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「Ryzen Threadripper 2970WX」「Ryzen Threadripper 2920X」レビュー。第2世代HEDT向けCPUの下位モデルは「ゲーマー向け」か?
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印刷2018/10/29 22:00

レビュー

第2世代HEDT向けCPUの下位モデルは「ゲーマー向け」か?

Ryzen Threadripper 2970WX
Ryzen Threadripper 2920X

Text by 米田 聡


 2018年8月6日にAMDは「2nd Gen. Ryzen Threadripper」(以下,第2世代Ryzen Threadripper)のラインナップと価格,発売予定時期を発表したが,そのとき「10月予定」となっていた2製品,

  • Ryzen Threadripper 2970WX
    24C48T,定格3.0GHz,最大4.2GHz,L3キャッシュ容量64MB,TDP 250W,価格15万9800円(税込17万2584円)
  • Ryzen Threadripper 2920X
    12C24T,定格3.5GHz,最大4.3GHz,L3キャッシュ容量32MB,TDP 180W,価格7万9800円(税込8万6184円)

※TDP:Thermal Design Power,熱設計消費電力

が,予定どおり北米時間2018年10月29日付けで登場した。日本市場では10月30日11:00発売予定だ。

Ryzen Threadripper 2970WX(左)とRyzen Threadripper 2920X(右)
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 Ryzen Threadripper 2970WX(以下,2970WX),すでに市場へ登場済みの32コア64スレッド対応製品「Ryzen Threadripper 2990WX」(以下,2990WX),Ryzen Threadripper 2920X(以下,2920X)は同じく発売済みの16コア32スレッド対応製品「Ryzen Threadripper 2950X」(以下,2950X)の下位モデルという位置づけだ。
 今回4Gamerでは,これら第2世代Ryzen Threadripperの4製品すべてを入手できたので,まずはレビュー前編として,ゲーム用途における立ち位置をまとめてみることにしたい。


3コアCCX(=6コアシリコンダイ)ベースとなる2970WX&2920X


 第2世代Ryzen Threadripperの詳細については正式発表のタイミングで西川善司氏が解説しているので,読者諸兄諸姉もほぼ把握していると思う。
 念のため表1に主なスペックをまとめたので参考にしてもらえれば幸いだ。

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製品ボックスは上位モデルと基本的に同じ。ただし(※すぐ下に続く)
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 あらためて簡単に紹介しておくと,第2世代Ryzen Threadripperは,「Zen+」マイクロアーキテクチャを採用したHEDT(High-End Desktop)市場向けCPUである。第2世代Ryzenが持つ自動クロックアップ機能「Precision Boost 2」や,コア温度に余力がある場合にはさらなる動作クロック引き上げを行う「XFR2」(eXtended Frequency Range 2)といった要素をTR4プラットフォームへもたらしたプロセッサと言ってもいいだろう。

(※続き)前面のカバーを取り出すために使うロック解除機構のところは新しくなったようだ。紙製のストッパーが入り,これを取り出して初めてロックを解除できるようになった
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 第1世代のRyzen Threadripperと同じくX399チップセットに対応しているため,すでに市場で豊富に出回っているSocket TR4マザーボードを使えるというのは強みだ。

2970WX(上)と2920X(下)。いずれもTR4パッケージを採用しており,X399マザーボードで利用できる。OPN(Ordering Part Number)は順に「YD297XAZUHCAF」「YD292XA8UC9AF」だった
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第2世代Ryzen ThredripperのCPUパッケージからヒートスプレッダを取り払ったサンプル。4基のシリコンダイが「田」字状に並んでいる
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 Ryzen Threadripperは「MCM」(Multi-Chip Module)と呼ばれる技術を使って1つのCPUパッケージ(=LSIパッケージ)に複数のシリコンダイを実装することで多コアCPUを実現している。
 さらに言えば,ZenベースのCPUでは4基のCPUコアを1つの「CPU Complex」(公式略称「CCX」。以下略称表記)として管理し,2基のCCXを1つのシリコンダイへ統合する仕様になっているわけだが,8月に登場した2990WXと2950XではCCXあたりのCPUコア数が4基で,8基のCPUコアを統合したシリコンダイを4つもしくは2つ用いていた。

 それに対して2970WXと2920XではCCXあたりのCPUコア数が3基となる。採用するシリコンダイの数はそれぞれ上位モデルと変わらないため,2970WXは6×4で24コアCPU,2920Xは6×2で12コアCPUになるわけだ。

 今回の主役である2970WXと2920Xの紹介は以上でまとまってしまうのだが,実のところ,4GamerでWXシリーズの第2世代Ryzen Threadripperをテストするのは今回が初めてだ。そもそもなぜ取り上げてこなかったかと言えば,WXシリーズはゲーム向けと言いづらいハードウェア仕様だからである。

