日本でも大変ファンが多い「ブルーアーカイブ」では2018年から開発およびグローバルサービスを統括しており,“先生”達の間でも親しまれている。2022年には優秀開発者賞を受賞し,現在は同作と新作「Project RX」を管轄している。
そんなキム氏が,BIC2026初日最初のセッション,つまり基調講演の壇上に立った。演題は「ゲームはいかにして“世界”になるのか?」。本人は「今日は少し大げさなタイトルで発表することになりました」と前置きしていたのだが,実際に話が始まると,決して大げさではないことが分かってくる。
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曰く,運営からの依頼は「サブカルチャー」「IP」「インディーゲーム」をつなげるキーノートを,というものだったようだ。それを考える中で行き着いたのが「世界」という表現であり,講演はこの3語に沿った3部構成で進められた。
まずはサブカルチャー市場がどこまで来たのかという現在地の確認から始まり,「ブルーアーカイブ」の世界観をどう設計したのかという実務の話を経て,最後は「AI時代に,人間の手元には何が残るのか」という問いに着地する―――という流れである。
なにしろ,社内でゲームジャムをやれば2日で48本のゲームが完成し,Steamには年間2万本が並び,そのうち約1万本はレビューが10件にも満たないという,そういう時代の話だ。開発者が数百人単位で詰めかけた会場は,みな前のめりで氏の話を聞き,最後の質疑応答も挙がる手が止まらなかった。
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というわけで本稿は,この基調講演のレポートに加えて,講演後にキム氏本人へちょっとだけ話を聞いたインタビューを収めた2部構成でお届けする。空港へ向かう直前の20分ほどをお借りした短い時間だったが,講演では語られなかった「人間らしさ」の話にまで踏み込むことができた。あわせて読んでいただければ幸いだ。
なお講演は韓国語のみで同時通訳もいなかったので,もしかしたらどこか誤解してしまった部分もあるかもしれないが,そのときは切に御容赦いただきたい。
サブカルチャーは,もはや“小さな領域”ではない
4Gamerの読者ならご存じかもしれないが,韓国のゲーム業界はコンソールではなくPCから発展してきた。
「StarCraft」や「リネージュ」といった国民的タイトルがあり,PCバンとeスポーツが主流だった時代が2000年代まで続いたとキム氏は見ている。
そこに変化が起きたのは,2010年代のこと。完全な大衆向けではなく,特定のユーザー層を明確にターゲットとしたゲームがヒットし始めたのだ。「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」(PC / Android / iOS)もその一つで,今ではオフラインのランニングイベントに約4000人が集まるほどの規模になった。最近では女性向けの「恋と深空」も非常に大きい成功を収めており,「原神」以上の売上を記録しているとも聞いている,と氏は語る。
グローバル版「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」の4.5周年記念イベント,韓国で6月14日に開催。チケットは即日完売
Nexonは,グローバル版「ブルーアーカイブ -Blue Archive-」の配信4.5周年記念イベント「KIVOTOS RUN 2026」を,2026年6月14日に韓国・京畿道河南市のMisa Regatta Parkで開催する。当日は,5kmのコースを1周するランニングイベントに加えて,DJによるパフォーマンスなどが予定されている。なお,チケットは即日完売となった。
その拡大は,リアルイベントにも表れている。中国の「Bilibili World」はChinaJoyを超えたと言われ,韓国でも「AGF」がG-STARに匹敵するまでに成長した。弘大(ホンデ)は日本の秋葉原のような街として育っているが,同エリアのAK PLAZAの売上は,2021年比で約3倍に伸びたという。
「以前は,サブカルチャー=小さな領域だったかもしれません。しかし今では,一つのメジャーゲームよりも,サブカルチャー全体を合わせた市場規模のほうが大きいのではないかと思います」
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— AGF Korea (@AGF_Korea) November 24, 2025
