45 「トンネル・ザ・トロール・マガジン」の「ウォーロック」化
2003年頃から盛んになった翻訳RPGやゲームブックのリバイバルは,2008年のリーマン・ショックを境にゆるやかに沈静化していき,2011年後半にはなりを潜めてしまう。この時期は「ファイティング・ファンタジー」も,日本語での新作は登場しなかった。
変化が起きるのは2015年のこと。ドイツで開催されたボードゲームの巨大見本市・エッセンシュピール2015の会場で,フライング・バッファローのリック・ルーミス氏と再会した安田 均氏が,同じく出展者であった冒険企画局の近藤功司氏とタッグを組み,共同で行う企画の第1弾として,T&Tの最新版を日本語展開していくと宣言したのである。
[SPIEL’15]「T.I.M.E Stories」から「T&T」まで。グループSNEの安田 均代表が読み解く,ドイツゲームのこれまでとこれから
安田 均氏といえば,言わずと知れた日本アナログゲーム界のキーパーソンだ。古くはSF小説の翻訳家として活躍し,またTRPGやTCGをいちはやく日本に紹介したことでも知られる氏は,ボードゲームの世界においてもまごうことなき先駆者の一人である。20年前からSPIELに足を運んでいるという氏の目には,ドイツゲームの現状はどのように写っているのだろうか。SPIEL’15の場を借りて,忌憚なく語ってもらった。
これはファンから好評を博し,結果として3刷までリピートされる支持を獲得した。加えて海外のRPGファンからも注目を浴び,書籍での展開が一般化していた日本のTRPG市場に,一石を投じることにもなった。
![]() |
それだけではない。FT書房とグループSNEがタッグを組んで,インディーで創刊された「トンネル・ザ・トロール・マガジン」を,第2号から公式化したのである(発刊は書苑新社)。グループSNEは2013年からゲームや書籍の製造・流通も自前で担うようになっており,フットワークが軽くなっていたのだ。
杉本=ヨハネ氏率いるFT書房は,FT書房の「T」は「トロールズ」に由来するというくらい,T&Tに傾倒した集団であり,彼らの協力を得る形で,T&Tは継続的にサポートされていくこととなる。
中山将平氏や海底キメラ氏らFT書房のメンバーに加え,たまねぎ須永氏,吉里川べお氏,テンプラソバ氏ら,外部の寄稿者も参加して立ち上げられた「トンネル・ザ・トロール・マガジン」は,2号以降,柘植めぐみ氏,笠井道子氏,北沢 慶氏,西岡拓哉氏,笠 竜海氏といったグループSNEの面々を執筆陣に加え,サポート体制を拡充させていった。
![]() |
T&T完全版の盛況に手応えを感じた安田氏は,オールドスクール・ファンタジーの次なる一手として,同誌5号(2017年)からアリオン・ゲームズのTRPG「アドバンスト・ファイティング・ファンタジー」第2版(以下,AFF2e)の扱いを開始する。
中山哲学氏による入門コミック「はじめてのAFF」の連載(のちに単行本化)がスタートし,さらにはFFのファン活動で知られるタイタンの放浪者(飛竜 賢)氏と,同人誌「ウォー・ロック・クロニクル」で知られるトレカ番長(同誌での名義はFF番長)氏も参加したことで,誌面はますます「ウォーロック」味を増していくことになる。
46 「ウォーロック・マガジン」から「GMウォーロック」へ
「トンネル・ザ・トロール・マガジン」は,2018年4月より「ウォーロック・マガジン」にリニューアルされた(グループSNE/書苑新社)。
理由はサポートタイトルがT&Tのみでなくなったことが大きいと思われるが,ロゴにかつての「ウォーロック」のものがそのまま使われ(もちろん許諾済),創刊号にはジャクソン&リビングストン両氏の祝辞も掲載されているから驚きだ。
同時期に刊行されたAFF2eのサポートの体制も万全である。同号からは,グループSNEのベテラン・友野 詳氏によるAFF2eリプレイ「運命交差の盗賊街路」の連載がスタートした。山本 弘氏らの「タイタンふたたび」の設定を引き継いだ,ファン感涙の意欲作であり,のみならず安定した筆致でベテランの存在感を示している。
![]() 「ウォーロック・マガジン」創刊号は,名実ともに「ウォーロック」の後継誌としてふさわしい仕上がりであった |