 というのも,第2世代Ryzen ThreadripperでCPU側のメモリコントローラは2ch×2(※合計4ch)となっており,4基あるシリコンダイのうち2基にしかメモリコントローラがつながっていないのだ。したがって,下のブロック図を見てもらうと分かるように,「Die 1」と「Die 3」は,AMD独自の高速インターコネクト技術「Infinity Fabric」でつながる「Die 0」もしくは「Die 2」経由でないとメモリコントローラへアクセスすることができない。

WXシリーズのブロック図。∞マークはInifinity Fabricを示す
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 言うまでもなく,Die 1およびDie 3からメモリコントローラまでの物理的な距離は遠くなり,その分,非常に大きなメモリアクセス遅延が生じる。なのでWXシリーズは,メモリのアクセス遅延によって性能が大きく左右される,それこそゲームのようなアプリケーションを使うのには向いていない。
 さらに言えば,Die 1とDie 3はPCI Express(以下,PCIe)からも遠い位置にある。そのため,Die 1もしくはDie 3に割り当てられてしまったゲームのスレッドは,ゲーム性能の足を引っ張ることになりかねないのだ。ゲームプログラムでDie 1やDie 3に割り当てられたスレッドの処理待ちなどが頻繁に生じると,結果は悲惨なことになるだろう。

 AMDは第2世代Ryzen Threadripperで製品を「クリエイターと先端技術開発者向け」のWXシリーズと「PCマニアとゲーマー向け」のXシリーズと分けているのだが,要するに「WXシリーズをゲーム用途で使う」ことはそもそも推奨されていない点を押さえておいてほしい。

 ならなぜ今回AMDは4GamerにWXシリーズを貸してくれたのかだが,おそらくは,AMDが「Dynamic Local Mode」(以下,DLM)という仕組みを“ひねり出せた”からだろう。
 DLM自体はCPUの機能ではなく,AMD製のオーバークロックユーティリティ「Ryzen Master」を導入すると,WindowsのサービスとしてRyzen Masterと一緒にWindows 10へインストールされるソフトウェアである。「Ryzen Masterを導入すると使えるようになる機能」の1つという理解でいい。

DLMと聞くといかにもWXシリーズ固有の機能のようだが,実際にはRyzen Masterをインストールするとき一緒に導入されるサービスだ。導入すると,Ryzen Masterからサービスの実行と停止を行えるようになる
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 その概要はAMD公式blog内でまとまっているが,簡単に紹介すると,「活動的なスレッドを検出し,そのスレッドをメモリやI/Oが近いシリコンダイ上のCPUコア,つまりWXシリーズにおいてはDie 0とDie 2上のCPUコアに再割り当てするWindowsサービス」である。

 XシリーズのRyzen Threadripperは,「Non-Uniform Memory Access」(以下,NUMA)と「Uniform Memory Access」(以下,UMA)という,2つのメモリアクセスモードを持っていた。AMDはNUMAを「Local Mode」,UMAを「Distributed Mode」とそれぞれ呼んでいる。
 NUMAとUMAの違いは第1世代Ryzen Threadripperのレビューを行ったとき詳しく解説しているので,深く知りたい人はそちらを参照してほしい。

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NUMA(Local Mode)のイメージ。CPUコアとメモリコントローラのペアを1つのNUMAノードとして扱う動作モードである。Windowsはノードにスレッドを割り当てるため,Inifinty Fabricを介したメモリアクセスが抑えられ,メモリのアクセス遅延を下げられる。ただしその代わり,ソフトウェアから見たメモリバス帯域幅は2ch分になってしまう
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UMA(Distributed Mode)のイメージ。4chあるメモリチャネル全体にアクセスできるモードなので,Ryzen Threadripperの持つメモリバス帯域幅を最大限に活用できる。ただし,結果的にInfinity Fabricを介したメモリアクセスが発生するので,アクセス遅延は大きくなる

 Xシリーズで,NUMAとUMAはUEFI(=BIOS)やAMD製オーバークロックユーティリティ「Ryzen Master」から切り換えられる。一方,WXシリーズはNUMAモード固定で,UMAモードを選択することはできない。つまりWXシリーズは「4つのNUMAノードを持つCPU」としてWindowsから扱われることになる。
 Windowsは,4つのNUMAノードを持つCPUを検出した場合,あるプロセスから起動された「メモリを共有するスレッド」を,1つのNUMAノードに集中的に割り当てようとする。WXシリーズの場合だと,Die 0,Die 1,Die 2,Die 3という4つのNUMAノードのどれか1つにスレッドを割り当てようとするのだ。

※お詫びと訂正 初出時,WXシリーズにおけるNUMAノードを「2つ」と誤って記述していました。お詫びして訂正します。

 以上を踏まえてDLMだが,DLMは,Die 1やDie 3のNUMAノードにWindowsが割り当てたスレッドのうち,活動的なものをさらに絞り込み,それをメモリコントローラやPCIeに近いDie 0またはDie 2のノードを再割り当てするサービス(≒常駐ソフトウェア)となる。