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「Bilibili World 2026」が上海で開幕。ゲームブースが大幅増加で要注目だけど,チケットは33秒で売り切れ[BW2026]
2026年7月10日から12日までの3日間,「Bilibili World 2026」が中国・上海で開催されている。今年はゲームエリアがさらに拡大し,もはやゲームイベントといっても過言でないぐらいだ。まずは会場全体の様子をお伝えしよう。
このジャンルの大きな特徴が,「二次創作」だ。ファン自身が参加し,作る(創る)ことである。
「ブルーアーカイブ」のオンリーイベントには,ファンアート,コスプレ,グッズと多彩な二次創作者が集まり,巨大な3Dプリントの銃器や乗り物を持ち込む人までいるという。Pixivへの関連作品の投稿は,27万件以上に達している。
メジャーゲームが好調である一方で,サブカルチャーゲームもそれぞれ独自のファンダムを形成し,一つひとつが新しい「世界」を作っている――というのが第1部の結論だ。
何がゲームの「IP」をつくるのか
そして話題はIPへと移る。ロゴ,設定,キャラクター,ストーリー――どれもIPを構成する要素だが,ゲームではそれらに加えて「ゲーム性そのもの」がIPを形づくる場合が多いというのが氏の考えだ。
「ポケットモンスター」で最も重要なのは「モンスターを捕まえ,集め,バトルする」という形式であり,それが明確だからこそ,RPGでも「Pokémon GO」でも同じIPとして成立する。「マビノギ」なら「ファンタジー世界で生活すること」が核にあり,「PUBG」ならバトルロイヤルという構造自体がIPになっている。
氏は,IPを記憶させる軸を「繰り返す行動 / 記憶に残る象徴 / 関係性」と整理する。ポケモンなら「捕獲・バトル / モンスターボール / トレーナーとポケモン」,PUBGなら「降下・生存 / ヘルメット / スクワッド・競争」,マビノギなら「生活・冒険 / キャンプファイヤー / 偶然の出会い」といった具合だ。
そしてサブカルチャーゲームでは,このうち最後の「関係性」,そしてキャラクターと物語に,より強く注目が集まるという。
インディーゲームにとってIPとは何か。「SANABI」のワンダーポーションと「オグと秘密の森」のシンクホールスタジオが語った,拡張の可能性と現実[BIC2026]
2026年8月14日,韓国・釜山のBEXCOでインディーゲームの祭典「Busan Indie Connect Festival 2026」(BIC2026)が開幕した。初日のカンファレンス「Busan Indie Wave Conference」では,「SANABI」のワンダーポーションと「オグと秘密の森」のシンクホールスタジオによる2本の講演に,NEXON Gamesのキム・ヨンハ氏を加えたパネルディスカッションを組み合わせたセッションが行われた。
ケーススタディ:「ブルーアーカイブ」の世界観設計
「ブルーアーカイブ」でも,ゲームプレイそのものを考える前に「このゲームを遊ぶユーザーが,どのようなライフスタイルを体験すれば受け入れてもらえるのか」からIPを構築したという。「学園」「青春」「ミリタリー」という3つのキーワードも,そこから生まれたものだ。
学園ものは以前から数多く存在したが,そこに戦闘を取り入れ,「戦車に乗って登校する」「武器を持ち歩くことが不自然ではない」世界にしたことで独特の世界観が立ち上がった。それを凝縮して見せる仕掛けが序盤に置かれており,その代表例が,女子高生達が覆面をかぶって銀行強盗をするエピソードだ。
これは導入部としての成功だけでなくミームとしても人気を集め,同時に世界観を象徴的に説明する場面にもなった。
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プレイヤーの役割は「先生」なので,関係は「先生と生徒」,そしてやることは「生徒を指導し,事件を解決する」ことで,相互作用の手段は「タブレット」だ。
この構造は,世界観の構築段階からUIに落とし込まれている。戦闘ではタブレットを見ながら生徒に指示を出す視線と動きを表現し,全体のUIもタブレットを操作する形式になった。
イラストは「プレイヤー自身の目線」に感じられるよう設計され,キャラクターとは目線を合わせる。こうした一貫性が没入感を高め,結果としてキャラクターの魅力を増幅させる。
ただし「プレイヤーとキャラクターの関係性」を軸にする手法は,「ウマ娘 プリティーダービー」のトレーナーをはじめ,今や多くのゲームが採用している。開発当時は,ポストアポカリプス的な世界観や,銃器・艦船などのキャラクター化が一般的で,“明るい学園もの”のポジションが空いていて,「当時まだ空いていた世界観のポジションに,うまく入ることができたと思います」と語る。