![]() 「ウォーロック・マガジン」3号の付録は,AFF2eのサマリー付きディレクター・スクリーン。これで値段は変わらずだから,なかなかの豪華さである |
グループSNEからは,さらにAFF2e翻訳チームの主力である,こあらだまり氏らも参戦している。FT書房からは清水龍之介氏,祈月透子氏,高山海月氏らが原稿を寄せ,まさしく,グループSNEとFT書房の総力を結集した号であった。
![]() |
また同号からは,ポスト・アポカリプス的ファンタジー世界で知性化した犬たちを遊ぶTRPG「パグマイア」(エディ・ウェブ,ベーテ・有理・黒崎訳,日本語版ルールブック2019年,グループSNE/書苑新社)のサポートが始まっている。
T&TとAFF2e,そして「パグマイア」の3本を柱としながら,「ウォーロック・マガジン」はグループSNE作品のサポート誌という性格を強くしていく。
後期には熱心なAFFファンのピピン(春駒 篤)氏,「TRPG落語」で人気を博した落語家・三遊亭楽天氏,T&Tソロアドベンチャー・コンテストの入選者・水波流氏らが執筆陣に加わり,「ウォーロック・マガジン」自体は9号(2021年)まで順調に刊行された。
とはいえ,この時期のグループSNEは国産TRPGやボードゲームなどを主軸とした雑誌「ゲームマスタリーマガジン」(グループSNE/書苑新社,2017年創刊)も手がけており,マンパワー的に厳しかったのであろう。結果,「ウォーロック・マガジン」は姉妹誌「ゲームマスタリーマガジン」と統合される形で,「GMウォーロック」へと引き継がれていくことになる。
47 AFF2eと「トロール牙峠戦争」
AFF2eは,基本ルールブックとシナリオ「火吹山の魔法使い」がセットになった製品として,2018年4月に発売された。
A4判の大判ではあったが,旧版にあった“技術点至上主義”を克服し,拡張性に富んだバランスのいいシステムとして,遊びやすいタイトルとなっている。
![]() |
これはd20版がなしえなかった「諸王の冠」(王たちの冠)相当部分までを含んだキャンペーンシナリオで,これによりTRPG版「ソーサリー」はようやくの完結を迎えたのだった。長らく画竜点睛を欠いていたわけで,まことに喜ばしい出来事といえる。
さらに2020年4月の「超・モンスター事典」(ここまで安田 均・こあらだまり訳),2020年6月の「ヒーロー・コンパニオン」(こあらだまり,春駒 篤訳),2020年11月の「ポート・ブラックサンド」(こあらだまり,春駒 篤,飛竜 賢訳)を経て,2021年03月には待望の小説作品「トロール牙峠戦争」(安田 均訳)が発売に至る。
スティーブ・ジャクソン氏入魂の一作であるこの小説には,「モンスター誕生」に登場したザラダン・マー,「バルサスの要塞」のバルサス・ダイア,「火吹山の魔法使い」のオルドラン・ザゴールという,シリーズを代表する3人の悪役が総登場する。彼ら〈悪魔の3人〉の確執と陰謀に,主人公である若き騎士チャダ・ダークメインはどう立ち向かうのか。シリーズファンなら見逃せない一冊といえよう※。
![]() |
![]() |
なお,ここまでの発売元は書苑新社だったが,「GMウォーロック」の発行元が新紀元社になったのに合わせ,以降のAFF2eのサプリメントは新紀元社から出るようになった。基本ルールブックも「シナリオ集&ミシュナ島のモンスター」を同梱して再刊されたほか,「タイタン」や「モンスター事典」も版元を変え,改定版が登場している。
![]() |
なお「ウォーロック・マガジン」9号では,いよいよゲームブックとしてのFFシリーズの復刻がアナウンスされた。また「GMウォーロック」2号(2021年8月)には,藤浪智之氏の手になるAFF2eソロアドベンチャー「火吹山1.5」が掲載。これはAFF2eとゲームブックの架け橋となるべく制作されたものとのことで,TRPGとゲームブックの連動を予感させるものだった。
※岡和田 晃「ファンタジー小説最新事情」,「ウォーロック・マガジン」4号(2019年4月),グループSNE/書苑新社。
48 版権交渉の難航