DLMによってゲームで最大15%のフレームレート向上が得られるとAMDは謳っている
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 なのでDLMはメモリのアクセス遅延による影響を受けやすいアプリケーションにとってプラスの効果を発揮すると思われるが,だからといってWXシリーズが持つ「問題」を解決に解決できるわけではない。というのは,「活動的なスレッドか否か」は,スレッドが起動されないことには分からないからである。
 スレッドが起動された直後はDie 1やDie 3に割り当てられてしまっている可能性があるわけで,それがDie 0やDie 2に再割当てされるまでにはタイムラグが生じる。また,CPUコア数に応じてドカッとスレッドを起動してしまうようなアプリケーションの場合,Die 0やDie 2に多数のスレッドが割り当てられて,それがオーバーヘッドになる恐れもあるだろう。


DLMの利用法


AMD公式blogより,Ryzen MasterにあるDLM有効/無効切り替えスイッチを橙色の枠で囲んだ例
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 そのDLMだが,Ryzen Masterに付属するサービスなので,Ryzen Masterをインストールすると同時に導入され,Ryzen Masterから有効/無効を切り換えられるようになっている。原稿執筆時点で公開中のRyzen Master(Version 1.4.0.0728)はDLMに対応していないため,今回はAMDから全世界のレビュワーに対して配布されたバージョン1.5βを使うが,先にお断りしておくと,1.5β版Ryzen Masterは,ユーザーインタフェース周りに不具合があるようで,後述するテスト環境ではメインウインドウが開かなかった。

 なので残念ながら「Ryzen Masterから有効/無効を切り換える」模様のスクリーンショットは掲載できないのだが,DLMサービスそのものは1.5β版Ryzen Masterを導入することで2970WX搭載システムから利用できた。Windows上で「管理」→「サービス」を開くと,「AMD Dynamic Local Mode Service」がインストールされていたからだ。

Ryzen Master 1.5βを導入するとAMD Dynamic Local Mode Serviceがサービスとしてインストールされた
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AMD Dynamic Local Mode Serviceのプロパティから[開始][停止]ボタンでDLMの有効/無効を切り替えることができた
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 AMDによると,AMD Dynamic Local Mode Serviceが「実行中」ならDLM有効,「停止中」なら無効になるという。

 というわけで今回は2970WXをテストするにあたって,DLM有効時と無効時の比較も行うことにした(※2990WXではDLM無効時のままとするが,これは純粋にテストスケジュールの都合である)。
 なので今回のテーマは,「ゲーム用途における2970WXと2920Xの立ち位置」ともう1つ,「DLMがWXシリーズにおけるゲームの高速化に役立つかどうか」ということになる。


第2世代Ryzen Threadripper計4製品のゲーム性能を検証


ROG-STRIX-RTX2080TI-O11G-GAMING
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) info@tekwind.co.jp
価格:未定(※2018年10月29日現在)
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 ではテストのセットアップに移ろう。
 今回は,グラフィックスカードを「GeForce RTX 2080 Ti」(以下,RTX 2080 Ti)搭載のASUSTeK Computer製カード「ROG-STRIX-RTX2080TI-O11G-GAMING」へ変更した以外,2950Xのレビューで使った機材をそのまま流用して2970WXと2920X,そして2990WXのテストを行うことになる。具体的には表2のとおりだ。
 比較対象としては何を用意するか迷ったのだが,ひとまず,Intel製のHEDT市場向け10コア20スレッド対応モデルとなる「Core i9-7900X」(以下i9-7900X)を使うことにした。2950Xのレビュー時と揃えたわけである。

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第2世代Ryzen Threadripperテストシステム全景。今回も液冷ヘッドとVRM部分には別途ファンで風を送り冷却した
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 表2には入れていないが,CPUクーラーも2950Xのレビュー時と同じものを使っている。
 Socket TR4用としてはENERMAX Technology製の「LIQTECH TR4」(型番:ELC-LTTR360-TBP)を,またSocket R4用はCorsair製の「Hydro Series H150i PRO RGB」だ。ラジエータサイズとファンのサイズが共通なので,冷却能力にそれほど違いはないだろうと考えている。
 テストにあたってポンプユニットの回転数は最大で固定。3連ファンの回転数も最大で固定した。

 なお,第2世代Ryzen Threadripperでは,マザーボードの電力制限を緩和して,より高い自動クロックアップを行うことを可能にする機能「Precision Boost Overdrive」(以下,PBO)をサポートしている。
 ただし前述のとおり,今回は入手した1.5β版Ryzen Masterは今回のシステムで正常に動作しなかったため,今回,PBOは無効の状態でテストしている。レビュー後編までに2970WXと2920Xに正式対応したRyzen Masterが出たら,そのタイミングでPBOについてはあらためて評価できたらと思う。
 DLMのテストについても前述のとおりで,今回は2970WXのみで有効/無効を切り換えることにする。