そうした“未開拓地”をうまく開拓した例として,独自のポジションを確立した「Limbus Company」と,非常に特徴的で独自性の高い世界観を構築した「アークナイツ:エンドフィールド」の名も挙げられた。中でも後者は「工場ゲームをサブカルチャー文脈に持ち込むことに不安があったんですが,きちんとやれば大丈夫なんだという良い試みでした」とのことだ。
氏も新作「Project RX」では「異世界でのホームステイ」という表現を掲げ,日常感を持たせながらも“別の世界”であることを打ち出そうとしているという。
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「自分がプレイしたかったゲームをつくる」――ブルーアーカイブのキム・ヨンハ氏とProject Moonのキム・ジフン氏が語った,作家主義の現在地[NDC26]
NDC26では,「ブルーアーカイブ」のキム・ヨンハ氏と,「Limbus Company」のProject Moon代表キム・ジフン氏による対談が行われた。作風はディストピアと美少女学園で正反対ながら,互いのファンだと公言する2人だ。作家主義をテーマに,ライブサービスとユーザーフィードバック,メンタルケア,そしてAIまで,飾らない本音が次々と飛び出した。
AI時代に「未開拓地」をどうつくるか
そして第3部は,AIの話だ。
読者の皆さんには釈迦に説法だが,いまやプロンプトを一度入力しただけでAIがゲームそのものを生成できる。しかもそれは「Snake」とか「落ちモノパズル」のような懐かしのミニゲームだけでなく,3D空間でインタラクションできるゲームまで1回のプロンプトで出てくる時代になったのだ。
「以前は“プロンプト一つで絵が出てくる”だけでも驚きでした。それが今ではゲームまで出てくる。このままでは人間が作れるものがなくなるのではないかと思うほどです」
その実感を伴う数字も示された。NEXON Games内でゲームジャムを実施したところ,2日間で,氏の本部だけで48本ものプレイ可能なゲームが完成したのだ。しかも基本的に業務時間内での実施だったため,実制作時間は10時間前後だったという。中には販売できそうなレベルのものもあり,「本当に世界が変わった」ことを実感したそうだ。
当然,Steamにリリースされるゲームの数も増えている。昨年1年で約2万本がリリースされ,今年はさらに増えるだろうと言われている。だがそのすべてが遊ばれるわけではなく,およそ半分の1万本は,レビュー数が10件未満だという。
ではそんな状況で,これから開発者はどうやってゲームをつくればいいのだろうか。
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「好み」を「審美眼」に高める
目下脅威の中心であうAIについて,氏はAIが得意なことを2つに整理している。
1つは「正解を見つける能力」だ。実装・修正・検証のサイクルが速いからこそコーディング領域の発展が著しく,人間が解けなかった数学の難問を解いたという話もある(2000年遊ばれている囲碁の世界に,新しい“打ち筋”を出してきたのもAIだ)。検証可能な領域にある答えを出すのが,AIは非常に得意なのだ。
そしてもう1つは「特定パターンの再現」で,学習データが十分にあれば「こういう雰囲気に」という指示への再現は得意である。
「しかし,私達が日常で経験することの多くには,そもそも正解がありません」と語る氏が挙げたのは「水冷麺かビビン冷麺か」「お姉さん系か妹系か」といった問いだ。これは「好み」であり,そこに「正解」はない。AIには自分自身と呼べる人格や好みがないのでこれには答えられず,だから「好み」は人間の領域だ,というわけである。
核心の2割を創るのは人間。ゲームAIの第一人者・三宅陽一郎氏と次代のクリエイターを育てる飯田和敏氏が語るAI時代の創作[BitSummit]
昨今話題となる生成AIをどう捉えていけばいいのか。「BitSummit PUNCH」のメインステージで行われた三宅陽一郎氏と飯田和敏氏のトークでは,コンピュータやゲームにおける生成の歴史,人間の役割,飯野賢治氏の“1ドット”の話を通して,創作における生成AIとの向き合い方を考える手がかりが示された。
そのうえで氏は,「好み」を「審美眼」へと発展させるプロセスが確実に存在すると語る。
例に挙げられたのは,眼鏡キャラクター好きが高じて登場キャラクターを全員眼鏡にしたらユーザーには不評だった,という自身の経験だ。「なぜみんな眼鏡が嫌いなんだろう」とAIに聞けば,それらしい回答は返ってくる。だが,「眼鏡が好きな自分自身は,なぜ眼鏡が好きなのか」を掘り下げられるのは自分だけだ。