AFF2eの展開が始まった2018年から,安田 均氏はFFシリーズのゲームブックも復刊したいと思っていた。SBクリエイティブの編集者で,WizardBooks版も含め未訳のFFシリーズをよく知る杉浦誉典氏との出逢いもあって,この時期には実現の具体的なイメージも描けるようになっていたようだ。
しかしゲームブックとなると,ジャクソンとリビングストンの両氏と版権交渉しなくてはならない。AFF2eの翻訳では,本国で舵取りをしているジャクソン氏が主体となることで先んじて交渉が進んでいたが,リビングストン氏は沈黙続きで,なかなかコンタクトが取れなかった※1。
![]() |
30数年ぶりに再会した安田氏に対し,リビングストン氏は「なんだ君だったのか。君なら大歓迎だ」と笑いかけ,ゲームブックの復刻に快く同意をしてくれたそうだ。
どうやらリビングストン氏は,ゲームブックの出版に関する日本からの打診を,一律で受け流していたようだった。日本での出版許諾を得ることが不可能な状況になっていたのだ。それが,旧知の安田氏がわざわざ訪ねてきたのを目にして変わった。一気に"雪どけ”が起きたのである。
では,リビングストン氏はなぜ躊躇していたのか。その手がかりは2015年6月15日に,氏がXに投稿したポストにある。
そこには現代教養文庫版「死のワナの地下迷宮」の写真が添えられており,「我々の日本での最初の出版社である社会思想社による『死のワナの地下迷宮』のカバー。素晴らしいものだった」と綴られていた。
しかし,それに続く投稿では,「海外の版元の大半はオリジナルのイギリス版のカバーを使ってくれた――悪名高き日本語版『デストラップ・ダンジョン』が出るまでは。はぁ?」と,HJ文庫G版「デストラップ・ダンジョン」の写真を添え,皮肉を込めたコメントを残したのだ。
Foreign publishers mostly used the original UK covers....until the infamous Japanese Deathtrap Dungeon cover. Huh??? pic.twitter.com/6Sa8ln6m04
— Ian Livingstone (@ian_livingstone) June 14, 2015
もちろんHJ文庫G版は,なにも無許可で「デストラップ・ダンジョン」を出したわけではない。きちんとジャクソン氏に企画書を送って契約を結び,リビングストン氏が来日したときには,直接面会して説明もしたという※3。実際,ホビージャパンはD&Dや「マジック:ザ・ギャザリング」を手掛けおり,過去には「クトゥルフの呼び声」や「ルーンクエスト」日本語版のような著名TRPGを出していたという実績も安心材料になったろうと推察される。
ただリビングストン氏としては,許諾は出したものの,出版後の現物を見て釈然としないものがあったのだろう。それゆえに,日本からの提案は以後やんわりと受け流していた……そう考えれば納得はいく。むしろ,そのように心の距離が生まれていたところを,「ウォーロック」時代に直接面識があって過去にFFシリーズのヒットの立役者の1人であった安田氏の行動力と実績が違和感を拭い,距離を縮める大きな要因になったのではないか。
のちに「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の名でリリースされる復刊プロジェクトは,ここからスタートした。安田氏は企画が軌道に乗ったあとも,杉浦誉典氏を伴い渡英して,FF関係者と直接面談し,関係を深めていく。シリーズの一大イベント,2022年のFighting Fantasy Fest 4に参加したのも,この流れの一つだ。
では,安田氏による現在にまで続くFFリバイバルが,具体的にどのようなものだったかを確認してみよう。49へ。
※1:安田 均氏のX,2021年5月17日。
※2:安藤健二「「死のワナの地下迷宮」表紙がモンスターから美少女に変更 作者が困惑」,ハフポスト日本版,2015年6月17日,2025年12月閲覧。
※3:河原正信氏の証言に基づく。
49 「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の始動