 あらためてまとめると,2970WXのDLM有効時(以下,2970WX(DLM有効))と無効時(以下,2970WX(DLM無効)),2920Xの3条件が主役で,比較用としては2950Xと,2990WXのDLM無効時,i9-7900Xの計6パターンとなる。2920Xと2950XのメモリアクセスモードはAMDがゲーム用として推奨しているNUMA(Local Mode)で統一した。

 なお,テストにあたってはXMPを有効化し,メモリアクセス設定をDDR4-3200とするよう指定が入っていることから,すべてのテスト対象でメモリアクセス設定はDDR4-3200(14-14-14-34)で統一している。AMDがレビュワーにオーバークロック設定を行うよう要請しているので,それに従った次第だ。

 前編で実行するテストは,4Gamerのベンチマークレギュレーション22.0に準拠したゲーム性能検証と,「Open Broadcaster Software」(Version 22.0.2,以下 OBS)を用いたゲームの録画テストとなる。

 実ゲームの解像度は2560×1440ドットと1920×1080ドット,1600×900ドットの3パターンとした。前2者が現実的な解像度環境でのテスト,後1者はCPU性能の違いが出やすいテストという位置づけである。


3DMarkでは負荷の低い状況でDLMの効果を確認できる


 まずは定番の「3DMark」(Version 2.6.6174)から,テスト結果を考察していこう。
 グラフ1は3DMarkのDirectX 11テストである「Fire Strike」の総合スコアをまとめたものだ。2970WXのDLM有効/無効を比較してみると,描画負荷が高まり,GPU性能がスコアを左右する傾向の強まる「Fire Strike Ultra」と「Fire Strike Extreme」ではほぼ横並びのスコアになる一方,相対的にCPU性能がスコアを左右しやすくなる“無印”ではDLM有効時のスコアが約8%高い。これはDLMの効果を実証する結果と言っていいだろう。
 また,“無印”における2970WX(DLM有効)のスコアが(DLMを無効化している)2990WXより約5%高い点にも注目したい。2970WXのCPUコア数は2990WXの75%しかないわけで,にも関わらずスコアで上回るところからもDLMの効果は確認できるわけだ。

 一方,2920Xのスコアも興味深い。2950Xに対してFire Strike Extremeで約90%,“無印”で約83%である。動作クロック設定はほぼ同じで,CPUコア数では75%になっているCPUとしては健闘した結果と言っていいように思う。

 全体を眺めると,2950Xのスコアが光り,また今回のテストでDLMが無効となる2990WXは予想どおりかなり厳しい結果なのが分かる。

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 続いてグラフ2はFire StrikeのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものになるが,真っ先に目を惹くのは2990WXの低いスコアだろう。グラフィックス負荷の高いFire Strike Ultraでこそ相対的なGPUボトルネックによってスコアが丸まっているものの,Fire Strike Extremeより負荷の低いテスト条件では明らかに置いて行かれている。
 これは推測だが,コア数が多い2990WXでは2970WXよりさらに多くのレンダリングスレッドが立ち上がっているのが原因かもしれない。前述したようにレンダリングスレッドは特定のNUMAノードに割り当てられるので,16コアに対して2chのメモリコントローラしか持たない2990WXだとメモリバス帯域幅がボトルネックになってしまう。2970WXは12コアに対して2chのメモリバスなので,2990WXと比べればまだ多少マシだというのが結果に反映されているのではなかろうか。

 さて,その2970WXだが,DLM有効/無効の傾向を見ると,“無印”で有効時のスコアが無効時比で約5%高くなった。総合スコアと似た傾向といっていいだろう。
 2920Xが“無印”で2950Xを上回ったのも興味深い。NUMAを選択しているので,メモリバスのボトルネック的にCPUコア数の少ない2920Xが優勢となった可能性がある。

 全体として安定したスコアを残したのはi9-7900Xだ。メモリやI/O周りがラディカルでひねりがある第2世代Ryzen Threadripperに比べると,GPU性能の引き出し方ではCore Xに分があるということなのだろう。

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 グラフ3はFire StrikeのCPUテストとなる「Physics test」の結果をまとめたものだ。ここでもまず目立つのは2990WXの低いスコアで,同じDLM無効時で比較しても2970WXの77〜90%に沈んでいる。これもメモリバスがボトルネックになった結果と見ていい。

 2970WXにおけるDLMの効果はばらつきがあり,Fire Strike UltraだとDLM有効時のスコアが無効時により約7%高いかと思うと,Fire Strike Extremeでは約98%と若干低く,“無印”では横並びだった。Physics testは解像度にそれほど影響されないテストなので,おそらくブレだろう。多数のスレッドを回すPhysics testだとDLMで特定のコアに集中させるのが必ずしも有利にならないという結果かもしれない。

 2920Xはなかなか優秀で,i9-7900Xをやや上回るスコアを残している。2950X比だとFire Strike Ultraで91%,Fire Strike Extremeで83%,無印のFire Strikeだと92%といずれもコア数比を上回る結果を残しているのも目を惹くところだ。