それはラーメンでも同じで,「味噌ラーメンが好きだと思う」段階なら単純な好みだが,「どういう調理法が好きなのか」まで言語化できるようになると,それは“高度化された好み”になる。それを具体的に表現することが「ディレクション」の領域であり,それこそが「審美眼」だ,と氏は言う。
ここでは,目的を達成するために自分自身の「好み」をより明確に定義することで,より質の高い目標を達成できる――というポール・グレアムの言葉も引かれた。
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では審美眼はどうすれば育つのか。何を意図して作り,何をほかと違うものにしたのかを具体化し,「つくる→比較する→理由を説明する→もう一度選ぶ」を繰り返すことだ,とのこと。
「AIは,説明することはできます。しかしAIは“文章だけで料理を学んだ”存在なので,実際の味を感じることはできません」
時間をかけたフィードバックのプロセスこそ,人間が最も得意であるべき領域だというわけである。インディーゲームも同じで,最近ヒットした「めっちゃカメレオン」は一見シンプルだが,その制作者はそれ以前に43本のゲームを制作している。積み重ねの延長線上に生まれたタイトルなのだ。
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「めっちゃカメレオン」,新公式マップ“ショッピングモール”を追加。コラボを除く公式マップの追加は次回で最後
個人ゲーム開発者のLEMORION氏は,PC向けタイトル「めっちゃカメレオン」のアップデートを配信した。アップデートでは,新たな公式マップ“ショッピングモール”が追加されている。なお,コラボを除く公式マップの追加は,次回が最後になるという。
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「私達開発者が追求すべきなのは,“誰でも作れるもの”を予測して作ることではないと思います。自分が好きなものをどこまで高度化し,それをいかに最も“おいしい形”でユーザーに届けられるかが重要で,それこそがファンを集め,将来的に拡張可能なIPを生み出す核になるのではないでしょうか」
市場やトレンドに合わせること以上に,自分自身が満足できる「自分の味」を見つけることが重要だ――そう述べて,キム氏は講演を締めくくった。
質疑応答
講演後は,会場からの質問に氏が答える時間が設けられた。いずれも,「審美眼」というテーマをどう実践するかという質問だったので,あわせて紹介しておきたい。
運営が「まさかこんなに真面目な質問がたくさん来るとは」と語っていたくらいで,氏の人気と信頼度の高さを感じる場面でもあった。
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正直に言えば,確信はありません。それでも自信を積み上げていく方法は2つあると思います。
1つは,とにかくたくさんつくること。自分が「こうしたい」と意図したものと,実際に出来上がったものを一致させる練習を,何度も繰り返すことです。意図と結果がずれるうちは,まだ自分の好みを正確につかめていないということでもあります。
もう1つは,それを他者に見せること。自分が意図したとおりの反応が返ってくるかどうかを確認するわけです。この2つを行き来しているうちに,少しずつ確信に近いものが育っていくのだと思います。
―――いろいろなスタイルが好きで,一つに絞りきれません。そういう場合,どうやって自分の「好み」を深めていけばいいでしょうか。
これは難しい問題ですね。ただ,まずはどれか一つに焦点を当てて,「なぜ自分はこれが好きなのか」を深く掘り下げてみることをお勧めします。
たとえば眼鏡キャラクターが好きなら,惹かれているのは「メガネのデザイン」なのか,「メガネをしているキャラが一般的に持っていそうな性格づけ」なのか,あるいはそれら以外の要素なのか。そこまで細分化して分析してみてください。
そうやって要素のレベルまで分解していくと,一見ばらばらに見える複数の好みの中に,共通する“好きな要素の核”が見つかるはずです。絞りきれないのではなく,まだ言語化できていないだけ,ということも多いと思います。
―――サウンドや音楽も,IPの形成に影響するものでしょうか。
非常に重要だと考えています。「ブルーアーカイブ」では,当時ゲーム音楽としては主流ではなかった「フューチャーベース」や「カワイイベース」を採用しました。学園ものの雰囲気に合うはずだと確信していたからです。
これも結局は,個人的な好みの組み合わせがうまくハマった例だと思っています。音楽は世界観を最も速く伝える要素の一つですから,ここでも「なぜこれが合うと思うのか」を説明できるかどうかが効いてきます。
