インタビュー
「Pokémon GO」はなぜこんなにも人々の心を掴んだのか――その裏側とこれからの方向性を開発者に聞く
“いいものを作る”ビジネスはそれから――
歩く行為を止めないヘルシーな課金
しかしダウンロードの勢いが落ち着いたにも関わらず,セールスランキングの上位にいるということは,プレイヤーがいまだに遊んでいるということですよね。
野村氏:
そうですね。セールスランキングと言えば,最初から課金に関して両社の意見が合致していたことで,面白いもの,良いものを作ることにフォーカスできたと思っています。
4Gamer:
課金を“ヘルシー”に。
野村氏:
はい。ビジネスとして成立させなければならないのももちろんですが,まずはいいものを作る。ビジネスはそれからでいい。
4Gamer:
以前,川島優志氏が話していた“良い製品を作ればお金はあとからついてくる”という,Googleの文化ですね。
野村氏:
ええ。一部の人が重い課金をするようなガチャはやりたくない,それが共通の意識でした。広い層にちょっとずつお金をいただく,理想としていたビジネスモデルが形になりました。
4Gamer:
100万人から100円課金してもらうという,広いマネタイズのスタイルは一種の理想なわけですが,それを実現しかけている作品は初めて見たかもしれません。
宇都宮氏:
これは曽羽さんが頑張ってくれました。彼は弊社に入る前は,いわゆるガチャゲーを作っていた人で,マネタイズに関しての知識が豊富なんです。
そうですね,かれこれ10年ぐらいガチャに携わっていました(笑)。
しかしここに来て,広い層から少ない金額を払ってもらう形態にチャレンジするにあたり,単純にプレイヤーへストレスをかけてお金をいただく形にはしたくなかったんです。ユニットを強くするために,いいカードが欲しいからといったPay to Winを煽るような商品ではなく,“歩く行為を止めない商品”になるよう心がけました。
4Gamer:
なるほど,そういうコンセプトですか。道具を買うから歩こう,歩くから道具を買おう。
曽羽氏:
そうです。例えば,経験値が2倍になる「しあわせたまご」や,たまごを孵化させる「ふかそうち」は,買ったらまた歩きたくなりますよね。買うから歩く,歩くから買う,このループを発生させるものが“歩く行為を止めない商品”なんです。道具は買わなくても大丈夫,けれど,使ったらちょっとお得になりますという効果ですし。
4Gamer:
その“ちょっとお得”に結構払っている気がします(笑)。
宇都宮氏:
いやいや,僕らからすると,誰がお金を払うんだろうという感じだったんですよ。
4Gamer:
サービスを継続していくうえで重要なアイテムのラインナップは,誰がどのように決めたんですか?
曽羽氏:
フィールドテストで,テスターがどんなアイテムを好むのかを観察して,野村さんと相談しながらラインナップを決めています。日本とアメリカで好まれるものが違っていて,何回もトライ&エラーを繰り返しながら。
そういえば,「Pokémon GO Plus」も一種のリアル課金商品ですよね。発売日が東京ゲームショウ2016の真っ最中でしたが,無事当日に購入できました。
野村氏:
おお,ありがとうございます(笑)。画面に注視しなくて済む設計になっているので,「Pokémon GO Plus」はサポートツールとしていいですよね。
4Gamer:
軽い気持ちで買ってみましたが,なんだこの便利さは,と。投げられるモンスターボールを変えたいといった要望はいずれ出てくると思いますが,僕個人としては,特定のアクションを無視する機能をつけてほしいです。例えば「ポケストップは無視してよい」とか。(※編注:10月13日のアップデートにてPokémon GO Plusの通知設定が可能に)
(一同:あ〜。分かります)
曽羽氏:
それも議論はされていましたね。
河合氏:
野村が設定を増やすのを嫌がったんですよ。なかなか難しいところです。
4Gamer:
機能追加の予定はあったりしますか?