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 CPUとGPUの双方に負荷をかける「Combined test」では,ここまでまったく振るわなかった2990WXが好成績を残しているのが目立つ(グラフ4)。2970WX(DLM無効)と比較するとFire Strike Ultraで横並び,Fire Strike Extremeだと2990WXが約24%,“無印”ではなんと約72%も高い結果を残した。

 2920Xと2950Xの比較も似た形で,コア数が多い2950Xは,Fire Strike Ultraでほぼ横並び,Fire Strike Extremeで約52%,“無印”では約77%も高いスコアを示している。Combined testではレンダリングスレッドと別に物理演算のスレッドも回るテストなので,Ryzen Threadripperの変則的なアーキテクチャに合っているのではなかろうか。

 2970WXにおけるDLM有効時のスコアはやや荒れているが,全体としては「描画負荷の低い条件でよい効果が出やすい」形にはなっている。具体的にはFire Strike Ultraだと横並びで,Fire Strike ExtremeだとDLM無効が逆に約2%高く,無印だとDLM有効が約18%高いという結果だ。

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 3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の総合スコアをまとめたものがグラフ5となる。
 4K解像度相当のTime Spy ExtremeはFire Strike以上にGPU性能がスコアを左右するテストなので,全体としておおむね横並びとなっているが,ここでは2990WXが僅差でトップを取っている。また,2970WXのDLM有効,無効ともに2950Xより高いスコアを残しているので,どうやらTime Spy ExtremeはWXシリーズ有利に働くようだ。

 ただ,2560×1440ドット相当のTime Spy“無印”ではがらりと様相が変わり,i9-7900Xがトップ,次点が2950X,その次に2920Xと来て,WXシリーズは最下位争いを演じることになっている。とくに2990WXのスコアはダントツで低い。
 これもFire Strikeと同様,WXシリーズでは相対的な低負荷時にメモリ周りのボトルネックが健在化しやすいということではないかと思う。

 2970WXにおけるDLMは,Time Spy Extremeだと有効/無効に関わらず横並びで,これはGPUのスコアが支配的だからだろうが,Time Spy“無印”でDLM有効時が無効時比で約93%のスコアに留まった点は押さえておきたいところだ。
 Direct X12だとレンダリングスレッドの作り方がDirectX 11世代とは少し変わるので,特定のコアにスレッドを集中させるDLMがマイナスに作用してしまうのかもしれない。

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 グラフ6はTime SpyのGPUテストである「Graphics test」のスコアを抜き出したものである。
 GPU負荷の高いTime Spy Extremeではおおむね横並びで,またTime Spy“無印”のスコアは総合スコアとほぼ同じ傾向が出ている。3DMarkは総合スコアに占める「Graphics test」の割り合いが大きいので,だいたい同じ形になるものだ。

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 Time Spyの総合スコアから「CPU test」の結果を抜き出したものがグラフ7で,Time Spy Extremeだと2990WXが僅差でトップとなった,2970WXは2番手という形で,おおむね総合スコアと同じ並びになっている。

 一方,解像度が低いTime Spyに目を移すと2990WXのスコアはガクッと下がり,i9-7900Xがトップを取るという,ここも総合スコアを極端にしたような形になった。

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 以上,WXシリーズのスコアは総じて厳しめながら,かなり絶望的な2990WXと比べれば2970WXのスコアは良くなっていると言える。メモリチャネル数が16コアあたり2chと相当にアンバランスな2990WXと比べ,12コアあたり2chになる2970WXのほうがまだ「見られる」スコアを出せるというのはかなり納得できる話だ。

 2970WXにおけるDLMの効果は基本的にあると言ってよさそうだが,DirectX 12テストとなるTime Spyで有効時にスコアを落としたりする点は少々気になった。
 一方の2920Xはまずまず順当。2950Xとのコア数比を考えると良好な結果が出ているように思う。


DLMの効果はタイトルにより変わる結果に。2920Xは健闘


 以上を踏まえ,実ゲームを用いたベンチマークテスト結果の考察に移ろう。グラフ8〜10は「Far Cry 5」のスコアをまとめたものである。

 ここでも真っ先に目につくのは2990WXの惨憺たる結果だと思うが,これは間違いでもミスでなく現実のスコアである。実際,2990WXで実際にゲーム画面を見ていても動きはカクカクで,RTX 2080 Ti搭載システムとはとうてい思えない結果になっていた。CPUとグラフィックスカードだけで合計40万円を超える価格なので,もしゲーム目当てで2990WX搭載“ゲームPC”を買い,Far Cry 5の画面を見たら泣きたくなるだろう。

 なぜこういう結果になるのかは推測の域を出ないが,Far Cry 5はメモリアクセス周りのボトルネックに敏感なアプリケーションだという可能性はある。2970WXで2990WXに比べるとかなりマシなフレームレートが出ていることからするに,CPUコア数に応じたレンダリングスレッドをガッと立ち上げてしまうタイプなのかもしれない。

