大きく取り上げられなかったが，興味深いストラテジーゲームが多数生まれているのも事実だ。

　最後に，展示されていたのはキリスト教関連のゲームのみだったが，キリスト教の信者でない筆者でも，宗教とゲームとの「互恵関係」を知ることができ，十分楽しめる内容だったことも付け加えておきたい。
　日本でも双六の成立に仏教が大きな役割を果たしたとされるように，共に日常生活に密着する要素である宗教とゲームは，洋の東西を問わず深くつながっているのだろう。今回の企画展を回って，そんなことも考えさせられた。

ヨーロッパゲームコレクター協会公式サイト（ドイツ語）