野村氏:
アプリがローンチしてから2か月,「Pokémon GO Plus」においてはまだ発売から2週間の段階(※編注:インタビュー実施は2016年9月27日)なんですよね……機能追加の予定は一応ありますが,具体的に何をするかはお話できません。
2つの軸をいかに両立させるかが課題――
これからのことを聞いてみる
4Gamer:
おそらく「今後どのようなアップデートをするんですか?」と質問しても,お答えいただくのは難しいですよね。
野村氏:
次はフィールドの追加を……というのは冗談です(笑)。
4Gamer:
(笑) おそらくこれも繰り返されている話だと思うんですが,「もう少しゲーム性があってもいいんじゃないか」という見解は一定数あると思います。現にゲームらしさを求めるコアゲーマーは離脱しつつあり,シンプルさに惹かれているカジュアル層は遊びつつけています。今後はどっちの方向に寄せていくんでしょうか。またはどっちにも寄せないんでしょうか。
野村氏:
先ほども述べましたが,ローンチしてからまだ2か月で,やりたいことの1割ぐらいしか実現できていないのが現状です(参考記事→こちら)。間口の広さを保ったまま深みも持たせようと開発中も話していましたが,安易にカジュアル層,コアゲーマー層,どちらか一方をターゲットにしてしまうと間口が狭くなってしまう。この2つの軸をいかに両立させるかは今後の課題だと思っています。
4Gamer:
ゲーム性を強くすることによって生じるであろう初心者層の脱落と,ゲーム性が強くならないことによって生じるコアゲーマー層の脱落という,いつも業界が悩む問題ですよね。
野村氏:
実際にそれを進めていくのは難しいとは思いますが,両方のバランスをとっていきたいです。「ポケモンを捕まえる」手軽さを維持しつつ,ジムバトルなどのゲーム性により深みを与え,コアゲーマーも楽しめるような仕組みにしていきたいです。
4Gamer:
しかしバランスもそうですが,これだけ魅力的なキャラクターを使ったIPですし,相棒機能も付いたところなので,今後はぜひ「固有のポケモンにより愛着が感じられる」方向でのアップデートに期待したいのですが,そういった方向性については考えていますか? いまだとまだ“数値を持ったグラフィックス”でしかない部分もあるように感じてまして。
野村氏:
もちろんです。それぞれみなさんの好きなポケモンを,より身近に感じていただけるような機能を追加していきますよ。
ゆくゆくは,相棒ポケモンが“ピカチュウバージョン”のようにトレーナーの後ろについて歩くようになるといいんですけど。
野村氏:
あれは僕も大好きです!
4Gamer:
そういえば,「Pokémon GO」でもピカチュウの声は声優の大谷育江さんのものなんですね。
野村氏:
2013年にリリースされた「ポケットモンスター X・Y」でアニメのピカチュウの声優として世界中に親しまれている大谷さんの音声になったのですが,世界で配信される「Pokémon GO」としては,やはり同じ音声にしたいと考えて新たに収録して採用しました。
4Gamer:
ピカチュウは,10km歩けば肩に乗ってくれるとかあって,やはりずいぶん扱いが違うなぁと思いました(笑)。僕の大好きなヒトカゲもぜひお願いします……。
野村氏:
あの肩乗りのアイデアはNianticがミッションとして掲げている「人々により外で出歩いてほしい」という想いから生まれました。いいですよね,あれ。
4Gamer:
確かに,肩に乗ってもらうためだったら歩きますねえ。
野村氏:
はい(笑)。
4Gamer:
今後の方向性を話すうえでは,田舎と都会にポケストップの差があることにも触れておきたいのですが……ポケモンの発生数そのものにも大きな差がありますよね。私自身が大変な田舎に住んでいて,東京のど真ん中に通っているので,その差を切に感じています。
野村氏:
はい,まだ改善の余地はたくさんあると思っています。今後も,住んでいる場所に関係なくみなさんに楽しんでいただけるよう,さまざまなバランス調整を続けています。
4Gamer:
始めた当初は田舎のポケストップの少なさに愕然としました。マクドナルドやソフトバンクとのパートナーシップ締結によって数が増えたとはいえ,車で移動しないとポケストップにたどり着けなくて,田舎暮らしとしては赤白のモンスターボールでさえ貴重ですし。
野村氏:
ポケストップについては,今後自治体との取り組みを強化していき,地方に存在する名所,旧跡,公共空間における芸術作品などの情報を上手に拾っていく仕組みを考えているところです。
4Gamer:
そういえばつい先頃岩手/宮城/福島/熊本と連携した取り組みを発表してましたね。ポケストップとジムの設置,イベントの開催を検討しているということで,個人的にちょっと気になっています。