 その2970WXにおけるDLM有効/無効の違いがはっきり出ているのは3DMarkとの違いだ。DLM有効時における平均フレームレートは無効時に対して9〜18%程度高い。最小フレームレートも目に見えて上がっているので,Far Cry 5をプレイするならDLMを有効化したほうがいいと言えるはずだ。

 もっとも,そんな2970WXも2920Xにはまったく歯が立たない。というか,2920Xのフレームレートは2950Xを上回り,i9-7900Xに対しても互角以上に立ち回るという結果になった。

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 続いてグラフ11〜13はOverwatchのスコアである。Overwatchは300fpsでキャップがかかるのだが,ほぼすべてのテスト条件で平均フレームレートはその影響を受けている。
 そのなかで興味深いのは,2970WXのの最小フレームレートにDLM有効/無効の影響が見られることだ。2560×1440ドットではほぼ横並びながら,より描画負荷が低くなる1920×1080ドットでは約16%,1600×900ドットでは約24%もDLM有効時の最小フレームレートが高かった。つまりカクつきの原因がそれだけ減ったわけで,メモリやI/Oに近いCPUコアへスレッドを移動させるDLMの効果が出ていると言える。

 もう1つ気になるのは2560×1440ドット時に2920Xと2950Xの最小フレームレートが落ちている点だ。はっきりした理由は分からないが,シリコンダイが2基のみ有効になっている第2世代Ryzen Threadripperでは高負荷時に何かがOverwatchの足を引っ張るようである。あり得る可能性としてはI/O性能あたりだろうか。

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 グラフ14〜16は「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」(以下,PUBG)の結果だが,ここで第2世代Ryzen Threadripperはややバラつきのあるスコアを残している。
 まず2970WXでDLM有効/無効の違いを見ると,DLM無効時のほうが平均フレームレートは高かった。最小フレームレートはおおむね横並びなので,PUBGはDLMが逆効果になるタイトルとまとめられそうだ。

 2990WXの平均フレームレートはそんな2970WXよりやや高く,CPU性能差が最もスコアを左右しやすい1600×900ドット条件では10fps弱のギャップを築いている。また,全体としてスコアが低すぎるということもないので,PUBGをプレイしていて悲しくなるようなことはないだろう。

 2920Xのフレームレートもなかなか優秀で,平均,最小フレームレートともに2950Xとほぼ同程度のフレームレートを得られている。

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 「Fortnite」のスコアをまとめたものがグラフ17〜19となる。
 2560×1440ドットでは相対的なGPUボトルネックにより,ほぼ横並びといっていい結果になった。一方,1920×1080ドットと1600×900ドットの両条件では,2970WX(DLM有効)が平均フレームレートで2970WX(DLM無効)に対して18〜21%程度高いスコアを示した。最小フレームレートも前者のほうが高いので,分かりやすいスコアだと言えそうだ。

 一方,2920Xの平均フレームレートは,どの解像度も2950Xよりやや低めとなった。ここはCPUコア数が効いているようだ。
 それが理由か,ここまで振るわないことが多かった2990WXがほかのCPUと遜色のない平均フレームレートを出しているのも興味深い。PUBGに引き続きFortniteも,2990WXを使って悲しい思いをする必要はないだろう。

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 「Middle-earth: Shadow of War」(以下,Shadow of War)の結果はグラフ20〜22にまとめたとおりだ。

 2970WXにおけるDLMは描画負荷が低いほど効果があるようで,2560×1440ドットでは約2%しか違いがないのに対し,1920×1080ドットでは約11%,1600×900ドットでは約15%に開いていく。
 もっとも,2560×1440ドット時は最小フレームレートでDLM有効時が無効時を約43%も上回っているので,総じてDLMの効果はあると言っていい。スレッドをメモリやI/Oに近いコアに割り当て直すことでカクつきを減らせたと見ることができるからだ。
 なお,2990WXも最小フレームレートが低いが,これはDLMが無効なので,メモリやI/Oが遠いコアに割り当てられたスレッドが足を引っ張ったためだろう。

 2920Xはここでもまずまずの結果を残した。2560×1440ドット時に最小フレームレートが2950X比で約10fps低いのは気になるものの,それ以外のテスト条件では2950Xとほぼ互角のスコアになっている。

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 「ファイナルファンタジーXIV: 紅蓮のリベレーター」の公式ベンチマーク(以下,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチ),その総合スコアがグラフ23となる。
 ここでは2920Xのスコアが非常に優秀で,2950Xに対してほぼ互角。FFXIVはIntel製CPUに最適化されているが,i9-7900Xに対しても優勢に立ち回っている。

 2970WXでDLM有効/無効の違いがはっきり見えるのもFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチの特徴と言え,2560×1440ドット時で約22%,1920×1080ドット時で約18%,1600×900ドット時で約19W%も2970WX(DLM有効)が2970WX(DLM無効)を上回った。