安田 均氏の機転によって実現した復刊プロジェクト「ファイティング・ファンタジー・コレクション」は,完全受注生産によるボックス製品として,2021年7月に第1巻「火吹山の魔法使いふたたび」が発売された。収録作は表題作の「火吹山の魔法使いふたたび」を含む,以下の5編だ。
- 「火吹山の魔法使い」(安田 均訳)
- 「バルサスの要塞」(安田 均訳)
- 「盗賊都市」(こあらだまり訳)
- 「モンスター誕生」(安田 均訳)
- 「火吹山の魔法使いふたたび」(安田 均・飛竜 賢訳)
さらに安田氏による解説書「ファイティング・ファンタジーとAFF」も付属している。
ラインナップとしては,ジャクソン氏とリビングストン氏の共作である最初の2作に,それぞれの代表作を1冊ずつ,そして書籍としては初邦訳の「火吹山の魔法使いふたたび」(シリーズ第50巻)が織り交ぜられている。
![]() |
ちなみに「盗賊都市」は,社会思想社版と同じイアン・マッケイグ氏の表紙と挿画。「モンスター誕生」は表紙はイアン・ミラー氏で,挿絵はアラン・ラングフォード氏である。
また企画・編集を担当したSBクリエイティブの杉浦誉典氏の熱意も,企画を陰で支えた原動力といえる。杉浦氏によれば,「ファイティング・ファンタジー・コレクション」がこうしたボックス販売になった背景には,2000年代のFFシリーズが,どれも長く続かなかったことへの反省があるという。熱心なファンは未訳作品を求めるが,知名度がなければそもそも手に取ってすらもらえない。このジレンマを解消しうる可能性として,杉浦氏が安田氏と相談を重ねて行き着いたのが,この形態であったのだ。
なおアメリカのスティーブ・ジャクソン・ゲームズが,のちに同様の形態で成功を収めたのも記しておきたい。
ボックスの価格は7500円(税別)だが,1冊に換算すれば1500円なので,そこまで高額な製品でもない。実際,読者からは非常に好評だったようで,2024年には限定再生産もなされている。
50 「天空要塞アーロック」を越えて
「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の第2弾は,「レジェンドの復活」と題して,1年後の2022年7月16日に発売された。特筆すべきは,さまざまなジャンルの作品を織り交ぜつつも,未訳作品の2編――「危難の港」と「魂を盗むもの」が含まれていることだ。
- 「死の罠の地下迷宮」(こあらだまり訳)
- 「危難の港」(安田 均・飛竜 賢訳)
- 「地獄の館」(安田 均訳)
- 「サイボーグを倒せ」(安田 均訳)
- 「魂を盗むもの」(安田 均・飛竜 賢訳)
とくに驚くのは,「天空要塞アーロック」の“次の一手”となるはずだった,キース・マーティン氏の「魂を盗むもの」(安田 均・飛竜 賢訳)が選ばれたことだ。
![]() |
こうして「ファイティング・ファンタジー・コレクション」は,名実ともに懐古趣味を脱し,これまでのFFシリーズがなしえなかった地平に足を踏み入れていく。
また,この頃から安田 均氏は,自身のX上で収録作のヒントを出したり,「GMウォーロック」誌上で収録作を予想する記事を掲載したりしている。ファンを巻き込み,コレクションを前に進めていきたいという意志の表れだろう。
第2弾に収められた解説書「FFシリーズの復活」が,そのことを雄弁に語っている。
51 40周年を記念した2つのボックスセット
2022年11月14日,夢のコラボレーションが実現した。
大ヒットしたアクションRPG「ELDEN RING」の生みの親で,「ファイティング・ファンタジー」シリーズの大ファンでもあるフロム・ソフトウェアの宮崎英高氏と,ジャクスン&リビングストン両氏との対談が実現したのだ。
「火吹山の魔法使い」と「ELDEN RING」――伝説的ゲームブックの生みの親と宮崎英高氏が語る,ダークファンタジーの創り方【聞き手:安田 均】
ファンタジーゲームの金字塔「ファイティング・ファンタジー」の40周年を記念した座談会をお届けする。シリーズの生みの親スティーブ・ジャクソン氏とイアン・リビングストン氏に,それらの作品が自身の“原体験”と語るフロム・ソフトウェアの宮崎英高氏がいちファンとして参加するこの対談。ファンタジーゲームの旗手達による夢の競演をここに。
