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NHK「ゲームゲノム」第10回「TOKYO JUNGLE/Stray」視聴レポート。ゲーマーの話題をさらった異色アニマルゲームに共通するものとは
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印刷2022/12/22 08:00

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NHK「ゲームゲノム」第10回「TOKYO JUNGLE/Stray」視聴レポート。ゲーマーの話題をさらった異色アニマルゲームに共通するものとは

 ゲームを題材にしたNHKの教養番組「ゲームゲノム」の第10回が,2022年12月21日に放送された。全10回のレギュラー放送のトリを飾ったのは,「TOKYO JUNGLE」と「Stray」だ。かたや弱肉強食のサバイバル,かたや愛らしい猫が主人公のアドベンチャーという,2つのアニマルゲームが取り上げられた。

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 番組のMCは,歌手・ダンサーの三浦大知さん。ゲストにタレントの髙橋ひかるさん,「TOKYO JUNGLE」でゲームディレクターを務めた片岡陽平氏を迎え,“野性を遊ぶ”をテーマに,2つのアニマルゲームの魅力が語られた。なお,「Stray」のプロデューサーであるスワン・マルタン=ラジェ氏も,ビデオメッセージという形で出演している。

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「TOKYO JUNGLE」(2012年6月7日)


 とある理由により人類がこつ然と姿を消した東京を舞台に,動物たちが生存競争を繰り広げるサバイバルアクションゲーム。プレイヤーは,ポメラニアンやライオンといった動物たちを操作し,弱肉強食の世界をできるだけ長く生き延びなければならない。動物たちが生存競争を繰り広げるという,当時としては珍しい斬新なゲームコンセプトが話題を呼び,「TOKYO JUNGLE」は販売本数20万本を超えるヒット作となった。

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 プレイできるのは肉食動物だけではない。明らかに弱そうなヒヨコや,愛玩犬のポメラニアンなど,「どうやって生き残るの?」とツッコまずにはいられない意表を突いた操作キャラクターのラインナップが,多くのゲーマーに衝撃を与えた。かくいう筆者も,ヒヨコでサバイバルできると聞いて「ヒヨコ? え? ヒヨコ?」と,過酷な生存劇見たさに本作を買ってしまったクチだ。

 番組の冒頭では「まさか10年経ってこういう取り上げられ方をするとは,想像していなかった」と片岡氏がコメントしていたとおり,本作は発売からすでに10年が経っている。片岡氏は19歳で上京し,21歳で会社を起こした。本格的な開発経験がない中で,初めてゲームデザインしたのが「TOKYO JUNGLE」だったというのだから,驚きだ(参考記事)。

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動物だから描ける“生のリアリティ”


 本作の魅力を紐解くキーワードとして提示されたのは「覚醒する“生存本能”」だ。秩序を失った東京で生き延びるには,“狩られずに腹を満たすこと”がなによりも重要になってくる。というのも,本作でプレイできる動物には種に応じたLIFE(体力),HUNGRY(空腹)が設定されており,捕食を行わずにHUNGRYゲージがゼロになるとLIFEゲージが減少し,餓死してしまう。
 狩られまいとただ茂みに隠れ続けても,その先に待っているのは死のみ。動物たちの生存本能にならい,生きるためには行動し続けなければならない。髙橋さんの「生き延びることが最優先。無我夢中で狩りをしていた」というエピソードは,まさに本作で求められる生存本能が発揮された瞬間だろう。

動物に寿命が定められているのも大事なポイント。交尾すれば子孫を残せ,世代交代によって命のバトンをつないでいける
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 命を食らい,よりよいパートナーと子孫を残す――この生存本能は動物的だと捉えがちだが,現実世界の人間にも当てはまると片岡氏は話す。しかし,それを人間に置き換えて描くと生々しくなり過ぎるのに,動物で描くとなぜか許容されることに面白さを感じたという。人間の営みを動物で表現した「鳥獣人物戯画」が,まさにこのパターンであることに気づいた氏は,本作の冒頭にオマージュシーンを組み込んだと語っていた。

狩りに失敗したポメラニアンをウサギが嘲笑するこのシーンは,”現代の鳥獣戯画”が始まる合図をイメージしているとのこと
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 このシーンを見て三浦さんは,最初に操作できる動物がポメラニアンであることにユニークさを感じたとコメント。これを受けて片岡氏は,ポメラニアンを起用した理由を以下のように話した。

 ポメラニアンは人間の庇護がなければ生きてはいけない。その庇護が外れたときにどう生きていくのか。それはゲームのコンセプトに通ずるものがあった。

 人間の庇護を失い,がむしゃらに生きようとするポメラニアンは,まさに「TOKYO JUNGLE」という作品を体現する存在だった。慣れない環境で懸命に生きようとするポメラニアンの姿は,当時の片岡氏の状況とシンクロしているように感じたそうだ。

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動物の数だけ生まれる懸命なドラマ


 ポメラニアンから始まるサバイバルは,ゲームの進行に応じてゾウやトラ,ライオンといった強そうな動物でもチャレンジできるようになる。しかし,捕食能力の高そうな動物を選んだからといって,生き延びることが楽になるわけではないのが,このゲームのシビアなところ。そこでキモになるのが,2つ目のキーワードとして挙がった「研ぎ澄まされる“生存戦略”」だ。