 もっとも絶対的なスコアだと2970WX(DLM有効)ですら2920Xの84〜93%程度なので,WXシリーズが不利なことは明らかだ。さらに2990WXは1920×1080ドット時と1600×900ドット時のスコアがほとんど同じという,いったい何が起きているのかというスコアになっている。
 いずれにしても,FFXIV紅蓮のリベレーター ベンチはCPUコア数分のスレッドをどかっと立ち上げるタイプのゲームなので,メモリ周りにボトルネックを抱えるWXシリーズが苦手とするタイプであることはほぼ疑いない。

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 グラフ24〜26はそんなFFXIV紅蓮のリベレーター ベンチの平均および最小フレームレートをまとめたものだが,結果は総合スコアをおおむね踏襲したものと言っていいだろう。

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 「Project CARS 2」のテスト結果はグラフ27〜29にまとめたが,ここでは2970WX(DLM有効)の平均フレームレートが2970WX(DLM無効)比で87〜91%程度に沈んだ。結果として2970WX(DLM有効)と2990WXのスコアが並んで再開といった感じになっている。
 2970WX(DLM有効)と2990WXの以外のスコアは,乱暴にまとめてしまえばほぼ横並びである。

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 以上,ゲームでのテスト結果を見てきたが,2920Xは2950Xと動作クロックがほとんど変わらないこともあってか,ゲームの快適性はそれほど変わらない可能性を示唆する数字が出ている。ゲームPC用HEDTシステムでCPUコア数よりもPCIeの充実した接続性にこそ魅力を感じているような人に,2920Xはかなりよい選択肢となるのではなかろうか。

 一方の2970WXのほうは,2990WXよりはマシだが,ゲーム用途に向いているとはやはり言いがたい。DLMというWindowsサービスの効果もゲームによってバラつきがあり,「効果あり」と言い切れる結果が出ている一方で逆効果になってしまうケースもあったりと,WXシリーズをゲーム用途で使う難度をさらに上げている雰囲気すらある。
 なぜDLMの効果にばらつきが出るのかに関しては,続編でさらに追求してみたいと思う。


ゲーム録画では「コア数こそ正義」に


 続いてはOBSを使ったゲーム録画をチェックしていこう。
 テストにあたってのOBS録画設定は下に示したスクリーンショットのとおり。エンコーダとして「x264」を使い,「fast」プリセットに「animation」チューニングを加えたうえで10MbpsのVBRで出力するという,リアルタイムエンコードとしては相当に“重い”ベンチマーク向けの高負荷設定である。

 なお,ゲーム録画にあたっては2920Xと2950XでUMA(Distributed Mode)に切り換えている。「録画ではUMAが有利」という結果が「Ryzen Threadripper 1950X」のテストで出ているためだ。

今回のテストにおけるOBSの録画設定
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 まずは2560×1440ドットの結果から見ていこう。下に示した動画では2970WX(DLM有効),2970WX(DLM無効),2920X,2950X,2990WX,i9-7900Xの順に結果をつなげているが,通しで再生してもらうとすぐに分かるのは,2920Xとi9-7900Xはカクカクで,2560×1440ドットの解像度にCPUパワーが追いついていないことだ。2920Xのほうが若干マシに見えるものの,その程度であり,このクラスの高負荷条件では実用にならないのが分かる。

 一方,2970WXと2950X,2990WXはいずれも実用的な動画が得られているが,左上に出しているフレームレート表示を見ると,少なからず違いがあるのが分かる。
 2970WXでは,DLMを有効にしたほうが明らかに滑らかで,かつフレームレートも出ている。2950Xよりもやや高かったりもするので,DLMを有効化することでコア数比に応じた性能が得られるようになっていると言ってよさそうだ。

 2990WXも録画データはスムーズで,フレームレートもそこそこ出ている。普通にゲームをプレイするだけだと振るわなかった2990WXだが,ゲーム録画のような「重いこと」をやらせると32コアが威力を発揮するということなのだろう。


 続いて1920×1080ドットを見ておくが,結論から先に言うと,今回用意したすべてのCPUでそつなくこなせている。この解像度条件では違いが目に見えにくい。


 以上,実ゲームでは優秀だった2920Xだが,ゲーム録画のよう“重い”処理をやらせるとHEDT向けで12コアというコア数の少なさ――デスクトップPC向けCPUとしてはそれでも十分に多いのだが――が表面化してしまうという結果になった。
 HEDTプラットフォームをゲームのためだけに導入するPCユーザーはまずいないと思われるので,マルチコアが必要な処理で上位モデルと比べて一歩及ばないという事実は比較的重いのではと考えている。


消費電力は相変わらず優秀


 ゲームやゲーム録画時の消費電力を確認しておこう。
 4Gamerではベンチマークレギュレーションレギュレーション20世代以降で「EPS12Vの電流を測り,12を掛けて電力換算する」方法を採用している。この方法ならCPU単体のおおよその消費電力が推測できるからだ。
 ただ,電気代という現実的な運用コストに関わるシステム全体の消費電力も目安として知りたい読者は多いだろうということで,システム全体の最大消費電力も併せて掲載することにしている。