―――自分の「好み」を基にしてつくったIPを,長期的に維持していくにはどうすればいいでしょうか。
長期の維持というのは,正直,非常に難しい問題です。私自身,答えを持っているとは言えません。
ただ,特にインディー開発者の方にとっては,まず自分の「味」をゲームの中で明確に表現しきることが最優先だと思います。それが曖昧なままでは,そもそも長く続けるべきものが定まりません。
そのクオリティが十分に高ければ,共感してくれる人達が自然と集まってコミュニティが形成されます。そしてそのコミュニティこそが,IPの寿命を延ばしていく力になるのだと思います。
……という基調講演「ゲームはいかにして“世界”になるのか?」を終えたキム・ヨンハ氏は,この日の夕方の便でコミケ(!)に向けて発つ予定だという。空港へ向かう直前のわずかな時間(ほんの20分ほど……)をお借りして,カフェでちょっとだけ話を聞くことができた。
話は,講演の続き―――インディー開発者はどうやって注目を集めるのか―――から始まったのだが,途中から「AI時代に,人間にしかできないことは何か」という話題へ。以下に,その一部始終をお届けしよう。
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「いいものを作ったから見てくれ」では動かない
4Gamer:
おつかれさまでした。コミケ前の慌ただしい時間にありがとうございます。
キム・ヨンハ氏(以下,キム氏):
いえいえ。セッション後のちょっとした時間に何かできないかなと思っていたんですが,そこにちょうどお誘いをいただいた感じで。
4Gamer:
本当にありがとうございます。
では時間も惜しいので早速始めますが,会場がBICということもあって,今日の講演は開発者に向けた話でしたよね。まず作って出しなさい,出すことで自分の“味付け”をつくっていくんだ,という。
キム氏:
はい,その通りです。
4Gamer:
ただその前段階の問題として,ご自身も講演で触れていましたが,ほとんどのタイトルは目立たないわけじゃないですか。遊ばれない,目立たない,売れない……。
キム氏:
はい……悲しいことですが。
4Gamer:
Steamでも,半分以上はほぼ誰の目にもとまらない状態です。だから制作のノウハウ以前の問題として,開発者のモチベーションが続かないんじゃないか,という危惧が個人的にはあります。そこについて,何かいい解決法は思いつきますか。
キム氏:
結局はプロモーションの話になると思います。プロモーションというのは,「いいものを作ったんだから誰か見てくれ」というだけでは動いてくれないものなんですよね。
だからこそ,ゲームを作る前の段階から,どうにかして期待感を引き出すための“材料をまく”とでも言うんでしょうか,そうした事前の作業がかなり重要なのではないかと思っています。最近は特にその傾向が強いです。なにしろ,リリースされるゲームの数が非常に多いですから。
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4Gamer:
具体的には,どういう手が打てます?
キム氏:
インディーの話であれば,今はアーリーアクセスというものがありますよね。かなり早い段階から「こういうコアを持ったゲームなんです」という部分を見せて,フィードバックをもらうわけです。
もちろん,開発者によっては完成したものを見せたいと考える方もいるでしょう。ただそうすると,自分としては完成度の高いものを出せたとしても,それが市場に出たときにほかの人にまで広がっていくのかどうか,というリスクを一人で背負うことになる。
昔なら「完成もしていないものを見せるな」と言われたかもしれませんが,今はアーリーアクセスが受け入れられる市場になっています。であれば,その段階をもう少しうまく活用して,コミュニティを作り,関心を集めて,そこで得たフィードバックをまた開発に取り込んでいく。それが大事なんじゃないでしょうか。
4Gamer:
うーん,でも今のSteamの役目ってほぼ「売る場所」がメインじゃないですか? もちろんアーリーアクセスはキチンと機能していますが,それにしてもほぼ完成品じゃないと受け入れてもらえないですし,だとすると,今おっしゃったもっと前の段階―――企画書の段階とかプロットの段階から「こういうのどう?」と見せていく場は,Steamではない別の何かそういう場所があったほうがいいのかな,という気がちょっとしています。
キム氏:
僕はアーリーアクセスをかなり熱心に探して回るタイプなので,少し見え方が違うのかもしれません(笑)。