 肉食動物であるライオンやトラは,攻撃力が高く狩りに向いている反面,HUNGRYの値が低く空腹になりやすい。効率のいい狩りができなければ,飢えでLIFEを維持できずに死んでしまう。一方,草食動物は非力ではあるが群れを率いることができ,自分の群れから生け贄を差し出して難を逃れる,といった非情な選択で生き延びられる。動物ごとに異なるアクションや特性を考え,いかに適切な生存戦略をとれるかがサバイバルの明暗を分けるのだ。

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 特性の異なる50種もの動物を用意した理由を尋ねられ,片岡氏は「登場する動物は“人間の代替”。絶対に減らしたくなかった」と答えた。なんでも,東京で生きるさまざまな人々を動物に置き換え,ドラマを作るというコンセプトがあったというので,それぞれの動物がどんな人間を表現したものなのか,考察しながらプレイするのも楽しそうだ。


「Stray」(2022年7月19日)


 見知らぬ世界に迷い込んだ猫を主人公としたアクションアドベンチャー「Stray」は,社員の数よりも飼っている猫の数のほうが多い,猫好きクリエイターが集うBlueTwelve Studioが開発したタイトルだ。インディーズタイトルでありながら,発売前からTwitterのトレンドを賑わし,リリースを迎えると各ストアのランキング1位に君臨するほどのムーブメントを起こした。「The Game Awards 2022」でBEST INDIEを受賞したのも記憶に新しい。

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 「Stray」というタイトルの通り,プレイヤーは仲間とはぐれた1匹の迷い猫となり,ロボットだらけの不思議な世界を冒険することになる。冒険の中で出会ったドローン(B-12)とともに,ロボットたちの悩みを解決しながら元の世界に戻ることを目指す。猫のかわいらしさや,描写のリアルさが注目されがちだが,本作はそれだけがウリのゲームではない。
 「にゃー」と鳴いたり,物を落としたり,カーテンをカリカリしてみたり,猫らしく振る舞い,猫の視点で冒険をすることで,プレイヤーは猫の思考に没入していく。問題を抱えたロボットたちを,部外者である猫の視点で客観的に見つめることで,あれこれと考えさせられることでもあるのだ。

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猫の視点が問いかけるもの


 では,なぜ猫を主人公にしたのか。本作のプロデューサーであるスワン・マルタン=ラジェ氏はビデオメッセージでこう語っていた。

 プレイヤーに猫になりきってもらい,小さくイタズラ好きで,歩きながら混乱を引き起こす生きものの視点を体感してほしかったのです。そうした感覚や新しい視点を持って,周りの出来事を分析できることがこのゲームの面白いところだと思います。

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 実際にゲームをクリアしたプレイヤーからは「人がいないゲームなのに人間の状況を考えさせられる」という声が上がったという。環境問題,格差社会,生きる意味など,猫の目はさまざまな問題を映し出す。そういったゲームからのメッセージを“伝えよう”とするのではなく“見せた”ことで,プレイヤー自身が思考し,自分なりの結論を導き出してくれていると氏は分析していた。

 このエピソードに対し片岡氏は,「プレイヤーが都市に生きる動物になって経験する。この体験を通じてクリエイターが伝えたいメッセージがあるのかもしれない。僕もその思いがあって『TOKYO JUNGLE』を作ったので,通ずるところがある」と話した。

 あれは違う,これは違うと,迷いながら1つずつ物語を進めていくのが楽しかったと本作の感想を話す髙橋さんも,「自分の存在意義とか,やりたいこととかを考えさせられた」と,ゲームのメッセージ性の強さに共感していた。三浦さんは,何者かになれるのはゲームの醍醐味と前置きしつつ,自分じゃない何かになり,自分を客観的に照らし合わせることで,自分がどう生きていきたいのか,人間社会が抱える問題を再認識できた作品だと本作を評していた。

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 番組内では触れられなかったが,ストーリー上で描かれるB-12と猫の絆も本作の見どころの1つだ。あまり詳しく書くとネタバレになってしまうので控えるが,バディものとしてもめちゃくちゃ推せることは強くお伝えしたい。言葉を発しない猫がそのとき何を思っているのかは,表情や行動から想像することしかできないが,フフッと笑えてホロッともさせられる猫とドローンの物語は必見だ。
 あるシーンでドローンの隣に横たわって眠れるのだが,その直前の展開も相まって,筆者はボロボロと泣きながらしばらくドローンのそばを離れられなかった。猫のゴロゴロ音を手のひらで感じられるご褒美すぎるギミックもあるので,ほんと,全人類が遊んで! と声を大にして言いたい。

 今回のアニマルゲーム特集で,全10回の「ゲームゲノム」のレギュラー放送は幕を閉じた。シーズン2の制作については現状ハッキリとした情報は出ていないが,番組総合ディレクターの平元慎一郎氏によると,「シーズン2,3と続けていくような形を目指して企画は進めている」とのこと(関連記事)。番組のシリーズ化が実現することを心から願っている。

[ゲームゲノム 放送日程]
 2022年10月5日 放送開始(全10回)
 毎週水曜日 23:00〜23:29/NHK 総合(予定)
※「NHK プラス」で同時配信・1週間見逃し配信あり
※ NHK オンデマンド配信あり


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