 さて,最初はCPU単体の消費電力の中央値からだ。グラフ30に示した値は「CPUでアプリケーションを実行したときの典型的な消費電力」と考えてもらって構わない。
 ゲーム実行中における2970WXの消費電力中央値は,DLM有効時に37.1〜56.6W,DLM無効時に35.5〜63.1W。DLM無効時のほうがやや高めに出ているが,それが「スレッドの割り当て変更による負荷の変動によるもの」か否かは,もう少し調査する必要があるだろう。
 2990WXの消費電力がやたらと低いのが気になるかもしれないが,ゲームのフレームレートも低いので,「ろくにCPUが“回って”いない」可能性が高いように思う。

 一方,2920Xは2950Xより若干低い程度に収まった。「2950Wより若干低い」というのは,12コア24スレッド対応というスペックからして順当と言える。

※そのまま掲載すると縦に長くなりすぎるため,簡略版を掲載しました。グラフ画像をクリックするとスコアの値を含んだ完全版を表示します
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 EPS12Vの最大値,そして,無操作時にディスプレイ出力が無効化されないよう指定したうえでOSの起動後30分放置した時点(以下,アイドル時)のスコアをまとめたものがグラフ31だ。
 ここで目を惹くのは,Far Cry 5のスコアが2970WX(DLM有効)を除いて軒並み高いところだ。もしかすると,2990WXでFar Cry 5のフレームレートが極端に出ない原因の1つに,このピーク消費電力が関連している可能性はある。他のタイトルとCPUの使い方がかなり異なることをここでのスコアは示しているからだ。

 一方,Xシリーズだと,中央値で2950Xよりやや低めの消費電力を記録した2920Xが,ピークは2950Xよりやや高い結果になった。とくにゲーム録画では160Wを記録するなど2950Xより明らかに高いピークを記録している。
 「通常使用時の消費電力は2950Xより低いが,負荷が高まると相応に電力を使用するCPU」と見て良さそうである。

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 ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,各テスト実行時点にそけるシステム全体の最大消費電力とアイドル時の消費電力をまとめたものがグラフ32だ。今回はGeForce RTX 2080 Tiという消費電力が飛び抜けたGPUを組み合わせているため,ゲーム実行中のシステムの消費電力はグラフィックスカードによるものが支配的となり,CPUごとの違いは分かりにくいものになった。

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 いずれにしても,本稿の主役である2920WXと2920Xの消費電力は優秀と言っていいように思われる。


ゲーム用途に絞れば2920Xはそう悪くないが,HEDT向けとしてはコア数が不足気味


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 スケジュールの都合から,ゲーム性能とリアルタイム録画に絞ってテストを行い,その結果をひとまずレビュー前編としてまとめることにした本稿だが,まず,4Gamerとして今回初めて評価するWXシリーズのRyzen Threadripperは,やはりゲーマーがゲーム性能を求めて買うようなCPUではないと断言してしまっていい。
 AMDご自慢のDLMはWXシリーズの抱える難点をかなりの割合で緩和してくれるが,してくれないこともあり,しかもその場合は逆効果になり得る。DLMがWXシリーズをゲーマー向けCPUに変えてくれるわけではないので,Ryzen Threadripperベースで配信などを想定したゲームPCを作りたいという場合には十分に注意してほしい。

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 一方2920Xは,Ryzen ThreadripperというCPUに期待されるCPUコア数としてやはり中途半端な印象がある。とくに,デスクトップPC向けRyzen 7の登場によって8コア16スレッド対応CPUが当たり前になったいまの時代において,「プラットフォームまで変えるのにRyzen 7比でコア数1.5倍」というのはインパクトを欠くと言わざるを得ない。

 なので,ゲームテストの段でも触れたとおり,2920Xは,Ryzen Threadripperの充実した拡張性をゲーム用途で活かしたいが,CPUへの投資はできる限り抑えたい人向けということになるのではないかと思う。筆者は先に現行世代のHEDT向けプロセッサとしては2950Xがベストチョイスではないかという話をしたわけだが(関連記事),今回のテストを通じて,その思いをあらためて強くした次第だ。

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 第2世代Ryzen Threadripperが正式発表となったタイミングで,AMDが「PCマニアとゲーマー向け」と位置づける16コア32スレッド対応モデル「Ryzen Threadripper 2950X」を入手することができた。果たして第1世代からは何が変わり,競合製品との力関係はどう変化したのか。テスト結果をお届けしたい。

[2018/08/13 22:00]

 というわけで,前編はここまで。後編ではDLMの特性をさらに掘り下げつつ,ゲーム用途以外に向けた性能をチェックしたいと思う。

AMDのRyzen Threadripper製品情報ページ

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