アーリーアクセスの段階でも,フィードバックを通じてユーザーとの信頼を積み上げていくことはできると思っています。ですから,もし私がインディーゲームを開発するとしたら,アーリーアクセスは積極的に使うと思います。もちろん,インディーでない場合はなかなかそうもいきませんが。
あと,このトレンドの中で特に重要だと思っているのが,開発者自身がもう少し外向的になる必要がある,ということです。
4Gamer:
あぁそうですね。そこは確かに,少しだけ努力の必要がある部分かもしれません。
キム氏:
開発者自らが,コミュニティにいろいろな話を投げていく―――開発そのもの以上に,「発信元」として動く―――そうして初めて,アーリーアクセスにせよ事前のプロモーションにせよ,うまく機能するのではないかと。
AIが書いたものは,どうしても味が薄くなる
4Gamer:
なるほど。
ちょうど先日,知人がゲームを作ってSteamに出したんですよ。それで「何が一番大変だった?」と聞いたら,文字を書くのが一番面倒だった,と。紹介文とか,プレスリリースとか,プロモーション用の文書とか。そのあたりも今後はAIでだいぶ楽になるでしょうから,もっと積極的な動きになっていくんだろうな,という感じはします。
キム氏:
そうですね。ただ,プロモーションで出ていく“材料”については,もう少し人間が気を配ったほうがいいと思っています。AIに結果物を出させると,どうしても味が薄くなってしまうので。
4Gamer:
「味」は言い得て妙です。
キム氏:
その「味」というのは結局,偏っているものほどアピールしやすいんですよ。ところがAIは,どちらかというと多くの人に受け入れられる結果物を出す方向に働く。だからAIが書いた文章とか,何かの仕様のようなものは,意図していたよりも平凡になっていく傾向があるように思います。人間らしさが失われているというか。
4Gamer:
その「人間らしさ」って,なんなんでしょうね。僕はゲームを作ることとは違う立場ですが,文章を書く仕事をしながらAIと向き合っていて,人間にしかできないことは何だろう,人間らしい文章とはなんだろう,と最近かなり真剣に考えています。
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私も,義務的に書かなければならない文章はAIに書かせてみるほうなんです。そうすると,自分との違いを感じる部分が確かにある。大きく2つあると思っていますが,見方によっては同じことなのかもしれません。
1つめは,個人的な記憶が足りないことです。自分の経験から出てくる事例を語ったほうがよかったはずの部分が,まるごと抜け落ちますよね。
2つめは,自分の気分や,講演でもお話しした「好み」の部分です。私には,他の人よりも少し偏っているところがある。それは偏見かもしれないし,執着かもしれない。AIにはそういうものが欠けている感じがするんです。
しかもそこを「自分ならこうするから,こういうふうに偏らせてくれ」と指示しても,やっぱりあの味は出てこないんですよね。
4Gamer:
確かにそうですね。ものすごい速度で進化してはいますが,まだその本質的領域には行けていないというか。
僕も,これまで自分が書いた記事や原稿,インタビュー,コメントなどを食わせて「おれっぽく書いて」と言うと,かなりうまく書いてくれます。自分でも「あぁ確かに自分で書きそう」と思えるようなものを出してくる。
だから逆に,人間味のあるもの,偏ったもの,ハッキリしたものほど学習しやすいだろうとも思うんです。なもんで今は無限ループに入ってまして。「この次はどうすればいいんだろう?」と。
キム氏:
技術が発展して,どんどん出力が良くなっているという実感はありますね。
4Gamer:
良くなっているのか,見方を変えると悪いものになっているのか。
キム氏:
結局は,違うやり方ができる部分,自分のほうがうまくやれる部分を探していくと,それはだんだん「執着の領域」に行き着くような気がします。
「かわいそう」が生まれる,その一段階前
キム氏:
とはいえ,いつかAIが感情を,あるいはpersonalityを持って動くようになる可能性はあると思うんです。そうなったら,人間の役割を改めて問い直すことになるのではないか,とも思います。今はまだ真似をしているだけで,本物ではないと思いますが。
4Gamer:
ええ。さきほど講演で,AIは料理のレシピは説明できるけれど,美味しいかどうかは説明できない,とおっしゃっていましたよね。ただそれって,多くの人は「美味しいという情報」を食べているんだとも思うんです。KOLが美味しいと言ってたとか,ネットに美味しいと書いてあったとか。
そうやって進めて考えていくと,結局どっちも大差ないことをしているだけなのでは,とだんだん分からなくなってきませんか……?