この対談の中でも触れられたリビングストン氏の新作「巨人の影」と,ジャクソン氏の新作「サラモニスの秘密」は後日,「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の第3弾と第4弾に収録され,発売されている。
2023年7月に発売されたシリーズ第3弾「ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念〜イアン・リビングストン編〜『巨人の影』」の収録タイトルは以下のとおり。
- 「巨人の影」(こあらだまり訳)
- 「運命の森」(安田 均訳)
- 「雪の魔女の洞窟」(柘植めぐみ訳)
- 「トカゲ王の島」(こあらだまり訳)
- 「アランシアの暗殺者」(羽田紗久椰訳)
うち新作は「巨人の影」「アランシアの暗殺者」の2タイトルで,安田 均氏による解説書「イアン・リビングストンとゲームズ・ワークショップ」が付属している。
![]() |
一方,2024年2月16日に発売のシリーズ第4弾「ファイティング・ファンタジー・コレクション 40周年記念〜スティーブ・ジャクソン編〜『サラモニスの秘密』」には,表題作の「サラモニスの秘密」のほか,「ソーサリー」4部作の新訳が収録された。
- 「シャムタンティ丘陵」(こあらだまり訳)
- 「罠の都カーレ」(こあらだまり訳)
- 「七匹の大蛇」(柘植めぐみ訳)
- 「王の冠」(羽田紗久椰訳)
- 「サラモニスの秘密」(安田 均訳)
また付録として,本家イギリス版の体裁に倣った「ソーサリー スペルブック」も同梱された。なお「王の冠」の新訳は,ジャクソン氏の提案で最終戦の展開が変更されており,デンマーク語版に基づいた新バージョンとなっている。
![]() |
52 「ダイスメン」日本語版の登場
2018年頃から,ジャクソン氏とリビングストン氏の活動は,時代を画する出来事として,イギリスのBBCや「タイムズ」といった各種メディアで盛んに報じられてきた。そうした流れもあってか,リビングストン氏は2023年に回顧録を著している。
その邦訳版が,2025年1月にニューゲームズオーダーから刊行された「ダイスメン:ゲームズ・ワークショップのオリジン・ストーリー」(白石瑞穂訳,岡和田 晃・矢田部健史翻訳協力)だ。
本稿でもたびたび参照してきた重要な一冊だが,本書にまとめられているのは,まさしくリビングストン氏の青春の記録である。
幼少期の思い出に始まり,愛聴していた音楽,学生時代の逸話,スティーブ・ジャクソン氏との友情,D&Dとの出会い,ゲームズ・ワークショップの設立,さらには自ら運営したコンベンション「ゲームズ・デイ」に至るまで,当時の歩みが丹念に綴られている。
献辞が捧げられたD&Dのデザイナーの一人,ゲイリー・ガイギャックスとの一筋縄ではいかないやりとりは必読だし,「ウォーハンマー」で知られるシタデル・ミニチュア創業者ブライアン・アンセル氏とのエピソードもあって,読みごたえは抜群である。
日本語版は原書のA4変形ハードカバーという装丁を最大限に尊重し,あたう限り再現した浩瀚な大著となっている(重量は1.3kg!)。しかもニュースペーパー「フクロウとイタチ」や「ホワイト・ドワーフ」のジャケット,そしてシタデル・ミニチュアの数々を,フルカラーで見られるのもすばらしい。
日本語版の翻訳は,「ウォーハンマーRPG」第4版の邦訳に参加している白石瑞穂氏が担当し,校閲には矢田部健史氏と,筆者こと岡和田 晃も参加している。
![]() |
「ダイスメン」の日本語版は,編集担当である西山昭憲氏の虚仮の一念によって実現した一冊だ。
西山氏はニューゲームズオーダーで印刷やディレクションを担当する一方で,国内外のデザイナーによるファンタジーミニチュアの製造・販売するNSMiniaturesの運営も手がけている人物である。ミニチュアゲームの歴史を調べるうちに「ダイスメン」に行き着き,「何としても日本語版を出したい」と出版を決意したという。
なお日本語版は詳細な訳注や,索引の充実ぶりがウリだが,これは主として編集の沢田大樹氏の尽力によるものである。
53 主人公はキミだ!
