DEATH STRANDING 2（仮称）が発表された今あらためて読みたい，安部公房「無関係な死・時の崖」（ゲーマーのためのブックガイド：第10回）

　「ゲーマーのためのブックガイド」は，ゲーマーが興味を持ちそうな内容の本や，ゲームのモチーフとなっているものの理解につながるような書籍を，ジャンルを問わず幅広く紹介する隔週連載だ。気軽に本を手に取ってもらえるような紹介記事から，とことん深く濃厚に掘り下げるものまで，さまざまなテーマでお届けする。
　第10回で取り上げるのは，安部公房の短編集「無関係な死・時の崖」。「DEATH STRANDING」に影響を与えたことで知られる「なわ」が収録された短編集を，デスストの新作発表で沸く今，あらためて紹介しよう。

無関係な死・時の崖 (新潮文庫）

画像は「DEATH STRANDING」

　先日（2022年12月9日）The Game Awards 2022にて発表され大きな話題となった，“DS2”ことコジマプロダクションの新作「DEATH STRANDING 2」（仮称）。「DEATH STRANDING」と言えば，安部公房の短編「なわ」が作品のベースとなる部分に影響を与えていることを知る人は少なくないだろう。同作では“「なわ」は、「棒」とならんで、もっとも古い人間の「道具」の一つだった。”という「なわ」の最後に示される文章が引用されている。

　また“次作のヒントが隠されている”という「DEATH STRANDING 2」のトレイラーにも，「Both stick and rope, to protect and connect. Together, for tomorrow.」（棒も縄も，守るため，繋ぐために。ともに，明日のため）と，「Should we have connected?」（我々は繋ぐべきだったのか？）という，「なわ」を想起させるワードがあった。

トレイラー「『DEATH STRANDING 2（Working Title）』日本語字幕 / TGA 2022 ティザートレーラー」をキャプチャしたもの

　「なわ」が収録された「無関係な死・時の崖」は，安部公房の代表作としても知られる「砂の女」や「他人の顔」の執筆時期に書き上げられた短編10編を収録した作品集だ。
　自分の部屋で見ず知らずの死体を見つけた男が，その“無関係”であるはずの存在に追い詰められていく「無関係な死」，何代も前の先祖が“死なずに生きている”家庭の事情を描いた「家」など，導入から荒唐無稽なところはあるものの，作中で起きる出来事は（安部公房の作品としては）そこまで現実からは逸脱していない。安部公房というと，不条理な設定や物語，前衛的な表現のある作風で難しそうという印象を持つ人もいると思うが，「無関係な死・時の崖」は（これも安部公房の作品としては）比較的読みやすい作品が揃っているのだ。

「人魚伝」は，DEATH STRANDINGにも出演しているギレルモ・デル・トロ監督の“とある作品”が好きな人に刺さるものがあるはず

　あらためて読み返してみて，とくにオススメしたいと感じたのが「人魚伝」だ。“全身緑の人魚”を愛し，同棲生活を送る男の顛末を描いた作品で，もともと人気の高い話だが，あらためて読んでみると，「むしろ現代のほうが受け入れられやすいのではないか」と思わされるものがある。
　「なわ」は，ちょっとした説明が作品自体とDEATH STRANDINGへの先入観を生んでしまいそうなので，こういう場ではまるで語れないが，“引用された箇所からは想像がつかない話だが，DEATH STRANDINGと共通したテーマ性があること”に気付くはず……とだけ伝えておこう。


　「砂の女」や「箱男」，「燃えつきた地図」といった多くの作品に夢中になった文学少年時代から，いまでも繰り返し読み続けている文学好きとしても，「なわ」をきっかけに安部公房の作品を知る人が増えたことは嬉しいかぎり。戯曲や評論，エッセイなどもあるので，今回興味を持った人は，そちらにも手を伸ばしてみてほしい。

「無関係な死・時の崖」

著者：安部公房
版元：新潮社
発行：1974年5月28日
価格：590円（税別）
ISBN：9784101121086

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新潮社公式サイトの「無関係な死・時の崖」書籍情報ページ

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■■Junpoco（4Gamer編集部）■■
本企画の担当で，書店の文芸書担当，DTPデザイン，雑誌編集と，かつて本を売る人＆作る人の両方をしていたことがある4Gamerスタッフ。本もゲームも，気になったものはジャンルや主義主張問わず，流行のものからニッチなものまでわりと何でも手を出すが，自身の“attitude（姿勢）”にあった作品へのこだわりもけっこう強かったりもする。

※次回の掲載は2023年1月12日です