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確かに「説明」を聞くと,よりもっともらしく感じられる部分もあると思います。ただ,感覚そのものは説明を介さずに感じられる部分がある。それこそが人間的な部分ではないでしょうか。
感動ってあるじゃないですか。映画の場面でも,食べ物の味でも構いませんが,感動というのはロジックで成り立っているものではないわけです。感じた人の主観やpersonalityが働いている部分で,そここそが最も人間らしいところなんじゃないかと思います。
4Gamer:
あぁ……そういう話で言うなら,この間レストランに入ったんです。自動配膳ロボットっているじゃないですか。料理を運んでくるロボット。入ってから気付いたんですが,その店は「あと1週間で閉店」だと張り紙がしてありました。
ということは,そのロボットも1週間で仕事がなくなるわけですよ。なのに「またお越しくださいね!」なんて言ってる。それを見て僕は,「かわいそう」だと思ってしまった。
キム氏:
なるほど,そういうのありますよね。
4Gamer:
でも,この「かわいそう」という感情の本質はなんなんでしょう。相手はロボットなのに。そういうことを考えていくと,人間らしさというものは,本当はどこにあるのか分からなくなってきてます。
キム氏:
その話で言うなら,感情移入ができるということ自体が,人間らしい部分だと思いますよ。人間ではないと分かっていても,そこに共感してしまう。
僕も昨日の夜,お刺身を食べに行ったんですよ。そしたら,盛り合わせにエビが生きたまま乗っていて……それがどうしても食べられなかった。動き続けているものだから,生きているものだから,感情移入してしまうんですよね。より生き物に見えてくるというか。そういうところも「人間」の部分なんじゃないかな,と。
4Gamer:
あーでもちょっとなんか分かってきました。
「かわいそう」という感情を出力するのは最終段階なので,これを第3段階だとしますよね。その前の第2段階として「かわいそうだと思う心」がある。生きているからかわいそう,あと1週間でクビになるからかわいそう,という理由づけの部分です。
ここまでは,状況からの判断でたぶんAIにもできると思うんですよ。というかたぶん今すでに出来ると思います。
キム氏:
きっとそうでしょうね。
4Gamer:
問題は,その前の1段階です。そこがたぶん,「人間らしさ」の部分なんですかね。うまく説明できないんですけど「主観としてかわいそうと感じてしまう」何か。もしかしたらフィジカルな部分もあるかもしれません。心臓が掴まれる感じとか,涙がついこぼれそうになるというか。
キム氏:
僕もそう思います。「かわいそうと感じたのはなぜか」とAIに尋ねれば,きっと説明してくれるはずです。そのロジックは確実にあります。でもそれは,結果に対して説明を後から付けているだけであって,その状況を見て感情が湧き上がる部分が,AIに欠けていると思います。
4Gamer:
その部分をふくらませていくことが,文章にせよゲームにせよ,この先で大事になっていくんだろうな,と今のお話を聞きながら思いました。
キム氏:
私も,人間だからこそできる部分を探し続けなければならない,と最近ずっと考えているところです。
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プログラマーは,どう自分を置き直すのか
キム氏:
個人的には,テクノロジーの発展というものが本当に好きなんです。新しいものが出たらすぐ試してみるほうですし,新しい機能が付いた,これで新しいことができるようになった,というのを見ると,とても面白いと感じる。
総じてそれらは良いことだとも思います。ただその一方で,最近の発展については少し恐怖もあるんです。
4Gamer:
ヨンハさんも僕もテクノロジージャンキーで,AIの良さを理解しているだけに,逆にこの先の進化が怖いんだと思います。
キム氏:
今年,社内でゲームジャムをやったという話をさっき講演でしましたよね。そのときに,一部のプログラミング作業では,AIの能力が人間を凌駕する水準に達していると感じました。それで,こういう状況でプログラマーはどう自分を置き直せばいいのか,というのも悩みの一つになっています。
最近では,企画者が企画書を書くのはもちろんですが,実際に動作するシステムを作ってプログラマーに見せる形で企画を伝える,というケースも増えてきました。
4Gamer:
あぁそういう意味で言うなら……と,すごく残念なのですが,お付きの人からの「早く終われ時間がもうないぞ!」という圧力を感じますし,確かに当初の予定より延びてしまいました。またこの続きをどこかでさせてください!
キム氏:
本当だ時間ですね(笑)。ではまたお会いしましょう!
―――2026年8月14日



















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