2026年時点での「ファイティング・ファンタジー・コレクション」の最新作が,2025年2月19日に発売されたシリーズ第5弾「火吹山の魔法使いの伝説」だ。
表題作である「火吹山の魔法使いの伝説」は,アプリ版で「ザゴールの伝説」として知られていた作品で,これはシリーズ第1弾に収録された「火吹山の魔法使いふたたび」のさらなる続編にあたる。
- 「火吹山の魔法使いの伝説」(柘植めぐみ訳)
- 「サソリ沼の迷路」(こあらだまり訳)
- 「さまよえる宇宙船」(安田 均訳)
- 「狼男の雄叫び」(羽田紗久椰訳)
- 「嵐のクリスタル」(こあらだまり訳)
初邦訳作品は二つ。まず一つ目の「狼男の雄叫び」は,本書「主人公はキミだ!」の著者であるジョナサン・グリーン氏による作品だ。ウィザード・ブックスから2007年に刊行されたタイトルで,氏のFF作品が日本に紹介されるのも初である。数あるジョナサン・グリーン作品の中でも名作として知られ,その内容は「モンスター誕生」への返歌とも受け取れる逸品となっている。
もう一つの「嵐のクリスタル」は,「ディスクワールド」シリーズで知られるテリー・プラチェット氏の娘,リアンナ・プラチェット氏による作品。彼女はデジタルゲーム「トゥームレイダー」シリーズなどでリードライターを務めた人物だが,ここでの起用は,ある意味で記念碑的な意味を持つ。
Access Accepted第454回:巨匠テリー・プラチェット氏がゲーム業界に遺したもの
「ディスクワールド」シリーズで知られる小説家,テリー・プラチェット氏が2015年3月12日に亡くなった。プラチェット氏は,世界的なファンタジー小説の作家であると同時に,気合の入ったゲーマーであり,しかも同氏の一人娘は,「トゥームレイダー」などの大作タイトルの脚本家として活躍しているという。今週は,そんな父と娘の話をお伝えしたい。
- キーワード:
- PC
- ライター:奥谷海人
- 奥谷海人のAccess Accepted
- 業界動向
- 連載
このほか,「蒸気の時代」(2002年)や「ストラグル・オブ・エンパイア」(2004年)で知られるマーティン・ウォレス氏によるボードゲーム「ファイティング・ファンタジー・アドベンチャー」(2025年)も,2025年8月に日本語版がグループSNEから発売されている。
こちらはFFシリーズをうまくボードゲームに落とし込んでおり,ソロではまるで豪華なゲームブックのように,多人数では協力プレイでシリーズを遊んだことのない人とも一緒に楽しめる,受け皿の広いタイトルとなっている。
![]() |
「ファイティング・ファンタジー・コレクション」のスタートから数えても5年が経過した。すでに25冊のゲームブックがリリースされており,今後の展開にも期待が持てる。“冬の時代”と呼ばれた30年前と比べれば,なんと恵まれた時代だろうか。
注目のボードゲームも,クラウドファンディングを通して驚くべき速さで企画が進み,さらには「ダイスメン」や,この「主人公はキミだ!」など,資料的価値を持つ書籍も次々に登場している。
これまでのFFの歴史を追い直してきたが,本国イギリスにも勝るとも劣らないこれだけのドラマが,日本にも存在したことがお分かりいただけたのではないだろうか。
さまざまな人間がFFシリーズに関わり,その古くて新しい“楽しさ”を普及すべく尽力してきた。決して平坦な道のりではないし,紆余曲折や試行錯誤の連続だともいえる。それでも,きっと歴史はこれからも続いていく。そして,その歴史に参加し,新たな一頁を紡いでいくのは,今この文章を読んでいる君なのだ。「主人公はキミ」なのだから!








