さて,もう一つデリケートな話題なんですけど,大小問わずいくつか社会的な問題が起こっていますよね。
野村氏:
ええ。
4Gamer:
人を外へ連れ出し,現実世界を舞台に遊んでもらうとなると“ながらスマホ”や立ち入り禁止区域への侵入,プレイヤーによる明らかな法律違反といった,さまざまな事象が起こってしまっています。
野村氏:
おっしゃるとおりです。「Pokémon GO」は,プレイヤーのみなさんを現実世界での冒険に誘い,人々につながりをもたらし,世界を少しでも良い場所にしようという理念のもと,開発されました。実際に家の外へ出て自らの足で世界を歩きまわることではじめて楽しさを実感できるゲーム性ゆえに,サービスを続けていくうえでもさまざまな課題があることは否定できません。
4Gamer:
ここまでの普及を見せた以上,みなさんには「社会に影響を与えるゲーム」を作った先駆者としての責任が付いて回ってしまうと個人的には思っています。その課題に,今後どのように対応していくのでしょうか。
野村氏:
現時点では,これらに関する対策について具体的なことは申し上げられませんが,引き続き,周囲に十分に配慮した遊び方をしてくださるように,ユーザーのみなさんに,製品やこのような広報の機会を通じ,周知に努めていきたいと思います。(※編注:2016年10月7日にポケモンと日本自動車連盟による“ながらスマホ”を防止の注意喚起や啓発活動などの取り組みが発表された)
4Gamer:
ではそういった課題をクリアして人々のライフスタイルに根ざしていく中で,今後「Pokémon GO」がどのような未来を描いていくと思いますか。
野村氏:
近い将来で言うと,「Pokémon GO」によって人々のコミュニケーションがさらに増えることを期待しています。
4Gamer:
人と人とのコミュニケーション――つながりによって「Pokémon GO」の輪が広がったことで,これまで一般的ではなかったARを使用したリアルワールドゲームが,今まで以上に身近になったように思います。
野村氏:
ええ。「Ingress」や「Pokémon GO」によってリアルワールドゲームという新しいゲームジャンルを確立したと思っています。今後もこのジャンルでさまざまなゲームが出てくるかと思いますが,一緒に盛り上げていけたらうれしいです。
4Gamer:
遠い未来で言うと?
野村氏:
今のAR技術の進歩は日進月歩なので,進化したモバイルやウェアラブルを通じて,「Pokémon GO」の世界をよりリアルな体験としてお届けできるようになると信じています。
4Gamer:
なるほど。いろいろとありがとうございました。
ちょっと最後がシビアな話だったので,最後にみなさんがどのポケモンを好きなのか聞いて締めにしたいと思います(笑)。できれば「Pokémon GO」に登場するものの中でお願いします!
曽羽氏:
ええと……初めて「ポケットモンスター 赤・緑」をプレイした時に,最初のパートナーに選んだフシギダネですね。
4Gamer:
フシギダネ,ヒトカゲ,ゼニガメの御三家ですね。
曽羽氏:
やっぱり思い出として鮮明に残っていますし,タネから成長してハナになる部分も素敵だと感じています。
4Gamer:
野村さんは?
野村氏:
好きなポケモンはたくさんいるのですが,とくに好きなのはカビゴンですね。カビゴンは「起きるのは食べるときだけ」というのが特徴なのですが,そこに親近感を覚えています。
4Gamer:
なんでそこに親近感を感じているんでしょうか……(笑)。
野村氏:
ご想像にお任せします(笑)。
河合氏:
僕はコダックです。あの頭を抱えてるところが好きですね。仕事の時はあんな感じなので。あと,やる気になって光る瞬間があるところもいいです。
4Gamer:
何かを考えているような,そうでないようなユルさが魅力ですよね。宇都宮さんは?
宇都宮氏:
コイキングですね。
4Gamer:
これまた渋い……。懸命にはねている姿がなかなか印象的ですけど,どこに惹かれているんでしょう。
宇都宮氏:
弱いものに対する愛,そしてユーモアとやさしさにあふれた,僕にとって“一番ポケモンらしい”と思えるポケモンだからです。
4Gamer:
最後に“大化け”するのも魅力ですよね。集めるの大変ですけど……。
本日はありがとうございました。
―――2016年9月27日収録。
「Pokémon GO」ダウンロードページ
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(C)2017 Niantic, Inc. (C)2017 Pokémon. (C)1995-2017 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
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